言わずとしれた武侠小説の三大家・梁羽生(他の二人は金庸と古龍)原作の「白髪魔女伝」のリメイクもの。





そして、数あるブリジット・リン(林青霞)の当たり役のなかでも、東方不敗に次ぐ名(迷)キャラクターである白髪魔女(練霓裳:レン・ナイツァン)が登場する有名物語。

この白髪魔女伝はロニー・ユー(于仁泰)が監督していました。





ヒロインであったブリジット・リンの印象が強すぎ、またヒーロー役でかつ主題歌を歌ったレスリー・チャン(張国栄)のイメージも鮮烈に残っているというハンディを背負った中国製映画です。


今回の正式タイトルは、『白髪妖魔伝』(原題:白髪魔女伝之明月天国、2014年)。オープニングロゴを見る限り、大陸映画です。


ただし、監督は、『墨攻』でも日本市場に名を売った張之亮(ジェイコブ・チャン)。香港の監督ですが、最近は、大陸色が強くなっていますね。


墨攻でもヒロインであったファン・ビンビン(範冰冰)が今回は白髪魔女=練霓裳を演じています。




しかしだね。


白髪になるシーンのすさまじさといったら、やっぱ1993年版本家(実はこっちも1959年版のリメイクなんだけど今作があまりに強烈だったんで、それはおいておこう)にかなわない。


まず、ブリジットの強烈な目力というのもあったと思う。目で演技するんだけれど、ブリジットのそれは本当に鬼気迫るものが感じられる。


対して、ファン・ビンビン。もうベテランの域に達する中国を代表する美人女優だけれど、武侠モノに似合うという素材ではない。

いかんせん顔がバタ臭くて、白髪になったはずなのに、なんだか金髪になったみたいになっちゃっている。

(というか、途中から照明のせいもあるかもしれないけれど、ビンビンの髪が金髪に見えちゃうんだ)


ブリジットの映画は奇想天外なものが多いけれど、どれも納得しちゃうのは、彼女の目の演技に依るところが大きい。実際、広東語はしゃべってないから、台詞は別人が入れてるし、当方不敗みたいに男の声から女の声になっちゃう役など、もはや地声のはっきのしようがなかった。


それでも納得の演技力かつ武侠世界に映えるというのがブリジットだったんだよね。


一方、ファン・ビンビンは、私も大好きな女優さんだ(李玉(リー・ユ-)監督の作品での主演はどれも素晴らしい!)けれど、武侠世界にマッチしないのだ。顔がやっぱバタ臭いんだよね。武侠小説の中にこの顔はないよなーってなっちゃう。

イイ意味でも悪い意味でも。


この点、ジャッキー・チェン&ジェット・リー主演のアメリカ映画『ドラゴン・キングダム』(原題:The Forbidden Kingdom)でリー・ビンビン(李冰冰)がチョイ役で、白髪魔女を演じているんだけれど、こっちのがブリジットに近い風貌なんだよね。





ま、今は中国大陸のテレビドラマでも白髪魔女はたくさんドラマ化されてしまって、何人もの白髪魔女が誕生しているわけだけれど、残念ながら、ブリジットの強烈さには叶わない。


ジェイコブ・チャンもそれを理解しているのか、白髪への変身シーンは、ブリジット版とは全然違う感じに、今回の白髪妖魔伝では仕上げられていたよ。


ブリジット版は、裏切られた恨みで変身するんだけれど、ファン・ビンビン版は、なんか持病が発病する感じ。


で、白髪になっちゃってからも、ヒーローと手を組んだりして、白髪に変わったことの意味がよくわからない。


ブリジット版ではパート2まで作られたけれど、本作にはその余韻はなし。


今回もまた3Dで作られたため、2Dで見ると映像がとてもチープ。これも残念だった。

一瞬、テレビドラマの再編集版かと思ったくらい。


でもね、チョイ役でウィン・チャオ=チウ・マンチェク(趙文卓)が出ているし、アクション監督は一応はトン・ワイ(董瑋)。

だから、かなり良いアクション・シーンもある。


ただなー、前作でレスリーが演じた卓一航は、ホアン・シャオミン(黄暁明)が演じているんだけれど、アクションはレスリーよりも見せ場がないんだな。そもそもレスリーだってアクション俳優ではないので、適当に草を剣に見たてて振り回しているだけってシーンもあるんだけれど、それでもやっぱレスリー特有の色気が茶目っ気が、「うんうん」という納得感を出していた。

シャオミンは筋肉ももりもりなんだけれど、その納得感がないんだなーー。


私、香港映画好きすぎて、大陸作品にちょっと厳しいのかな―。



本作、本邦では劇場公開されず、WOWOWお披露目であったらしいけれど、確かに、ちょっと劇場で見る作品ではないのかな。とはいえ、中国では3Dで作られたんだから、劇場作品なんですが。


ファン・ビンビンも好き、チウ・マンチェクも好きなのに、この出来というところが、ちょっと残念な本作でした。





台湾のモデル・タレントであるウー・シンティ(呉心緹)ちゃん主演の短編映画『my little guidebook』。


十勝観光を盛り上げるために制作された短編映画で、上映時間は27分。


北海道が舞台ということで、札幌国際短編映画祭2015の北海道セレクション部門で公開されました。




なんといっても、魅力は主演のシンティちゃんの可愛さと十勝の自然・農業景観。


ストーリーはいたって単純(短編だからね)で、札幌国際短編映画祭サイトには、以下のような紹介だけ。


台湾の旅行代理店新人社員チチ。会社の命令で北海道の新しい観光地開発のため十勝へ派遣される。


ま、これでだいたいオッケーなんだけど、私が解説すると、


新人のチチ(演じるはシンティちゃん)は、まだ仕事のイロハもわからないのに、会社から新人扱いされることにご立腹。

そんなとき、会社から、十勝へ派遣され、観光地巡りツアーを作れとの指示がくだる。

しかし、日本語もできないし、実際には仕事のこともよくわかってないから、やっぱり何もできず、自分の実力のなさを痛感して途方に暮れる。

十勝の農家で茫然自失になっているところを、地元の農家青年に助けられ、ごはんを食べさせてもらって、十勝の観光地を教えてもらってと、いたれりつくせりされた上で、やっとこ企画書を書き上げる。。。


ってな感じ。


「もう! なんもできないくせに!」って感じなんだけれど、この主人公シンティちゃんの可愛さで許せてしまう。


そして、十勝の大自然をドローンかなんかで空撮した圧倒的な風景!





やっぱ北海道はイイネ! と思ってしまうこと、請け合い。


ストーリーはまぁ、ありがちな感じだけれど、シンティちゃんの魅力と十勝の風景のおかげで、とっても爽やかに撮られています。


この作品、十勝観光もりあげ映画ということなので、Youtube (my little guidebook )にアップされて、全編を楽しむことができます。


監督は、逢坂芳郎氏。十勝出身でアメリカで映画製作をまなんだ俊英。

冬の北海道・十勝をイメージした台湾のバンドのプロモーションムービーをつくったことがあるので、台湾とのご縁もあり。


そして、なによりこの短編映画。


クラウドファンディング手法で、出資をひろく募って制作されたのです。


逢坂芳郎監督自身がYoutube (十勝短編映画プロジェクト)に出資を呼びかける動画を二年前くらいにアップしています。

それによると、最低でも200万円は必要で、400万円が集まったら、台湾の有名女優をキャスティングする、となっています。

それと並行して企業や自治体からも寄付やスポンサードを募ったようですが、それらはエンドロールでわかります。出資したそれぞれの額は不明ですが、かなり出来がいいと私は思っております。


シンティちゃんは、新人なので、それほど高いギャラはとっていないと思うけれど、それでもクラウドファンディングの400万円の資金だけではキャスティングできていないでしょう。総制作費がどれだけだったかは不明ですが、こうした手法で、ちゃんと地域をもりあげるためのキラリと光る短編が作れるんだな、って私は感心しましたよ!


春くらいから見られるようになっていたこの短編。

そして、秋には札幌国際短編映画祭でも上映され、そして<アミノアップ北海道監督賞>という賞もとりました。


観光誘客のターゲットは台湾人ですが、日本人が見ても、十勝に行きたくなること請け合いです!

紹介がおそくなったけれど、ぜひご覧あれ。



ドニー・イェン期待の2014年香港映画(香港の英皇電影製作だが大陸資本も一部入っている)。


その名も一個人的武林。武林は武侠小説の世界の用語で、武術界みたいな意味。

ヤクザ世界に黒社会があるのと同様、武術家たちにも武術家の社会としての武社会があるんだろう。

一個人は一人という意味だから、直訳すると「武術世界の一員」ってな感じだろうか。


カンフー・ジャングルは正式な英語タイトル(Kung Fu Jungle)のそのまま。


武林の部分の訳として、とっても合っている。

しかも、武林だと武侠小説の用語なので、時代劇感覚になるが、カンフーのジャングルなら、本作のような現代劇にも違和感がない。

なんと上手いタイトルをつけたことか!




上記は大陸用ポスター。

え、3D作品だったんだね。

どーりで、最後のアクションシーンが、飛び出し効果を狙ってそうに見えたんだよなぁ。


今回、GAGAが配給ということもあって、全国公開されている本作。全国同時公開とはいかなかったものの、私の住んでいる地方でも遅れること数週間で観ることができました。


本作、公式サイトのイントロダクション に、そのカンフー映画的意義がとっても詳しく載っている。


だから、本ブログでも解説するまでもないんだけれど、強調すべきはドニー他の製作陣が、香港功夫映画へのオマージュを込めて本作を作ったというところ。


香港映画に詳しくない人は、カメオ出演しているオッサンたちを見過ごしてしまうと思うが、それはそれは香港映画界にとって、超尊敬すべき人々の数々がワンショットで出演しているのだ。


私がすげぇ、と思ったのは、ゴールデン・ハーベストの創業者であるレイモンド・チョウが屋台の常連客「チョウさん」として出演していた箇所。


ご存知の方も多いが、映画製作の面では第一線を退いているレイモンド・チョウ氏。映画出演時は86~7歳と思われるが、まだまだ元気な姿を見せていたよ。


レイモンド・チョウは香港映画の父であるランラン・ショウの右腕だった人だから、ランランが昨年亡くなった今、生き字引的香港映画の重鎮と言える人は彼だけになってしまった。


他にも、劇中で登場人物たちが観ているテレビに、昔の香港カンフー映画が映っていたり、カンフー映画マニアの心をくすぐる仕掛けに事欠かない。


テレビ画面にチラッと出たカンフー映画で、多くの人がすぐに分かるのが、ジャッキー・チェンの「酔拳」だろう。これはジャッキーへのオマージュであると同時に、マトリックスなどのアクション・コーディネーターであるユアン・ウーピンのお父上であるユエン・シャオティエン(袁小田)へのオマージュにもなっている。


それから、どの映画のシーンであるか、じっくり観ないとわからないが、ラウ・カーリョン(劉家良)もテレビ画面に映っていた。もう一回観ればどの映画か当てられると思うけれど、ちょっと今の段階では自信がない。「酔拳2」のアクションシーンだとしたら、ジャッキーつながりでわかりやすいけれど、ラウ・カーリョンの登場場面のみだったし、あの作品でのラウよりもかなり若いように見えた。


いずれにしても、ユエン・シャオティエンもラウ・カーリョンもどちらもショウ・ブラザーズ映画の時代から、大量にカンフー映画に出てきた二人の巨頭。

オマージュを捧げるにふさわしい人たちなんだよね。


話を本筋のほうに戻しましょう。


この映画で私が驚いたのが、最強にして最凶の殺人犯を演じたカンフーの達人が、ワン・バオチャン(王宝強)だったこと。

だって、バオチャンと言えば、「天下無賊:イノセント・ワールド」で、田舎の純朴な出稼ぎ青年役の印象が強かったから。

こんな悪役もできるのかって驚いた。しかも彼、子どもの頃は崇山少林寺の外弟子だったっていう本格的な武道経験者でもあったってのも知らなかった。


そしてストーリー。


本作は武術界最強の男を目指し、達人に挑戦しまくるというまさに武侠小説そのままの題材なのだが、それを現代において実行するという、最凶な男(ワン・バオチャン)が起こす事件を描いた物語。


時代劇な題材を現代劇でなりたたせるべく、脚本もなかなかよく出来ていると言えるかもしれない。

もちろん、それでも無理は生じるけれどね。


時代錯誤男の相手をする宇宙最強の男(ドニー・イェン)も十分時代錯誤な男で、それに振り回される刑事役のチャーリー・ヤンが久しぶりに愛嬌ある声でどなりまくっているのもなんだか懐かしい。


本編そのものも十分楽しめる出来になっているけれど、カメオ出演の懐かしのスターがどんどん登場するという点でも、香港映画マニアにはたまらない。

(とくに刑務所バトルシーンで出てきたマン・ホイ、久しぶりに観たけど太ったなー)


DVDを買って、じっくりカメオスターたちについて論評しようかなー。


ところで、本来の売りであるカンフー・アクションについては書かなかったんだけれど、それももうスンゴイです。

ただ、私としては、こうしたホンマモンのアクション・スターを起用する作品では、あまりワイヤーを使ったシーンは必要なく、肉弾バトルをもっと見せて欲しかったという点だけが不満。

それでも素晴らしいシーンのオンパレードでした。こちらも、DVD買ってじっくり分析したいところ。


とまぁ、香港カンフーマニアな人にはおすすめな本作です!

邦題「スペシャルID 特殊身分」でそのままである。





ドニー・イェン主演の2013年製作の中国映画。製作会社をざっとみたところ、香港資本のほとんどない大陸映画(國片)であった。


昨年、ドニーは大陸資本に出ずっぱりであった。


本作のすぐあとが邦題がモンキーマジックで公開された『西遊記之大鬧天宮』(2014)。

そして、邦題がアイスマンで公開の『冰封:重生之門』(2014)。


ギャラを稼いで、なにか大作を考えているのか? と勘ぐりたくなるくらいである。


香港との合作はともかく、大陸資本にはいろいろ制約があって、現実味や緊迫感が薄れることもあり、香港映画ファンにはいろいろ不満が残ることが多い。


本作も脚本や演出には特筆すべき点はなく、かなり使い古された感じのある潜入捜査官モノ(しかもリアリティがちょっと薄い)に、黒社会の義兄弟の契り(でもあんまりつながりの深さが見えない)など、かなりアバウトである。


しかし、アクションに関してだけは決して妥協はしないドニー。


誰が演じているかはっきりしない特殊メイクで登場のモンキーマジックは武術指導にクレジットがあるものの、CG使いまくりでよくアクションがわからんかった。


しかし、今回の特殊身分は全編生身のドニーである。


ストーリーはさておき、アクションは総合格闘技(MMA)の要素を交えたドニーならではの本格的なものだった。

ドニーの右腕・谷垣健治さんも今回のアクションには太鼓判を押していた(ツイッターだったかな)し、それは私も同感。


モンキーマジックがアレだっただけに、今回はあまり期待をしてなかったけれど、アクションに妥協無しのドニーがちゃんと観れて、あらためてドニー兄さんを好きになった。


というわけで、今回は作品評はなし。

でも、脇もよかったよ。


すっかり悪役が板に付いたアンディ・オンもがんばっていた。




そして、なによりヒロインのジン・ティエン。




ジンちゃん、美しいだけじゃなく、けっこう身体が動くことがこの映画ではよくわかります。




まず、身体が柔らかいからこんな足上げも楽々。


ダブルを使っていないことは、ワンカットでアクションシーンを撮っているから間違いない。本人である。




しかし、この細腕。

かなりのギャップがある。


私はこの女優さんは魅力的だと思う。


ただ、ドニーとのいい感じになるシーンは若干の違和感を感じざるを得ない。

ジンちゃんが悪いのではない。ドニーを30代前半くらいの年齢設定にした(!)脚本が悪いのである。



ジャッキーの大陸版ポリスストーリーでは、見せ場がなかったけれど、けっこう動ける素材を活かして、またアクション映画に出て欲しいものである。


というわけで、今回はとりとめがない記事ですいません。


ドニーさんの2014年のオオトリ『一个人的武林』(邦題:カンフー・ジャングル)の方は、映画としての質、アクションの出来ともに超期待していますがまだ未見。はやく観たいな~。


『インターセプション 盗聴戦(竊聽風雲3)』(2014)を遅くなったけれどもシネマートさんで鑑賞。





原題にあるように、『盗聴犯 死のインサイダー取引(竊聽風雲1)』(2009)、『盗聴犯 狙われたブローカー(竊聽風雲2)』(2011)に続く、監督・脚本:アラン・マック、フェリックス・チョンのコンビによる第三作。







1. 竊聽風雲シリーズとしての位置づけ


アラン・マック&フェリックス・チョンは「インファナル・アフェア」シリーズの脚本家だ。アラン・マックのほうは、インファナル・アフェアシリーズでは脚本だけでなくアンドリュー・ラウの共同監督でもあった。


今回、盗聴「犯」ではなく、盗聴「戦」となって、邦題の上では同じ竊聽風雲シリーズであることがわかりにくくなっている。


とはいえ、そのそも竊聽風雲1と2もストーリー間につながりはなかった。


ただ、キャストがまったく一緒。

古天楽(ルイス・クー)と劉青雲(ラウ・チンワン)、呉彦祖(ダニエル・ウー)の三人。

しかし、仲間か敵かなどの設定はまったく別。


そして、盗聴をすることが、物語のキーポイントになっているというところも一緒。


今回の3も、その点では盗聴がたしかにモチーフになっているのだが、通信環境とスマートフォンがここ数年で飛躍的に進化してしまって、盗聴というよりも盗撮が中心の感じになっている。


物語は謎解きというかサスペンスの要素があるので、結末は書かないでおきます。


たぶん、シネマートさん以外ではDVD発売だけになるだろうけれど、書いてしまうと観る気がなくなっちゃうと思うので。


だから、感想だけ一言。前作、前々作と同様に、やっぱり面白かった!


この連作。

毎回、誰も幸せにならないのである。


1と2では、主要人物の一人に誰か警察の人間がいた。

しかし、3では「全員ワルモノ」。もう、アウトレイジの世界である。


あ、なるほど、警察が関わらない以上、盗聴「犯」であるわけがないんだ。それで盗聴「戦」にしたのね。

でもね、盗聴戦っていうと、それある程度ネタばらししちゃっていることになるんだけれどね~。

今まで気づかなかった。なんたること。。。


ともあれ、みんな悪人なんだから、主要人物たちが、まっとうな結末を迎えられようはずもない。


インファナル・アフェアがそうであったように、救いがない脚本を書くコンビなのだろうが、あれが面白いと思う人なら、本作も楽しめる。


そして、大陸の俳優を使わなきゃならない制約から、てっきりちょい役かと思ってたジョウ・シュン(周迅)がなかなか魅力的な役だった。これは嬉しい誤算。






2. 「丁」:新界住民が持つ特権


さて、物語についての評論は、今回は書かないんだけれど、物語の主題になっている新界地区の地上げというのは実話のようで、今回の主要人物たちにはモデルがいるそうである。


ストーリーをシネマートさんの公式サイトから拝借しちゃうと、


昔から政府と住民との間で土地開発問題が続く香港郊外の新界。

地元の有力者であるロク(ケネス・ツァン)のもと、その甥カムキョン(ラウ・チンワン)らは、大陸の実業家マン(ホアン・レイ)を味方につけ、土地開発に乗じて莫大な利益を上げようと様々な手段を用いて土地を買い漁っていた。

そこへ5年前、彼らの計画に反対するユン(チン・カーロッ)を交通事故で殺した幼馴染のザウ(ルイス・クー)が刑期を終え出所

彼らは歓迎し仲間に迎え入れるが内心は疎ましく思っていた。

それを感じ取ったザウは、獄中で知り合ったハッカーのジョー(ダニエル・ウー)に依頼し、カムキョンたちへ盗聴器を仕掛けさせる。

そこへカムキョンたちの行動を快く思わないロクの娘ユンウィン(ミシェル・イェ)も加わり、運命の歯車が狂いだす。

果たしてこの金と権力と欲にまみれた争いに勝利するのは誰なのか?


っていうような具合。


つまり、新界を新興の高級マンション街に開発しようとする政府の間に割ってはいって利益を得ようとするワルモノが今回の主題である。


香港が、香港島、九龍島からなり、英国への租借背景が違うのは知っていたし、新界という地名も知っていたけれど、新界がそれらともことなる条件で英国に租借されたことは知らなかった。


それから、新界の住民は、いわゆる原住民であり、流れ者がほとんどの多くの香港人と違って、この土地に昔から住んでいた住民(その半数が客家人らしい)には特別な権利が(香港が返還された今でも)あるんだそうだ。


そうした権利(男系が引き継ぐ)のことを「丁」と呼び、この映画のなかでも「丁」の権利を安く買いたたかれる新界住民が哀れに描かれている。


新界を高級マンションに開発するためには、住民たちから新界の土地利用権利を含む「丁」を譲り受ける必要があるからだ。


この「丁」のことも私は、本作で初めて知った。


そのへんの背景に無知だったので、いまいちこの映画の社会性をくみ取れていないかもしれない。


そして、映画のなかで、新界原住民たちの独自性を匂わせるような描写があったかどうかまでは、私の知識ではわからなかった。


ただ、wikipediaの新界原住民のページによると、原住民たちは広東語の下位方言である「囲頭話」を話すという。

そして、その囲頭というのは、新界のまわりに築かれた城壁のような防護壁のことを指すのだという。

たしかに、映画のなかでも、これ何だろうっていう城壁が登場した。なるほど、それが新界原住民の象徴だったのか。





このあたり、私はいまのところ詳しくないし、客家語もわからないので、ちゃんとした論評はできないのだけれど、そうした香港の持つ特殊性とか複雑さを知るためにも、一見して損のない映画だと思う。


劇場で見逃して、DVD発売と同時にレンタルして鑑賞。


正直、劇場で見ないと、CGのチープさが目立つ。


しかも日本では2Dのみ公開だったが、3Dで見ないときっと劇場でもチープだったであろう。




IMAX 3Dの文字がしっかりとある香港公開版ポスター



本当に中国では大ヒットしたのだろうか?


言わずとしれた西遊記映画。しかもその前日譚となるから、「孫悟空誕生」とタイトルにある。


孫悟空を演じるは宇宙最強のキャッチフレーズも定着したドニー・イェン。


しかし、ずっと猿メイクである。猿過ぎて、完璧な猿過ぎて、正直、「本当にドニーが演じているのか」と突っ込みたくなる。


見よ。このドニー(?)の猿メイク。



たしかに、目のあたりはドニーのマナコである。しかし、これだけ特殊メイクだと、目のあたりをドニーに似せてメイクしたら、きっと誰がやってもわかるまい。


アクションシーンも「さすがドニー」と言いたいところだが、正直、ドニーはほぼアップのシーンだけとって、あとはダブルの方が演じているように見える。

ええ、そうですとも。全作品を見てきて、ドニーアクションの神髄がわかっている(つもりの)私の目はごまかせませんよ~。


ただこの映画。武術指導はドニー・イェンとクレジットされているんですよ。

でも実際には、ドニーさんの右腕である「るろうに剣心」の武術指導者・谷垣健治さんがほとんどをふりつけているんじゃないかな。


そのあたり、谷垣さんのツイッターとか、映画雑誌「映画秘宝」のコラムなんか見てると、どうもはっきりとは書いてないけれど、そんな感じなんだなぁ。


でも、もはや谷垣さんもドニー以上の振り付けをしてくれるから、そんなことどうでもいいんですけどね。


往年のサモハン・スタント・チーム(洪家班)が、サモハン親分のもとで、ラム・チェンインだのユン・ワーだのがみんなで振り付けていたのと同じ。それで何作も高質なアクションを生み出してたんだから。


ただ、やはり、このとろこのドニーの多作ぶりは、やっぱり以前ほどのアクションへのこだわりは感じられない。


モンキーマジックと同じ時期に、大陸の3D作品「アイスマン(冰封俠 重生之門)」をとっているんだけれど、予告を見る限り、アクションは二の次のように見える(珍しく私は未見)。


まぁ、あれだけアクションにコミットするドニーが、これだけ多作になったら、力を抜かざるを得ないのだけれど、それにしても、今回のモンキーマジックはドニーがやる必要はまったくないくらい、ドニー色はなかった。


他のキャストはまぁ、顔が見えているからいいですよ。アクションシーンもそれほどないし。


例えばアーロンさん演じる牛魔王。



いまだかつてないくらいの美形・牛魔王だよね。


そして、チョウ・ユンファ演じる玉帝。



うーん、貫禄あるよね。賭神だからね。神様みたいな役はお手の物。


ストーリーは、もうほとんどドラゴンボールの影響を受けまくり。


孫悟空は、玉帝が栽培している元気の源・仙豆を食べて千倍の力を得るとか。これってドラゴンボールの設定そのまま。


孫悟空を育てて武道を授ける師匠の仙人様(名前は忘れた)は、もろ武天老師さまだよね。あんなスケベではないけれど。


ほんでもって、出てくる妖怪達は、パンダの妖怪だの、狐の妖怪(これはカワイイ)だの、ほとんど鳥山明的なコミカル妖怪。

竜宮城らしき海中にもぐって、孫悟空が罪なき東海王の城を、そのバカ力でメチャメチャにしちゃうくだりも、ドラゴンボールのこども悟空的なはた迷惑キャラ。


なんというか、セット(ほぼCG)もそうなんだけれど、世界観に統一感がありません。


チャウ・シンチーの西遊記と比較するほどのものではなかったなぁ。残念ながら。。。

最近、中華圏映画の新作が全く公開されない(地方在住なもので)。


仕方がないので、DVDの新作巡りを開始すると、最近、香港映画の旧作(ほとんどがマレーシアの星空華文傳媒=Fortune Star Mediaが版権を持っているもの)が続々と、それも3本3000円という格安でDVD化されているじゃないか!


リリースしているのは、パラマウント・ジャパン。




(パラマウント盤)


「香港映画公式サイト」なるWEBページも用意して一気にDVD化なさっている。

http://dvd.paramount.jp/fortunestar/


マレーシアのFortune Starから一括で権利を得ている(DVD権利許諾については後述)ようで、ものすごい本数である。

しかも、ゴールデン・ハーベスト、ショウ・ブラザーズ、シネマシティ、D&Bと製作会社を横断して取りそろえている。

というより、Fortune Starがこれら香港映画の版権を集めているのだから、会社を横断するのも当然。


いずれの会社も既に映画製作をやめたり、解散しており、ちゃんと管理してくれるのはありがたい。

日本の大映時代の作品なんて、DVD化されないものも多いもんね。


さて、本作『レディ・ブレイド』は今年2015年4月28日にいくつか発売されたうちの一本で、2008年にキングレコードから発売されたDVDが品切れ状態になっていたもの(だからAmazonとかで高値で売っていた)。


香港映画好きには有名だけど、マイナーな映画を含めて、2000年代にがんばって香港映画をDVD化してくれたのはキングレコード。

そのときもFortune Starと契約を結んでいたみたいで、キングレコードのDVDパッケージにはFortune Star Kung-Fu Classicなんて帯がありました。




(キングレコード盤)


映画のDVD商売というのは、権利元から5年くらいの許諾の契約を結ぶことが多く、この作品も2008年から数年はキングレコードに販売権があった。


しかし、売れる作品じゃないから、当然一回だけ刷って売り切れたら終わりって商売なので、発売直後に買い逃した香港映画ファンはAmazonとかでプレミアついたDVDを買ってたってわけ。

私も何度となく定価以上の値段で買いましたよ。トホホ。


2010年代には、香港映画をたくさん買い付けてくれる配給会社として知られるツイン(TWIN)が、Fortune Starと一括契約を結んだらしく(同じく映画配給会社のFREEMAN Officeのツイートによる)、緩やかながらも、「発売元:ツイン 販売元:パラマウント・ジャパン」という廉価DVDが発売されているというわけ。


さて、前置きはさておき、本作『レディ・ブレイド』(原題:刀不留人)ですが、ブルース・リー映画のヒロインで知られるノラ・ミャオ(苗可秀)さんの実質的デビュー作。


見始めると、まずゴールデンハーベスト(嘉禾)のロゴが違う。




(本作『レディ・ブレイド』の嘉禾ロゴ)



(のちに定着した嘉禾ロゴ)


1970年映画ということで、嘉禾設立間もないこともあってまだロゴが確立していなかったようで、四角四つがボン・ボン・ボン・ボン・パッパラパーってな具合で迫り来るお馴染みのロゴに定着するまでいくつかのバージョンがある。


ちなみに嘉禾の記念すべき第一作目『鬼怒川 The Angry River』のタイトルロゴは本作と一緒でした。


映画の冒頭でノラ・ミャオ登場!

なんと、りりしい。





この撮影時、ノラはまだ18歳かそこらのはずで、とてもそんなお嬢さんには見えないくらいの貫禄がある。

デビュー作オープニングにて大女優の予感である。


しかし、フレッシュなノラはカワイイのだが、開始直後のノラのアクションシーン、それから序盤のノラの高い物見櫓でのアクションシーンは凡庸。

正直、退屈で、あーつまんないのかなーと思って気を抜いてた。


しかし、この作品。

中盤当たりからミステリ要素が入り、徐々に面白くなってくるのである。

ハナシがよく出来ているのである。


調べたら、脚本は羅大維。これはブルース・リーの一作目二作目の監督ロー・ウェイ(羅維)のペンネーム。

え? 彼の脚本はどうかしらねー。あんま緻密とは言えない作品が多いけど、と思ったら、原作がちゃんとあって『龍虎雙劍侠』というタイトル。


原作者は香港の四大小説家の一人、倪匡(ニー・クワン)のもの。

彼の作品の映画化は、「衛斯理」(ウェイスリーあるいはワイズリーなどと発音)シリーズが超有名。一例を挙げればジェット・リー主演の『冒険王』でジェットが演じたのが衛斯理。


彼は脚本も書いてたらしく、武侠モノの大ヒット作でジミーウォンをスターにした『片腕必殺剣』などがあります。

ちなみに、ブルース・リー第二作『ドラゴン怒りの鉄拳』(原題:精武門)は、ロー・ウェイの単独脚本ではなく、倪匡が共同脚本(無記名)であったって事実がwikipedia中国語版を見ると書いてあります。


本作の脚本はロー・ウェイで倪匡が脚本を書いたのではないけれど、私が思うに、ハナシが面白いのは原作力ということなのかな?


ちなみに、四大小説家は他に、最も有名な金庸(その映画化作品はスォーズマンやら楽園の瑕やら数え切れない)。そして黃霑、蔡瀾がいます。


あれ、またまたスゴイ脱線。本題本題。


で『レディ・ブレイド』。

話が面白くなってきたと同時に、ノラのアクションにもキレが出てくる。

いや、後半の大人数入り乱れての大乱闘シーンに至っては、ノラは素晴らしい殺陣を見せてくれていると言って良い。ほとんどスタントを使ってないことは映像からしっかりわかるのだ。





撮影が話の流れ通りに進んだかわからないが、仮にそうだったとして撮影中メキメキと技術をあげたということになる。『大酔侠』のチェン・ペイペイも初主演で立派だったが、ノラもそれに匹敵すると思う。

このあたり、彼女の天性なのだろうか。


そして、その大乱闘シーンまで来たところで、ふと「誰が武術指導なのだろう?」ってことが気になった。

正直、ここまで殺陣が素晴らしい感じになってくると思わなかったので、オープニングのクレジットをよく見てなかった。


チャプター戻して確認したら、「韓英傑、朱元龍」の文字が!!


そう! ドラゴン危機一発のラスボスであるハン・インチェと、サモ・ハン(洪金寶)の名コンビです。

この組み合わせは、キン・フーの名作『俠女』にもつながる鉄壁のもの。


そりゃ見事なはずだ!

(あ、そういや大酔侠の武術指導もハン・インチェだったな。)


ちなみに朱元龍という名はサモハンの昔の芸名。七小福時代の名前が元龍だったのにちなむようです。

七小福のメンバーはみんな元(ユン)がつくのです(例えば、ユン・ワー、ユン・ピョウ、ユン・ケイ)。ジャッキーは元楼でした。


大乱闘シーンはラストにもう一回あって、そこでのノラはさらに見事。

かなり長い殺陣のシーンをカット割りなしにこなしていました。これは現代の女優では絶対無理。ケガをしなかったのが不思議(おそらくはケガしたはず)の演舞で、シニアのアクションスターなみでしたよ。





結果、ハナシもけっこう面白く、アクションもかなり良く、見てよかったというのが本作を見終えての感想。


これから見る方は、序盤のぐだぐだをぐっと我慢して見てみましょう。

大阪アジアン映画祭2015で鑑賞して、ずっと心に残っていた作品です。


そのときの大阪滞在日程は限られていて、本当はもっともっと見たかった香港映画でしたが、本作品に的を絞って滞在スケジュールを調整。


鑑賞後は、運良く監督のハーマン・ヤウ(邱禮濤)氏のティーチ・インにも参加できました。


そして、予想以上に感動して、映画のシーンを何回も何回も反芻し、自分なりにその愛の形について考えを巡らせた作品となりました。。






主演のシャーリーン・チョイ(蔡卓妍)が血染めで浴槽につかっているショッキングなポスター。


2015年(第10回)大阪アジアン映画祭では、審査員特別賞(スペシャル・メンション)がシャーリーンに与えられましたが、それも納得の演技でした。


レコードチャイナなどのエンタメ情報ニュースでは、「大胆シーンに初挑戦」「体当たりの演技」「アイドルから演技派女優に脱皮」などとありがちな表現で書かれていましたが、そんな表現にとどまらないくらい、シャーリーンの演技が心に響く映画でした。


本作でシャーリーンは、15歳くらいから30歳くらいまでの女性を演じます。実年齢は撮影時にちょうど30歳位だったと思われますが、普段から童顔の彼女のこと。

15歳頃を演じるシーンにみじんたりとも不自然さがありません。すごいです。




撮影中のものと思われるスナップ(御年約30歳!)


そして本作は三級片(18歳以上の映画)なので、彼女のSEXシーンもあるので、ここらあたりが体当たりの演技と言われてしまうのでしょうが、身体を露出するわけではなく、その箇所も含めて彼女の演技力を感じました。


ティーチインでもシャーリーンの事務所(英皇)が良くOKしましたね、などと質問が出ていましたが、ハーマン・ヤウ監督によれば、彼女自身が脚本をいたく気に入り、自らのキャリアの上で必要な映画だと出演にこだわったとか。


2015年3月17日付けのレコードチャイナ記事によれば、

「映画の製作費が800万香港ドル(約1億2500万円)と限られているところ、本来のギャラの10分の1に当たる40万香港ドル(約630万円)で出演」

したのだとか。


さて、大阪アジアンの映画の概略は以下のような簡潔なもの。


渾身の取材記事をお蔵入りにされた雑誌記者のセーラは傷心の果て、タイのチェンマイへ向かう。ある夜、売春をする少女と出会い、みずからの少女時代の秘めた記憶がよみがえるのだった……。シャーリーン・チョイの体当たりの演技が光る。


まさにオープニングのシーンです。タイで直面する少女との出会いを通じて、自らの過去を思い返し、ここから何度も現代と過去をいったりきたりしながら、秘めた記憶である「足長おじさん」との出会い、そして愛の日々の過去にひきこまれていきます。


足長おじさんを演じるのは、サイモン・ヤム(任達華)。

彼もまた40歳代前半くらいから50歳代中盤くらいまでを演じ分けています。


サイモンが演じるのは、香港政府の高級官僚。教育官ということで教育者のはしくれであり、キリスト者でもあるという描写があります。

この男は真面目一辺倒ですが、路頭に迷っていたシャーリーン演じる少女と出会い、シャーリーンの求めで、いわゆる援助交際的ともパトロン契約とも愛人契約ともとれる、妙な関係に入りこみます。

決してサイモンが求めるのではなく、あらがえない弱さのまま引き込まれる感じで。


この映画を観る前、有り体に考えれば、冒頭のポスターにある自殺とも受け取れるシーンは、過去の援助交際歴によってリストカッターになった姿のように予想されるかもしれません。





しかし、この映画ではシャーリーンがサイモンを心の底から愛しているからこその行為であることがわかります。

そして、数々の愛した記憶、相手を思って離れようとした記憶、様々な記憶がタイでの少女との邂逅をきっかけに結びついていきます。

タイの少女に自分を重ね合わせたというより、タイ少女と自分の境遇を比較し、自分には愛があったと客観視するところから記憶が結びついていくのです。

そこらへんのところが、この映画をして、あれこれ考えさせられるキモにもなっています。


社会派映画といえばその通り。

でも、純粋な愛の映画としての要素のほうがもっと強く深い。

そんな映画です。


アジアン映画祭から三ヶ月経っても、まだやはりこの映画については時々、思い出します。自分にとって大切な作品になりました。


さて、話はとんで、この映画の製作者はチャップマン・トー(杜汶澤)です。


そこで思い出すのが、彼の政治的発言によって、チャップマンの映画が大陸で上映禁止になっている件。


しかし、チャップマンは逆に、大陸市場をあてにしないで、つまり中国の検閲によって作品の芸術性をそこなうことなく、香港や海外のマーケットで通用する良作をプロデュースするようになっているとか。

本作の配給はシャーリーンが属する英皇ですが、制作会社はチャップマンの立ち上げた会社です。


これを聴いて、やはり大陸との合作よりも純粋な香港映画が好きな私は、これからもチャップマンを応援しようと思ったのでした。

それに、彼の政治的発言は別に問題発言じゃなく、民主化を支援する香港市民としては当然のものだしね。


一昨年の大阪アジアン映画祭では『低俗喜劇』の主演がチャップマンで、そのちょいエロくてブラックな作品が出品されてた彼。考えてみればあの作品の製作も大陸をあてにしない彼の会社(そりゃ、こんな作品は大陸じゃコードにひっかかりまくりでしょ!)。





けれど、やっぱ香港映画的魅力に充ちていました。

これからも良作(香港映画好きにとっての良作)を作り続けてほしい。


そして、本作『セーラ』は本当に良かったです。

チャップマン、ハーマン、ありがとうございます。

2014年の4月にこんなDVDが出ていました。


『ブルース・リーを追い求めて~In Pursuit of the Dragon』


監督はブルース・リー評論家でリー研究の第一人者のジョン・リトル。

リーに関するドキュメンタリーを撮ったり、書籍を出版したりしている、リー教徒の方々には有名な人。




で、この作品、簡単に言えば、リー作品のロケ地の現在の姿を辿るというもの。


そりゃ確かに一度は行ってみたいところばかりですとも!


私は在庫切れのAmazon(中古は売ってたけれど)をあきらめ、DVDショップを練り歩き、やっとの思いで新品を購入しました。

さすがに、いまDVDって発売一年も経つと手に入らないのね。とくにこのDVDみたいなマニアックものは部数も少ないのでしょうな。


で、手に入れて観ました。


いやぁ、よくこんなの探したね!


特に『危機一発』のロケ地であるタイの製氷工場は、いまだに全く同じ製氷業務を行っているとは!


40年も経っているってのに。


これが一番驚いたよ。


あ、どんなのが収録されているかの情報をまとめておいたほうがいいね。

DVDの帯文がAmazonの紹介文に転載されていたので、ここにも再度転載しておきます。


「ドラゴン危機一髪」
タイの製氷工場を中心に、アクションシーンを演じた現場、ロケ中にブルース・リーが宿泊した部屋及びホテルの当時の従業員が登場。最後の決闘に向かう決意をする川辺、娼館から出てきて逃げ出した街の通り、オープニングの船着場、製氷工場社長の屋敷として使われた寺院など。また、ブルース・リーが宿泊したバンコクのホテルの部屋(401号室)も紹介。

「ドラゴン怒りの鉄拳」
ほとんどがセット撮影されたため、一か所のみ。「犬と中国人入るべからず」の公園(マカオ)。

「ドラゴンへの道」
ローマのロケ地探訪。ローマ空港や広場の様子。また、現地のキャスト達が撮影当時を回想。

「燃えよドラゴン」
オープニングの寺院を含むロケ地のほか、香港にあるブルース・リーゆかりの地を紹介。チャップリン・チャン氏のインタビューも収録。


という感じ。


念入りだったのは、『危機一発』のタイと『への道』のイタリア。


とくにイタリアは『への道』自体にたくさん納められていたローマの観光地(ノラ・ミャオの運転する車にリーが同乗してあちこち連れてかれる)のほとんどが、歩行者専用になっていて、今は車でざっと回ることができないためか、念入りに映画のシーンと今の映像が比較収録されています。


ただ、そのためかややイタリアばかりが冗長。

だってさ、これらのイタリア観光地って、『ローマの休日』しかり、別にリー映画だけのものじゃないものね。まぁ、いいけれど、イタリアは好きだから。


一方、タイの田舎町は映画の風景がそのまま残っていることがわかってホントに感動。

製氷工場の経営者の邸宅もそのまま残っている。シーンの冒頭でリーが降り立つ港も、近代化しちゃったけれど、面影はちゃんとあります。それからリーが飲んだくれて鬼ごっこした娼館のあったあたりの雰囲気もほぼ変わらない。


これは本当にスゴイ記録になってます。


当たり前だけど、『怒りの鉄拳』はオールセットなので、マカオの公園のみ。これも良く探したなぁ。


『燃えドラ』の空手訓練のテニスコートは今は無くなっていたけれど、その邸宅付近の現在はしっかりとカメラに納めてました。


こうした風景もどんどん無くなっていくから、確かに今の段階でジョン・リトル氏によって再度カメラに納められたという意義は大きいね。


いやぁ、これらのロケ地、私も行きたくなっちゃったよ。

いやいや、行こうと思う! 近いうちきっと行くぞ~!!




シネマート六本木で開催中の「台湾シネマ・コレクション2015」に行ってみてきたのが、この映画。


「おばあちゃんの夢中恋人(原題:的夢中情人)」(2013)。





大阪アジアン映画祭に昨年出品されていた作品で、かつて<台湾語映画>が華やかだった1955-1981年代の台湾ハリウッド=北投温泉が舞台になっているということから、アジア映画好きの私・龍虎としてはぜったいおさえておきたい作品だったんだよね。


それに、予告編を見ると、♪づぢゃっちゃらーっちゃ♪たーたらててー、っていう懐かしき映画音楽的なテーマソングが愉快そうだったし。


そしてそして、その予告では、主演のおばあちゃん役(といっても過去を回想するので若い女の子役)のアンバー・アン(安心亞)のはっちゃけた演技がスゴイ楽しそうだったし。



劇中連発されたアンバー・アンちゃんの叫び(温泉入浴時のシーンです)


白目をむいちゃうグラビアアイドル出身女優アンバー・アン


とにかく見たかったのに、でもでも、去年は大阪アジアン映画祭に行けず、見逃した・・・。


悲しかったです。そのあと、ABCかなんかで関西のみテレビ放送したらしいですが、それも地方在住の私には見るすべなし。

今回はそのリベンジというわけだったんです!


まぁ、見逃したのがよほど悔しかったので、映画の舞台である北投温泉にはその年、行きました。


今はかつての映画の街を匂わす建物として、北投温泉博物館があるのみ。

しかーし、この映画、この北投温泉博物館でも撮影されていることを発見して、ちょっと嬉しかった!



北投温泉博物館の玄関



北投温泉博物館内部(このフロアを使ったシーンが劇中にあったような・・・)


日本統治下の台湾で温泉街だった北投。

この北投温泉博物館は、1913年に台北州庁が静岡の伊豆山温泉をモデルにつくった北投温泉公共浴場が前身なのだそうです。


その後、台湾が国民党下におかれ、1955年頃から絵になる地・北投で映画を撮影するようになった時期に、この公共浴場がどのように使われていたかわかりませんが、現在の北投温泉博物館では、台湾語映画の紹介をダイジェストの形でモニター流ししてくれています。


北投温泉博物館内モニター(このシーンをもじった撮影風景も劇中にあったような・・・)



それにしても、これだけ恋い焦がれ、それこそ夢にまで見た作品「おばあちゃんの夢中恋人」に、やっと出会えて嬉しかった。


いつもながら、ありがとうシネマートさん。

そしてそしてシネマート六本木が閉館なんて悲しすぎる。普段いかない六本木に足を運べたのも、アジア映画みたさゆえ、シネマートのない六本木なんて、私には用はない街にもどっちゃいます。


いやいや、気を取り直して~!


さて、台湾語映画が華やかだった時期が、上で書いたように、1955-1981と、くっきり明確なのはなぜかっていうと、国民党政府が庶民に対して、<国語>いわゆる北京語と同じ発音・文法体系の使用を強く推奨しはじめるからなんですね。

この「おばあちゃんの夢中恋人」劇中でも、台湾語映画が政府によって禁止されていく流れにあるということが匂わされています。


で、この台湾語映画、単に台湾語を主に使用するっていうよりも、低予算の粗製濫造スタイルという特徴があって、ジャンルは様々。庶民の映画という色合いが強かったもの。


「もう、台湾語映画の時代じゃない」という感じの台詞も劇中にありましたけれど、歴史的にも国民党が台湾に上陸して以降、政府主導あるいは党主導のメジャースタジオで、つい最近まで映画が製作され続けてきた台湾において、この時代は低予算で零細映画製作会社が庶民向けの映画を大量生産できた時代だったということになりますね。


ただ、政府によって禁止されたから1981年にバシっと終わったというよりも、翌年1982年から始まった「台湾ニューシネマ(台湾新電影)」の波のほうが、台湾語映画が完全に終わる決定打になったと思われます。


エドワード・ヤンらが『光陰的故事』を発表したのが1982年。


つづいて、ホウ・シャオシェンが『風櫃の少年』(1983年)、『冬冬の夏休み』(1984年)、『童年往事』(同)と立て続けにヒット作を出していきます。


1986年のエドワード・ヤンの『恐怖分子』と、1989年のホウ・シャオシェンの『悲情城市』が海外映画祭で評価されると、いわゆる昔の形での台湾語映画は姿を消さざるを得なかったのでしょうね。


つまり、低予算の映画をたくさん観るより、それなりに予算を投じた対外的に評価される映画が、庶民にも受け入れられる時代になったというような。


そして、台湾ニューシネマと同時期には香港映画における香港ニューウェーブ(香港新浪潮)の台頭があり、それらが台湾にも流入しましたので、台湾語映画で量を保つ必要もなくなったというあたりが、映画史的な流れではないでしょうか。


このへんの映画史的な整理は、今年の大阪アジアン映画祭に出品された『光と陰の物語:台湾新電影(原題:光陰的故事- 台灣新電影)』(2014年)も合わせて見るといいのでしょう。


同作は、かつての台湾ニューシネマをつくった映画人や、その影響を受けた映画人と評論家に取材したドキュメンタリー。





『光と陰の物語:台湾新電影』チラシ



私は運良く見れました。



おっとと、前置きが長くなりましたが、「おばあちゃんの夢中恋人」の話!


シネマートさんのサイトからあらすじを拝借。


小婕は現実と夢の区別がつかなくなる認知症の祖母の面倒を見ているが、病状は日々重くなるばかり。

しかし、そんな祖母との輝かしい日々の想い出を祖父がなつかしそうに聞かせるのだった…。

1960年代、売れっ子脚本家奇生は、満員の映画館に入れず裏の塀を乗り越えて侵入してきた美月と出会う。

彼女はスターに会いたいが為にエキストラになり、彼女の魅力をいち早く見いだした奇生はヒロインに大抜擢する。

二人の間には恋が芽生え、美月は人気女優への階段を昇っていく…。 


引用ここまで。

以上、あらすじというより、物語の冒頭のつかみのところですね。


物語はこうして、現代ではおじいちゃんになってしまった、かつての台湾ハリウッド地区(北投温泉地区)の名脚本家・奇生の回想シーンから始まります。



奇生(おじいちゃん)と美月(おばあちゃん)の出会うシーン


ほとんど海外ヒット作のパクリでいいかげんな脚本を書いてきた奇生が、奇生脚本作品のビッグスターのおっかけだったことをきっかけに映画女優のオーディションを受けに来た美月と出会い、彼女が女優として成長するにつれ、奇生もまたやる気になっていく様も小気味よくて、見ていて和みます。


二時間というやや長い映画なので、途中冗長なシーンがないわけではないけれど、この映画の舞台になっていた古き良き台湾映画の時代から、なんだか去りがたい気持ちになるのだから、ノスタルジックな映画につきものの冗長さだと思ってご勘弁。


映画好きの私は、この映画の世界、かつての台湾語映画が華やかなりし時代、絢爛豪華さが求められた時代の雰囲気にどっぷりとつかりました。




台湾のチラシなどに使われた絢爛豪華なイメージ



それから、この映画の魅力は、劇中に盛り込まれた映画の撮影シーンが、もれなく懐かしの台湾語映画(実際の映画)の引用であったということが、劇終盤のエンドロールで判明するという点。


これ、映画マニアはぜひエンドロールまでじっくり見て欲しい。




このベッドシーンも劇中の撮影シーンに登場していた


どの映画のどのシーンか、ちゃんとエンドロールを見ていればわかるのですが、もはや手に入りにくい台湾語映画なのにDVDを探して観たくなる、そんな台湾語映画へのオマージュ満載の映画なのです。


シネマート六本木で開催中の「台湾シネマ・コレクション2015」にて、ゴールデンウイーク中まで鑑賞することができますよ!!