これまで、オープンダイアローグにおけるリフレクティング技法のやり方等について見てきました。今回は、このリフレクティングをどのように身につけ、日常の傾聴への活かし方を考えていきたいと思います。
リフレクティングは、一見すると複数の支援者がいる特別な場でのみ行われる技法のように思えるかもしれません。しかしその本質は、「自分の内側に生まれたものを、丁寧に言葉にし、関係の中に開いていくこと」にあります。この点に注目すると、日常の一対一の傾聴の中でも十分に育てていくことができます。
まず大切なのは、「内的リフレクティング」に気づくことです。私たちは相手の話を聴きながら、実はさまざまなことを感じています。「少し胸が苦しい」「今の言葉が心に残った」「何か大切なことが語られている気がする」といった、ごく微細な感覚です。
通常、これらは言葉にされずに流れていきます。しかし、リフレクティングの実践では、こうした内的な動きを見過ごさず、一度立ち止まって味わうことが出発点になります。
いきなり言葉にしようとするのではなく、「いま何を感じたのか」に気づき続けること自体が重要なトレーニングです。
次に、その感覚を「安全なかたちで表現する」練習を行います。ポイントは、「私は〜と感じた」という主語を大切にすることです。
例えば、「それはつらかったですね」と断定する代わりに、「私は今のお話を聞いて、少し胸が締めつけられるように感じました」と表現します。
この違いは小さいようでいて、とても重要です。
前者は相手の体験を代弁してしまう可能性がありますが、後者はあくまで自分の感じたこととして差し出されるため、相手が自由に受け取る余地が残されます。
これが、対話の開かれた空間を保つことにつながります。
また、リフレクティングを身につけるうえで有効なのが、「振り返りの習慣」です。
面接や日常の対話のあとに、「どんなことを感じていたか」「どの場面で心が動いたか」を言葉にしてみるのです。可能であれば、同じ場にいた仲間と共有することで、自分とは異なる視点に触れることもできます。
例えば、同じ話を聴いていても、ある人は「悲しみ」に心を動かされ、別の人は「怒り」や「希望」に注目していることがあります。
この違いに触れること自体が、リフレクティングの感覚を豊かにしていきます。
さらに実践的な方法として、「ミニ・リフレクティング」を日常の傾聴に取り入れることもできます。これは、長い対話の中でごく短く、自分の感じたことを差し出してみる試みです。
例えば、相手が語ったあとに、
「今のお話を聞いていて、少し意外に感じた自分がいました」
「大切にされてきたものが伝わってくるように感じました」といった形で、簡潔に伝えてみます。
ここでも重要なのは、相手を導こうとしないことです。
あくまで一つの「響き」として差し出し、相手がそれをどう受け取るかに委ねます。
この積み重ねが、対話の質を少しずつ変えていきます。
一方で、リフレクティングを実践する中で、「これでよいのだろうか」「余計なことを言っていないだろうか」と不安になることもあるでしょう。そのようなときは、「相手の語りを広げているか、それとも狭めているか」を一つの目安にしてみてください。
もし自分の言葉が、相手の表現を限定したり、結論づけたりしていると感じた場合は、少し立ち止まるサインかもしれません。逆に、相手が新たな言葉を見つけたり、少し視点が動いたりしているようであれば、その関わりは対話を支えている可能性があります。
リフレクティングは、技術として習得するというよりも、「態度として育っていくもの」です。
それは、相手の語りに開かれていること、自分の感じたことに誠実であること、そしてそれを関係の中で丁寧に扱うことの積み重ねによって、少しずつ形になっていきます。
この実践は、すぐにうまくできるものではないかもしれません。
しかし、だからこそ価値があります。わからなさや揺らぎを含んだまま対話にとどまり続けること自体が、支援の深さにつながっていくからです。
日々の傾聴の中で、自分の内側に生まれる小さな声に耳を澄ませ、それをそっと差し出してみる。その繰り返しが、リフレクティングを自身のものにしていきます。
対話は、一人でつくるものではなく、関係の中で立ち上がるものです。その豊かさを、ぜひ実感していただけたらと思います。
ワタシも日々、リフレクティングのトレーニングをやり続けたいと思っています![]()
【参考文献】
森川 すいめい氏(著)「オープンダイアローグ私たちはこうしている」医学書院
オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン作成 「オープンダイアローグ対話実践ガイドライン」