常務、出番です!
「うちの東京拠点は外為系の分室だけで、医療・介護については足がかりがありませんよ。」
チーフの真崎がリストを一瞥して言い放つ。
「東京の医療担当は誰だ?」
「山本さんですが……。」と、やや頼りなさげに真崎さんが応える。
「いくら何でもハードルが高すぎるでしょう。こんな東京の大病院、面談のアポイントを取る時点で門前払いですよ。それ以前に、どこに電話していいかも見当がつきませんし。権限者にたどり着く前に、他の業者に先を越されますね。」
真崎さんのトーンが明らかに上ずってきた。
「やりもしないで白旗を上げるな!」田町次長が声を張る。
「ガッツがあるやつはいないのか、全く!」松下部長が腕組みをした。
その時、俺は手元に回ってきたリストを見て、ふと目に留まった病院名に胸がざわついた。
「初芝病院……黒田さん、まだいるのかな。」
懐かしい記憶がよみがえる。俺はスマホを手に取り、インターネットで初芝病院を検索してみた。「院長 黒田晃大(あきひろ)」とある。
――黒田さん、院長になったのか。
会議が終わり、俺は小川常務に電話をかけてた。
「常務、今から役員室に伺ってもよろしいですか?」
「なんだ、急に。俺はもうバイクは降りたぞ。」
「前にお聞きしました。承知しております。」
「……まぁいい、来い。」
俺は8階の常務室のドアをノックした。
「どうした、珍しいじゃないか。」
「ええ、実は、東京の初芝病院の黒田さんについての件なんですが。」
「黒田?あぁ、あの黒田か。院長になったとは聞いていたが、どうかしたのか?」
「いえ、もし可能であれば、月内にお会いできないかと。夜でもいいですし、休日でも構いません。」
「用件は?」
「……初芝病院を売っていただけないかと。」
小川常務は目を丸くし、眉間にしわを寄せた。
「お前、気は確かか?病院を買う?このご時世に?おまえ、仕事のやりすぎで、頭おかしくなったんじゃないか?」
「逆なんです。部内では仕事がなくて失業状態でして。」
俺の言葉に小川常務が軽く吹き出した。
おれは、事の成り行きをかいつまんで、小川常務に説明した。
「なるほど、話の筋は通ってるな。わかった、アポが取れたら俺も一緒に行くぞ。いいな山本」
俺は深くうなずき、静かに常務室を後にした。

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。