厨房の業務は料理を作ることです。料理といってもさまざまで、客層や宴席の目的、料理単価によって内容は異なります。料理なのだから「やることはいっしょ」と思われるかもしれませんが、内容がちがう料理を同時進行でいくつも提供するのはかんたんではないのです。

 

 コース料理では提供するタイミングがお客様によってそれぞれちがいます。単品メニューの場合はいちどの提供で終わりともいえますが、追加で注文が入ることもあります。料理を作るというひとつのタスクのなかに、複数のタスクがあり、それを同時にこなすことが厨房の業務といえます。

 

 ひとつの料理に集中したほうが、料理の完成度が高くなるのは当然です。高級レストランや料亭がコース料理のみになるのは、作る料理をしぼりこむことで、調理師のこだわりをつらぬくためだともいえます。

 その方法で、毎月数百万の売上があれば問題はないわけで、そうならないからこそ、いろいろな料理を提供し、お客様にアピールしないといけない、ということです。

 

 複数の料理を同時に作ることはむずかしく、できればやりたくありません。とはいえ、料理の希望や提供のタイミングは、すべてお客様しだいであり、厨房の人間にはどうすることもできないのが現実です。

 私は、この部分をどうにかコントロールできないものか考えていたのですが、コントロールしようと考えることじたいがまちがいだったことに気がつきました。こちらからコントロールするのは不可能だとあきらめ、なりゆきにまかせるほうがラクで、スマートな考え方のようです。

 

 なりゆきにまかせるといっても、ただ、ぼーっとしているわけではなく、あらゆることを想定して、どんな状況にも対応できる準備をすることが重要です。料理提供のタイミングをコントロールする方法を考えるよりも、どんな状況になっても大丈夫なように、準備を整えるための方法を考えるほうが大事なのです。

 

 人間は物事を主観的にしか見ること、考えることができない生き物です。データやツールを使って客観的に見ることもできるといえるかもしれませんが、最終的な判断にはどうやっても主観が入ります。

 主観には、自分の都合のいいほうに考えるクセがあり、これから逃れることはどんなに訓練しても不可能ではないかと思います。

 

 自分にとって都合がいいように考えることは、これから起こる状況を想像する作業に悪影響をあたえます。この悪影響を少なくするためには、自分にとって都合のいいように考えることをやめないといけません。

 完全にやめることはできなくても、そのきっかけとなるような考え方を見つけました。それは、日常生活にあらわれる交差点の信号を、すべて赤だと思うことです。

 

 だれでも信号は青のほうがいいにきまっています。青信号なら止まらなくてもいいわけで、そのほうが目的地に早く着けるからです。しかし、実際には赤信号で止まることのほうが多い気がします。

 ですから、多くの人が信号のある交差点を通らないように工夫したり、「赤信号に変わっても3秒以内は青信号」のような謎ルールが通用するのです。

 

 信号のある交差点は、自分にとって都合がいいように考える負のエネルギーが渦を巻いているといえそうです。ここから抜け出すには、すべての信号は赤であり、赤信号は悪いことではないと認識することがいいと思います。

 すべての信号が最初から赤だと思えたら、赤信号で止まったときに何をできるかを考えられます。スマホで天気予報を見たり、インスタグラムをチェックするとかはすぐにできそうです。

 

 止まった交差点で、偶然見た看板から情報を得られるかもしれないですし、まわりの風景から新たな発見があるかもしれません。そう考えると、赤信号で止まることも苦にならなくなります。そして、もし信号が青だったら、それはラッキーであり、ツイている、と思うことができます。

 すべての信号が赤だと思うことで、ネガティブな感情が生まれる要素がなくなり、ポジティブなことだけになるのです。