ドニー・イェン期待の2014年香港映画(香港の英皇電影製作だが大陸資本も一部入っている)。


その名も一個人的武林。武林は武侠小説の世界の用語で、武術界みたいな意味。

ヤクザ世界に黒社会があるのと同様、武術家たちにも武術家の社会としての武社会があるんだろう。

一個人は一人という意味だから、直訳すると「武術世界の一員」ってな感じだろうか。


カンフー・ジャングルは正式な英語タイトル(Kung Fu Jungle)のそのまま。


武林の部分の訳として、とっても合っている。

しかも、武林だと武侠小説の用語なので、時代劇感覚になるが、カンフーのジャングルなら、本作のような現代劇にも違和感がない。

なんと上手いタイトルをつけたことか!




上記は大陸用ポスター。

え、3D作品だったんだね。

どーりで、最後のアクションシーンが、飛び出し効果を狙ってそうに見えたんだよなぁ。


今回、GAGAが配給ということもあって、全国公開されている本作。全国同時公開とはいかなかったものの、私の住んでいる地方でも遅れること数週間で観ることができました。


本作、公式サイトのイントロダクション に、そのカンフー映画的意義がとっても詳しく載っている。


だから、本ブログでも解説するまでもないんだけれど、強調すべきはドニー他の製作陣が、香港功夫映画へのオマージュを込めて本作を作ったというところ。


香港映画に詳しくない人は、カメオ出演しているオッサンたちを見過ごしてしまうと思うが、それはそれは香港映画界にとって、超尊敬すべき人々の数々がワンショットで出演しているのだ。


私がすげぇ、と思ったのは、ゴールデン・ハーベストの創業者であるレイモンド・チョウが屋台の常連客「チョウさん」として出演していた箇所。


ご存知の方も多いが、映画製作の面では第一線を退いているレイモンド・チョウ氏。映画出演時は86~7歳と思われるが、まだまだ元気な姿を見せていたよ。


レイモンド・チョウは香港映画の父であるランラン・ショウの右腕だった人だから、ランランが昨年亡くなった今、生き字引的香港映画の重鎮と言える人は彼だけになってしまった。


他にも、劇中で登場人物たちが観ているテレビに、昔の香港カンフー映画が映っていたり、カンフー映画マニアの心をくすぐる仕掛けに事欠かない。


テレビ画面にチラッと出たカンフー映画で、多くの人がすぐに分かるのが、ジャッキー・チェンの「酔拳」だろう。これはジャッキーへのオマージュであると同時に、マトリックスなどのアクション・コーディネーターであるユアン・ウーピンのお父上であるユエン・シャオティエン(袁小田)へのオマージュにもなっている。


それから、どの映画のシーンであるか、じっくり観ないとわからないが、ラウ・カーリョン(劉家良)もテレビ画面に映っていた。もう一回観ればどの映画か当てられると思うけれど、ちょっと今の段階では自信がない。「酔拳2」のアクションシーンだとしたら、ジャッキーつながりでわかりやすいけれど、ラウ・カーリョンの登場場面のみだったし、あの作品でのラウよりもかなり若いように見えた。


いずれにしても、ユエン・シャオティエンもラウ・カーリョンもどちらもショウ・ブラザーズ映画の時代から、大量にカンフー映画に出てきた二人の巨頭。

オマージュを捧げるにふさわしい人たちなんだよね。


話を本筋のほうに戻しましょう。


この映画で私が驚いたのが、最強にして最凶の殺人犯を演じたカンフーの達人が、ワン・バオチャン(王宝強)だったこと。

だって、バオチャンと言えば、「天下無賊:イノセント・ワールド」で、田舎の純朴な出稼ぎ青年役の印象が強かったから。

こんな悪役もできるのかって驚いた。しかも彼、子どもの頃は崇山少林寺の外弟子だったっていう本格的な武道経験者でもあったってのも知らなかった。


そしてストーリー。


本作は武術界最強の男を目指し、達人に挑戦しまくるというまさに武侠小説そのままの題材なのだが、それを現代において実行するという、最凶な男(ワン・バオチャン)が起こす事件を描いた物語。


時代劇な題材を現代劇でなりたたせるべく、脚本もなかなかよく出来ていると言えるかもしれない。

もちろん、それでも無理は生じるけれどね。


時代錯誤男の相手をする宇宙最強の男(ドニー・イェン)も十分時代錯誤な男で、それに振り回される刑事役のチャーリー・ヤンが久しぶりに愛嬌ある声でどなりまくっているのもなんだか懐かしい。


本編そのものも十分楽しめる出来になっているけれど、カメオ出演の懐かしのスターがどんどん登場するという点でも、香港映画マニアにはたまらない。

(とくに刑務所バトルシーンで出てきたマン・ホイ、久しぶりに観たけど太ったなー)


DVDを買って、じっくりカメオスターたちについて論評しようかなー。


ところで、本来の売りであるカンフー・アクションについては書かなかったんだけれど、それももうスンゴイです。

ただ、私としては、こうしたホンマモンのアクション・スターを起用する作品では、あまりワイヤーを使ったシーンは必要なく、肉弾バトルをもっと見せて欲しかったという点だけが不満。

それでも素晴らしいシーンのオンパレードでした。こちらも、DVD買ってじっくり分析したいところ。


とまぁ、香港カンフーマニアな人にはおすすめな本作です!