春休みには勝てん
CB650R E-clutch はとりあえず納屋の中。
子供たちが春休みで、自分だけバイクを楽しむわけにはいかぬ。
妻の両親は他界して久しいが、法事に合わせて九州へ旅行してみた。
福岡入りした翌日は、華のお兄さんが、福岡ドームで行われるオープン戦『ホークス』対『ファイターズ』に招待してくれた。
妻も娘たちも大興奮!
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K1再び
バイクで30分ほど走り、いよいよ「K1」に入る。長い直線を抜け、第1コーナーへ。
タイヤから拾うロードノイズが、いつもより少し大きい気がする。
「ん? どうした?」
素人の俺でもわかる、明らかな違和感。
続く第2コーナーでも同じ感触――バイクの挙動がおかしい。
そう、リヤ・タイヤが過剰にグリップしている。
すぐに安全な直線でバイクを停め、エンジンを切って降りた。
ヘルメットを脱ぎ、ハンドルに引っ掛けると、リヤ・タイヤを確認する。
「ん?」
停車しているにもかかわらず、接地面が妙に広い。
空気が抜けた? いや、そんなはずはない。まさか、パンクか?
ヘルメットを地面に置き、車体を少しずつ押しながらリヤ・タイヤの表面を確認すると――
見事に、ネジがめり込んでいた。
俺は携帯電話を取り出し、バイク屋に電話する。
「はい、ドリームです。」
出たのは店長の市古(いちこ)さんだった。
「先日CB650を買った山本です。今から向かうんですが、パンク修理お願いできますか?」
「大丈夫ですよ。トラックで迎えに行かなくて大丈夫ですか?」
「いえ、大丈夫です。店までは行けそうです。」
「了解です。気をつけて。」
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次の日曜日
朝昼兼用の俺が作った「つけ麺」を家族3人で食べていた。
週末、休日の食事担当は俺である。
「この「つけダレ」、市販のやつ?」妻の華が言う。
「いや、動画サイトを見て作ったオリジナル。」俺が答える。
「これ魚介系よね?」と華。
「カツオ粉入り。あと、お酢少々と砂糖多め。」と俺。
「大勝軒のパクリだって。」長女の彩が箸先をこちらに向けて少し上下に振りながら言った。
「パクリでなくオマージュです。」俺が返す。
そんなやりとりをしながら食事を終え、俺はCB650R E-clutchに乗る準備を始めた。
装備はまだまだ真冬仕様である。「風が冷たいが、天気はまずまずだな。」と俺は心の中でつぶやいた。
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そのころ俺は…。
そのころ俺は、自分の部屋のコタツの上に高野山の峠道、通称「K1」のコース図を置いて眺めていた。
つけっぱなしのテレビからはTBSの日曜劇場「御上先生」が始まったようだ。
「峠族の常識破壊を俺に命ずる。」__なんちゃって。馬鹿だな俺は。いい歳して。
「勝負するとすれば、コース中盤の連続タイトコーナーパートあたりか…。」
「なんだか、最近楽しそうですな。」妻の華が、歯ブラシを口に入れたまま扉を少しだけ開けて、覗き込んでいる。
「まあ、久々にツーリングに行くと、面白いヤツがいたりして。」
「へぇ。」と言って、華はスッと消えた。
「来週の日曜日もK1に行ってみるか…。」
俺はそう言いながら、録画中の「御上先生」を巻き戻して、最初から見始めた。
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新型R1&R1M
正直、俺はCB650R E-clutch 以外の今のバイクのことはほとんど何も知らない。
ネット記事によれば、新型R1&R1MPが出るそうで、カーボン製ウイングレット装着が特徴だとか。
R1は、253万円、R1Mは、328万9000円だそう。
昔のHONDAのRC30(楕円ピストン)みたいな位置づけなのかね。
適当なことを言ってスミマセン。
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おっさんのバイクは?
「ただいま」
森君は、どうやら両親と暮らしているらしい。仕事は、小学校や中学校向けの副教材を納品する会社の従業員だとか。
自分の部屋に戻ると、着替えを済ませ、スマホで俺のバイクを検索したらしい。
CB650R E-clutch?
650ccか。車重はR1とほぼ同じだな。でも、馬力は90……R1の半分もねぇな。
オートマではなくて、一応マニュアルなんだ。
遅いわけじゃないけど、あの山本とかいうおっさんの乗り方を見てると、まったく乗りこなしてる感じがしなかったな。
これに懲りて、「のんびりツーリングおじさん」にでもなってくれればいいんだけど――
さて、一方の俺は……。
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少しだけ無理してみる。
「少しだけ無理してみるか。」俺はヘルメットの中でつぶやいた。
俺はギアを一速に入れ、静かにアクセルを回した。
(注)演出のため、動画速度を速めています。
だめだ。全く乗れていない。
CBの良さがまるで出せていない。
森君は余裕で背後にピタリと付けてきやがる。
俺は、8.5KmのK1のゴール地点にある駐車場にバイクを滑り込ませた。エンジンを切ると、横に森君がNinjaを止めた。彼もエンジンを切り、ヘルメットのシールドを開け、大きめの声で俺に話しかけてきた。
「R1を追っかけるなんて、到底無理だね。今日はだいぶ冷えるんで、俺帰るわ。」そう言って、森君はバイクを方向転換させると、「お先に!」と言って走り去っていった。
「250にベタ付けされるとは、ショックはショックだな。」俺はひとり呟いて、帰路に就いた。
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本当に知らなかった。
「マジか? おじさん、本当に知らないの? 市販車の中でも最速って言われてるぜ。何しろ300万円もするし、ほとんどレース仕様のバイクに保安部品を付けただけみたいなもんだ。まぁ、速いのなんのって、俺様でもコーナーを二つも曲がれば置いていかれて、追いかける気力もなくなるね。」
森君が続ける。
「とにかく1000ccのモンスターバイクを、まるで250ccのライトウエイトスポーツみたいに、ヒラリヒラリと倒し込んでいく。これは噂だけど、元白バイ隊員とか、元プロレーサーだったって話もあるくらいの切れ者らしいぜ。」
「そうか、それほどのライダーなら、一度その走りを見てみたいもんだな。」
「冗談きついぜ、おじさん。」
「おっさんのバイク、何馬力? R1は200馬力だぜ。」 「それに、おじさんのCBってオートマだろ? スクータータイプじゃ、逆立ちしても敵わないよ。」
やはり、そうなるか──と俺は心の中でつぶやいた。
「じゃあさぁ、俺様がおじさんの走りを後ろから見てやるよ。抜きはしないから安心しなよ。ただし、俺の前で絶対にコケんなよ!」
「了解、了解。安全運転で行きましょう!」と俺は森君に言った。
俺はヘルメットを被り、グローブをはめて、セルを回した。 すぐにNinjaのエンジンにも火が入り、バックミラーにはスタンバイした森君の姿が映っていた。
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R1?
「君、名前なんていうの?ひょっとしたら、この峠の最速の男だったりして。」
「いやいや、俺より早い人は何人かいるよ。俺の名前は森。」
「週末にはこのあたりに流しに来るのかい?」
「そうだね、常連的な人は10人ぐらいかな。俺より早い人は何人かいるよ。でも、一人だけは別格。」
「別格?」
「R1」
「R1?」
「明治の乳酸菌飲料じゃないぜ。おじさん。」
「なんだ? R1て。」
「本当に、浦島太郎なおじさんだな。」
「スマホで、YAMAHAのR1検索してみなよ。」
俺は、スマホを取り出して検索してみた。
「YZF R1。1000㏄か。」
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