お客様がアレルギー持ちの場合は全力で対処しますが、調理師自身がアレルギー持ちの場合はあまり気にされない感じがします。

 知り合いの調理師で、エビ、カニが食べられない人がいます。食べると体がかゆくなったり、赤く腫れたりするのです。調理師ですから、エビやカニを仕事であつかうことはふつうにあります。

 しかもその人は、和食の調理師なので、刺身や鍋料理などでエビ、カニに触れる機会は多いのです。「ほんとうは、さわるのもイヤ」といいつつ、何百本ものエビの殻をむき、冬になると、ひたすらカニをばらしています。

 

 エビ、カニをさわるときはゴム手袋、マスクの装着は当然です。調理師はだいたい、白衣の袖を折って半袖状態にしていますが、エビ、カニをさわるときには袖を長くしていました。エビやカニのエキスが肌を刺激するそうで、ひどいときには赤くただれてしまうそうです。

 アレルギー食材を食べるかどうかは本人の自由で、選ぶことができます。しかし、業務の内容を選ぶことはできません。病院にいくような症状がでたら問題かもしれませんが、できるかぎりはやり通すのが仕事だと思います。

 

 アレルギーとは異なりますが、粉物が苦手という先輩もいました。粉物が苦手というのは、小麦粉や片栗粉を使う作業が苦手という意味です。その先輩は粉を吸ってしまうと呼吸がしずらくなり、具合が悪くなるのだそうです。

 小麦粉を使う作業というと、フライなどの衣をつけるときになります。フライがメニュ-があるときは、大人数の宴席であることが多いです。単価は低いけれど、人数が多いパーティーなどに、フライは欠かせません。ですから、フライを仕込むときは、必然的に量が多くなります。

 

 仕込む量が多くなると、使う小麦粉の量も増えますし、小麦粉の空間にいる時間も長くなります。早く終わらせたいと思うと、あつかいも乱暴になり、小麦粉が宙に舞う確率も高くなります。粉物が苦手な人にとっては、どうにもできない、つらい時間だと思います。

 

 粉をつけるときの先輩は、マスクとゴーグルが必要になります。いまではマスクは必需品ですが、昔はマスクをしている人のほうが少数派でした。「マスクをしているイコール風邪をひいている」だったので、マスクをしていると具合が悪いのかと心配されるような状態だったと思います。

 

 そんな環境だったので、マスクをしているだけでもふだんとちがっているのに、さらにゴーグルまで装備しているのですから、「何事ですか?」と思ってしまうのも無理はないと思います。本人からすると必死に自己防衛しているわけで、大真面目なのはわかります。しかし、ちょっとユーモラスで、目立ってしまうのは仕方がありません。