東京の建築事務所に勤めるインテリアデザイナーの水島悟(二宮和也)は,40歳になっても独身だった。

 

 

 彼は自分が内装を担当した広尾の喫茶店「ピアノ」で美春みゆき(波瑠)という女性と知り合うが,彼女が自分のデザイン趣向を理解してくれたことから好意を持つようになる。

 

 

 みゆきは,海外の雑貨を扱う小さな商社に務めているということだったが,なぜか携帯電話を持っておらず,毎週木曜日の同じ時間に「ピアノ」に来て会うという方法しかなかった。

 

 

 悟は出張で大阪に行くことになったが,本来は木曜日には戻れるはずだったもののトラブルで帰ることができなかった。

 

 次の木曜日に悟は先週行けなかったことをみゆきに謝罪し,その後,悟はみゆきと親友の高木(桐谷健太),山下(浜野謙太)と共に焼き鳥屋に飲みに行った。

 高木と山下は悟とみゆきの出会いを「アナログな付き合い」だなと言った。

 

 悟とみゆきは毎週木曜日に会い,順調に仲を深めていったが,悟が誘ったクラシックのコンサートの途中でみゆきは突然席を立ち,涙を流しながら悟に「ごめんなさい」と告げると会場から出て行ってしまい,それから2週間,みゆきは「ピアノ」に姿を現わさなかった。

 

 大阪に出張していた悟は母の玲子(高橋恵子)が危篤との知らせを聞き,東京に戻ったが死に目には間に会えず,通夜が木曜日だったため,みゆきに会うこともできなかった。

 

 翌週の木曜日に悟とみゆきは「ピアノ」で会い,みゆきはクラシックコンサートのことを謝罪し,悟を夜の海へ誘った。

 みゆきは夜の海は昼の美しさがわかるから好きだと言った。

 

 その後も悟とみゆきは会い続け,秋に悟はみゆきを自分のお気に入りの小さな教会を案内した。

 

 

 みゆきはクリスマスの時期にまた来たいと言った。

 この木曜日は休日だったので初めて昼間に会い,二人は海に行き,落ちていた凧の糸で糸電話を作り,悟はみゆきに告白した。

 

 

 みゆきも何かを告げようとしたが,その声は波の音にかき消されてしまった。

 

 みゆきへのプロポーズを決意した悟は,高木と山下に相談して婚約指輪を購入し,次の木曜日,指輪を持って「ピアノ」へと向かったが,みゆきはその日は急用で早めに帰宅した。

 

 悟は来週ちゃんと話したいことがあると告げ,みゆきも悟に話があると返した。

 翌週の木曜日に悟は指輪を持って「ピアノ」に行ったが,みゆきは現れず,1ヶ月以上が経ち,フラれたと思った悟は「ピアノ」に行くことをやめる。

 

 悟は,そのころ大阪支社に1,2年常駐してくれと頼まれ,引き受けることにした。

 

 

 悟はみゆきへの思いを断ち切るかのように大阪で働き続けていたが,ある日,わざわざ大阪に来た高木と山下が悟のもとを訪れ,どうしても話したいことがあると切り出した。

 

 ラジオ局で働く山下の妻・香織(佐津川愛美)は局で要らなくなった大量のCDを持ち帰ったが,山下はその中の1枚のジャケットにみゆきそっくりな女性がいることに気づき,みゆきの過去を知った。

 美春みゆきは本名ではなく,彼女はかつて数々の国際コンクールを総なめにした天才バイオリニストの古田奈緒美だった。

 彼女は,20歳の時に留学先で知り合ったドイツ人ピアニストのミハエル・チューリングと結婚し,ナオミ・チューリングの名義でヨーロッパで活動していたが,ミハエルの死を機に日本に帰国し,音楽業界から引退していた。

 

 その後,奈緒美は経歴を隠すために美春みゆきと名乗り,知り合いの輸入商社で働いていた。

 

 

 そして,みゆきがあの日「ピアノ」に行けなかった理由は,彼女がタクシーで向かう途中で交通事故に遭い,意識不明の重体となっていたのだった。

 

 悟は,高木と山下のツテで香津美に会いに行ったが,意識はあるものの,脳障害と下半身麻痺により意思の疎通ができない状態だった。

 悟が病床のみゆきと対面しても彼女は呼びかけに反応することはなかった。

 

 悟はみゆきの日記を読む機会があった。

 ヨーロッパから帰国した彼女はなかなか日本での暮らしに馴染めないでいたが,ふと立ち寄った「ピアノ」を心から落ち着ける場所だと気に入っていた。

 又,「ピアノ」の内装を手がけ,自分の過去に無理に触れないでくれていた悟に惹かれるようになっていた。

 みゆきが糸電話越しに話したメッセージは「私,悟さんと生きていきたい」だった。

 さらに日記には,いつか悟に聴かせるために久しぶりにバイオリンを手にしたことも綴られていた。

 

 悟は建築事務所を辞めて独立し,みゆきの家の近くの海の見える場所に自らの事務所を構えた。

 悟は今まで避けてきたリモート通話や3DCGを駆使したデザインなどにも挑戦し仕事も軌道に乗り始めた。

 悟は毎日仕事を終えるとみゆきの家に行き,彼女を車椅子に乗せて海辺を散歩するのが日課になった。

 

 そしてクリスマスの日に悟はみゆきをあの小さな教会に連れ出し,無反応のままのみゆきにプロポーズした。

 

 1年後,悟がみゆきを連れていつものように海辺を散歩していると動かないはずのみゆきの手が悟の手に触れる。

 悟はみゆきが反応を示したことに驚くと,みゆきは「今日、木曜・・・」と呟いた。

 悟はこれからずっと木曜日だと言いながら涙を流し,みゆきは悟の涙を拭った。

 

 悟は,みゆきがステージの上で悟のためにバイオリンを弾いている光景を思い浮かべた。

 

 

 

 ビートたけしの小説の映画化作品だが,どうにもギクシャク感が抜けない。

 設定も陳腐だし,色々なエピソードが,どこかで聞いたようなものの寄せ集め。

 そして,肝心な主人公2人の「アナログ」へのこだわりに説得力がない。

 演技については,みんな自然で上手いけど,このストーリーでは物語の凡庸さを強調する結果になっている。