年末・年始と医療と関係ないネタが続いたので、たまには医療ネタでも書こうかなと思います。

 

 

 

がんに関する情報をはじめ、医療情報について積極的に情報発信をされている現役医師の中に京都大学の消化器外科、山本健人先生という方がいらっしゃいます。

外科医けいゆうのペンネームで様々な媒体で情報を発信され、多くの書籍も手掛けられています。

 

 

 

NHKのクローズアップ現代のウェブサイトの記事で、彼の1日の様子がさらっと書いてありましたが、忙しい日常業務が終わって自宅に戻った深夜からこういった医療情報発信に関する活動を行われているようです。

立派すぎて頭が下がる思いですよね。

 

 

 

そんな彼が「手術する病院は何を基準に選べばいい?」などがん治療に関連する3つの質問に答える形式の記事がNEWSポストセブンのウェブサイトに載っていました。

 

 

 

「手術をしてもらいたい医師がいる病院に行きたい」という患者さんもいらっしゃいます。

しかし医療は総力戦です。執刀を担当する医師以外に、麻酔医師も入れば看護師や臨床工学技士などの医療スタッフもいる。術後のリハビリや緩和ケア、退院後の地域医療との連携も重要な要素です。

執刀医が良くてもそれ以外が整っていなければ意味がない。「がん診療連携拠点病院」に指定されている病院かどうかが1つの指針になると言えるでしょう。

 

 

 

がんに限らず、手術を受けることになった人、またはその家族にとってはどんな医者が手術するかは気になるところですよね。

そしてあまり知られていないと思いますが、けいゆう先生が言うように執刀医だけでなく、外科手術、そして術後はいろいろな医療スタッフが関わり治療を行なっていくので、そのバランスが重要となっていきます。

 

 

 

とはいっても大病院ならともかく、地方の総合病院ともなると、その全てが完璧と言えるような環境はあまりなく、やはり主治医の力量の重要性が上がってくるのは事実かなと思います。

 

 

 

今回は、地方に住んでいた心臓血管外科医が見た、地方の医療現場の状況を私の経験をベースに紹介したいと思います。

 

 

 

1.執刀医決め

 

地方病院においては、よっぽどの若手でない限り、少なくとも専門医の資格を持っていれば、基本的には主治医が手術の大部分を担当することが多いような気がします。

若手が主治医の場合は、簡単なところは上級医のサポートのもと、主治医が執刀を務め、その人の力量によって途中(手術の技術的に難しい部分や命に関わる部分など)から上級医に執刀を交代する形を取っているところが多いのではないでしょうか。

基本的には2人から4人くらいで手術を行うことが多いので、その時の状況に応じて分担作業していることが多いように思います。

 

*大学病院などでは基本的には教授、准教授、講師クラスの先生がほとんどの手術を行い、助教から医員の先生などは、皮膚切開や皮膚の傷閉じ、胸腔鏡や腹腔鏡、ロボット手術のセットアップなど、下準備的なところを担当することが多いと思います。手技的に簡単と言われるような手術(この定義は診療科、それぞれの病院事情によって変わってくると思います)であれば、助教や医員の先生でも上級医のサポートのもと、彼らの力量に応じて手術をさせてもらえるときがあると思います。

 

 

 

2.手術の上手い下手はどれくらい影響するか

 

これは診療科によるかもしれませんが、心臓血管外科においては執刀医の手術の技量は手術の結果におおいに影響します。

やはり上手な先生が執刀したほうが、手術の仕上がりも綺麗ですし、手術時間も短時間で終わるため、手術後の患者さんの回復も早くなりますし、再手術の危険も少なくなります。

消化器外科などはどうなんでしょうね。自動吻合機など使うことも多いので「縫い合わせ」に関するところは術者による差はでにくいかもしれません。

そういった意味では若手が執刀したとしても上級医がしっかりと指導しサポートすれば大きなトラブルは防げると思います。

ただ手術の時間や、術中の合併症の発生頻度などはやはり腕によるところの影響がでるのかなと(特に再手術など)。

基本的に「術中死」に関わるような重大なトラブルは、多くの外科手術において血管損傷による大量出血がメインとなるはず(婦人科の手術などでも下腹部の大血管を術中に損傷して、止血の応援に呼ばれることがたまにありました)なので、消化器外科においてはそれさえ注意していれば腕の差があっても患者さんの命に直結するイベントは心臓血管外科の手術に比べると少ないかもしれません(これは私の勝手な意見なので、消化器外科の先生の意見は全く違う可能性があります)。

 

そして手術の腕が大いに問題となるのが、チーフクラスの先生があまり上手でないときだと思われます。

2番手の先生にとても上手な先生がいれば、さりげなくサポートできると思いますが、そうでない場合は・・・。

地方の場合は各病院によって外科医の数が限られているため、メインで執刀する先生の腕があまりよくないときは、診療科によらずいろいろなトラブルが起きているように感じています(このあたりは麻酔科の先生や手術場の看護師さんが詳しかったりします)。

 

 

 

3.麻酔科の先生

 

麻酔科の先生も手術においては重要な鍵となります。

麻酔科の先生のお仕事は、麻酔をかけて患者さんを眠らせることだけではありません。

事前に患者さんの全身状態の情報を把握し、それぞれの手術の内容からベストな麻酔の方法を考えます(手術前に麻酔科の先生の診察があるのはこのためです)。

手術中に起こるいろんなことを想定し、点滴の量を調整したり輸血の必要性を考えて、手術中の患者さんの状態が常に安定するように手術のサポートをしてくれます。

血圧や脈拍の変動から術中のトラブルを予見したり、手術中にトラブルが発生したら、その状況を即座に把握し、患者さんの命に危険が及ばないように点滴などで対応できることはサポートしてくれます。

また、術後の痛みが軽くなるように痛み止めを調整したり、麻酔からスムーズに目が覚めるように麻酔の量も調整してくれます。

 

そういったわけで優秀な麻酔の先生がいると、安心して手術に専念できますし、手術後の患者さんの状態も安定しやすいです。

 

 

 

4.手術場の看護師さん

 

いわゆるオペ室ナースと呼ばれる看護師さんたちです。

外来では穏やかな顔を演出している外科医もオペ室では豹変することはしばしば。

そんな人たちを相手に、外科、心臓血管外科、脳神経外科、泌尿器科、産婦人科、皮膚科、整形外科、形成外科、小児外科と山ほどある手術を把握し、それぞれの手術に適した道具をテンポ良く執刀医に手渡していくのは至難の技です。

しかも、同じ手術のはずなのに執刀医によって好み(使う手術器具)が変わることもしばしば。

そう、覚えることは無限大。

外科医から手術中にやつあたりされることも多々ある業種なので、その心労は大きいと思います。

 

それぞれの経験値によって得意な手術、苦手な手術もあり、ベテランのオペ室ナースが手術の介助についてくれたときは手術もテンポ良く進みますし、若手の外科医が執刀するときはベテランナースからダメ出しがでるときもあります。

 

 

 

こういったことが手術が順調にいくのかどうかに関わってきます。

チーム医療が大切なのが分かっていただけたでしょうか?

 

 

 

長くなったので術後管理の話ははぶきますが、基本的には、手術が順調にいくと術後管理もスムーズにいくことが多いです。

そこには主治医の手術の腕だけではなく、ICUスタッフやリハビリの先生、病棟看護師など多くの医療スタッフのサポートがあってからこそ「順調」が成り立っています。

もちろん、患者さん自身の頑張り(術後のリハビリ)や患者さん家族のサポート(お見舞いを含めた物理的、精神的なサポート)も忘れてはいけません。