またまたスゴイ映画を観ました。


ニック・チョン主演、エディ・ポン共演『激戦~ハート・オブ・ファイト』(原題:激戰 Unbeatable)。





いや、わかってたんだけどね。スゴイってコトは。

だって、かの『レクイエム~最後の銃弾』を差し置いて、ニック・チョンは2013年金馬奨の最佳男主角(最優秀男優賞)を受賞。

「レクイエム」のニックもすさまじい熱演だったけれど、それよりスゴイから最優秀男優賞だったんだろうってことで相当期待してたのは、レクイエムのレビューの記事(掃毒『レクイエム 最後の銃弾』必見 )にも書いた通り。


香港映画完全復活!(実際は博納影業の資本が入っているので港中合作)と言いたくなる出来なんですよね。


公式サイトも各界の著名人のコメントを入れるなど、かなり力が入っています。

この映画を観たあとで、コメントを読むと、どれも嘘をついてない、本気の興奮が冷めやらない様子で書いているのがわかる。


「表紙にする!」
観終わった瞬間、そう決心したほど惚れ込んだ映画は『激戦』が初めてだ!いま、“人生に負けているな”と感じてる奴らは、全員必見! 負け犬たちワンスアゲイン・ムービーの最高傑作だから!!


岩田和明(『映画秘宝』編集長)


いやぁ、映画秘宝の岩田さんは2013年の映画祭で激戦を観たようで、これは絶対に日本で公開すべきという思いを込めて、かなり早足でこの映画を表紙に扱っています。

ちょっと早すぎて、映画の宣伝にはならなかったけれど、編集長を商売抜きで動かしちゃうくらいなんでしょう。






リアリティ溢れるMMAのトレーニング、及びファイトシーンがこの物語により一層の深みと感動をもたらしている。エンディングロールでの4人の姿は涙を禁じ得ない。


中村頼永(IUMA日本振藩國術館<ジークンドー>)(日本ブルース・リー財団<最高顧問>) (USA修斗協会<SHOOTO>代表)


おいおい、ジークンドーの中村師父までコメントくれちゃって。

格闘技的にも素晴らしい映画だというお墨付きをくれたようなもの。


イケメンは逆境にあるほど輝く・・・そんな法則を再発見した作品です。


辛酸なめ子(漫画家、コラムニスト)

いやまぁ、辛酸さんのコメントはどうでもいいか。

ただ、いままでイケメンに分類されたことは無いはずのニック・チョンを、香港映画通でない人が観ればイケメンに見えちゃうくらい、この映画のニックはかっこいいのだ。

(辛酸さんが香港映画通であるかないかは未確認)


ストーリーを公式サイト から(画像も)抜粋します。


かつてボクシング王者に輝いたファイ(ニック・チョン)だったが、八百長事件に関与し落ちぶれて借金取りに追われる香港を後にし、 クワン(メイ・ティン)とシウタン(クリスタル・リー)親子の部屋を間借りして住むが、母親のクワンは息子を溺死させたという悲しい過去があった。




一方、元大富豪の息子のスーチー(エディ・ポン)は、今は工事現場で働きながら破産した父親の面倒を見ている。



人生をやり直すため総合格闘技で賞金を稼ごうとジムに来たスーチーは、そこで雑用係をするファイが元王者だと知り、指導を仰ぐ。


やがてふたりはタッグを組み、賞金と自らの尊厳を賭けて過酷なバトルに挑んでいく。


マッチを目指してスーチーの特訓を始めたファイは、クワンとシウタンの母子とも徐々に固い絆を結んでいたのだがーー。


いや~、これ以上はネタバレしたくない。


母子のうち、子役のほうのクリスタル・リーちゃんの演技も光る本作。


ぜひ観て欲しい!

スゴイから、各界のコメント、嘘じゃないから!




東京国立近代美術館フィルムアーカイブではいま


「現代アジア映画の作家たち」

福岡市総合図書館コレクションより

(2015年2月17日-3月15日)


をやっています。


一本当たり一般520円・学生310円・小中学生100円で、各国映画祭の受賞作(とくに東京国際映画祭=TIFFとか、福岡アジアフォーラムの注目作)となったアジア名画が観られる素晴らしい催し。


私は地方在住だから、たまたま仕事で東京に行った空き時間に一本だけ鑑賞。


それが、2008年のインドネシア映画『虹の兵士たち』




(画像は25thTIFFサイトより)



正直、期待していなかったというか、たまたま時間がこれしか合わなかったから観たという消極的な感じで向かったのですが、会場は土曜ということもあって大入り。


東京国立近代美術館フィルムアーカイブが毎月発行するパンフレットである『NFC』2月号によれば、


1974年のインドネシア、ブリトン島にある古いイスラム学校を舞台に、新任の女教師と新入学の子供たちの交流を描いた作品。10人の個性豊かな子供たちは皆現地のオーディションで抜擢された。この年最大のヒットを記録して、社会現象にもなった、リリ・リザの代表作。


だそうな。

ストーリーは、ありがちかなぁと思いながら、直前にネット上でちょこっとだけ調べてみたら、インドネシア版「二十四の瞳」とか書いてあって、その例えも私にはイマイチで期待が高まらなかった。


女性教師が子どもたちに情熱を持って教育し、一生懸命に頑張る映画―ってな紋切り型のストーリーを思い浮かべていた。

こういう映画がトップになるのがインドネシアらしいのかなーとか、乗り気になれない。

虹の兵士たちというタイトルがなんとなく戦争をイメージさせて(実際は関係ないのだけれど)それも誤解の元になった。


しかーし!


始まってすぐに、グイグイ引き込まれた。


10人の子どもたちでメインになるのは、上記のTIFFから拝借した写真にもある三人の子ども。


リンタン・・・貧しい漁師の子どもなのに、近くにある活字を読みあさり博学。数理的思考にも優れる

イカル・・・本作の語り部。庶民の子だけれど詩が好きで、華僑の子に恋をしたりと早熟

マハル・・・いつもラジオを首から下げてジャズを愛する少年。歌が上手で芸術的センスがある


で、それぞれに非凡な取り柄を持たされていて、貧しい小学校のなかでも未来はあるんだ、って思わせてくれる構図になっている。

もちろん、本作は島唯一のイスラム学校が舞台になっていて、未来はあるっていうのと宗教的価値観が結びつくのだけれど、そういう宗教臭さはあまり感じない。


インドネシアやマレーシアに住むイスラム教徒(主にマレー人)たちは、南アジアや中東のそれのような戒律にがんじがらめになった感じはなぜかしなくて、こういうと誤解があるかもしれないけれど、かなり緩い宗教観を持っているような気がする。

だから、宗教の教えというよりも、ところどころに「アッラー」だの「全能の神」なんて言葉で語られる教えが、素直に道徳的生き方の推奨の言葉として、日本人にスッと入ってくるような気がした。

つまり、東洋的(東アジアの儒教的)格言に聞こえるから、抵抗がない。


そして、それを体現していく少年たちが、魅力的なことこの上ない。


本作のヒーローといえば、やっぱり貧しい小学校のなかの秀才であるリンタン。

先生の代わりに皆を教えたり、あふれる知識でクラスメイトたちの疑問に答えていく。小学生ながらにわがままを言わず、妹たちを育て、父親の漁を手伝い、学校は休まない。

なんというか、昭和の苦学生的な位置づけにあって、日本人は共感しちゃう。とくに私みたいな昭和の男は「感心だなーボク」なんて思っちゃう。





そして、成績はさっぱりながらも、芸術的センスに恵まれたマハル。

彼は、恋に傷ついたクラスメイトがいれば歌でなぐさめ、地域イベントで学校対抗の出し物が求められた際は、舞台監督兼振り付け師みたいに活躍しちゃう。

彼の見せ場のシーンは、歌だけでなく踊りありで、インド映画のミュージカルシーンみたいな雰囲気になります。これがまたいいんだ。




で、語り部だから主役なんであろうイカル。

彼は文学的な才能があるとは描かれないけれども、早熟で恋に興味があって、それを詩につづったりしてその片鱗を見せます。

実は本作には原作『虹の少年たち』というアンドレア・ヒラタ作の本があって、イカルは作者であるヒラタ自身の投影なんだそうです。

つまり、自伝的な小説がもとになっているんですね。だから、あまり才能を見せつけるというのではなく、魅力的なクラスメイトに助けられて、自分が居場所を見つけるというような役どころになっているみたい。

(ヒラタさんは日本人みたいな名前だけどインドネシア人です)




(小説「虹の少年たち」のカバーも映画のシーンより)



そして、彼は語り部なので、最終的には成長後の姿を終盤で見せてくれます。


はい、二十四の瞳というからには女性教師が主役と思いきや、実は主演は彼らです。


本作のタイトルは虹の兵士たち(英語題名はTHE RAINBOW TROOPS)だけれど、その兵士とは子どもたちのこと。

私は詳しくないけど、映画を観る限り、イスラムの教えのなかに勇敢な兵をたたえる(人数で勝る敵に勇敢なイスラム兵が勝利するというような)逸話があって、そんな思いもあって兵という言葉がタイトルにあてられているみたい。


女性教師であるムスリマが、虹を夢中になって見ていた彼らのことをそう呼ぶのだけれど、小説のタイトルである虹の少年たちのほうが、日本人の観客にとっては本作のイメージをより伝えるかもね。

ただ、その背景にあるイスラム教に思いをはせてみると言う点では、やっぱこのタイトルでいいのかな。


ところで、女性教師のムスリマ先生もスチールで見るよりチャーミングな女優さんでした。

(それにしてもイスラム小学校の先生らしい役名ですな)


女優さんのお名前は、チュ・ミニ(Cut Mini Theo)さんです。



というように登場人物がそれぞれ魅力的で、監督・脚本のリリ・リザさんの手腕も確かでした。


私もそうでしたが、あまりパッとしないなーと思っても、機会があればぜったい見るべきです。

ホロリと感動させられ、インドネシアのイスラム教に興味がわき、そしてこれからのインドネシア映画に注目したくなる作品であること請け合いです!


それにしても、福岡市総合図書館はアジア映画をいっぱいアーカイブしてて、素晴らしいぞ。

リリ・リザ監督作だけでも、6本もコレクションしているじゃないか。感謝!!


いよいよ3月6日から15日まで、第10回大阪アジアン映画祭 が開催されます。



昨年は行けなかったけれど、一昨年には素晴らしい映画との出会いがあった同映画祭。

今年はなんとしても行くぞ~!


第8回のときの素晴らしい出会いの筆頭はヤン・ヤーチェ監督の台湾映画『GF*BF 女朋友、男朋友』でした。


これは私の台湾映画熱を一気に盛り上げ直してくれた作品で、昨年は台湾に再訪。現地で『KANO』を見ることができたり、映画だけでなく台湾そのものが大好きになる流れをつくってくれました。


で、今年も台湾映画が盛りだくさん。題して、


特集企画《台湾:電影ルネッサンス2015》


ってことで、出品コーナーは違うながらも、四作品がラインアップされています。

以下にリストしておきますね。


コードネームは孫中山
MEETING DR. SUN [行動代號:孫中山]
2014年|台湾
監督:イー・ツーイェン(易智言)




軍中楽園
PARADISE IN SERVICE [軍中樂園]
2014年|台湾
監督:ニウ・チェンザー(鈕承澤)




サシミ
SASHIMI [沙西米]
2015年|台湾
監督:パン・チーユエン(潘志遠)




逆転勝ち
SECOND CHANCE [逆轉勝]
2014年|台湾
監督:コン・ウェンイェン(孔玟燕)



これだけでもスゴイことですが、それだけじゃない!


小特集:エドワード・ヤンとその仲間たち


ってのがありまして、ラインナップは、以下の三つ。


光陰的故事
IN OUR TIME [光陰的故事]
1982年|台湾
監督:タオ・ドゥーツェン(陶得辰)、エドワード・ヤン(楊德昌)、クー・イーチェン(柯一正)、チャン・イー(張毅)


恐怖分子
TERRORIZERS [恐怖份子]
1986年|台湾・香港
監督:エドワード・ヤン(楊德昌)




光と陰の物語:台湾新電影
FLOWERS OF TAIPEI - TAIWAN NEW CINEMA [光陰的故事- 台灣新電影]
2014年|台湾
監督:シエ・チンリン(謝慶鈴)


最初の2作品は、エドワード・ヤンの有名な映画で、日本でも公開済み。

ただ、光陰的故事はDVDにはなっていないので、未見の人はこの機会に見た方がいいですね。


そして、恐怖分子のほうは、なんとこの春(3/14)から全国順次公開されるらしい。

映画『恐怖分子』サイトへリンク しておきます。


このなかで、私が見たいのは、まーなんと言っても一番下に白黒写真付きで引用した、日本初公開の『光と陰の物語:台湾新電影(原題:光陰的故事- 台灣新電影)』。


公式サイトの作品解説には、こうあります。


(作品解説)

1980年代、台湾映画界に新しい潮流をもたらし、世界の映画史にその名を刻んだ「台湾ニューシネマ」。その足跡と後世に与えた影響を、世界の名だたる映画人たちのインタビューを通して浮き彫りにする最新ドキュメンタリー。


ドキュメンタリーの出演者は、

ホウ・シャオシェン(侯孝賢)、ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)、ジャ・ジャンク―(賈樟柯)、是枝裕和、アピチャッポン・ウィーラセタクン


おや、是枝監督が出ているのは、彼も台湾ニューシネマの影響を受けてらっしゃるのかしらね?


いやー、私も80年代の台湾ニューシネマはかなり意識して見るようにしていたのですが、いかんせん若かったこともあり、前知識なしに見るのは難しいというか、その映画史的意味が完全に理解できていたわけではなかったんですよね。


このドキュメンタリーのタイトルが、光と陰の物語(つまり中国語で「光陰的故事」)ってなっているのは、台湾ニューシネマの第一作とされるのが、エドワード・ヤンの「光陰的故事」だったからでしょうね。


私自身はもっぱらホウ・シャオシェンの映画ばかりを観ていました。理由は簡単で、香港映画ファンだったから、トニー・レオンが出ている『悲情城市』から入っていったってこと。


そして、台湾ニューシネマのブームがとっくに去ってからも、名前だけは映画祭関係でよく目にするので知っていたツアイ・ミンリャンの映画『楽日』を最近観ました。

こちらの理由は、巨匠キン・フーの映画『龍門客桟』が、えんえんと流される続ける映画館が舞台になっているという点から入っていった感じ。


正直、面白いかどうかと聞かれると、実はそうでもない。しかし、台湾映画の時代を作った人たちの映画は観なければ!って気もあるし、そして実際に観てみると、やはり次も観てみたいというか、ずっと気になる監督作品であり続けるという不思議な何かがあるんですよね。


最近になって再び台湾映画が元気になってきた今だからこそ、台湾映画が世界の映画祭で注目されるきっかけをつくり、そして日本に台湾映画がある程度は入ってくるきっかけを作ってくれた、台湾ニューシネマをもう一度勉強してみたい。

そんな気持ちで、この「光と陰の物語」を観てきたいという気がしています。


いや、もちろん新作もワクワクするラインナップですからね。


大阪アジアン映画祭2015のチケットは2/21に売り出されたばかりながら、すでに『逆転勝ち』は前売りが売り切れていた模様。

しかも最初から人気作になるのが予想されていたようで、公式サイトには前売り券は一人四枚まで、なんて書いてあります。この映画だけにですよ。


「逆転勝ち」の予告編を見ると、窪塚洋介主演の「PINGPONG -ピンポン-」のビリヤード版みたいで面白そうなんだな~。なんとか当日券で入れないかな~。


あ、もう一つ、個人的に絶対観ようと思っているのは、『軍中楽園』。


今年のアジアンは純粋な香港映画もいくつかきているから、私は嬉しいです。

ぜったい行くぞ~!


実はずいぶん前に見ていたフィリピン映画『SHIFT~恋よりも強いミカタ~』なのですが、ちょっと時間が経ったレビューです。


昨年の10月25日から新宿シネマカリテで上映がスタートして、その後に大阪や名古屋など主要都市を少しずつ巡って昨年末くらいまで上映が続いていました。


まだDVD化されていないのですが、そろそろかなという気もするので、MEMOとして感想などアップしておきたいと思います。

ただ、配給したのがピクチャーズデプトという新しい会社なので、あまり情報が入ってきません。


さて本作、大阪アジアン映画祭2014でグランプリを獲得した映画です。





フィリピンのおそらくはマニラあたりの英語圏向けコールセンターで働くヒロイン・エステラ(真っ赤に髪を染めたほう)の日常と叶わぬ恋愛を描いた作品。


トレーラーの宣伝文句は、


 「恋する惑星」×「胸騒ぎの恋人」×アジアン・ニューウェーブ


となっておりました。


『恋する惑星』(1994)は言わずもがなウォン・カーウァイ監督の香港映画で、日本でも同監督による『天使の涙』(1995)などとともに、カーウァイ映画ブームを引き起こした、若者の不器用な恋愛模様をクリストファー・ドイルによるスタイリッシュな映像で綴った作品。


『胸騒ぎの恋人』(2010)はグザヴィエ・ドラン監督によるカナダ映画。私は未見ですが、グザヴィエ・ドラン自らが演じるゲイの青年、その友達でストレートの女性、そしてその両方から好かれてしまう美青年の三角関係というストーリーらしい。

この映画の日本での配給元もピクチャーズデプトで、日本での公開は2014年2月1日からでした。


で、本作『SHIFT』はと言うと、赤い髪の主人公エステラはストレートの女性だが、職場仲間であるゲイの青年トレバーと親しくなるうちに、恋をしてしまうという話。





よってストーリー仕立ては『胸騒ぎの恋人』に似ているのかもしれない。

しかし、二つのカップルをめぐるエピソードが相互に結びついていない断章のような映画である『恋する惑星』とは全く似たところがありません。


配給側としては、スタイリッシュなアジア映画という括りで、真っ先に思い出されるであろう『恋する惑星』を観にいくようなノリで、『胸騒ぎの恋人』のようなゲイがモチーフの映画に興味を持ってくれれば、ってことだったんでしょうか。


確かに、本作『SHIFT』の主人公エステラは、ゲイの青年側の迷惑を顧みず、しかももともと存在した友情を壊すことも厭わずに、自らの恋の成就を求めるような、ゲイ社会側から見たらちょっと迷惑な女性。





しかもエステラはチェ・ゲバラに心酔しているような、かなり過激な女性。

この迷惑な革命家ぶりが、『恋する惑星』でフェイ・ウォンが演じた住居不法侵入を敢行する女性ヒロインに通じるところがないでもありません。





ただ、フェイ・ウォン演じたフェイが、相手役のトニー・レオン演じる警官663号に深刻な被害を与えていないのに対して、エステラの行動はちょっと自分勝手過ぎるように、私には思えました。


だって、ゲイだとカミングアウトしている男性に対して、ストレートの女性がアタックし続けることはちょっとどうなのかな、って思うのです。

しかもバイセクシャルというそぶりもない、完全にオカマな振る舞いの相手なんですよ。

それは、ある意味、ストレートの男性をゲイ男性がくどく行為よりも未来がないわけで、そのジェンダー観念のなさが、正直あまり共感できなかったです。


ただ、本作の監督自身があるインタビューで答えていたところによると、フィリピン社会がゲイに対する理解度はともかく、バイセクシャルな人に対する理解がないことを本作で問い直したかった、というような回答をしていることから、あえてそういうストーリーにしたとも受け取れますね。


そういうことであれば、フィリピン社会の現実と、折り合いをつけた結果、こういう話の展開になったと考えることもできます。


エステラのような過激な女性をあえて描いたことも、フィリピン社会が女性の社会進出や女性を型に押し込めない風潮になってきたことを示す意味で象徴的なキャラクター造形をしたとみることもできそうです。


とはいえ、本作の見所は、ストーリー以外にたくさんあって、それらを列挙するならば


 ・現代フィリピンの若者にとって、英語圏向けコールセンターのオペレーターはメジャーな職業であること


 ・上記に関連して、フィリピンの若者の英語力は総じて高いこと


 ・現代フィリピンにも、韓流ブームが到来していて、男女ともにK-POP風のスタイルが流行していること


 ・フィリピンで都市生活をエンジョイする若者の姿を垣間見えること


 ・フィリピンの若者(大卒)はチャットやSNSを自在に使いこなしていること


 ・フィリピンもタイと同じようにゲイが多い(ようにこの映画のなかでは見える)こと


 ・上記に関連して、彼ら(バイではない)ゲイが市民権を得ている(ようにこの映画のなかでは見える)こと


などです。


この作品が大阪アジアン映画際で評価されたことは理解できるし、私もストーリーそのものには共感できなくても、こんな若い感性のフィリピン映画をもっと観たいって思いました。


本作の監督シージ・レデスマは、自身もコールセンター勤務経験がある新鋭の女性監督。

本作が監督第一作目だとのこと。


大阪アジアン映画祭で行われたインタビューによると、ウォン・カーウァイのファンで、本作撮影中も撮影監督に『恋する惑星』を見せてこのように取るように指示するなど、同作との関連性がないわけではないようです。


監督自らの実体験がかなり反映した(コールセンター勤務時代にゲイの友達に恋をしたのも実体験らしい)本作でしたが、今後はどんな脚本を書いてくるか、ちょっと楽しみですね。


チャウ・シンチー監督による中国映画。


日本公開初日に観たのですが、時間がなくて本日やっとレビューです。






シンチーが出演していない監督に専念した中国映画ですが、シンチー主演の以下の二部作、


『チャイニーズ・オデッセイ Part1 月光の恋』

 原題:《西遊記第壹佰零壹回之月光寶盒》 (1995香港公開、1996日本公開)





『チャイニーズ・オデッセイ Part2 永遠の恋』

 原題:《西遊記大結局之仙履奇緣》 (1995香港公開、1997日本公開)





との関連性は大いにあります。


まず、超有名なオープニング曲およびクライマックスで使用される曲が一緒です。

この曲、私は大好きです。もう何度聴き返したことか。


物語の因果なつくりも、

<女に惚れられるも、大義の邪魔だと言っていっこうに本気にしない男が、相手を失う間際に真実の愛に気づき、時既に遅いのだが、別れ際に「一万年の」愛を誓う>

というのは全く一緒。


ごめんなさい。上記、若干ネタバレですが、とにかく本映画は、1995年時のものが香港映画(ただし西安電影制片廠との合作すなわち中国資本も多少入っている)なのに対して、完全なる中国映画(ただしシンチーが持つ香港の制作プロダクションも多少出資すなわち中港合作)として作られましたが、前二作の前日譚としてちゃんとシリーズものとして成立しています。


ま、全二作はジェフ・ラウ監督・脚本映画で、本作はシンチー監督・脚本映画なので、その意味では、本来物語の間のつながりは厳密にはないはずなのですが、さすが中国。そこらへんはカタイこと言わないのですな。


個人的なことですが、私、1995年初頭に香港滞在中で、上記のうち、《西遊記大結局之仙履奇緣》のほうだけを映画館で観たのです。


広東語はできなかったし、中国字幕も英語字幕も読むのがやっと(消えるのが早いし、字がちっさい!)だし、パート1から観てないわで、はっきり言って内容は全部はわからなかった。


それにしても、悪ふざけとシリアスのバランスがとっても良かったので、妙に心に残る映画だったんです。


ちなみにその滞在時にもう一個観た映画は、リー・リンチェイ(ジェット・リー)の『給父父的信/My Father Is A Hero)』。





こっちも良かった!


さて、本題に戻ります。


本作のヒロインはスー・チー。妖魔ハンターです。

ヒーローである玄奘(のちの三蔵法師)を演じるのはウェン・ジャン(文章)。


ま、知名度から言ってもスー・チーがメインの扱いになるのですが、主役はもちろん玄奘です。


前二作は至尊寶(のちの斎天大聖こと孫悟空)が主演で、三蔵は脇役なのですが、恋の役回りとしては明らかに玄奘が至尊寶です。


よって、前日譚となる本作で、玄奘が味わった悲恋を、今度は1995年の前二作では孫悟空が味わうという流れですね。


個人的にはこの悲恋、私はすごいツボなんです。

女に言い寄られて、いい迷惑だけれど、想われるということの価値や、真実の愛を後になって理解するも後の祭りって現実にもあるものですよね。

ああ、なんであの人の愛に気づいてあげられなかったのか! っていう感情は、当時の私にぐぐっと来たのですよ。


そして、前二作は「難解」とよく言われたように、私も一回では(しかも香港で観ただけでは)分からなかったので、その後に何度も見返すことになります。


そして、中国人や台湾人の友人ができた頃は、この西遊記の話だけで、一時間くらい盛り上がることができたありがたい作品です。


そう。中国・台湾の人も、前二作が大好きな人が多いんですよ。

「一万年愛する」は中国・台湾・香港、そして香港映画好きな日本人の共通語でした。


で、本作もその切ないトーンがそのままだったので、『ミラクル7号(長江七号)』でシンチーから離れつつあった私の気持ちは、すっかりまたシンチー大好きに戻っていました。


続編がありそうな展開ですが、シンチーの次回作は『美人鱼』という人魚もの。

でもでも、これからも私はシンチーの西遊記作品を待ち続けるんでしょうなぁ。


すいません、今回はまとまりがない文章で。

いつかシンチーの西遊記三作と、ドニー・イェン&アーロン・クオック&チョウ・ユンファの『西遊記大閙天宮』を比較しながら解説する記事を書きますね!




うーん、日本でも知名度のある三大スター共演の「西遊記大閙天宮」、はたして日本公開はあるのだろうか。

久々に、全身を硬直させながら観てしまう映画に出会った。


手に汗握るなんてものじゃない。


主人公らの苦しむときにはこっちも顔を歪ませ、主人公らが緊張する瞬間にはこっちの心臓までが高鳴って脳内に警笛を鳴らす。


こんな香港映画いや映画そのものに、久々に対面した。





原題は『掃毒 The White Storm』。


邦題の<レクイエム>や<最後の銃弾>という言葉にはともに納得させる理由があった。

だから邦題が悪いということはないが、ただ他の香港映画からは頭一個抜けた出色の出来の本作が、目立たない邦題となってしまったことだけが惜しい。


本作は全国公開されたけれども、二週間ほどの短期間でミニシアター系でチェーンされたといった感じであった。

しかし、もっと多くの人が(いつもは香港映画を観ない人も)観るべきだし、チラシにあった「『男たちの挽歌』『インファナル・アフェア』を継ぐ」というコピーは嘘ではない。


それにしてもどこから書くか迷う。

俳優、演出、脚本、音楽、効果、アクション、どれも素晴らしかった。


だがやはり、俳優から書くべきだろう。本作はポスターにもあるように、三人が主演。


左からルイス・クー(古天楽)、ニック・チョン(張家輝)、ラウ・チンワン(劉青雲)。


2013年の映画を賞する第33回香港フィルムアワード(しばしば香港アカデミー賞と呼ばれる)の主演男優賞ノミネート(香港電影金像獎提名名單)では、ルイスとラウが本作から選ばれていて、ニックは別の映画「激戰」からノミネート。


本作では誰もが甲乙付けがたい演技であったが、やはりこのところの作品で常に魂を込めて演技していることが私にもわかるニックが選ばれていないのが不思議であった。


しかし、結果として「激戰」からニックが最優秀主演男優賞を受賞(得獎)。


これだけすごい本作からではない作品から熱演を評価されたとあれば、「戰」を観ないわけにはいかないだろうな。



私は見逃したが、『戰』は昨年の東京国際映画祭で上映された。


ちなみにこの33回目の香港フィルムアワードの年は、あの『一代宗師(邦題:グランドマスター)』や『殭屍』など注目作と競っていて、残念ながら本作からの得獎はなかった。

とはいえ、この年の香港映画が豊作だったということであり、本作が7部門にノミネート(作品、監督、主演男優、助演女優、撮影、編集、主題歌)されたことは評価できるし、他の年だったら絶対に得獎をとっていたはずだ。


さて、本作『掃毒』の内容そのものに、そろそろ触れたい。ただし、私のポリシーとしてネタバレはなし。

実は、公式サイトのストーリー紹介はかなりネタバレしているので、ぜったい読まないほうがいい。


私は公式サイトのストーリーの欄をほとんど読まずに出かけた。

その結果、この映画の中盤までのクライマックスを、本当に興奮して観ることができた。


これから観る人は、公式サイトやチラシを読まないで映画館に行く(あるいはレンタルする)ことをすすめる。


公式サイトから少しだけ劇中カットとストーリーを抜粋&加筆。


(以下、ストーリーをさわりの部分だけ)

幼馴染のティン(ラウ・チンワン)、チャウ(ルイス・クー)、ワイ(ニック・チョン)は、香港警察に揃って入る。

ティンとワイは麻薬取締り班でチームを組む一方、チャウは潜入捜査官として麻薬組織の構成員になり、麻薬取り締まり班の二人と密に情報をやりとりしている。


そのうちチャウは、麻薬組織の一つであるハクの組に潜入し信頼を勝ち得て幹部になる。

チャウはハクの新しい取引先となったタイの大物麻薬王ブッダとの取引に向かう。

情報を得たティンとワイもタイ警察とインターポールの協力を得てタイに向かう。

ブッダとの取引に向かうチャウ、そしてティンとワイ。

タイの麻薬王として私設の傭兵までも擁するブッダ。

かくして三人の運命は?


そして最後の銃弾とは?

という感じまでが序盤。


ここまでノンストップで、緊迫しっぱなしの大興奮の映画である。


もちろん物語の後半もスゴイ。だけれど内容は書けない。ネタバレするから。残念だ。


本当にスゴイから、ぜひみんなに観て欲しいものだ。


すでに、劇場公開はほとんどの地域で上映終了になっているから、これから観る人の多くはDVDであろう。

あまり、ブログや映画紹介雑誌等で多くの情報を収集せず、なんの知識もなく観て欲しい。


今回、なんだかネタバレを恐れて消化不良のブログ記事かもしれない。スイマセン。。。

開催中の東京国際映画祭(TIFF)に空き時間を利用して行ってきた。


観たい映画はたくさんあったけれども、前売り券でおおかた売り切れ。わずかに残っていた当日券を狙って行ったら、運良くこの映画のチケットは残っていたよ。


韓国映画『アトリエの春』です。




原題は、Late Spring [ 봄 ]。


映画上映後には、監督と主演女優二人のティーチインがあったのですが、チョ・グニョン監督によると、小津安二郎ファンだそうで、原タイトルのレイト・スプリング=晩春は、小津映画の同名作から採られているとか。


ストーリー(あらすじ)はTIFFサイトから引用(色字部分)させていただき、写真は韓国映画データベースのHANCINEMAから転載させていただきますね。


1969年、ベトナム戦争が韓国にも暗い影を落としていた時代。
全身の麻痺が進む難病を抱えた天才的な彫刻家ジュングは、妻ジョンスクの勧めで湖のある美しい村で療養している。






創作を断念し、生きる希望も失った夫を見かねたジョンスクは、モデルを探して夫の創作意欲を回復させようと思い、村で見かけた若いミンギョンを連れてくる。

ミンギョンはふたりの子持ちで、夫から虐待されていた。


湖畔のアトリエでミンギョンをモデルに創作を再開したジョンスクは徐々に快復し、ミンギョンもまた生活の辛さから解放されて明るくなり、ふたりは親密になっていくが…。



美術家とモデルの関係を描いた映画は多いが、本作は激動の60年代を舞台に、障害を持つ彫刻家と妻、そしてモデルの女性、それぞれのキャラクターが克明に描かれ、強い印象を残す



チョ・グニョン監督は映画美術ディレクターとしてキャリアを積んだのち、“26 Years”(13)で監督デビューした人物。

ラノ国際映画祭で大賞・撮影賞、それにミンギョン役のイ・ユヨンが主演女優賞を受賞した。


(以上、引用終わり)



私、この紹介文を読んだだけでは、最近のフランス映画「ルノワール」みたいに、モデル女性に恋をしちゃう話かと先入観で思っていました。それで三角関係になるといったような映画は昔のフランス映画「美しき諍い女」みたいにたくさんあって、そっち方面の韓国映画版かと。



でも、ぜんぜん違った。

もちろん良い意味で。



チョ・グニョン監督が憧れる小津映画のように、物語はたんたんとした映像で語られるのですが、けっして退屈ではない。

それは、もしかするとモデル女性と何かあるかもという変な期待や、あえて美しい女性をモデルにあてがった(しかも、心根も綺麗で、可哀想な境遇の女性)妻の意図が読めないことなどがあるからでもあり、芸術映画でそして、障害が題材でありながらサスペンスフルな仕掛けがある(ように感じさせる)つくりになっているからなのだと思われます。



上映時間102分はまったく長くなかったし、なにより「40年以上前の韓国の美しい村」を舞台にするということで、とても美しいロケ地が選ばれています。

ここ、何という場所だろう。




そして、主演女優の二人も良かった。


美術監督出身というチョ監督にキャスティングされただけあって、お二人ともナチュラルな美人。



モデルのミンギョン役を務めたイ・ユヨンはこの映画が初出演とのこと。



だから知らなくても無理はないのですが、不勉強にして、妻ジョンスク役を演じたベテランのキム・ソヒョンも私は所見。


ティーチインのときに監督から、「テレビドラマでは怒った激しい役ばかり演じているキム・ソヒョンに、寡黙なおとなしい役をやらせてみたかった」と言われ、大いにウケまくっていたキム・ソヒョンさん。


たしかに、普段はおとなしいとはとても言えない雰囲気ながら、映画の中では、とても古風な三歩下がった韓国女性になりきっていましたよ。

普段はテレビドラマがメインの女優さんなんですね。


興味を持ったので、調べてみたら、キム・ソヒョンさんは、日本では「妻の誘惑」というドラマ(BS朝日で放送)で紹介されています。

同名の子役出身の女の子がたくさん検索でひっかかりますが、このドラマもそうであるように、1973年生まれの大人の妖艶な魅力の女優さんのようです。





右がキム・ソヒョン。

左が主人公のチャン・ソヒ。

ま、この写真からして主人公をいじめ抜く激しい気性の女役だとわかるね。


おっと、脱線しました。いつものことですが。。。


とにかく、予想以上によい映画だったですよ~。

ツイッターを見ていたら、ラストシーンには賛否両論というか批判的意見が多く見られまして、私もそれは同感なんですが、監督いわく「暴力的な映画が多い」韓国映画にあって、独特の個性のある作品であると思います。

ただ、設定上、本作にもわずかながら暴力シーンはありますので、そこだけはご注意を!


すっかり更新が滞っちゃった。


忙しい中だけど、備忘録として、合間を縫って見たインドネシア映画『ハビビ&アイヌン』のことをメモしておこう。





この映画は、シネマート心斎橋で開催されていたインドネシア映画祭で鑑賞しました。


在大阪インドネシア共和国総領事館と同国の観光・創造経済産業省が主催して、なんと無料で入場ができました。


本作『ハビビ&アイヌン』と『ラブリー・マン』は昨年の映画祭で好評を博した映画の再上映だとか。


ってことは、去年もやったんだね。知らなかった。


シネマートさんのホームページによると、本作は、


『ハビビ&アイヌン』 (2012年)
2013年の大ヒット作。飛行機工学の科学者であり、後に第3代インドネシア共和国大統領となったバチャルディン・ユスフ・ハビビと、彼を献身的に支え続けた妻アイヌンの物語。

ってなストーリー。


前半は、インドネシアの秀才だったハビビがドイツの大学院(アーヘン工科大学)に留学して航空工学を修め、祖国に航空産業を興す夢に向かうところ。


それを幼なじみで初恋の人、そして成長後は医師となった妻アイヌンが支える物語からはじまる。


で、後半はというと、スハルト大統領時代の副大統領という役職を経て、なんと自分が大統領になってしまうのですよ。このハビビが!

まぁ、史実なんだけど、日本人はスカルト(デヴィ夫人の夫ね)、そしてスハルトの名前は知っていても、このハビビは見落としている人が多いよね。私もその一人(恥)。


その苦闘の物語部分は、まだ存命中の大統領を扱いながらも、けっこう赤裸々に政治的な闇の部分とかも描いています。




この映画で特筆すべきは、主役ハビビを演じたReza Rahardianが、高校生から60代の老人までを演じているところ。

撮影時、24,5歳の彼が、この年齢幅を演じることは無理があるのでは、と思えるのが特殊メイクのおかげもあってか、ちゃんと老けていた。


インドネシア映画はあまり詳しくない私は、Reza Rahardianを知らなかったけれど、一見した印象として、笑い声がものすごい印象に残った。つまり、魅力的でした。


その笑い声は、例えるならばシャールク・カーンの「クックック」というあの感じ。


イスラム系に好かれるタイプなのか不明ですが、シャールクが好きな私は、彼の笑い声もなんだかイイって思ったね。


イスラム教徒と言えば、同時に上映されていたけれど、私は忙しくて見逃したラブリー・マンの方は、なんとイスラム教徒でありながら、性転換してしまう以下のような話(シネマートのホームページより)。


『ラブリー・マン』 (2011年)
敬虔なイスラム教徒である主人公の少女が、失踪した父親を探した末に見つけたのは、女性として生きる父の姿だった。第7回大阪アジアン映画祭スペシャル・メンション受賞。




イスラム教は性について狭量なので、その制約の中でどんな映画になっていたのか観たかったなぁ。

第七回大阪アジアン映画祭でも公開されていた模様。


ところで、今回、無料で鑑賞できる形で開催されていたインドネシア映画祭だけれど、これはきっとインドネシアの文化普及促進のための事業だね。


主催:在大阪インドネシア共和国総領事館、観光・創造経済省

共催:ガルーダ・インドネシア航空会社

後援:大阪アジアン映画祭


これらの主催者情報を見ると、日本のクールジャパン政策(経産省主導)のようなものを、インドネシアでは観光・創造経済省(観光クリエイティブ・エコノミー省)という役所がやっているみたい。

この省のホームページを見てみたけれど、ちゃんと日本語化されているし、海外からの観光客向けの観光情報発信サイト(Visit Indonesia)が全面に出た感じで面白い。


日本のVisit Japanも映画を使って文化宣伝して観光誘致しなきゃだめだね!

観たでござるよ!


るろ剣 伝説の最後編。

堂々の完結編です。





公開三日目だから会場は大入り。

原作ファンやアニメファンも相当数混じっているのでしょうね。なにやら上映中、こちょこちょとアレは似ているだの、原作そっくりだの、いちいち解説していやがる輩がいて、映画に集中したいこっちとしてはかなり迷惑。

まぁ、この映画が好きって点では共通しているから、大目にみてやったけれど(ようするに注意できなかった。。。ナサケナイ)


で、さっそく感想ね。


長い上映時間ってところは、前編である京都大火編(139分)と同じ。こっちは145分もあった(長い!)


息もつかせぬ展開だった前編。

そんでもって最後は薫殿を追って、海に飛び込んで終わっちゃった剣心。


嵐の夜の海にもまれて行方不明になってしまった剣心が、助けられて目を覚ますところから後編は始まります。

気絶してたからかもしれないけれど、後編はラストめがけたクライマックスのはずなのに、物語のテンポはややスローペース。


ただ、このやや物語がもたついたところで、剣心が特訓を重ねて、あの最凶の敵・志々雄を倒すための奥義を身につけなければならないので、これは仕方がないと言える。


前編のラストにちらっと顔を見せた福山雅治は、遭難した彼を偶然助ける(そんなご都合主義な!)師匠の役・比古清十郎を演じています。

見た目は、まんま大河の坂本龍馬。そしてしゃべり方はガリレオっぽい。っていうか、福山さんて,基本そういうしゃべり方なんだろうね。


いやー、役柄がかぶって仕方がない。これ、気になったの私だけかな。

風貌とかもっと工夫して欲しかったかな~。でも、アニメとマンガのキャラ見ると、福山っぽくないことはないんだよね。でも、私の見立てでは、豊川悦司のほうがしっくりくるかな。


さて、細かいことはさておき、見所はどこかってというと、後編もやっぱり壮絶なアクションシーンです。


映画の開始から一時間は、遭難して助けられて、師匠からの特訓だから、死闘シーンはありません。


映画のエンジンがかかりはじめるのは、中盤、人斬り抜刀斎・剣心おっかけストーカーこと、伊勢谷友介演じる四乃森蒼紫との対決。





二刀流の蒼紫の剣裁きはなかなか見事。伊勢谷さんの長いリーチを活かしてぶんまわすことぶんまわすこと。

この対決は、日本のチャンバラの要素はほとんどなく、香港映画でよく見る特殊な武器と剣術との対決に近い。


伊勢谷さんのしゃべり方がいいんだまた。

抑えた低音で、「俺はおまえを倒すために全てを捨ててきたァア」と、押しかけ女房のようなことをうめきながら、剣心に襲いかかる。

うーん、わざとらしいけれど、いいネ!

時代劇だからね、こういう時代がかった台詞、必要だよ。


ということで、見事な立ち回り一本目。


次は、前編である京都大火編では、負けてしまった相手。

永遠の青二才こと、神木隆之介クン演じる瀬田宗次郎。




予告編でもお馴染みだったあの台詞。

「イライラするなぁ~!!!」が出ました。


特訓してきた剣心のスピードに宗次郎が押され、冷静だった心がかき乱され、徐々に劣勢になっていきます。おっと、あんまり勝負のなりゆきを書いたらマズイね。このへんにしとこ。


この勝負は物語がすでにクライマックスにかかっているところなので、こいつを倒したら、いよいよ最凶の敵の登場です。神木クン好きの私としては、もっと戦ってほしかった。。。

ということで、リベンジの相手が二本目。


いよいよでござる。


最も狂っちゃったという敵。これは放送禁止用語ギリギリかもしれないキャッチコピーだが、まさにその通りの言動のラスボスが登場。


デスノートでも数々の人間を殺してきたせいで、カイジで常にザワザワすることになった男・藤原竜也演じる志々雄真実。




「もっと楽しませろぉ」とゴジラのように火を噴きながら暴れ回ります。


もー最高!

これだけのハチャメチャに手強い敵ってのは、映画史上でもアニメ市場でも五指に入るのではあるまいか?


もともとは、人斬り抜刀齊の後釜として、剣心と同じような暗殺型の剣客だった志々雄。

本来は互角の相手であったはずだが、なにしろ火を付けられても全身に火傷を負っても死ななかった男である。

もはやゾンビとかキョンシーのような理屈ではない強さに至ってるわけで、特訓して奥義を身につけてきたはずの剣心でも歯が立たない。


さて、そんな強すぎる敵に、剣心はどうやって挑むのか!


まだ観てない人は、劇場行って見届けてくるでござるよ。




薫殿との恋の行方にもご注目。


あ、そういえば、今回は土屋大鳳ちゃんのアクションシーンがなかった。。。前作でキレのいいアクションを見せていただけに残念。

監督や製作者さん、アクションのできるコには、どんどんアクションさせてちょうだい!


今回のるろ剣が前後編ともに成功することは間違いないので、この勢いでもって日本映画にも本作みたいな本格的アクション映画がたくさん作られるようになって欲しい。


アクション監督の谷垣健治さん、今回もサイコーのアクション満載でした。ありがとうございます。次回作も楽しみにしておりますよっ。


そうそう、健クンもお疲れ様、あんた、もう立派なアクションスターだよ!




今回は剣心の技のなかに、ブレイクダンス的な要素が二カ所ほど入ってました。

これきっと、ダンスをやってた健クンのアイデアを谷垣氏が振り付けに活かしたんじゃないかしらね?


また、この二人、違う映画でタッグを組んで欲しいな~。


なんか今回、まとまりのない興奮気味の記事でごめんなさいね~。でも、おかげでネタバレはほとんどせずにすんだよ。

映画好き、それも古き良き時代劇が好きなファンにはたまらない、珠玉の作品が世に出た。


太秦ライムライト。


チャップリン映画の名作「ライムライト」(落ちぶれたかつての名道化師に大舞台を用意する話)に着想を得て、太秦ナンバーワンの名「斬られ」役で「五万回斬られた男」の異名を持つ俳優(脇役というかほとんど斬られるだけの役者)である福本清三を主役に抜擢した。


もはや福本氏の人生そのものと言える脚本に、チャンバラ映画大好き人が集まって作り上げたアクションの魅力、そしてヒロインを演じた新進アクション女優・山本千尋の魅力があいまって、素晴らしい作品になっていた。


絶対に福本清三氏でなければ出せない哀愁というかプロだけが持つ味わいがにじみ出ていた、ホンモノの映画だったと思うよ。




福本氏は現在71歳、50年におよび斬られ役・刺され役の役者人生のなかでは、『ラスト・サムライ』など記憶に残る作品もある。

映画好き、時代劇好きなら、一度は見たことがあるよね!





とはいえ福本氏、基本的には台詞がほとんどない役がほとんど。熟練の香港スタントマンのような立場にあったと言える。


そんな役者人生で、彼にしかできない役が回ってきた。

そして、映画好きなスタッフたちが、彼にしかできない役を素晴らしい演出・音楽・共演者でかためた作品だと思うのだ。


本作は、カナダ・モントリオールで開催の第18回ファンタジア国際映画祭において、福本が日本人初となる主演男優賞を受賞し、同時に歴代最年長受賞記録を更新したとのこと。





その福本さん、2003年ころに「どこかで誰かが見ていてくれる」なる小田豊二氏による聞き書き本の題材にもされている。

そして、この本のタイトルが映画のなかでも重要な意味を込めて使われているんですねぇ。



いや~、福本さんは55年も脇の俳優(いわゆる大部屋俳優)をやってきて今更主演なんかできない、と役者仲間にもらしたというけれど、いやいや脚本はまさに福本さんをヒントに書かれたものだし、あなたが演じるしかないっしょ!


そして、この映画のもう一つの魅力!


それは、新進のアクション女優とも言える本職は武道家の山本千尋さんのデビュー映画ということ。

デビュー作にしてヒロインですよ。


物語は、山本千尋さん演じる新人大部屋役者である伊賀さつきが、福本演じる香美山清一というベテランの剣劇役者から手ほどきを得るようになるシーンからはじまる。


そのときに香美山が弟子の伊賀さつきに向かって言い放つ台詞が、「どこかで誰かが見ていてくれる」という言葉。


「どこかで誰かが見ていてくれる」の言葉を胸に、伊賀さつきは日々精進し、テレビ映画のヒロイン役というチャンスをつかむまでに至る。


もともとこの言葉は、若かりし頃に香美山がある女優に言われた台詞で、のちに劇中の大俳優・尾上清十郎(演じるのは小林稔侍)から、認められ(といってもあくまで斬られ役としての腕の良さを認められたわけだが)、「斬られ方がうまいヤツは芝居がうまい」とほめられて、尾上清十郎の銘入りの木刀を贈られるまでになったことから出た言葉だった。


その後も先代・尾上からの信頼は次代・尾上清十郎(演じるのは松方弘樹)に代替わりしてからも続く。


というのが、劇中の話なわけですが、ずっと昔に出た本のタイトルにもなっているように、この劇中エピソードは福本氏自身が、若かりし頃に、なんとあの萬屋錦之介(当時は中村錦之介)に斬られ方がうまいヤツは芝居がうまいと言われた逸話がもとになっているんだそうです。


話は戻って、伊賀さつき演じる山本千尋さんについて。


1996年生まれで、三歳より太極拳をならいはじめた本格派で、得意の長拳をひっさげて、2012年の第4回世界ジュニア武術選手権にて、金メダル一枚、銀メダル二枚を獲得。


なんと武術を習い始めたきっかけは、お母さんがアジア映画マニアだったからなんですって!




この美貌にして、武術は本格派。


Youtubeで調べると、数々の長拳の演舞がアップされていて、その技のキレや表情は若かりし頃のジェット・リーの演舞を彷彿とさせ、笑顔と真顔のギャップは、ブルース・リーの相手役女優であり、売り出し時は武侠映画に数多く出演したノラ・ミャオ(苗可秀)を思い起こさせます。


劇中、スタントなしで彼女が大暴れするシーンが2回だけ出てきます。

やはり初出演だからか、武術の名手であっても、スクリーン用の技に作り直すところはまだまだかもしれない。

しかし、剣をかまえたときの筋肉はほんまもんであることは画面にも現れているし、なにより真剣な表情が武術家ならではの殺気をともなっていて、迫力がある。


これからどんどん大女優になっていくとおもうけれど、それには今回の太秦ライムライトみたいな剣劇シーンが豊富な日本映画がどんどん出てくることが条件。


でないと、彼女くらいの逸材になると、きっと海外作品にとられちゃいますよ!


ところでこの映画、製作はELEVEN ARTSというアメリカ・ロスの映画配給・宣伝会社と、劇団とっても便利というミュージカル劇団(本作脚本の大野裕之が脚本・演出・作曲をつとめる劇団)、そして京都市太秦ライムライト製作委員会との合弁。日米合作で、アメリカ・マーケットも狙えるかもという作品になってます。


ハリウッドメジャーのマークがついた日本映画もいいけれど、こういう形でつくられる映画もまたいいもんですね。