◆アンガーマネジメントができると、どんな人になれるの?

1970代にアメリカで生まれたとされる「怒りの感情と上手に付き合う」ための心理トレーニングと言われています。【怒る必要があることは上手に怒れ、でも、怒る必要のないことは怒らないようになることそして後悔しないことを目指していきます。怒りの感情をなくそうとか、怒らないようになる努力をする必要はないです。アンガーマネジメントでは基本、怒ってもいいというのが大前提です。決して怒らない人になることではありません。

 

◆怒りはやっかいな感情ですが、何のためにあるの?

 怒りは私たち人間にとって自然な感情の一つです。怒りのない人はいないし、怒りをなくすことも不可能です。人間は心と身体の安心、安全が脅かされそうになった時、怒りの感情が闘争・逃走反応の行動を起こさせ、心身を守るための必要な感情なのです。つまり、石器時代から人間のマインドの初期設定は【安全・安心第一優先】であり、怒りには自分の心身を守るために、防衛感情としての重要な機能と役割があるのです。

 

◆怒ってもいいのが大前提なら、どんな怒り方をしてもいいの?

いいえ違います。次の4つの怒りの傾向は要注意です。問題は怒ることではなく、どのような怒り方をするかが重要なポイントなのです。このような問題となる怒り方を続けていると、人間関係を壊したり、人生で大きな問題を起こしてしまうこともありえます。自身の怒り方がどの問題となる怒りの傾向なのかを自覚して、時間をかけてゆっくりと改善していく必要があります。

① 強度が高い…小さなことでも激昂する。一度怒ると非常に強く怒る。暴言を吐く

② 持続性がある…根に持つ、思い出し怒りを繰り返す。恨みや憎しみに変わっていく

③ 頻度が高い…しょっちゅうイライラ、カチンと来ることが多い。いつも怒っている

④ 攻撃性がある…他人を傷つける、自分を傷つける、モノを壊す

 

◆アンガーマネジメントにはどんなテクニックがあるの?

 はい、大きく分けると2つのやり方があります。

① 短期的に取り組む「対処術」

 私たちが突然の頭痛や発作を抑えるためにのむ頓服薬と同じイメージです。ムカッと来た衝動的な怒りに対して、なんとかその場をやり過ごす効果があります。

例えば、「自分の怒りの度数をつける」、「タイムアウト(退却戦略)」などです。

② 長期的に取り組む「体質改善」

 糖尿病、高血圧症などのような生活習慣病の対策として食生活、運動習慣などの改善をするのと同じイメージです。怒り体質を根本的に改善して怒りに振り回されない人を目指していきます。

例えば、「アンガーログ(自分の怒りを記録)」「べきログ」、「ストレスログ」、「ハッピーログ」などを観察と記録のみ行います。基本、ログをつけている途中では分析や反省はしません。それは途中で反省をすると、自己嫌悪に落ち入りログをつける気力がなくなってしまうからです。あくまでも他人事のようにログをつけるのがポイントです。後で記録から自分の怒り傾向の理解と対策を検討しながら、時間をかけゆっくりと改善していきます(検討の際にはできれば協力者がいた方がいいですね)。

 

◆ 怒りはどんなメカニズムで生まれてくるの?

 では、ライターを想像して怒りを炎だと考えてみてください。炎を燃やすために必要なのは、まず、着火石をこすり合わせて火花を散らすこと。しかし、それだけでは炎は燃え上がりません。そこには、火花を炎に変えるエネルギー=ガスが溜まる必要があります。

 さて、この着火石をこすり合わせるスイッチがオンになるのは、私たちが考えている理想、“べき”という言葉(約束した時間は守るべき、社会ルールは守るべきなど)が裏切られる事態になった時です。それを炎に変えるガスはマイナスな感情、状態(ストレスがたまっている、疲れている、不安、つらいなど)です。つまり、これらのマイナス感情、状態が溜まらなければ、べきという言葉(マイルール)が裏切られる事態となっても怒りは生まれにくいということなんです。

 

◆ 精神疾患を抱える当事者を対象とした「アンガーマネジメントオンライン連続講座」

~生きやすくなるための心理トレーニング~「アンガーマネジメント力を身に着ける!」を実験的に実施しました。主な精神疾患は統合失調症、双極性障害、強迫性障害、発達障害などの方々でした。通常アンガーマネジメント講座は健常者を対象として90分で行います。

しかし、本講座では1回が40分の6回講座として、怒りの感情やアンガーマネジメント理論が、わかりやすいようにスモールステップのカリキュラムに改編しました。

受講者の怒りの傾向は思い出し怒りなど持続性が高く、攻撃性ではどちらかというと自分に向かってしまう、自責で悩んでいる方が多かったです。その時はカッとなって怒ってしまうが、後で後悔したり、罪悪感を感じてしまう。一方でその時は我慢して怒れなかったが、後々よく考えたら怒るべきだっと後悔して、今も怒りを抱えているなどでした。

 結局、怒っても、怒らなかったとしても後悔している状態でした。怒りと自分が一体化して、今もぐるぐると頭の中を苦痛感が駆けずり回っていました。今もまるで過去の物語の中にいる自分と対話し続けていました。

 全講座終了後のアンケート結果では、「アンガーログ」より、幸せだと感じた瞬間を記録する「ハッピーログ」の方をつけたかった。「問題となる怒りの傾向別対処法」や「上手な怒りの伝え方」を学びたいなどの希望が出されました。

 本講座の実施結果から気づいたことは、受講者の多くの方は過去の苦痛や潜在的な脅威の物語の中に囚われのままでした。この釣られた状態から自分をはずすスキルとして、ACTセラピーの「今、この瞬間との接触」、「脱フュージョン(思考を観察する)、「アクセプタンス(オープンになる)」などのマインドフルなアプローチを身に着けていくことが有効な支援だと思いました。。

 

◆「マイナス感情」との上手な付き合い方が今後の課題!

 自分の理想が裏切られた時、怒りのスイッチが入る確率を減らす対策の一つとして、怒りに変えるエネルギーとなる不安、恐怖、罪悪感、苦痛などのマイナス感情とどのように上手に付き合っていくかが今後の課題と考えるようになりました。これまでアンガーマネジメント講座を実施してきて、アンガーマネジメントが考察する怒りの感情やアンガーマネジメントの3つの衝動・思考・行動のコントロールの考え方をACTで補完し、カリキュラムを改編する必要性を感じました。

 今後はアンガーマネジメントの考え方と共に、ACTセラピーの心理柔軟性モデルと融合した、自分ならではの「アンガーマネジメント講座」を行っていきたいと思います。受講者の皆さんが職場や家庭などでの人間関係が笑顔で和やかに、自身で生きやすい環境を作っていけるスキルを一緒に育て・学び合う関係を受講者や相談者と築いていくのが私の価値です。

【参考文献】

戸田久美(2015)「怒らない伝え方」かんき出版 

安藤俊介(2018)「アンガーマネジメント実践講座」PHP

ラス・ハリス(2020)「教えて!ラス・ハリス先生ACTがわかるQ&A」―セラピストのためのつまずきポイントガイドー星和書店 

ユーナス・ランメロ+ニコラス・ト-ルネケ(2009)「臨床行動分析のABC」日本評論社 

 ニコラス・ト-ルネケ(2013)「関係フレーム理論(RFT)を学ぶ」星和書店