初案件は…。
妻の華に新しい職場の話をしたときのことだ。
「あら~、まさかの医療コンサルタント。いいじゃない」と言ったかと思うと、「でもね、うちの病院にもいるのよ、怪しいコンサルタントが」と笑いながらワインを一口。けらけらと無邪気に笑うその姿を見て、少しムッとしたが、まあ気にしないことにした。
実際、リーダーの真崎君は優秀なコンサルタントだ。一緒に取引先を回っていると、なるほどと思うことばかりで、勉強になる。そんな彼の指導のおかげで、半年間机上で猛勉強した成果もあり、医療経営コンサルタントの資格を無事取得した。ただ、俺も「怪しいコンサルタント」の一人に仲間入りということで、複雑な気持ちだ。
資格取得後、さっそく担当エリアが割り当てられた。真崎君が案件会議でさらりと言った。
「山本さんには私が担当してきた大阪府以外の地域をお願いしようと思います」
そして迎えたある月曜日の案件会議。
通常は、それぞれの進捗状況を報告する場に過ぎないのだが、この日は妙に空気が張り詰めていた。
普段は参加しない松下部長が会議室に一番乗りでスタンバっている。
松下部長が開口一番、「M&Aグループからのマル秘案件だ」と切り出した瞬間、場の空気が一気に変わった。
関西最大級の医療法人グループ、カジマからの情報だという。現在、我々の会社とカジマに直接的な取引はない。それが、いきなりの「M&A案件」だと?
内容はこうだ。カジマは東京にある400床以上の病院を一つ買収したいらしい。この買収を成功させれば、それを首都圏進出の拠点にし、さらに買収を加速させるつもりだという。そのための準備資金は最低300億円。場合によっては増額も辞さないとか。そして、成功報酬は成約額の3%──たった1件で10億円の報酬が転がり込む可能性がある。
松下部長は資料を片手に続ける。
「現在、リストアップされているのは東京都にある400床以上の病院約30施設だ。ただし、あくまでも参考程度。公的病院は除外されている」
部屋の全員が固唾を飲んだ。資料に視線を落とすと、カジマの名が刻まれたロゴがやけに重々しく見える。

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