35億。
一時間ほど、香港の思い出や有永副社長の「武勇伝」について笑い転げていた。
腹筋が限界に達したあたりで、俺は口を開いた。
「小川常務、今回の件、有永副社長には話したんでしょう。だから 富田君が来てくれたんだ」
「具体的な名前は出してないぞ。」
「俺と小川さんが東京の病院を訪ねるって言ったら、あそこしかないでしょう。有永副社長にはバレバレですよ。」
「知らないわよ、私、初芝病院なんて……絶対に!」
「ほら、しかも声がでかい。」俺は小声で突っ込む。
「まあまあ、昔の戦友だろう? この二人ならいいじゃないか、戦友。」小川常務と有永副社長がまた笑った。
俺は持参したノートパソコンを開き、初芝病院の過去3年間のデータを富田君に見せた。
富田君は携帯の電卓機能を起動させ、エクセルの空欄に次々と数字を入力していく。
しばらくして――約3分くらいだろうか――富田君がぽつりと言った。
「3百......35億。」
「ブルゾンちえみか。」有永副社長がすかさずツッコミを入れる。
もちろん、ざっくりだ。
純資産に3年分の利益を「のれん代」として上乗せして計算してみただけの話。
「ただ、EBITDA※が年々落ちてますし、同規模の急性期病院と比べても見劣りしますね。売るなら、早い方がいいかもしれません。」
※EBITDAとは「Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization」の略で、税引前利益に支払利息と減価償却費を加えたものだ。いわば、事業の基礎体力を表す指標と言える。
それにしても、335億か――なんだか現実味がない数字だが、これが現場の現実というものだろう。

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