近代を代表する洋画家が遺した可能性
日本近代の洋画壇で、東の黒田とならび、西の先覚者として活躍した浅井忠。
フォンタネージから洋画を学び、内国勧業博覧会などに出品、その活躍により、東京美術学校(現・東京藝術大学)の教授になります。
1900年にパリに留学、世紀末パリに流行していたアール・ヌーヴォーに触れ、デザインに対する造詣を深めた彼は、2年後に帰国してからは、京都高等工芸学校(現・京都工芸繊維大学)で初代図案化教授となります。
以後、亡くなる1907年まで、京都で教鞭を執り、関西洋画壇の発展に尽力しました。
教育者としても優れており、教え子からは、安井曾太郎や梅原龍三郎、石井柏亭など、次代をリードする画家たちが輩出されています。
同時に、陶芸家や漆芸家と図案家を結ぶ団体も設立、自らもアール・ヌーヴォーや琳派、大津絵などから斬新なデザインを考案し、京都工芸界に新しい風をもたらしたのです。
この浅井の京都における活躍をたどる展覧会が、泉屋博古館の本館での開催の後、東京の分館に巡回中です。
注目は、共催者の京都工芸繊維大学の美術工芸資料館が保管する、浅井をはじめ鹿子木孟郎や都鳥英喜ら、教授たちの多彩な足跡を伝える美術工芸品や、彼らが「教材」として使用した、当時の欧米や日本の工芸品。
これまであまり紹介されることのなかった、美しく貴重な作品が並ぶ空間は、創作と教育、支援と鑑賞、美術品が持つ多様な役割を浮かび上がらせるとともに、明治という時代に彼らが獲得し、生み出していこうとしていた「美」と「文化」への熱気を感じさせます。
第一章 はじまりはパリ 万国博覧会と浅井忠
(展示風景から) |
世紀末を迎えた1900年のパリ万博は、産業や交通網の発達により、過去最大規模の活況を誇りました。
それは、アール・ヌーヴォー華やかなりしとき。
芸術部門では、装飾芸術が注目され、「アール・ヌーヴォーの勝利」とまで称された内容でした。
この場に立ち会った浅井は、日本洋画の浅薄を痛感するとともに、西洋の美術工芸品が日本の意匠を自国に合うように昇華させていることに衝撃を受けます。
この地で、京都に工芸学校を設立を準備していた中澤岩太に出逢い、彼から図案科成就の就任を依頼されたことが、浅井の京都移住の道を拓きました。
まずは、帰国する浅井が、教育者として教材とするために収集し持ち帰った品々を確認します。
京都工芸繊維大学美術工芸資料館蔵 |
当時パリの街を飾ったであろうポスターは、状態もよく、世紀末パリの華やぎを伝えます。
万博で人気だった陶磁器の数々も持ち帰りました。
ショワジー・ル・ロワ(フランス)、ジョルナイ(ハンガリー)、エミール・ミュラー(フランス)など、形も意匠も釉薬の妙もすばらしく、浅井の鑑識眼を感じます。
これらは宮川香山をはじめ、日本の陶芸家たちにも大きな影響を与えたといいます。
1902以前 京都工芸繊維大学美術工芸資料館蔵 |
(展示風景から) |
そしてここでの見どころは、ティファニー(アメリカ)のガラス器コレクションです。
アクセサリーがよく知られていますが、ガラス工芸で名を成したこのブランドの最も特徴的と言われる玉虫色の光彩を持つ小器が一堂に並ぶケースは必見です。
19-20世紀 京都工芸繊維大学美術工芸資料館蔵 |
(展示風景から) |
繊細で美しい花瓶とともに、京都工芸繊維大学のこれらのコレクションは国内でも有数のものだとか。
妖しい輝きと精妙な造形にうっとりしてください!
(展示風景から) |
また、会場にはパリ万博の様子を録画した映像も流されています。
これも彼らが当時持ち帰った貴重な記録。
一見の価値ありです!
第二章 画家浅井忠と京都画壇の流れ
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朝井の渡仏は45歳の時。
遅まきの欧米デビューは、すでに国内では一定の評価を得て、信頼も厚く、その制作スタンスも落ち着いていた時期といえます。
このためか、フランスで当時隆盛していた絵画にはあまり関心を持たず、各国の芸術家が集まっていたパリ郊外の村、グレーの自然の風景と明るい光に惹かれたといいます。
透明感のある明るい空気をとらえた作品が多く描かれました。特に水彩画に傑作を多く遺しています。
ここでは、グレーや帰国後の日本の風景画とともに、開校当時の京都高等工芸学校で共に教鞭を執った画家たちの作品を観ていきます。
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この時期の風景画は、しっかりとした構図と、柔らかく澄んだ彩色で本当に素晴らしいです・・・。
殊に水彩の作品は、いまもみずみずしく、魅せられます。
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宮内庁からの要請で描かれた、東宮御所壁画綴織のための下絵も公開されています。
彼の京都時代の、そして晩年の最大級の作品は、緻密な下絵の数々と紹介され、その時間と労力を感じさせます。
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特別出品(ホール)
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ホールには、浅井が審査員を努め、出品・受賞もしていた内国勧業博覧会から、中澤岩太が審査部長を務めていた第5回内勧博を偲ばせる作品が並んでいます。
欧米の万博を参考にしたこの催しは、国内産業の振興と民衆の教化、そして近代国家としての姿をアピールするために、国家主導で絵画、工芸の精華が集められました。
そこには、後援者としての事業家の存在も重要であり、住友春翆もパトロンの代表として、多くの作品を購入しています。
第三章 図案家浅井忠と京都工芸の流れ
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パリ万博で、花鳥風月や武者絵などの伝統的なモティーフをあしらった「ジャポニスム」の限界と、新しい意匠の必要性を感じた浅井は、志を同じくする中澤や他の美術家たちと、京都で研究・教育にはげみます。
図案家としての浅井のスタートは絵はがきや雑誌の表紙・挿絵などのグラフィックだったそうですが、やがて京都の工芸家たちとも連携して、新しい図案やその工芸作品を生み出しました。
西洋だけではなく、日本の伝統的な様式美にも注目し、琳派や大津絵なども引用して、独自の表現を獲得していきます。
浅井が工芸家たちと協働した精華を楽しむコーナー。
明治35-40(1902-07)年 京都工芸繊維大学美術工芸資料館蔵 |
明治42(1909)年 京都工芸繊維大学美術工芸資料館蔵 |
伝統美と斬新さが共存する意匠が、巧みな工芸家の技術によって、みごとな作品に仕上がっています。
あるものは軽やかなリズムを持ち、あるものは精緻な美を誇り、あるものは楽しげなユーモアとともに、あるものは愛らしいシリーズで、あるものは大胆な構図で、ワクワクする楽しさです♪
明治後期-昭和初期 泉屋博古館分館蔵 (展示風景から) |
明治39(1906)年以降 個人蔵 (京都工芸繊維大学美術工芸資料館寄託) (展示風景から) |
明治38(1905)年 京都工芸繊維大学美術工芸資料館蔵 (展示風景から) |
個人蔵 (展示風景から) |
明治40(1907)年 京都工芸繊維大学美術工芸資料館蔵 (展示風景から) |
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図案集も、多様なモティーフを表し、彼のセンス満開の空間。
殊におススメは、彼の図案を迎田秋悦が蒔絵にした《七福神蒔絵菓子器》と、浅井の日本画《鬼ヶ島》。
京都工芸繊維大学美術工芸資料館蔵 (展示風景から) |
個人蔵 (京都工芸繊維大学美術工芸資料館寄託) |
(展示風景から) |
いずれもユーモアあふれる神や異人や動物を描き出していて、持って帰りたくなります…。
この章では、もうひとつ面白い展示をしています。
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住友春翆のコレクションと、浅井たちが蒐集したものをティーポットとティーセットで比べます。
伝統的なヨーロッパ陶磁器と、世紀末パリを席巻した陶磁器、精緻とモダン、それぞれの魅力を見つけて。
最後に春翆の花瓶コレクションが紹介されます。
泉屋博古館分館蔵 |
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泉屋博古館分館蔵 (展示風景から) |
初代宮川香山の幅広い作風のラインナップや板谷波山の重文作品など、見 ごたえ充分ですが、中でも9種の釉薬を使い分けた香山のミニチュア花瓶《窯変小花瓶》がかわいいです。
図案科発足後、あまりにも早かった彼の死。
その後、まずはじめに刊行されたのが図案集であったほどに、晩年の彼のデザイナーとしての活動は大きかったのです。
明治を駆け抜けた、画家にしてデザイナーの先駆、浅井忠が京都に残した遺産は、いまもなおその斬新さでわたしたちを魅了します。
伝統工芸の伝承危機が叫ばれている現代、その魅力は、改めてその可能性を提示してくれたような気がしました。
10/13まで。お急ぎください!
(penguin)
『特別展 浅井忠の京都遺産』
会場 :泉屋博古館 分館 (六本木)
〒106-0032 東京都港区六本木 1-5-1
アクセス :東京メトロ 南北線 「六本木一丁目」駅下車
北改札正面出口より屋外エスカレーターで3分
東京メトロ 日比谷線 「神谷町」駅下車、4b番出口より徒歩10分
東京メトロ 銀座線 「溜池山王」駅下車、13番出口より徒歩10分
開館時間 :10:00~17:00 (入館は16:30まで)
休館日 :毎週月曜日(10/9は開館)、10/10
入館料 :一般 800円(640円)/高大生600円(480円)/
*( )内は20名以上の団体料金
*中学生以下は無料
お問い合わせ :Tel.03-5777-8600(ハローダイヤル)
ホームページは こちら
『特別展 浅井忠の京都遺産』
招待券を10名様へ!!(お一人様一枚)
応募多数の場合は抽選の上、
当選は発送をもって代えさせていただきます。
《申込締め切り 10月4日(水)》
お申し込みは、ticket@art-a-school.info まで
!!希望展覧会チケット名、お名前、送付先のご住所を忘れずに !!
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