一条逸子(広瀬すず)こと広澤真緒里は,東京の街角で歌を歌っている小塚路花(アイナジエンド)を見かける。

 

 

 真緒里は高校生の頃,北海道に住んでおり,畜産大学を卒業して牧場で働いていた潮見夏彦(松村北斗)に家庭教師をしてもらっていた。

 ある日彼から,真緒里と同じ高校に通う自分の妹が,学校になじめていないので友だちになってやって欲しいと頼まれる。

 真緒里は夏彦から聞いたクラスに行き,ひとりでいる路花に話しかける。

 彼女はほとんど言葉を話すことができず,誰とも友だちになれなかった。

 

 路花は小学生の時,東北の震災で家族を失っていた。

 そのとき,ひとりになってしまった彼女が覚えていたのは,姉,希(キリエ)の交際相手だった夏彦のことだった。

 姉から紹介されたときは恥ずかしかったが,何となく信頼できる人だと感じていた。

 夏彦が大阪の大学に進学すると聞いていた小学生の路花は,震災後の混乱に紛れてひとりで大阪に来た。

 

 だが,夏彦を見つけることはできず,たまたま出会った御手洗礼人(七尾旅人)という路上ミュージシャンと暮らしていた。

 震災のショックで話すことができなくなっていた路花だったが,歌が上手く,しゃべれなくなっても歌だけは歌えた彼女は,御手洗と一緒に路上ライブをしていた。

 だが,中年男が小学生の女の子を連れ回しているとして警察に通報され,御手洗は警察に連行される。

 路花も保護されそうになったが,逃げ出してひとりで野宿をして暮らすようになった。

 

 地元の小学生の男子たちと仲良くなった路花は,夜は大きな木の上で過ごしていた。

 その小学生たちの担任だった寺石風美(黒木華)は,生徒から彼女の話を聞いて探しに行く。

 木の上で歌っていた彼女を見つけた風美は,路花を自分の家に連れて帰る。

 彼女が震災に遭ったことを知った風美は,インターネットの掲示板で路花とキリエの行方を捜す夏彦の存在に気づく。

 夏彦は震災の混乱で,進学が決まっていた大阪の大学には行かず,地元に留まっていた。

 

 夏彦と連絡が取れた風美は,路花を彼に託すがやがて里親が決まり,路花はそこで暮らすことになる。

 

 

 ところが高校生になった路花は里親の元を飛び出し,北海道に住んでいた夏彦の家に転がり込む。

 

 

 真緒里と路花は仲良くなり,ふたりで歌を歌って時を過ごしていたが,やがて路花は里親の元に連れ戻されてしまう。

 

 真緒里の家は,母楠美(奥菜恵)も祖母明美(浅田美代子)も水商売をしてきており,男に頼る生き方をしていた。

 真緒里は,それが嫌で高校を卒業したら家から出たいと思っていたが,母楠美に牧場主の横井(石井竜也)という恋人ができてから家が急に羽振りが良くなる。

 

 真緒里は最初,その関係を嫌がったが,東京の大学に進学するという名目で家を出ることができるのではないかと思い,横井に学費の援助を頼む。

 横井は気前よくそれを引き受けただけではなく,家庭教師として自分の牧場で働いていた夏彦を送り込んでくれた。

 真緒里は元々,勉強嫌いだったが,夏彦に勉強を教えてもらったことと,家を出て東京に行きたい一心で努力して東京の大学に進学した。

 

 だが,在学中に母が横井に振られ,授業料の支払いや仕送りが途絶えてしまった。

 真緒里はそれ以降,一条逸子と名乗り,男たちを手玉にとって暮らすようになる。

 結局,自分が嫌った母や祖母の生き方をなぞってしまったのだ。

 

 キリエと名乗る路上ミュージシャンが路花であることにすぐに気づいた逸子は,彼女にマネージャーになって売り出してやると言う。

 

 

 逸子が派手な色のウイッグをかぶっていたため最初は気づかなかった路花だったが,彼女が真緒里であることに気づき,再会を喜ぶ。

 

 

 逸子は自由に使えるという豪邸にキリエを連れて行くが,それは彼女の元恋人(豊原功補)の留守宅だった。

 そこでしばらく暮らし,その間にキリエは路上ライブで顔を売る。

 

 風琴(村上虹郎)と名乗るミュージシャンも加わり,彼女は次第に注目を集めるようになる。

 

 

 だが,元恋人の家には,本人が恋人(松本まりか)を連れて帰ってきてしまい,逸子とキリエは出ていかなければならなくなる。

 

 逸子は,今度は波田目という中年男の家にキリエを連れて行く。

 逸子はキリエに,あいつは結構変態だから気をつけてと言ったが,彼は機嫌良く2人を住まわせてくれた。

 

 一方,その間,逸子はキリエを根岸(北村有起哉)という音楽関係者に引き合わせたり,路上ライブを主催する松坂珈琲(笠原秀幸)や日高山茶花(粗品)といったミュージシャンとの共演も手配して彼女の売り出しを図っていった。

 

 だが,ある男の視線を感じた逸子は「しばらく姿を消す」と言ってキリエの元からいなくなる。

 その後,波田目はキリエに逸子に騙されたと言い出し,キリエを犯そうとするが,かろうじて平静さを取り戻し,彼女を追い出す。

 逸子は結婚詐欺師として数億円を荒稼ぎしたと報じられた。

 

 松坂の企画した路上ライブは盛り上がり,キリエの歌も観客たちを感動させていた。

 しかし,近隣からの騒音の苦情や許可証を持参するのを忘れてしまったことからキリエの歌の途中で警察から中止の要請が入り,現場は大混乱になる。

 

 そんななか,キリエにサプライズで花束を渡す役割だった逸子は会場の手前で,自分が騙した男にナイフで刺されてしまう。

 

 

 

 

岩井俊二監督の最新作

 

 岩井監督の映画はどれも素晴らしいが,この映画もやっぱりすごい。

 

 アイナジエンドの歌唱力と監督の演出力が合わさり,他にはない世界を紡いでいる。

 

 一番感心したのは,キリエが根岸の無茶振りでカフェで歌うシーン。

 カフェで突然歌い出す彼女は,最初の数秒はただの変な人だが,やがてすべての客がその歌に感動し,「2番も聞きたいですか」と問う根岸に全員が拍手で答える。

 このシーンは,演出された映画の一場面ではなく,彼女が歌えば,本当にこうなるだろうという説得力がある。

 

 その他にも彼女が口ずさむように歌うオフコースの「さよなら」なども良かったが,これらの曲はサントラにも収録されていないのが残念。

 

 岩井作品の広瀬すずは,ラストレターといい本当に別格だし,松村北斗もはまり役。

 キタリエ旦那(笠原秀幸)も歌えるんだなぁ。

 

 黒木華もやっぱり良いし,様々なミュージシャンの参加も楽しい。

 

 岩井監督が作る世界の居心地の良さは素晴らしい。

 

 この映画のもう一つのテーマである震災についても,切り取り方が秀逸だが,一部は監督自身の経験も踏まえていることが新聞に書かれていた。