オートバイをもう一度(133) | cb650r-eのブログ

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まさかの展開か。

 

初芝病院に到着し、7階の院長室に通された。
「よう、黒田。久しぶりだな」
小川常務が、いきなり声を張り上げた。

「山本さんも本当に久しぶりだねぇ」
「ああ、大変ご無沙汰しています。院長になられていたんですね」
「いやいや、ただ長く居座ってるだけだよ」
そう言いながらも、黒田さんの表情はどこか誇らしげだ。

…それにしても黒田さん、ちょっと老けたな。いや、そりゃそうか。15年ぶりなんだから。

1時間ほど、バイクの話や、かつて一緒に行った箱根ツーリングの思い出話で盛り上がった。
笑い声が飛び交い、あっという間に時間が過ぎていく。

話が一段落し、ふっと静寂が訪れた。すると黒田院長が、少し身を乗り出しながら言った。
「で、今日は何の用できたんだ?」

小川常務が、ちらりと俺を見た。視線に促されるように、俺は緊張しながら口を開いた。
 

「初芝病院を…売っていただけませんでしょうか?」

静寂が戻ってきた。ただし、さっきの穏やかなものではなく、ずっしりと重たい静けさだ。
30秒ほど経っただろうか。黒田院長がぼそりと呟いた。
「やっぱり、世の中の流れはそうなのか…」

そして彼は、椅子の背もたれに深く身を預けると、語り始めた。
「この病院の理事会のメンバーには、ドクターじゃない初芝電産の社員もいるんだ。聞くところによると、会社の状況も厳しいらしい。本業の原子力プラント事業、半導体、家電製品のどれも振るわない。ブランド力も落ちる一方で、最近は『資本集中』とか『本業集中』とか、そういう議論ばかりだよ」

彼の話は続く。
「それに、この病院は急性期病院だが、最近の数字は芳しくない。ベッドの稼働率、平均在院(入院)日数、病床単価――どれも下降気味だ。国の方針も変わりつつあってね、高齢者が増えるからリハビリ中心の回復期病床を増やそう、なんて話も出ている」

黒田院長の言葉は重く、現実を直視せざるを得ない内容だった。しかしその声には、どこか諦めとも覚悟とも取れる響きがあった。
 


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