サプライズゲスト。
「ということは、このお話。門前払いってわけではないと考えていいんですね?」
俺は少し慎重に、真面目な口調で確認した。
「そうだ。ただし、情報管理だけは頼むぞ。漏洩でもしたら話は無しだ。
小川常務は少し笑いながらも、その目だけは鋭かった。「了解です」
俺と小川常務は初芝病院を後にし、都庁へと向かった。
都庁では必要な資料をコピーし、資料閲覧ルームの机を借りて、初芝病院の過去3年分の簡易決算書をエクセルに入力する。数字が埋まっていくたびに、俺たちの表情も徐々に真剣味を増していった。
そしてその夜――。
夕食の場は、日本橋にある「ざぼん」という割烹料理店。有永副社長ご贔屓の店で、わざわざ個室を取ってもらっていた。
俺たちが部屋で待っていると、定刻通りに副社長が姿を見せた。
「大阪貿易の諸君。久しいのう」
と、相変わらず有永節である。副社長の後ろには、どこか見覚えのある男が立っていた。
「お久しぶりです、小川さん、山本さん」
その声に、俺と小川常務は同時に顔を上げた。
「おお、四菱銀行香港支店の富田君か! 久しぶりだな」
俺は思わず声を弾ませた。
「14年ぶり、だな」
小川常務が少し感慨深げに言う。
「どうしてここに?」
「それがですね、四菱ビジネスコンサルタントのM&Aグループに呼ばれまして」
有永副社長が横から茶々を入れる。
「お主も東京に戻って、立派になったもんじゃ」
「まあ、ご存じの通り、アジア通貨危機の後、香港は非常に厳しい状況になりましてね。日本企業だけじゃなく、いろんな国の企業が撤退したんです。本土返還の影響もあって、金融の街としての輝きが消えました。」
富田はそう言って少し寂しそうに肩をすくめた。
「上海も検討しましたが……辞めると香港支店長に伝えたとき、有永さんから連絡があって。『東京に戻ってコンサルタントをやらないか』と誘っていただいたんです。それでこうして戻ってきました」
「へえ、そんなことがあったんだな」
話がひと段落したところで、富田君が思い出したように付け加える。
「あと、バイク買いました。レブル250です」
俺は思わず吹き出した。
「おいおい、仕事の話からいきなりバイクかよ。相変わらずだな」
富田の変わらない軽さに、場の空気がふっと和んだ。
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