15歳の水村まなみ(西川愛莉)と坂平陸(武市尚士)は,一緒にプールに落ちたことをきっかけに心と体が入れ替わってしまう。

 その後,ふたりは何度が一緒にプールに飛び込むとかしてみるが,一向に元に戻らない。

 

 

 陸の心を持つまなみは,その後,まなみと仲の良かったクラスメートが陸の悪口で盛り上がっていたことから友だちづきあいが減り,まなみの心を持つ陸と陸の親友の田崎くらいしか話す相手がいなくなる。

 

 一方,まなみの心を持つ陸は,なぜかイケイケになり17歳で童貞を卒業する。

 

 陸もまなみも高校卒業後,東京の大学に進学するが,東京で会うことはなく,地元に帰ってくると毎年同じ喫茶店で近況を報告し合う。

 

 

 まなみの心を持つ陸(高橋海人)は,その後も色々な女子と付き合い,この顔はかなりモテると言う。

 陸の心を持つまなみ(芳根京子)もルックスの良さから何度も告白されたというが,まなみの心を持つ陸のように気楽に男と付き合うことはできない。

 

 

 だが,同窓会で陸の親友だった田崎(中沢元紀)に告白され,ブルース・リーの死亡遊戯の流れる彼の部屋で初体験をする。

 

 

 陸の心を持つまなみは,帰省するたびに自分の身体を持つまなみを連れて自宅に帰り,まなみを自分の両親に会わせてやる。

 陸の心を持つまなみは,まなみの両親(赤堀雅秋,大塚寧々)とはあまり上手くやれていないが,まなみの心を持つ陸は両親と仲良くやっており,両親は将来,ふたりが結婚するものと思っている。

 

 一方,陸の両親(山中崇,片岡礼子)は,陸の心を持つまなみとは会おうともしてくれず,家の外から家族の様子を眺めることしかできなかった。

 

 

 やがて2人は大学を卒業し,東京で就職するが,陸の父春樹が亡くなったとき,陸の心を持つまなみが,葬儀で母葉月に何かできることはないかと尋ねても,何もないと冷たく拒絶される。

 ただ,陸の弟禄(林裕太)は,陸の心を持つまなみに親しく話してくれ,陸しか知らないはずの禄との思い出話を驚いて聞く。

 

 陸の心を持つまなみは,田崎とは別れ東京で知り合った蓮見涼(前原滉)と付き合い,結婚し,子どもも生まれる。

 陸の心を持つまなみは,出産の苦しみの中で,このまま自分が死んでしまったらまなみを殺してしまうことになるという恐怖に駆られる。

 

 ふたりが入れ替わって15年が経ち30歳になったとき,まなみの心を持つ陸が,元に戻れるかも知れないと言い出す。

 地元には,入れ替わりの伝説があり,それには一定の条件があり,それが満たされるのが今日であり,次は100年以上先だという。

 

 まなみの心を持つ陸し元に戻ることを切望していたが,陸の心を持つまなみは結婚し,子どももいるためこのままの方が良いのではないかと迷う。

 

 

 陸の身体になったまなみは,その直後から性同一性障害のような苦しみを味わっていたが,陸の身体が女子から求められることが多いことで自分の存在意義を確認していた。

 陸の身体になったまなみが,次々と女性と付き合うものの恋愛ではなく,セフレ関係を続けているのはそういう理由だった。

 

 陸の心を持つまなみは,迷った末,必ず元に戻るとは限らないので,やってみての結果に任せようと考え一緒にプールに飛び込む。

 その後,ふたりはいつもの喫茶店で会う。

 

 

 

 おなじみの入れ替わりものだが,少なくとも15年も元に戻らず,女性側が結婚,出産までするという設定はかなり異例。

 

 入れ替わりに対するリアクションよりも他人の人生を生きるという話が中心で,定番の入れ替わり当初のドタバタ,特に異性の身体と入れ替わったことによる戸惑いのようなものはほとんど描かれていない。

 

 かなり意外なのは,女性の心を持つ陸がすぐに童貞を卒業するという成り行きだが,その理由は終盤に明かされる。

 芳根京子の演技はやはり上手いが,高橋海人に関してはこの映画に限ったことではないが少しもの足りない。

 

 突っ込みどころとしては,元に戻れる条件というのは,どう見てもどこかの誰かが更に入れ替わる条件でしかなく,かつて入れ替わった者同士が元に戻る条件とは言えないように思えるところ。

 

 この映画の中では,元に戻ったのかどうかは明らかにされないが,ふたりのアクセサリーの付け方から見ると戻ったのではないかと感じる。

 まなみは,元に戻ることを望んでいたが,戻ったら夫と子どもがいるというのはどうなんだろうか?

 

 

 

 

 トガシ(種﨑敦美・松坂桃李)は生まれつき足が速く,小学生の100mで日本一だった。

 当然,クラスでも一目置かれていた。

 

 

 ある日の帰り道,トガシはむちゃくちゃに走り続ける小学生を見かける。

 酸欠になって倒れてもすぐに立ち上がって走り出すが,速くはない。

 

 

 翌日,トガシはそれが転校生の小宮(悠木碧・染谷将太)だと知る。

 

 

 友だちと上手く話せない小宮はクラスでいじめられるが,走り続ける彼に興味を持ったトガシは彼に走り方を教える。

 

 

 トガシは小宮に「100mを誰よりも速く走れば大抵のことは解決する」と言う。

 それに対して小宮は,「現実の苦しさから逃げるために走り続けている」と話す。

 

 

 しばらくして小宮はかなり速く走れるようになる。

 

 ある日,トガシは陸上競技雑誌の企画で,中学生チャンピオンの仁神(笠間淳)と対談することになる。

 トガシは小宮の提案で,仁神に100mの対戦を申し入れる。

 撮影用の対戦で本気で走るのは50mくらいまでで後は流すという話だったが,手を抜くことができないトガシが本気で走ると仁神よりも速いように感じられた。

 

 

 仁神は50mくらいで力を抜いたが,トガシは100mを全力で走りきった。

 

 その日の帰り道,小宮はトガシに君の方が速かったという。

 そして,自分と勝負して欲しいと言う。

 結果は僅差で,小宮の方が速かったようにも見えた。

 

 

 翌日,担任はクラスで小宮の転校を告げる。

 

 高校に入学したトガシは,陸上部の女子の先輩に入部を頼み込まれる。

 

 

 陸上部には実績が全くなく,部員は女子2人と全く出てこない男子1人の先輩しかおらず廃部寸前だった。

 本当に廃部になると知ったトガシは仕方なく入部するが,それでも5人以上という部活の条件には届かなかった。

 そこで教師に直近の大会で実績を残すことを条件に廃部延期を頼み込む。

 その大会のメインは男女混合800mリレーで,出てこないもう1人の先輩の協力が不可欠だった。

 女子の先輩2人と訪ねた先は,仁神の家だった。

 

 

 父親が日本記録保持者だった彼は,中学時代にプレッシャーからハードなトレーニングを続け,腰を痛めてしまっていたのだ。

 

 

 トガシは仁神を説得するのではなく100mの勝負を挑む。

 仁神は12秒台という自分のタイムにショックを受け,トレーニングの再開のために大会への参加を承諾する。

 

 トガシは,中学時代は無双だったが記録の伸び悩みに不安になり,陸上をやめたかったと明かす。

 大会での結果,陸上部は廃部を免れる。

 

 

 一方,九州の陸上名門高校に小宮が入部する。

 中学時代,陸上部に入らず自分でトレーニングを続けてきたという彼は部内で頭角を現すが,終盤の失速という問題を抱えていた。

 

 

 日本チャンピオンの財津(内山昂輝)が,講演に来たとき小宮は既に治っている怪我が気になり終盤に失速すると相談する。

 財津は,恐怖を克服する必要はない,「人生なんかくれてやれ」と語る。

 

 10年の時がたち,トガシは所属する実業団チームから契約を切られる寸前の状態だった。

 

 一方,小宮と財津は陸上競技界のトップに君臨していた。

 

 

 トガシは契約維持のために必死になり,日本陸上の出場の可能性も出てきたが,練習中に肉離れを起こし,医師から長期間の休養を勧められる。

 

 

 

 

 トガシのチームには長年エースとして君臨してきた海棠(津田健次郎)という選手がいた。

 彼はトガシに現実逃避のために走り続けていると話す。

 

 

 どうしても財津に勝てないという現実から逃避するために走ると。

 

 トガシはケガを押して出場し,決勝に進む。

 

 だが,絶対王者の筈の財津は予選で敗退し,引退を表明する。

 

 

 決勝に進んだトガシ,小宮,海棠たちの10秒が始まる。

 

 

 

 

 

 100メートル走をテーマにしたストーリーだが,主人公トガシについては,小学生から社会人までが描かれる。

 

 このストーリーの中では,様々な選手が現れては消え,又,再び現れたりもするが,皆,なぜ走るのか,何のために走るのかについて語る。

 それらの言葉はどれも抽象的で,具体的に指し示すものは必ずしも明確ではないばかりか,自分が過去に発した言葉が自分自身に襲いかかってくるようなところも多い。

 

 小学生のトガシは小宮に「100mを誰よりも速く走れば大抵のことは解決する」と語るが,彼の人生はこの言葉に縛られているようにも見える。

 そもそも小学生のトガシが,100m走で日本一になって何を解決したのかはよく分からないが,やがて誰よりも速く走れなくなった彼は,そのために様々な葛藤を抱える。

 それを人当たりの良い笑顔でごまかしていく生き方は,見ていて苦しい。

 このあたりの表現については,松坂桃李を声優として起用したところが上手く効いている。

 

 また小宮が言った「現実の苦しさから逃げるために走り続けている」という話の「現実の苦しさ」も人と上手く話せないということ以上には,全く具体性がない。

 一見,貧困家庭なのかと思うところもあるが,少なくとも裕福ではないという程度しか分からない。

 又,高校からトップランナーに登り詰めた彼が走り続ける理由が,小学生の頃と同じかどうかもよく分からない。

 

 トガシと同じチームのベテラン海棠が「現実逃避のために走り続ける」というのが小学生の頃の小宮の話と似ているところも面白い。

 

 かつて小宮に「人生なんかくれてやれ」と言った財津が,情熱を失って引退する心情も説明はされない。

 

 原作の相当部分を切り捨ててこの映画が描いたのは,全力で必死に走ることの臨場感そのものであり,それに付随して語られる様々な哲学は,全部真実だし全部間違っているのだと感じさせられる。

 登場人物たちが,肉体そのもので体験している臨場感が観客に伝われば,観客自身が自分で答えを探すきっかけになるのかもしれない。

 

 どうでもいいことだけど,原作は「チ。」の人なんだ,だから津田健次郎なのかな,監督は「音楽」の人なんだ,というのがちょっとした感想。

 その他のごく個人的な感想は「すごいな」・・・

 

 

 

 

 ベートーベン(古田新太)に強い憧れを頂いていた音楽家のシンドラー(山田裕貴)は,ベートーベンの気まぐれで彼の秘書に採用された。

 

 

 張り切って仕事をするシンドラーだったが,融通が利かず冗談が通じないところがあり,ベートーベンや彼の弟であるヨハン(小澤征悦)からは次第に疎まれていく。

 

 

 やがてベートーベンは,第九番交響曲を完成させたが,興行主は話題作りのため初演をベートーベン自身の指揮で行うことを提案する。

 耳が聞こえないベートーベンに指揮は難しく,笑いものになるだけだと断ろうとするが,シンドラーは人気に陰りの出ているベートーベンの復活のためにはやった方が良いと考え,副指揮者を用意して話しを進める。

 

 

 シンドラーの苦労の甲斐があり,初演は大成功に終わるが,ベートーベンから売上を盗んだと疑いをかけられクビになる。

 

 

 シンドラーの後釜には,美男子のホルツ(神尾楓珠)が採用され,シンドラーはひとりの音楽家に戻る。

 

 

 

 

 だがホルツの仕事ぶりにはドライなところがあり,ベートーベンと甥カール(前田旺志郎)の折り合いが悪いことを調整したりすることもなかったため,カールは自殺未遂を起こす。

 

 

 ベートーベンは強いショックを受け塞ぎ込んでしまうが,ホルツはとくにベートーベンのケアをするわけでもなく,駆けつけたシンドラーがベートーベンが亡くなるまで世話をする。

 

 

 だがシンドラーの献身にもかかわらず,ベートーベンの伝記執筆はホルツに託されていた。

 

 

 そればかりか世間では,シンドラーの存在を軽んじる風説が流れていた。

 

 

 シンドラーは,ベートーベンの伝記は自分が書くべきだと考えたが,資料がホルツに持ち去られていたため,ベートーベンの故郷の友人ヴェーゲラー(遠藤憲一)を訪ね,資料集めを依頼する。

 

 

 面倒くさがっていたヴェーゲラーだったが,意外に熱心に資料を集めてくれ,逆にシンドラーに執筆を催促するようになった。

 

 だがシンドラーは,自分自身とベートーベンの深い絆を示す資料が欲しいと考えており,なかなか執筆に取りかかれなかった。

 シンドラーが目をつけたのは,ホルツが回収し忘れた膨大な会話帳である。

 耳が聞こえないベートーベンとのやり取りは筆談で行われており,その内容は何よりもベートーベンの実像を示すものであった。

 

 シンドラーは会話帳をすべて回収し,自分に都合の悪い内容のものは処分し,さらに自分とベートーベンが密接な関係にあったように加筆,改竄まで行った。

 その上で,これらの会話帳を博物館に買い取らせ,その権威を高めた。

 

 その間,ホルツやヴェーゲラーの書いた伝記が公表されたが,そこにはベートーベンの甥カールに対する過干渉によってカールが自殺未遂に至ったことやベートーベンの女遊びなど,ベートーベンを神格化したいシンドラーにとっては耐えがたい事実が書かれていた。

 又,当然,シンドラーのことなど何も書かれていなかった。

 

 シンドラーは博物館収蔵の会話帳の権威を後ろ盾にして,自分の理想通りのベートーベンの伝記を書き上げるとともに,これをドイツ語から英訳してアメリカにまで売り込んだ。

 その間,ホルツなどベートーベンの周囲の人たちは亡くなっていき,シンドラーの嘘を指摘する者はいなくなった。

 

 ある日,アメリカからセイヤー(染谷将太)という若者がシンドラーを訪ねてきて,英訳されたベートーベンの伝記に感動したことを伝える。

 

 

 だが,その後セイヤーはドイツ語を勉強し,ホルツやヴェーゲラーの書いた伝記を読んで,内容の食い違いに気づく。

 身体を壊すほど熱心に会話帳の中身を研究したセイヤーは,会話帳の不自然な欠落や改竄の疑いに気づき,再びシンドラーの元を訪れ,それを問い質す。

 

 

 だが既に目的を遂げたシンドラーは開き直り,まるで自分自身がベートーベンの代弁者であるように振る舞う。

 

 

 

 

 実話をバカリズムが脚本を書いて映画化したものということだが,日本人好みのベートーベン像が実は脚色,ねつ造されたものだったという話。

 

 ただ,シンドラーが隠そうとしたベートーベンの不都合な事実が,あまりに過去のことで,今の我々からはどうでもいいというのが残念。

 モーツァルトなんか滅茶苦茶言われているし,実際そうだったらしいけど,それが気になってモーツァルトの音楽を楽しめないという人は聞いたことがない。

 

 又,この映画は音楽室に忘れ物を取りに行った中学生に変わり者の音楽教師(山田裕貴)が話すという体裁になっているが,その効果も感じられない。

 

 

 

 

 1980年頃,日本人の母緒方悦子(吉田羊)とイギリス人の父の間に生まれたニキ(カミラ・アイコ)はロンドンで暮らしていたが,付き合っていた男が出版社に勤めており,デビューを手伝ってやるというので大学を中退して小説家を目指していた。

 小説のテーマを探していたニキは,これまでほとんど聞いたことのなかった母の人生を取り上げてみようと思い,郊外の実家を訪ねる。

 

 

 母は長崎で原爆を経験している筈だった。

 ニキが付き合っている出版社の男は,長崎と広島の区別もついておらず,妻と離婚するという約束も守らない上,彼女が大学を中退したことを批難した。

 

 ニキは日本人の父親との間に生まれた姉景子にコンプレックスを持っていたが,景子が自室で首吊り自殺をしてからは実家に寄りつかなくなっていた。

 

 実家に帰ると母は家を売ることにしたと言い,荷物を整理していた。

 

 

 母は最近,1950年頃に長崎で知り合った佐和子(二階堂ふみ)という女性とその幼い娘万里子(鈴木碧桜)の夢をよく見ると言う。

 

 

 

 

 当時の母(広瀬すず)は景子を妊娠しており,傷痍軍人で会社に勤める夫二郎(松下洸平)と団地で暮らしていた。

 

 

 佐和子は,悦子の部屋の窓から見える小屋のような家に暮らしていた。

 しかし,佐和子の家の中にはおしゃれな食器類が備えられており,佐和子自身も身なりに気を遣っていることが明らかだった。

 

 

 佐和子は英語ができ,通訳をしていた頃に知り合ったアメリカ人男性とアメリカに行くのだと言う。

 佐和子と万里子は被爆していた。

 万里子は被爆者として差別されることもあり,周囲になじんでいなかったが,悦子には心を許すようになってくる。

 

 

 緒方家では夫の父誠二(三浦友和)が突然訪ねてくる。

 

 

 かつて中学の校長をしていた誠二は,音楽教師をしていた悦子の元上司だった。

 

 だが二郎は自分の父親を煙たがっており,悦子が戸惑うほど冷たくあしらっていた。

 

 

 誠二が長崎に来たのにはある目的があった。

 戦後,教育雑誌にかつての教え子であり,今は教師をしている松田重夫(渡辺大知)が,自分のことを名指して激しく批判する文章を投稿したことに戸惑っており,その真意を質したいという意図があったのだ。

 悦子に付き添われて松田の勤める中学校に行ったた誠二は,松田になぜこんなものを書くのかと詰め寄るが,逆に軍国主義教育について非難される。

 

 

 二郎が誠二を疎んじるのも同じ理由であり,傷痍軍人として不自由な身体で働く彼は,自らが出征したときの父の誇らしげな表情が心に引っかかり続けているのだった。

 誠二は納得はいかないものの,世の中は変わり,自分自身も変わっていかなければならないと悦子に言う。

 

 佐和子のアメリカ行きは頓挫していたが,ようやく実現しそうになる。

 だが万里子はそれを嫌がり家からいなくなる。

 悦子と佐和子が必死に探して万里子を見つける。

 

 佐和子は悦子に,本当はあなたも被爆しているのではないの?と尋ねる。

 悦子は二郎に,もし私が被爆していたらどうしますかと聞くが,二郎は意味のない仮定のことを聞くなと怒る。

 

 ニキは悦子の外出中に不動産業者の訪問を受ける。

 実家の買受希望者が部屋の写真を見たいと言うことなので,ニキが案内をする。

 景子の部屋も撮影の必要があるということで,ニキは景子の死後,自分が入ったこともない部屋に不動産業者を入れる。

 

 不動産業者が帰った後,ニキが景子の部屋で見たものは,母が万里子の思い出として話した品物だった。

 母は,周囲となじめなかった景子の状態が良くなるのではないかと思い,イギリスに渡ったが結局は上手く行かなかったという。

 

 

 ニキは,自分のことを別人の話として語らなければならない母の心を思う。

 

 

 

カズオ・イシグロの小説の映画化

 

 カズオ・イシグロは,小説の映画化が上手く行かない理由のほとんどは,原作小説の再現に拘ることだと言っており,この映画は小説の忠実な再現ではないらしい。

 又,原作小説の重要なテーマのひとつが,記憶の曖昧さということらしいので細かいところをとやかく言っても仕方がない。

 

 佐和子が悦子で,万里子が景子だとするとその他の人たちとの関係が分からなくなるが,それを説明したり解釈する必要はなく,1980年頃に振り返った1950年当時の長崎の空気感というものがメインの映画だと思う。

 

 広瀬すずと二階堂ふみは,一般的には路線が違うイメージもあるが,上手く溶け合っており当時の空気感がよく出ていると思う。

 又,結局何だったのかも分からないエピソードもいくつかあるが,そのある種の不気味さも記憶の曖昧さをよく表している。

 

 

 

 鯨井令子(吉岡里帆)は,第2九龍城砦の不動産屋で働いている。

 

 第2九龍城砦は,九龍城砦が取り壊された後,自然発生的に再建されたものだが,実はこの第2九龍城砦もすでに取り壊されているはずだという話がある。

 令子の住む第2九龍城砦の上空には蛇沼グループが開発したジェネリック地球(テラ)という装置が浮かんでおり,現在の第2九龍城砦は,そのジェネリック地球(テラ)が人々の記憶から再生したものだと言われている。

 しかし,令子には過去の記憶がなく,そのあたりの事情はよく分からない。

 

 第2九龍城砦の外から来た楊明(梅澤美波)は,令子に第2九龍城砦は実在していると言うが,実は第2九龍城砦が見えない人もいる。

 

 

 令子は職場の先輩である工藤発(水上恒司)と憎まれ口をたたき合いながら仕事をしているが,実は彼に惹かれている。

 

 

 だが,ある日令子は,工藤が自分とそっくりな女性と一緒に写っている写真を見つける。

 工藤の婚約者で既に亡くなっているという彼女が自分と同姓同名だと知った令子は,自分自身をジェネリック地球(テラ)が生み出したクローンではないかと疑い始める。

 

 

 令子は,工藤に対する気持ちや楊明との友情,日常で感じる小さな幸せが,誰かのコピーではなく自分自身のものであることを確信したいと思い始める。

 

 

 

 蛇沼グループの跡継ぎである蛇沼みゆき(竜星涼)は,そんな令子の存在に強い興味を持つ。

 

 

 第2九龍城砦の住民は,外から来た楊明などを除き基本的には元々第2九龍城砦に住んでいた人たちのクローンであり,外から本人が入ってくると消えてしまう。

 工藤のなじみの店を経営していたタオ・グエン(栁俊太郎)は,現在のグエン自身が第2九龍城砦に入ってきたことで消えてしまう。

 

 

 又,令子や楊明と親しかった小黒(花瀬琴音)は,蛇沼に第2九龍城砦の外に出された途端に消えていく。

 

 

 外の世界には,現在の小黒が存在しているからである。

 

 だが,かつての鯨井令子は既に亡くなっており,なぜ今の令子が存在するのかは説明がつかない。

 蛇沼は令子を捕らえて,まだ自分たちにも解明できていないジェネリック地球(テラ)の謎を解こうとしていた。

 

 

 実は,ジェネリック地球(テラ)は,鯨井令子が死んだときに工藤の強い思念が流れ込んできて暴走を始め,現在の第2九龍城砦を作り出したのだった。

 

 だが,第2九龍城砦は崩壊を始める。

 

 

 毎日,同じ行動を繰り返していた李店長(山中崇)は,別人のようになってしまい,知り合いの人たちも消え,建物も崩壊を始める。

 

 

 令子は勇気を出して工藤と第2九龍城砦から外に飛び出す。

 工藤と令子は外から第2九龍城砦の消滅を見届けるが,工藤が過去を回想して気がついたときには令子はどこにもいなかった。

 

 工藤は務めていた不動産会社の日本支店に戻り以前と同じように働いている。

 工藤は,小黒の働く飲食店で令子と再会する。

 

 

 

 ネトフリのアニメで全部観ていたが,実写化も面白そうだと思い鑑賞。

 

 ストーリーとしては,ほぼ骨組みだけになっており,第2九龍城砦が工藤の記憶によって作られているという,終盤の種明かしが結構序盤から出てくる。

 

 ストーリーを骨組みだけにするのであれば,工藤と令子の恋愛感情や令子のアイデンティティーの葛藤をもっと描いても良かったのではないかと思うが,そこも割と薄口だったのが残念。

 

 吉岡里帆の鯨井令子は良かったと思うのだが,水上恒司の工藤はいくら何でも若すぎる。

 

 

 

 相楽美咲(広瀬すず),片石優花(杉咲花),阿澄さくら(清原果耶)の3人は,古い一軒家で一緒に暮らしている。

 

 

 3人とも20歳くらいであり,美咲はOL,優花は大学で学び,さくらはアルバイトをしている。

 

 

 家を自分たちの趣味に合わせて飾り,一緒に晩ご飯を食べ,同じ寝室にベッドを並べて眠り,朝には一緒に歯磨きをするという生活をしている。

 

 

 

 美咲は朝,同じバスに乗る高杉典真(横浜流星)のことが気になっている。

 

 

 優花とさくらは,気持ちを伝えるべきだと美咲に言うが,美咲にはその勇気がない。

 

 

 高杉は幼い頃からピアニストを目指していたが,小学生のときの事件以来,ピアノを弾くことができなくなっていた。

 

 高杉は合唱団のピアノ伴奏をしていたが,彼がおやつを買いに練習場から出た間に不審者が入り,3人の女子が殺害された。

 

 

 その内の1人は高杉が心を寄せていた子だった。

 

 だが,それから12年がたち,高杉は教室の指導者加山(田口トモロヲ)の勧めでリサイタルを開くことにする。

 

 美咲たちは,そのリサイクルを楽しみにしていたが,さくらは高杉に近づこうとする桜田(小野花梨)の存在を目障りに思っていた。

 美咲たち3人は高杉のリサイタルに行くが,さくらは傍若無人に振る舞い,桜田に文句を言い,ついにはステージに上がって美咲の想いをぶちまけるが,高杉や桜田だけではなく,多数の観客の誰ひとりとして美咲の振る舞いを気にかけない。

 

 

 彼女たち3人こそが,事件で殺害された女子だった。

 

 だが不思議なことに3人は,死んだ後もそれまでと同じように暮らしてきたし,年を取ってきた。

 

 

 ただ生きている人には見えないため,空き家を見つけ3人で一緒に暮らしてきたのだ。

 

 3人の生活は,生きている人と普通に関わっているように見えるが,彼女たちが生きている人たちの言動に合わせて振る舞っているだけで,周囲の人には全く気づかれていなかった。

 普段はそのことを気にとめていない3人だったが,子どもが車の中に閉じ込められているのを見つけたときは大変だった。

 彼女たちがどんなに大騒ぎをして周囲の人たちに知らせようとしても誰も気づかない。

 ようやく気づいてくれたのはチンピラのようなグループだったが,彼らは大騒ぎをして子どもを助けてくれた。

 

 優花は自分の母親(西田尚美)が,自分の死後,新しい家庭を持ち,かつての自分と同じような娘を持って幸せそうに暮らしていることを喜んではいたが,自分のことをすっかり忘れてしまったのではないかという寂しさも感じていた。

 だが,自分たちを殺した男が出所してきたとき,母が不穏な動きをしていることに気づく。

 母は犯人に強引に面会し,反省の気持ちを問い詰める。

 犯人は,裁判で話した紋切り型の反省を読み上げるように繰り返すが,母はその態度に我慢ができなくなり持参した包丁で犯人を刺そうとする。

 しかし,包丁を取り上げられ逆に刺されそうになる。

 3人はその状況を見て大騒ぎをするが,やはり何もできない。

 結局,犯人は優花の母を追いかけているときに車にはねられ母は助かる。

 優花は日頃そんな素振りを全く見せない母が,自分のことをそこまで思っていてくれたことを知る。

 

 さくらは拾ってきたラジオから流れる番組がお気に入りだった。

 

 

 軽いノリのDJ(松田龍平)は,まるで3人のことを知っているかのように話す。

 死んだら終わりと思っていたら,まるで何も変わらないことにビックリだ,でもそんなあなたに朗報,生き返る方法を見つけたよ

 美咲と優花は,こんなのインチキだ,ほら話だ,詐欺だと言って信じようとしないが,さくらはダメモトでやってみようよと言う。

 

 DJの言っていた灯台に行って指示通りにする3人。

 3人が,自分たちは本当に生き返ったのかなと思いながら海岸を歩いているとおじさんに話しかけられる。

 3人は自分たちが本当に生き返ったと思い,返事をするが,おじさんが話しかけていたのは向こうの方にいる人だった。

 

 

 3人は自分たちの滑稽さに笑い出してしまうが,やはりちょっと残念だった。

 

 高杉は3人が亡くなった音楽教室で美咲たちのことを想っていた。

 

 

 3人が住んでいた家は買い手が決まり,人が引っ越してくることになり,3人は新しい住み家を探しに出かける。

 

 

 

 

 事前情報がなかったせいで,こういう話だとは思わなかったが,その点まで含めて「天間荘の三姉妹」と少し似ている。

 

 今時の人気女優を集めてこの設定は少しもったいない気もする。

 

「天間荘の三姉妹」の登場人物たちは震災で亡くなり,あの世に行くまでの間の鎮魂として疑似現世に留まる話だったが,この映画は普通に現世にいるという設定。

 そういう設定は突き詰めていけば矛盾がいっぱい出てくるだろうが,この映画はそういうことではないのだろう。

 

 悲しい死を迎えた人たちが,こうだったら良いのになという話だと思うけど,それでもやっぱりちょっと悲しいところのある話にはなってしまう。

 真面目に考えると描くのが難しいテーマではないだろうか。

 

 ちなみに鈴木慶一が,祖父役ではなく映画に出ているのが珍しいが,見えないはずの3人に気づいている感じがするのは・・・

 だとしたら少し気が早い。

 

 

 

 不慮の事故で5歳の娘芽衣(本田都々花)を亡くした鈴木佳恵(長澤まさみ)は鬱々とした日々を過ごすが,ある日骨董市で亡くなった娘に似た日本人形を見つけ,その人形を娘のように扱う。

 

 

 看護師である夫忠彦(瀬戸康史)は彼女の奇行に戸惑うが,妻が元気を取り戻したことからそれを受け入れて過ごす。

 

 

 ある日,妊娠に気づいた佳恵はその日から人形を愛でることをパタリとやめ,人形をガラスケースに戻し,押し入れの奥にしまい込む。

 

 娘真衣(池村碧彩)が生まれ,佳恵は昔のように過ごすが,ある日,真衣が押し入れの奥から人形を見つけてきて「アヤ」と名付けて自分の友だちのように扱い始める。

 

 

 佳恵はそれをただの人形遊びと思っていたが,不気味なことが起こり始める。

 人形は髪ばかりか爪まで伸び,真衣はその人形が話すと言う。

 

 

 又,幼稚園では,ふたりの女性が首を吊っている絵を画く。

 そして佳恵は,人形だと思っていたら娘だったり,娘だと思っていた人形だったりということが何度もあり,ついには人形をたたき壊したらそれが娘だったという悪夢まで見る。

 

 

 芽衣がかくれんぼの最中に洗濯機の中に閉じ込められて亡くなったことから,佳恵は真衣にかくれんぼをしないように,洗濯機で遊ばないようにと厳しく注意してきたが,ある日,真衣はどうしてもかくれんぼをしたいと言い勝手に隠れてしまう。

 真衣を探す佳恵は,見つけた娘が人形だったりということを繰り返すが,まさかと思ってのぞき込んだ洗濯機の中から子どもが飛び出してくる。

 それが娘か人形かも分からず恐怖に駆られた佳恵は,床に放り投げてしまうが,それは真衣だった。

 

 真衣は幸い軽症だったが,その出来事は佳恵自身の精神的な不安定が原因と考えられ,真衣を祖母敏子(風吹ジュン)の家に預かってもらうことにする。

 

 だが敏子の家でも人形は数々の不気味な事件を引き起こしたあげく,深夜に家を抜け出した真衣が橋の欄干に座っているのを見つけて助けようとした敏子は何者かに襲われ気を失う。

 

 

 そこで夫婦は,かつて聞いた人形のお焚き上げを依頼することにする。

 忠彦が寺に人形とケースの写真を送ったところ,寺から今回は既に締め切っているが,この人形はすぐにお焚き上げをした方が良いと言われ,使いの僧侶寺嶋(今野浩喜)が預りに来る。

 だが,その寺嶋はこの人形が高名な作家安本浩吉のものであることを知り,換金しようとしてお焚き上げをする人形を偽物とすり替える。

 寺嶋は,より高値で売りさばこうと人形を持ち歩いている途中,口の中から大量の髪の毛を吐き出して死ぬ。

 そのとき人形を封じ込めるお札が多数貼ってあったガラスケースも割れてしまう。

 

 すべて終わったと安心していた夫婦の元に寺の住職がやって来て人形がすり替えられていたことを詫び,専門家の呪禁師神田(田中哲司)を紹介するという。

 

 忠彦は僧侶から返された人形の中から子どもの歯が出てきたことを不審に思い,勤務先の病院に無断でCTスキャンにかける。

 

 

 すると人形には子どもの骨格がそのまま備わっていることが分かる。

 

 敏子の事件を捜査していた私服警官山本(安田顕)は,その話を聞き,人形を詳しく調べる必要があると言い科捜研へ運ぶが,その途中で子どもを轢く幻覚を見て固まってしまう。

 

 

 夫婦と共に山本の車の後を伴走していた神田は,人形を一旦持参した箱の中に封じ込めてその人形を探して求めていた研究者池谷宗治(品川徹)の元に向かう。

 

 池谷は,安本の娘は身体が弱く,妻が将来に絶望して娘とともに首を吊って無理心中をした,安本は亡くなった娘とそっくりな人形を作ったと言われていたが,娘の骨格を使って人形を作ったのだと分かったと言う。

 そして,そんなものはとても受け取れないから持って帰ってくれと言う。

 

 神田は,この人形を母の元へ帰してやるのが一番良いと言い,母の墓のある島へ向かうことにする。

 忠彦は同行を嫌がるが,佳恵は娘を亡くした母親の気持ちが分かると言い,同行することになる。

 

 

 島に渡る前夜,人形は3人が泊まる部屋の中を暴れ回り,神田は釘を踏み抜いてしまう。

 忠彦が応急処置をするが,島へは夫婦だけで渡らなければならなくなる。

 

 

 干潮時の2時間しか滞在できない島で夫婦は必死に母親の墓を探し回り,ようやく見つけてそこに人形を投げ込むが,佳恵は芽衣と一緒に写した写真を墓穴の中に落としてしまう。

 墓穴の中で写真を拾い,外に出ようとする佳恵を人形が引き戻そうとするが,ようやく這い出て忠彦が蓋を閉める。

 しかし,髪の毛の先が中に入ったままで再び佳恵は引きずり込まれそうになるが,写真の額のガラス片で髪を切って逃げ切る。

 

 敏子から,真衣と人形が話しているベビーモニターの映像を見せられた神田は致命的な誤りに気づく。

 

 

 人形の元になった娘アヤは母親から虐待されており,アヤの望みは母の元に帰ることではではなく,真衣との母親の交換だった。

 

 すべてが解決したと思い込み,娘と仲睦まじく暮らす夫婦に向かって,真衣は届かない声を張り上げ続ける。

 

 

 

 映画監督の矢口史靖が脚本も書いたオリジナル作品で,原作ものではない。

 

 タイトルからは洋風ホラーを思わせるが,メインになる人形が昭和初期の人形作家の作品ということで,中身はほぼ和風ホラー。

 

 専門家を称する霊媒師や呪禁師が,結構無責任なところは,貞子vs伽椰子と同じくジャパニーズホラーのお約束。

 

 ストーリーは,捨てても戻ってくる人形,髪や爪が伸びる人形,実際の人骨が入っている人形などなど,人形ホラーのアイディア全部乗せという感じだが,上手く構成されていて楽しめるというか,怖がることができる。

 

 

 

 長崎の暴力団立花組の組長立花権五郎(永瀬正敏)は地元の興行に来た大阪の歌舞伎役者花井半二郎(渡辺謙)を招いて宴会を開く。

 その場で15歳の息子の喜久雄(黒川想矢)は,余興として歌舞伎の出し物の女形を演じるが,半二郎はその見事な女形ぶりに驚く。

 

 

 だが,その場に殴り込みがあり,権五郎は妻マツ(宮澤エマ)とともに亡くなる。

 喜久雄は背中に恩を忘れないというミミズクの彫り物を入れ,仇討ちをするが失敗する。

 

 半二郎は,喜久雄を花井家に迎え,同い年の息子俊介(越山敬達)とともに歌舞伎の修行をさせる。

 

 

 喜久雄は,正月公演で半二郎と俊介の演じた連獅子を観て歌舞伎の魅力に取り憑かれる。

 

 

 俊介と喜久雄は半二郎から厳しい稽古をつけられるが,ふたりとも歌舞伎の奥深さを身を以て知っており,何も苦にはならなかった。

 

 

 特に人間国宝小野川万菊(田中泯)の鷺娘を観たふたりは,芸の奥深さに恐怖まで感じたほどだった。

 

 

 半二郎が見込んだとおり,喜久雄はどんどん上達し,俊介の母大垣幸子(寺島しのぶ)も真綿が水を吸い込むようだと驚いた。

 

 そして興行主梅木(嶋田久作)の無茶振りで俊介(半弥,横浜流星)と喜久雄(東一郎,吉沢亮)で二人藤娘を演じることになる。

 

 

 半二郎も不安に思いながらふたりを見守るが,緊張の中,見事に演じきり高い評判を得る。

 

 

 

 

 そんな中,半二郎が交通事故に遭い曽根崎心中の舞台に代役を立てる必要が出る。

 

 誰しもが後継者半弥を選ぶと思っていた中,半二郎は喜久雄を指名する。

 俊介は実力の問題なのでやむを得ないと割り切ったが,実際の喜久雄の舞台を観て敗北感から逃走してしまう。

 

 彼は福田春江(高畑充希)とともにドサ回りのようなことをして糊口をしのぐ。

 

 

 一方,半二郎は糖尿病のため視力が衰え,満足に芝居ができなくなっていたが,もう一花咲かせたいと考え,白虎を襲名し,半二郎の名を喜久雄に譲る。

 

 

 喜久雄は役者としての人気が絶頂に達し,愛人である芸者藤駒(見上愛)との間に娘をもうける。

 

 

 幼い娘は,神社で手を合わせる俊介に何をお願いしたのかと尋ねる。

 俊介は,神様にお願いしたのではなく,悪魔と取引をした,芸を極めることと引き換えに他に何もいらないと言ったと答える。

 

 

 だが,襲名披露公演の舞台上で白虎が血を吐いて倒れ,そのまま亡くなってしまったことから,血筋という後ろ盾を持たない喜久雄はすべてを失う。

 

 役は端役しか回ってこず,彼がヤクザの息子であり背中に入れ墨があること,芸者との間に隠し子がいることなどがスキャンダルとして取り沙汰される。

 

 一方,俊介は万菊に呼び出され,厳しい稽古の下,万菊との共演という形で歌舞伎界に復帰する。

 

 

 喜久雄は吾妻千五郎(中村鴈治郎)の娘,彰子(森七菜)と付き合っていたが,それを知った千五郎は,役欲しさに娘を誘惑したと激怒する。

 

 

 喜久雄の愛を信じていた彰子は,家を出て喜久雄とともにドサ回りをする。

 

 

 俊介は花井家を再興し,再び歌舞伎界の中心に立つ。

 

 一方,喜久雄は営業先で酔客に絡まれて殴り合いをするようなすさんだ生活をしていた。

 その喜久雄は,歌舞伎界を引退した万菊に呼び出される。

 人間国宝の万菊も引退後は安アパートに一人暮らしで,ほぼ寝たきりの状態だった。

 万菊は粗末な部屋で,一生を美に追い立てられてきたが,ここには美しいものがひとつもなく安心すると言う。

 

 喜久雄は万菊と俊介の後押しで歌舞伎界に戻る。

 そして,俊介と二人道成寺を演じるが,俊介は舞台の途中で足を痛め,喜久雄がひとりで演じきる。

 

 俊介の左足は糖尿病のため壊死しており,切断するしかなかった。

 喜久雄は俊介と春江の息子に稽古をつけるが,かつての半二郎のような激烈な厳しさはない。

 息子も歌舞伎よりもバスケットボールの方が好きだと言い,俊介も喜久雄も時代が変わったことを感じる。

 

 片足を失った俊介は,かつて喜久雄が半二郎の代役を務めた曽根崎心中を義足でやりたいと言い出す。

 徳兵衛役を喜久雄が演じるが,徳兵衛がすがりつくお初役俊介の右足にも明らかに壊死が広がっていた。

 なんとかやり切った俊介だったが,やはり糖尿病の悪化で亡くなる。

 

 その後,喜久雄は歌舞伎界で活躍し,ついに人間国宝になる。

 

 そのインタビューの女性カメラマンは,喜久雄と2人きりになったとき,藤駒という女性を憶えているかと問う。

 喜久雄は憶えていると答え,そのカメラマンに自分の娘であることも分かっていると伝える。

 彼女は,「悪魔さんに感謝やね」と皮肉を言うが,それでもお父さんの演技には心が震えるとも言う。

 

 人間国宝,花井半二郎はかつての万菊と同じ鷺娘を舞い,そこに追い求めてきた景色を見る。

 

 

 

 話題の超大作だが,この映画の規模を見ると,吉沢亮が飲酒で事件を起こしたときにものすごい数の人たちが青ざめただろうなと思う。

 

 歌舞伎のシーンをごまかさずに役者が演じていることは立派である。

 

 又,喜久雄と俊介がつまらないケンカをしないところが良い。

 単純な友情物語ではなく,ふたりとも芸の高みを深く理解していて,自分たち程度の者同士がいがみ合うことなどに何の意味もないこと知っているからであり,それが物語の端々に現れている。

 

 原作者が黒衣として歌舞伎界に入り,3年掛けて取材したということだが,そのせいか裏方の働きがよく描かれている。

 早変わりの介添え役や,演奏者はもちろん,幕引きをする人たちまで,アップにならなくとも,そのキビキビとした無駄のない動きがそこかしこに見える。

 

 笑えるところは,半二郎の交通事故の状況を説明する人が,車がバーッと来てドーンとぶつかってと大阪人丸出しの擬音説明をするところと,三浦友和と山口百恵の息子である三浦貴大が血筋の話にこだわるところ。

 

 芹澤興人もこんな大作に出突っ張りの役をするようになったんだな。

 黒川想矢くんも高木さんにからかわれていたかと思ったら,こんな役をするなんて。

 

 

 

 

 

 高校生2年生の京こと大塚京(奥平大兼)には,ある特殊能力があった。

 彼は,人の頭の上に!,?,句点,読点が見え,そこから口には出していない人の気持ちがわかるのだった。

 

 

 京は,クラスメイトのミッキーこと三木直子(出口夏希)が,思わせぶりに自分に変わったところがないか気づかないかと聞いてきたとき,シャンプーを変えたのに気づいたが,口には出せないと思った。

 

 

 隣の席のエルこと宮里望愛(早瀬憩)がシャンプーを変えたのに気づいてそれを言ったところ,彼女の頭の上には解読不能な記号が渦巻き,その後,高校をずっと休んでいたからだ。

 

 ミッキーにはある特殊能力があった。

 彼女は,人の心が+に動くか-に動くかをバーとして見ることができ,そこから口には出していない人の気持ちがわかるのだった。

 エルは,京にシャンプーを変えたことを言い当てられたとき,地味な自分が人気のシャンプーを使っていることを調子に乗っていると思われたのではないかと思い込み,学校に行けなくなってしまっていた。

 エルの不登校を心配したミッキーは,それを聞いて京の気持ちを確かめるためにエルと同じシャンプーにして京から気持ちを聞きだそうとしたのだった。

 ミッキーから,京が自分に対して悪い感情を持っていないと聞いてエルは教室に戻ってくる。

 

 

 活発で男勝りなミッキーは文化祭の出し物としてヒーローショーをやりたいと提案する。

 彼女がなりたいのはヒロインではなくヒーローなのだ。

 パラこと黒田文(菊池日菜子)は,それを全面的に応援して文化祭にのぞむ。

 

 

 パラにはある特殊能力があった。

 彼女には人の心拍数が分かるのだ。

 パラは,ミッキーといつも一緒にいる幼なじみのヅカこと高崎博文(佐野晶哉)がいつも平静でいることから彼を冷たい人間だと思っていた。

 

 

 そしてミッキーの交際相手としてヅカはふさわしくなく,彼女には純真な京と付き合って欲しいと思っていた。

 

 そこでヒーローショーの本番前に緊張しているミッキーの手を暗闇の中,京のふりをして握ったりする。

 

 

 ヒーローショーは上手く行くが,最後の最後にミッキーが緊張からセリフを飛ばしてしまい立ち往生する。

 パラはミッキーの緊張を読み取り,それをフォローして幕を閉じる。

 

 修学旅行でパラは何とかミッキーと京の仲を深めようとするが,能力を使いすぎて倒れてしまう。

 

 

 そんな彼女を一番気遣ったのは意外にもヅカだった。

 ヅカにはある特殊能力があった。

 

 

 人の頭の上にクローバー(哀),ハート(楽),スペード(喜),ダイヤ(怒)が見えて人の気持ちがわかるのだった。

 ヅカは,自分がミッキーと付き合うのではないかというパラの心配が必要がないことを話す。

 

 

 彼らは卒業の時期を迎え,京とミッキーの仲は深まっていったが,京の自信のなさからミッキーに別れを告げてしまう。

 それを一番,心配したのはエルだった。

 

 

 彼女にはある特殊能力があった。

 人の恋心が矢印として見えるのだ。

 彼女には京とミッキーの矢印が互いを指していることが見えていた。

 エルたちに促された京はようやくミッキーに気持ちを打ち明けるのだった。

 

 

 

 

 「君の膵臓をたべたい」「青くて痛くて脆い」などと同じ住野よる原作小説の実写化。

 

 特殊能力と言ってもどれも中途半端で,表情や行動から気持ちを推察するのと大差がない。

 むしろ,なまじ分かったつもりでいることから誤解が広がってしまうところが話のミソか?

 

 どんでん返し的な部分としては,通常,主人公だけに備わっている特殊能力が,実は全員にあったということと,一番,特殊能力がなさそうなエルに一番はっきりとした能力があったというところかなぁ?

 

 それにしても登場人物全員が,実は自己肯定感が低く自信がないというのは話としてはちょっとうっとうしい。

 

 映像化された他の作品と比べると住野よるにしては甘口薄口かな。

 

 

 

 東大阪で暮らす加藤俊樹(鈴木亮平)とフミ子(有村架純)の兄妹は,子どもの頃,長距離トラックの運転手だった父(板橋駿谷)を事故で亡くしていた。

 

 俊樹は工場で働き,フミ子は大学で事務をしている。

 

 

 父の死後,母(安藤玉恵)と3人で支え合いながら暮らしていたが,フミ子(小野美音)が4歳のとき彼女は「自分はバスガイドをしていた重田喜代美(美南琴奈)だった」と言い出す。

 小学生だった俊樹(田村塁希)は,フミ子にせがまれて母に内緒でフミ子の記憶の中にある彦根市へ一緒に行く。

 

 

 フミ子は懐かしげに彦根の街を歩き,ついに喜代美の父仁(酒向芳)に出会う。

 仁は,娘が事故で痛くて苦しんでいるときにお昼ご飯を呑気に食べていた自分を後悔し,それ以降,生きるために最低限しか口にできなくなっていた。

 

 痩せ細った仁を見たフミ子は,俊樹にツツジの花で作った「花まんま」を渡して来てほしいと頼む。

 それを見た仁は,喜代美が子どもの頃に作っていたのと全く同じ花まんまを見て涙を流す。

 

 

 喜代美の兄宏一(六角精児)と姉房枝(キムラ緑子)は,天国の喜代美が食べれなくなったお父さんを心配しているのだと言ったが,仁は喜代美が生きてどこかにいると思い,俊樹を追い,駅で俊樹とフミ子に会う。

 仁は,フミ子が喜代美だと確信し,喜代美と呼ぶが,俊樹は「この子はフミ子や。俺の妹や!」と強く拒絶する。

 

 そして,帰った後,フミ子にもう仁たちとは会わないと約束させる。

 その後,俊樹たちの母は過労で亡くなり,俊樹は更にフミ子の幸せだけを願って暮らすようになる。

 

 

 やがてフミ子は,勤務先の大学で鳥類の会話を研究している中沢太郎(鈴鹿央士)と知り合い,彼と恋をして結婚をすることになる。

 

 

 俊樹は頑固親父のように難癖をつけるものの中沢が誠実な人間であることは分かっており,結婚式に向けて話を進める。

 

 

 一方,フミ子にはある不安があった。

 それは,あれほど鮮明だった喜代美としての記憶が,だんだん薄れてきてしまったことだった。

 

 フミ子は,喜代美としての記憶があることも俊樹には内緒で中沢に話しており,中沢はそれも受け入れていた。

 

 

 フミ子は俊樹との約束を破り,中沢とふたりで彦根の仁の元へ向かう。

 

 俊樹はフミ子が,自分に内緒で仁と手紙のやり取りをしていたことに気づき,フミ子を追う。

 

 

 フミ子は彦根の駅に着いたものの,仁の家がどこにあるのかも分からなくなっていた。

 同行した中沢は,フミ子から仁の家の特徴を聞き,鳥たちからその場所を教えてもらってようやく仁の家にたどり着く。

 

 フミ子の希望は仁に自分の結婚式に出席してもらうことだった。

 

 

 仁たち家族は喜ぶものの俊樹の気持ちも知っており迷っていた。

 

 

 フミ子たちが仁の家を出た後,俊樹は仁の家に着き,絶対に出席は認めないと言う。

 

 

 その後,かつてフミ子が仁に渡す花まんまを作った公園で,俊樹はフミ子に会う。

 

 

 約束を破ったと怒る俊樹に対して,フミ子は手紙のやり取りをしただけで会ってないから約束は破ってないと答える。

 フミ子は,父が幼いときに亡くなったので父親の思い出はなく,父親の娘に対する想いは,すべて仁との文通で知ったと話す。

 

 その後,俊樹は仁たちを結婚式に招待することにするが,会場のホテルを勘違いしていたことで一騒動あり,かろうじて間に合う。

 

 俊樹は,予定していた型どおりのスピーチではなく,母が亡くなったあと自分はフミ子の幸せだけを願って生きてきて,すべて自分の力でやってきたと思い込んでいたが,それが間違いだったとようやく気づいたと言う。

 

 

 様々な人たちが自分たちを助けてくれたことへの感謝を述べる。

 

 

 無事,結婚式が終わり,フミ子と中沢は招待客を送り出すが,フミ子は仁に向かって,どこから来てくれはったんですか?とたずねる。

 彦根からと答える仁に,えらい遠くからありがとうございますと言うフミ子は,喜代美の記憶をすべて失っていた。

 

 帰りの列車で仁たちはそのことを寂しく感じるが,引出物のひとつが花まんまであることに気づき涙を流す。

 

 

 

 

 

 有村架純待望の関西弁作品だが,伊丹の彼女に西宮の鈴木亮平,ファーストサマーウイカにオール阪神・巨人と来れば関西弁警察の出番はない。

 

 原作小説はフミ子に結婚がきまったところで終わっており,その後の物語はこの映画による創作とのことらしい。

 

 それにしても有村架純は「月の満ち欠け」に続いてまたもや生まれ変わりストーリー。

 「月の満ち欠け」が嫌な感じの多い話だったことに比べると今作は,いささかコテコテ感も強いが,ハートウォーミングで良いし,結婚式が終わって前世の記憶がすべて消えるという設定も悪くない。

 又,その割り切りを花まんまの引出物で救うという回収も見事だと思う。