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 古書店で見つけたこの書籍、タイトルの意味は横帯に書かれているけれど、ぴんぽんぱんの基準はちょっと昔の日本にあるようである。戦前の社会状況を知っているお二方は、その時代のことに大いに華を咲かせている。
 美輪さんは、たいていの書籍で、三島由紀夫のことにポツポツと言及しているけれど、瀬戸内寂聴さんにとっても三島由紀夫は交流のある方だった。この本には、三島と非常に交流の深かった美輪さんの口から三島のことがいろいろ詳しく語られている。2003年4月初版。

 

 

【魂がきれい】
美輪 : その人の魂の純度がどれだけきれいかどうかだけが問題だというふうにすると、全てこの世の中の差別が撤廃される。
瀬戸内 : そうなんですよ。だから、今、一番大事なことは教育なの。私もそう思ったから、敦賀の女子短大で、四年間だけ学長をやっていたんですよ。
 容れ物はできたけれど、生徒が半分も入らなくて困ってると、頼まれたんです。そこはね、新しいからそんなに飛び切りよくできる子は集まっていないんですよ。浪人するのは困るから、まあ入っておこうなんて子も多い。そうした子たちはコンプレックスをもっているでしょ。
 だから、私、「なんでコンプレックスなんか持つのよ。学校の成績だけで人間が決まるわけじゃない。あなたたちは本当に純粋で、純真で、へんに汚染されていなくて、とても可愛いのよ。もっと自分に誇りを持ちなさい」 って、そんなことばっかり教えたんですよ。そうしたら、みんなの顔がみるみる輝いてきたんですよ。
美輪 : そうでしょう。 ・・・(中略)・・・ 。魂がきれいなのね。
瀬戸内 : 魂がきれい。それが人間にとっては一番大事なのよ、ということを教えたんですよ。そういう子が卒業して勤めるととってもいいんですって、素直だから。それで、みんなに感謝される。私が学長をしているときはまだこれほど不況じゃなかったから、就職試験でも、全員採用されたんですよ。
美輪 : 結局、それは真理を教えていらっしゃるから。私は、それこそが教育だと思いますよ。(p.79-81)
 魂のきれいさを代弁する純粋とか純真とか素直って、学んで身につくものではない。かなり先天的なウエイトが大きいし、大人になる従って曇ってしまったり汚れてしまったり捩れてしまったりする。となれば、いかにして子供の頃の自分を保つか・・・である。
 美輪さんがよく知る三島由紀夫も驚くほど純粋な人だったという。

 

 

【 『英霊の声』 】
美輪 : 私には三島さんに、戦時中の憲兵みたいな格好している男が憑いているのが見えたんです。 ・・・(中略)・・・ 。小林、甘粕と名前をあげたけれど、磯部と言ったときに、その男の姿がパッと消えた。その人が憑いていたんですね。2・26事件の反乱軍の将校の一人で、天を恨み、国を恨み、親を恨みと呪いに呪いまくった遺書が出てきた人だと言ってました。
 奥さんの遥子さんが、「そういえば、この人、どんな長編を書いてもやつれることはなかったのに、 『英霊の声』 を書いた時に、書斎から出てきたら、幽霊みたいに痩せこけて大変だったのよ」 と言うんです。そしたら、三島さんも 「おれにも心当たりがある」 と。 (p.108-109)
 磯部浅一。2・26事件の首謀者で、死刑になっている。

 

 

【三島由紀夫の配偶者選び】
美輪 : 私、遥子さん見たとき、びっくりしましたもの。亡くなった妹さんの写真にそっくりで。
瀬戸内 : そうなの? 兄と妹の近親相姦を書いた 『熱帯樹』 という戯曲があるけれど、妹さんを思う気持ちは強かったんですね。(p.158-159)

 

 

【自分の細胞としては何もわかっていなかった三島由紀夫】
美輪 :  ・・・(中略)・・・ そういう点はほんとにまあ呆れるほど世間知らずでしたね。
瀬戸内 : ほんと、世間知らず。人を疑わないのね。おぼっちゃんね。あれだけ小説の中では、人間の悪とか悪意とか、いろいろな権謀術数を書いて、頭の中ではあそこまで理解していた人なのに、自分の細胞としては何もわかっていなかった。 (p.165)
 こんなものである。
 つまり、作品から作者の全体像を見い出すことには限界があるのである。美輪さんと瀬戸内さんは、生の三島と交流してきた経験があり、しかも親族ではないからこそ、その実像を一番よく知っていたのだろう。

 

 

【能動的な死】
美輪 : この世に生を享けたときから始まってずっと受動的に与えられた生を生きることにコンプレックスを抱いていた三島さんにとっては、死すらも与えられてたまるかっていう気持ちがとても強くあったと思うの。だから、死だけは絶対に己が選ぶという、自前の能動的な死を選んで死んでいった。そういう気がしてならないんですけどね。
瀬戸内 : 美輪さんのお話の様な三島由紀夫論は、一つも出ていませんね。
美輪 : それは、公私ともにしたものでないとわからないでしょうね。
瀬戸内 : わからないからね。みんな、なんかかんか次から次へ出てくるけれど。でも、美輪さんのおしゃることが原点だと思いましたね。
美輪 : それが原点ですね。(p.189-190)
 純粋な魂を持つ若者ならば、必ずや能動的な死に想いをはせる時期があるのではないだろうか。
 それは “与えられた人生” という地点から生ずるとは限らない。それは “定めなき者” という漂泊の思いに憧れながら、最後にそれを覆すために想うこともあるだろう。あるいは人生が投げかける本質的な設問に挑もうにも、有効解答無きことの予感の裡に至る、最終的な代替解答としての己の屹立として想うこともあるかもしれない。
 真実なる霊智を欲しながら、そこに至らぬままの魂が芸術作品を残すと、“死の美学“ としていくばくかの称賛が得られる。
 これを機に、三島由紀夫に関するものを以下にリンク。

   《参照》   『宇宙のしくみを使えば、すべてがうまくいくようになっている』 高橋呑舟 (徳間書店) 《前編》

              【著者と三島由紀夫の縁】

   《参照》   『死後体験Ⅲ』 坂本政道 (ハート出版) 《後編》

              【純粋な心とは】

   《参照》   『心と脳に効く名言』 茂木健一郎 (PHP)

              【三島由紀夫に関する言いぐさ】

   《参照》   『アホの壁』 筒井康隆 (新潮新書)

              【アホな死】

   《参照》   『おおい雲』 石原慎太郎 (角川文庫)

              ◇三島由紀夫

   《参照》   『響きあう脳と身体』 茂木健一郎×甲野善紀 (バジリコ) 《後編》

              【趙州、履物を頭の上に載せ】

   《参照》    タイのお寺

              【ワット・アルン】

 

<了>
 

  美輪明宏・著の読書記録

     『愛の話 幸福の話』

     『乙女の教室』

     『霊ナンテコワクナイヨー』

     『ぴんぽんぱんふたり話』

     『人生讃歌』

     『ああ正負の法則』