※※※本編及び『ファタモルガーナの館』の内容・ネタバレを含んでいます。ご注意ください。※※※







みなさまこんばんは赤ワイン
満ですぶどう



-A Requiem for Innocence-

先日、ファタモルガーナの館の本編をクリアし心が大歓喜に包まれまして、そのままの勢いで外伝もやりたかったのですが、あまりに気持ちが上がりすぎたので一日置いてからやりました(どんだけ最終章でテンション上がってんだ)。

というわけで外伝のメインは、もうご存知の方もいらっしゃると思いますが、本編で語られたモルガーナとヤコポの出会いやその後の出来事をもっと詳しく描いてくれたものでした。

今回繰り広げられるのは皆の記憶の世界ではなく、本当に【既に起こった過去】なので、モルガーナが悲惨な死を遂げてしまうという結末自体は変わらないストーリーをどんなふうに魅せてくれるのだろうと身構えつつ期待しながらファタモルガーナの世界に再び飛び込みました。
結果、メリーバッドエンドですらない正真正銘のバッドエンドのはずなのに、とても美しくて…。
この後、呪いが始まっていくというのに、まるでふたりが天国に行けたかのような、救いさえ感じられる儚く綺麗なシーンがあった。

モルガーナの幼少期も再び語られていくんだけど、母からもらった蝶々の留め具を"かわいい"と思ったあとに"神の子はそんな俗物的な感情は持たない"と自分の気持ちを打ち消してしまうところは切なかった。
彼女の人生を通して、聖女だから、神の子だからという役目が、崩れ落ちそうになる自尊心の支えになることもあれば、彼女が自分の正直な気持ちを押さえつけてしまう枷にもなっていたように思えます。
彼女は生まれつきのカリスマ性や聡明さを持っていて純真で、だからこそ、幸か不幸か聖女という使命にぴったりと当て嵌まって、そこから抜け出すことが難しかったのかもしれない。
精神年齢が実年齢よりも+10歳くらいありそう。
それと、母親がモルガーナのことを表面的には"私の聖女様"と褒め称えながらも、内心では気味悪がって受け入れられなかったことも、モルガーナが聖女でいなければならなかった理由のひとつだと思う
そもそも母親が自分は誰とも関係を持っていないから身籠ったのは神の子だと言ってしまい、流れもあるでしょうがその後もそう言い続けてしまったことが、母親自身のことも、モルガーナのことも否定してしまっているというか…。
とにかく、親から、しかも母親から拒絶されて売り飛ばされるなんて、子供にとって母親はそれこそ神様みたいなものだと思うので、この時点でモルガーナは深く傷ついていたはずです。
彼女自身も言っていた通り、モルガーナの試練は重すぎる。
母に売られてからの扱いは目に余るものがあり、領主バルニエから裸にされて鎖に繋がれて血を抜かれ続ける恐ろしい拷問といっても差し支えない虐待に遭うシーンは、本編にはなかったスチルが追加されております、その悲惨さがより浮き上がってくるようで……、奴隷解放のためにやってきたヤコポがモルガーナを連れ出してくれたことに心から安堵した。

この頃のヤコポは本当にまっすぐで、貧民街で暮らす自分や仲間たちの現状を変えたいと情熱を燃やして領主の元に捕らわれた奴隷解放を目指して自ら率先して領主の屋敷へ潜入したくらいです。
そこでグラシアンという剛健で太陽のようにカラッと明るい奴隷の男と出合い、彼の協力を得ながら無事に奴隷を解放し、そして傷だらけのモルガーナを知り合いのところまで連れ帰ることができた。
娼館のマリーアや他の娼婦たちもほぼ全員が明るく受け入れてくれたことにも救われた。
モルガーナが領主からの虐待によって出来た心因性の顔の爛れは、それだけ彼女の心が大きな打撃を喰らったことの象徴で、自分の身に起こった出来事を受け止められずにいる(当たり前だけど)からこそ顔の皮膚という表層に表れたのだと思いますが、ここまでモルガーナを追い込まればならないなんて…。

想像を絶するような酷い目にたった9歳の子があったんだから、もちろんモルガーナも最初は強く混乱し、会話もままならなかった。
でも、ヤコポは少し不器用ながらも優しく誠実に向き合ってくれて、モルガーナの大事な蝶々の留め具もグラシアンと飲み比べ対決までして取ってきてくれて、豊かな暮らしではないのに高価な薬を買って塗ってくれた。
彼女の顔の傷に対して、傷つけるような態度を取らず、モルガーナの素顔が見たい、笑顔が見たいと、ヤコポがモルガーナの顔に薬を塗るシーンもスチルが追加されていましたが、温かさを感じるすごく良い絵だった。
ラスト付近のあの儚く綺麗なスチルと並ぶくらい好きなスチルです
そういうことを態度を変えずにずっと続けてくれて、モルガーナの心が開かないはずがなく、別に完全にオープンなわけじゃないけれど大分彼女が癒やされて和らいだことが嬉しかった。
この先の悲劇はあるけれど、この時のヤコポは100%めちゃめちゃ良い人だと断言できる!
…それなのに、ヤコポの人生が狂わなければ、きっとモルガーナとの幸せな未来が待っていたはずなのにと思うとやりきれなさがあります。

モルガーナは、昼間は娼館に置いてもらう代わりに家事全般を担い、そして個人的に貧民街で亡くなった人を埋葬し祈りを捧げることが日課になっていた。
彼女の作るお墓は質素だけど丁寧に埋葬されていて、墓地自体も穏やかな雰囲気に包まれた場所にある。
そこでヤコポとモルガーナはよく話していたようです。
ある時ヤコポは、モルガーナの名前の発音が自分の故郷の発音に似ていると言い出し、もしかしたら自分たちは故郷が同じか、辿っていけば同じ家系かもしれないと言うんです。
モルガーナはあなたと同じ血筋なわけがないと一蹴していたけれど(笑)、ヤコポはめげずに自分の理想についても語り、"お前にもっと広い世界を見せてやる"と言うのだけど(ほぼプロポーズ)、モルガーナは"広い世界を見つけるよりも、私たちの___"と答える。
肝心の言葉は聞こえず、この言葉は物語終盤まで取って置かれることになるのだけど、この演出には鳥肌立つほど心を動かされるものがあるので、もし未プレイの方がいらっしゃったらぜひご自身の目でも見てみてほしいです。

ヤコポは貧しい暮らしの中で幸せを感じ、仲間たちのことを大切に想う気持ちがある。
だけど、このまま貧困層で弱い立場でいるのは奪われる側でいるのは嫌だと下剋上を考える一面もある。
最初は高い地位を得て誰からも見下されないように奪われないようにするつもりだったけれど、ひたすらにモルガーナに広い世界を見せてあげたいという願いが一番になった…ということが最後まで貫くことが可能だったなら、ハッピーエンドだったのかな。
振り返ってみれば、ヤコポは娼館が襲われてモルガーナの生存が絶望的になるまでは、そう願っていたと思う。
上昇志向は悪いことではなく、ヤコポのように苦労した身の上なら当然のことだと思うけど、彼は大切なものを失い過ぎてしまったのかもしれない。
特に、突き抜けて大切なひと…モルガーナを失ってしまったことは大きな痛手で、絶対に欠けてはいけない存在だった。
だってヤコポはモルガーナが亡くなったと思ってから、自身の出自を前領主の隠し子だと表明して革命を起こすと早急なことをしだしたから。
地位を手に入れることは確かにヤコポの理想ではあったけれど、モルガーナがいなくてはヤコポらしさがなくなってしまった気がする。
誕生日会で勇気を出して告白しようとしていたはずなのに、その彼女の死が濃厚になったときのヤコポの絶望はそう簡単に晴らすことはできないものだと感じた。

それからヤコポはモルガーナを打ちのめした領主と対峙し、討った上に新しい領主の座につくことができたものの、唯一頼りにしていた執政や、かつての仲間であったグラシアンから不信と嫉妬を受けて暗殺されそうになり、執政を殺した貧民街の仲間たちを処刑し晒し首にして…、ヤコポは元のヤコポからどんどん乖離していった。
これまでとはまるで違う高い地位を得たのに、手のひらから零れ落ちるように大切な存在を次々と失っていく様は、ヤコポも完璧ではないとはいってもやはり哀れに思えた。
それに以前とは変わってしまったところもあるけど、ヤコポには貧民街を救いたいという意思はあり、そのために景気を上げようと交易街として盛り上げていったことすら貧民街からは上位層のことだけ贔屓していると映り、報われない。
加えて周辺諸侯など周辺の者から暗殺を何度も企てられるなど、一時も気を緩めることができない緊張が毎日休みなく続く。
ヤコポは焦りと孤独の中で、残酷だった前領主の幻覚が見えて幻聴が聴こえるようになった。
ここは重要な描写で、本編では語られなかった部分です。
本編だけではヤコポの真実はすべて語られたというわけではなかった。
ヤコポは自身を病気だと理解していきましたが、この描写があるのとないのとでは彼への印象もとい、彼がモルガーナの幽閉をなかなか止められなかった言い分に対する印象かなり変わってくる。
モルガーナを解放するべきだったのは変わらないけれど、正直、ここまでヤコポが精神的に追い詰められていたのなら、冷静な判断が下せなかったのは、モルガーナとヤコポ双方の気持ちを考えると良いとは思わないけど、理解はできた気がします。

前領主の幻覚・幻聴はやがて、一人の時だけでなく人前にいる時でも起こるようになり、死への願望が浮かび上がるようになり、ヤコポはそれでもモルガーナを解放しようとこっそり彼女に会いに行く。
祝祭の日の前日のことだったようです。
けれど、モルガーナもまた幻覚・幻聴が現れるようになっており、ヤコポのこともヤコポだと認識できていない。
自分の存在は彼女を追い込んでいくだけで、もう彼女の心も身体も助かるないと悟ったヤコポは自分があの領主であることを否定する気力はなく昔の自分は死んだと認め、モルガーナから憎しみの言葉を言われながらも"君のことが好きだった"とようやく想いを告げる。
そして、祝祭の日に彼女を解放してどこか美しい景色を見つけてそこで心中しようという考えに至った。
ヤコポが考えたせめてもの最善策。
ここまで来たら、心中しか思い浮かばなかったのだろうけれど、悲しすぎるし、どうしてこんなことになってしまったのか、ヤコポの胸の内にある悲しみがひたすら伝わってくきた。
モルガーナと共に死ぬことを決意したからか、祝祭の当日は、ネリーに優しく声掛けしたり、ユキマサを早々に護衛役から解いてポーリーンと過ごさせてあげたり、昔のヤコポが少し戻ってきたようなのが懐かしくもあり切なくもありました。
周りの人は彼の変化に驚いていたけれど、ユキマサが"お前は悪党ではなかったのかもしれない"と勘付いたように言うのも印象的だった。
ユキマサは本編といい、直感的に人の本質を見抜けるのかな。

そして巻き起こった祝祭での悲劇。
もはや逃げ出すことも闘う力も失い意識が遠のく中で、ヤコポの脳裏には走馬灯とあの日のモルガーナの言葉が蘇ってくるところは心が揺さぶられるようだった。
"広い世界を見つけるより、私たちの故郷を見つけて"
モルガーナは華やかで素晴らしい何かは望んでおらず、彼女はただ、大切な人と同じ故郷に帰りたかった、安寧の地で大切な人と一緒に暮らしたかった、それこそがモルガーナの幸せだったんだろうと思うと…、なんて温もりを感じる夢なんだろう、なんて綺麗な言葉なんだろう。
彼女の願いが叶ってほしかった。
そして、小麦畑の広がる故郷で顔が治ったモルガーナがフードを下ろして、ヤコポに優しく微笑みかける…そんな光景に包まれながらヤコポは亡くなりました。

この哀しくも美しい余韻のままで終わるのかなぁなんて呆けていたら、最後の最後にやってきたのがファタモルガーナの館1位2位を争うほどの恐怖スチル(個人比)。
魔女を虐げた者と誤解され地下倉庫に閉じ込められたマリーアが喉の乾きや飢えを覚えながら、吐血する病気(黒死病?)で苦しみ、幸せな夢想を見ながらも現実では血塗れで虚ろな目をしながら笑っているスチルが表示されて、可哀想なのと恐怖が同時にやってきた。
本編第三章でマリーアが地下倉庫を気味悪がったり、床に誰かの落書きを見つけた伏線がここで回収されるとは。
落書きはマリーア自身(前世の)が苦しい死の間際に掘ったものだったんだね…。
スチルは怖いけれど、マリーアの意識は地下倉庫には居らずみんなと共にいるのだから、マリーアとしてはまだ幸せな気持ちで逝けたのだろうか。
せめてそうであることを願います。

とにもかくにも、モルガーナやヤコポが大好きな方は絶対にやったほうが良いと思うし、二人ほどではないけれど、マリーアを始めとしてユキマサ・ポーリーン・メル・ネリーなどの本編の登場人物も出てくるので、彼ら彼女らがお好きな方にもぜひおすすめな外伝でした。




↓ファタモルガーナの館 外伝、次回の感想