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田下部長。

 

4月になり、俺は旧関西貿易本社ビルの5階にある、大阪ビジネスコンサルタンツに出社した。「医療介護経営コンサルタント部 次長」それが俺の新たな肩書だ。

まず、部長の田下さんに挨拶した。「平成二年入社の山本です。よろしくお願いします。」


田下部長は書類を見ながら顔を上げようともしない。噂通りの強面だ。昔は剣道をやっていて、礼節には一切妥協しないらしい。関西貿易時代には、鬼軍曹と呼ばれていたという話だ。
 

顔を上げずに、ただ一言、「山本次長か。ちょっと別室にいいか。」と、小会議室を指さした。
俺が先に入って待っていると、しばらくしてから、田下部長が入ってきた。


「すまん、すまん。急ぎの案件があってな、失礼した。」
「いえ、よろしくお願いします。」
「こちらこそ。俺は平成元年入社で君の一つ上だ。山本次長の活躍は耳にしているが、にしては出世していないなぁ。出世や金には興味がないのか。それとも何か、やらかしたのか?」
「まぁ、そんなところです。」
「奥さんが医者なのがよくないのかなぁ?」
「関係ないですよ。」


「俺は部下にとことん厳しい。ただ、今日初めて集まったメンバーは、旧関西貿易、旧大阪貿易、ほぼ半々だ。俺は組織で仕事をするタイプだ。まずは社員同士の融和を優先する。次長の仕事はまずは融和の旗振り役だ。」
「承知しました。」

確かに、田下部長は社員の前では俺に容赦なかったが、別室では「先ほどはすまなかった」とフォローをしてくれた。この人は信頼できると俺は確信した。

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

片道切符。

 

2015年の年明け早々の月曜日の朝、俺は日本経営新聞の企業面の小さな記事を見つけた。
 

「大阪貿易と関西貿易が4月をめどに経営統合」
「ついにこうなったか。」
 

記事によると、両社でホールディングスを設立し、両社が経営統合して傘下に入るとのことだ。
「出勤すると、総合企画部から電子メールが入っていた。」
「本日の日本経営新聞の朝刊記事は、まだ、協議の段階です。外部からの問い合わせについては、承知していない、または総合企画部に問い合わせるようご回答ください。」

だが、数日後には正式にマスコミリリースが行われ、2015年4月1日付で、大阪トレーディング・ホールディングスの設立、大阪貿易と関西貿易の経営統合して「西日本E&Iジャパン」に改名。ホールディングスの傘下入りが発表された。俺は、プレス発表資料の中で、ホールディングスの傘下に「大阪ビジネスコンサルタンツ」という会社があることに気づいていた。

3月中旬に4月からの新人事が発表された。

山本直太郎 西日本E&Iジャパン 人事部付(大阪ビジネスコンサルタンツへ出向) 

48歳。片道切符の出向か。


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運も実力のうち。

 

ここからの話には、壮大なドラマは無い。初芝病院は、1年半後に回復期リハビリ病院として再スタートを切った。病院名は変わったが、黒田院長は、三顧の礼で留任した。医療法人カジマの関連の医療法人が新たに設立され、黒田院長が理事長に就任した。

調印式は、帝国ホテルの会議室で行われた。予想通り、かなりのマスコミが取材に来ていた。記者会見後に、帝国ホテルで関係者による立食パーティーが開かれ、みんなで祝った。全員がWin-Winの関係で、俺が知る限り、最高のM&A案件だった。

パーティーの途中、俺は声をかけられた。「山本君、今回は本当にありがとう。」カジマの井上理事長だ。「こちらこそ、大変ありがとうございました。」俺は恐縮しながら返事した。

「君はすごいねぇ。今の職場がイヤになったら、いつでもうちに来なさい。部長待遇を保証するよ。」

「はぁ、今回は運が良かっただけで…。」

「そうか、そうか。でも山本君、運も実力のうち。この業界は謙虚だけじゃダメだよ。ハッタリも大切だ。」

「肝に銘じます。」

「今後も、よろしく頼むよ。」

「はい。よろしくお願いいたします。」と井上理事長の背中に向かって俺は言った。

 

会場で、ひと際ギャーギャーうるさい女性がいる。

「あ、有永副社長。」

なるべく近づかないように...しときましょ、ここは。

その後、医療法人カジマとの新しい取引が始まった。もちろん、規模は大きくはなかったが、それでも俺たちにとっては大金星だった。


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可及的速やかに。

 

役員室で、ソリューション推進部の松下部長と俺、小川常務の3人が集まり、話し始めた。

「うちだけでは手に負えそうにもないな。」
松下部長がため息混じりに言うと、小川常務が冷静いった。
「俺もそう思う。四菱の力が絶対に必要だ。」
「うちから四菱はフィー何%とるんだ?」
「0%です。」
「えー、そんなことありえんだろう。」
「松下部長、冷静に考えてみろよ」と、小川常務が言う。
松下部長はしばらく考え込み、ハッとした顔になった。
「あぁ、売り手からとるつもりか。」
「そうだ。契約額の3%」と、常務は冷静に説明する。
これで、利益相反(売り手は高く、買い手は安く買いたい)もクリアできる、ってわけだ。

初芝電産の初芝病院、メインは四菱だ。それも、完全に追い風だ。
何よりも、黒田院長とのタッグは強固で、他社の参入は絶対にさせない。

四菱ビジネスコンサルタントの完璧なM&A提案で、初芝病院の理事会は完全に動き出した。
初芝電産本体も、売却に向けて完全に乗る気になっている。

早速我々も動く。運よく、医療法人カジマの井上理事長との面談のアポが取れた。後で聞いたところによると、初対面でこれはかなり珍しいことらしい。

一通り挨拶を済ませ、いよいよM&Aの提案に入る。松下部長がその場を取り仕切る。
「ノーネーム(病院名や住所などは伏せてある)資料ですが、ご覧願います。」
「さて、お宅の提案書は初めてだな。どれどれ。」
「はい、ご関心をお持ちいただければ幸いです。」

松下部長と俺は固唾を飲んで、井上理事長の反応を見守った。
5分ほど経過しただろうか、井上理事長は老眼鏡を外し、松下部長に向かって言った。


「松下さん、この提案書は最高だ。ノーネームだが、もちろん私にはどの病院かすぐに分かる。」
「正直に言えば、今、一番私が手に入れたい病院だと言っても過言ではない。」
「価格350億円。これも、極めて妥当、いや、安いぐらいに感じる。」
 

「ご検討いただけて光栄です。」
「いや、今すぐ印鑑を押したぐらいだ。交渉に駆け引きは一切不要。」
「可及的速やかに、話をまとめてくれ。」
「確かに承りました。」

こんなにスムーズに話が進むとは、夢にも思ってもみなかった。
 


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35億。

 

一時間ほど、香港の思い出や有永副社長の「武勇伝」について笑い転げていた。
腹筋が限界に達したあたりで、俺は口を開いた。

「小川常務、今回の件、有永副社長には話したんでしょう。だから 富田君が来てくれたんだ」
「具体的な名前は出してないぞ。」
「俺と小川さんが東京の病院を訪ねるって言ったら、あそこしかないでしょう。有永副社長にはバレバレですよ。」
 

「知らないわよ、私、初芝病院なんて……絶対に!」
「ほら、しかも声がでかい。」俺は小声で突っ込む。
 

「まあまあ、昔の戦友だろう? この二人ならいいじゃないか、戦友。」小川常務と有永副社長がまた笑った。

俺は持参したノートパソコンを開き、初芝病院の過去3年間のデータを富田君に見せた。
富田君は携帯の電卓機能を起動させ、エクセルの空欄に次々と数字を入力していく。

しばらくして――約3分くらいだろうか――富田君がぽつりと言った。

「3百......35億。」
「ブルゾンちえみか。」有永副社長がすかさずツッコミを入れる。

もちろん、ざっくりだ。
純資産に3年分の利益を「のれん代」として上乗せして計算してみただけの話。

「ただ、EBITDA※が年々落ちてますし、同規模の急性期病院と比べても見劣りしますね。売るなら、早い方がいいかもしれません。」

※EBITDAとは「Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization」の略で、税引前利益に支払利息と減価償却費を加えたものだ。いわば、事業の基礎体力を表す指標と言える。

それにしても、335億か――なんだか現実味がない数字だが、これが現場の現実というものだろう。

 


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サプライズゲスト。

 

「ということは、このお話。門前払いってわけではないと考えていいんですね?」
俺は少し慎重に、真面目な口調で確認した。

「そうだ。ただし、情報管理だけは頼むぞ。漏洩でもしたら話は無しだ。
小川常務は少し笑いながらも、その目だけは鋭かった。「了解です」

俺と小川常務は初芝病院を後にし、都庁へと向かった。
都庁では必要な資料をコピーし、資料閲覧ルームの机を借りて、初芝病院の過去3年分の簡易決算書をエクセルに入力する。数字が埋まっていくたびに、俺たちの表情も徐々に真剣味を増していった。

そしてその夜――。

夕食の場は、日本橋にある「ざぼん」という割烹料理店。有永副社長ご贔屓の店で、わざわざ個室を取ってもらっていた。

俺たちが部屋で待っていると、定刻通りに副社長が姿を見せた。

「大阪貿易の諸君。久しいのう」
と、相変わらず有永節である。副社長の後ろには、どこか見覚えのある男が立っていた。

「お久しぶりです、小川さん、山本さん」

その声に、俺と小川常務は同時に顔を上げた。

「おお、四菱銀行香港支店の富田君か! 久しぶりだな」
俺は思わず声を弾ませた。

「14年ぶり、だな」
小川常務が少し感慨深げに言う。

「どうしてここに?」

「それがですね、四菱ビジネスコンサルタントのM&Aグループに呼ばれまして」

有永副社長が横から茶々を入れる。
「お主も東京に戻って、立派になったもんじゃ」

「まあ、ご存じの通り、アジア通貨危機の後、香港は非常に厳しい状況になりましてね。日本企業だけじゃなく、いろんな国の企業が撤退したんです。本土返還の影響もあって、金融の街としての輝きが消えました。」

富田はそう言って少し寂しそうに肩をすくめた。

「上海も検討しましたが……辞めると香港支店長に伝えたとき、有永さんから連絡があって。『東京に戻ってコンサルタントをやらないか』と誘っていただいたんです。それでこうして戻ってきました」

「へえ、そんなことがあったんだな」

話がひと段落したところで、富田君が思い出したように付け加える。

「あと、バイク買いました。レブル250です」

俺は思わず吹き出した。

「おいおい、仕事の話からいきなりバイクかよ。相変わらずだな」

富田の変わらない軽さに、場の空気がふっと和んだ。


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まさかの展開か。

 

初芝病院に到着し、7階の院長室に通された。
「よう、黒田。久しぶりだな」
小川常務が、いきなり声を張り上げた。

「山本さんも本当に久しぶりだねぇ」
「ああ、大変ご無沙汰しています。院長になられていたんですね」
「いやいや、ただ長く居座ってるだけだよ」
そう言いながらも、黒田さんの表情はどこか誇らしげだ。

…それにしても黒田さん、ちょっと老けたな。いや、そりゃそうか。15年ぶりなんだから。

1時間ほど、バイクの話や、かつて一緒に行った箱根ツーリングの思い出話で盛り上がった。
笑い声が飛び交い、あっという間に時間が過ぎていく。

話が一段落し、ふっと静寂が訪れた。すると黒田院長が、少し身を乗り出しながら言った。
「で、今日は何の用できたんだ?」

小川常務が、ちらりと俺を見た。視線に促されるように、俺は緊張しながら口を開いた。
 

「初芝病院を…売っていただけませんでしょうか?」

静寂が戻ってきた。ただし、さっきの穏やかなものではなく、ずっしりと重たい静けさだ。
30秒ほど経っただろうか。黒田院長がぼそりと呟いた。
「やっぱり、世の中の流れはそうなのか…」

そして彼は、椅子の背もたれに深く身を預けると、語り始めた。
「この病院の理事会のメンバーには、ドクターじゃない初芝電産の社員もいるんだ。聞くところによると、会社の状況も厳しいらしい。本業の原子力プラント事業、半導体、家電製品のどれも振るわない。ブランド力も落ちる一方で、最近は『資本集中』とか『本業集中』とか、そういう議論ばかりだよ」

彼の話は続く。
「それに、この病院は急性期病院だが、最近の数字は芳しくない。ベッドの稼働率、平均在院(入院)日数、病床単価――どれも下降気味だ。国の方針も変わりつつあってね、高齢者が増えるからリハビリ中心の回復期病床を増やそう、なんて話も出ている」

黒田院長の言葉は重く、現実を直視せざるを得ない内容だった。しかしその声には、どこか諦めとも覚悟とも取れる響きがあった。
 


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どっちに転ぶか。

 

小川常務と行動を共にするのは、香港支店の一件以来である。
今回の舞台は東京行きの新幹線。その車内での会話である。

「あ、黒田院長への手土産、買うの忘れました。」
「そんなこと、どうでもいいさ。手土産の有無で態度を変えるような人物じゃないだろう。」
「それは、よく存じてます。」

常務はふと話題を変えた。
「ところで、BMWにはまだ乗っているのか?」
「いえ……。5~6年前でしょうか。左手の握力が急激に落ちてしまって、クラッチを切れなくなったんです。それで、泣く泣く手放しました。」
「そうか、ずいぶんとお気に入りのようだったからな。」
「親父の形見みたいなもんだったんですよ。大学入る前に親父が亡くなって、お袋が全額出してくれました。中古でしたけど。」
「その話は初耳だな。」

常務が腕時計をちらりと確認する。
「ところで、今日と明日で確定しているスケジュールを教えてくれ。」
「まず、今日の午後に黒田院長と面談します。木曜の午後は非番だそうです。」
「それで?」
「売らない、と笑われたらそこで終了です。」
「万一笑われなかったら?」
「……都庁に行きます。」
「都庁だと? 展望台でも上るつもりか?」
「初芝病院の決算書を3年分ほどコピーします。」
「ほう、そんなことができるのか?」
「はい。医療法人には決算書の提出が義務付けられているんです。」
「なるほど。分かった。」

常務は満足げに頷きつつ、ふと別の話題に移った。
「夜の部は俺が担当だ。18時半から日本橋で夕食だ。有永も来るぞ。」
「有永さん、懐かしいですね。今どうしてるんですか?」
「四菱銀行の関連会社、四菱ビジネスコンサルタントの副社長だそうだ。」
「あと、誰か連れてくるといってたぞ?」
「誰か?」
「誰かまでは言わなかったな。有永のやつ。」
「久保田さんですかね?」
「なら、そう言うだろう。」
「そうですね。」

常務は肩をすくめて笑う。
「まあ、会えば分かるさ。」

 


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常務、出番です!

 

「うちの東京拠点は外為系の分室だけで、医療・介護については足がかりがありませんよ。」
チーフの真崎がリストを一瞥して言い放つ。

「東京の医療担当は誰だ?」
「山本さんですが……。」と、やや頼りなさげに真崎さんが応える。

「いくら何でもハードルが高すぎるでしょう。こんな東京の大病院、面談のアポイントを取る時点で門前払いですよ。それ以前に、どこに電話していいかも見当がつきませんし。権限者にたどり着く前に、他の業者に先を越されますね。」
真崎さんのトーンが明らかに上ずってきた。

「やりもしないで白旗を上げるな!」田町次長が声を張る。
「ガッツがあるやつはいないのか、全く!」松下部長が腕組みをした。

その時、俺は手元に回ってきたリストを見て、ふと目に留まった病院名に胸がざわついた。

「初芝病院……黒田さん、まだいるのかな。」

懐かしい記憶がよみがえる。俺はスマホを手に取り、インターネットで初芝病院を検索してみた。「院長 黒田晃大(あきひろ)」とある。

――黒田さん、院長になったのか。

会議が終わり、俺は小川常務に電話をかけてた。

「常務、今から役員室に伺ってもよろしいですか?」
「なんだ、急に。俺はもうバイクは降りたぞ。」
「前にお聞きしました。承知しております。」
「……まぁいい、来い。」

俺は8階の常務室のドアをノックした。

「どうした、珍しいじゃないか。」
「ええ、実は、東京の初芝病院の黒田さんについての件なんですが。」
「黒田?あぁ、あの黒田か。院長になったとは聞いていたが、どうかしたのか?」

「いえ、もし可能であれば、月内にお会いできないかと。夜でもいいですし、休日でも構いません。」
「用件は?」
「……初芝病院を売っていただけないかと。」

小川常務は目を丸くし、眉間にしわを寄せた。
「お前、気は確かか?病院を買う?このご時世に?おまえ、仕事のやりすぎで、頭おかしくなったんじゃないか?」


「逆なんです。部内では仕事がなくて失業状態でして。」

俺の言葉に小川常務が軽く吹き出した。
おれは、事の成り行きをかいつまんで、小川常務に説明した。
「なるほど、話の筋は通ってるな。わかった、アポが取れたら俺も一緒に行くぞ。いいな山本」

俺は深くうなずき、静かに常務室を後にした。

 


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初案件は…。

 

妻の華に新しい職場の話をしたときのことだ。
「あら~、まさかの医療コンサルタント。いいじゃない」と言ったかと思うと、「でもね、うちの病院にもいるのよ、怪しいコンサルタントが」と笑いながらワインを一口。けらけらと無邪気に笑うその姿を見て、少しムッとしたが、まあ気にしないことにした。

実際、リーダーの真崎君は優秀なコンサルタントだ。一緒に取引先を回っていると、なるほどと思うことばかりで、勉強になる。そんな彼の指導のおかげで、半年間机上で猛勉強した成果もあり、医療経営コンサルタントの資格を無事取得した。ただ、俺も「怪しいコンサルタント」の一人に仲間入りということで、複雑な気持ちだ。

資格取得後、さっそく担当エリアが割り当てられた。真崎君が案件会議でさらりと言った。
「山本さんには私が担当してきた大阪府以外の地域をお願いしようと思います」

そして迎えたある月曜日の案件会議。
 

通常は、それぞれの進捗状況を報告する場に過ぎないのだが、この日は妙に空気が張り詰めていた。
普段は参加しない松下部長が会議室に一番乗りでスタンバっている。
松下部長が開口一番、「M&Aグループからのマル秘案件だ」と切り出した瞬間、場の空気が一気に変わった。

関西最大級の医療法人グループ、カジマからの情報だという。現在、我々の会社とカジマに直接的な取引はない。それが、いきなりの「M&A案件」だと?

内容はこうだ。カジマは東京にある400床以上の病院を一つ買収したいらしい。この買収を成功させれば、それを首都圏進出の拠点にし、さらに買収を加速させるつもりだという。そのための準備資金は最低300億円。場合によっては増額も辞さないとか。そして、成功報酬は成約額の3%──たった1件で10億円の報酬が転がり込む可能性がある。

松下部長は資料を片手に続ける。
「現在、リストアップされているのは東京都にある400床以上の病院約30施設だ。ただし、あくまでも参考程度。公的病院は除外されている」
部屋の全員が固唾を飲んだ。資料に視線を落とすと、カジマの名が刻まれたロゴがやけに重々しく見える。


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