映画好き、それも古き良き時代劇が好きなファンにはたまらない、珠玉の作品が世に出た。


太秦ライムライト。


チャップリン映画の名作「ライムライト」(落ちぶれたかつての名道化師に大舞台を用意する話)に着想を得て、太秦ナンバーワンの名「斬られ」役で「五万回斬られた男」の異名を持つ俳優(脇役というかほとんど斬られるだけの役者)である福本清三を主役に抜擢した。


もはや福本氏の人生そのものと言える脚本に、チャンバラ映画大好き人が集まって作り上げたアクションの魅力、そしてヒロインを演じた新進アクション女優・山本千尋の魅力があいまって、素晴らしい作品になっていた。


絶対に福本清三氏でなければ出せない哀愁というかプロだけが持つ味わいがにじみ出ていた、ホンモノの映画だったと思うよ。




福本氏は現在71歳、50年におよび斬られ役・刺され役の役者人生のなかでは、『ラスト・サムライ』など記憶に残る作品もある。

映画好き、時代劇好きなら、一度は見たことがあるよね!





とはいえ福本氏、基本的には台詞がほとんどない役がほとんど。熟練の香港スタントマンのような立場にあったと言える。


そんな役者人生で、彼にしかできない役が回ってきた。

そして、映画好きなスタッフたちが、彼にしかできない役を素晴らしい演出・音楽・共演者でかためた作品だと思うのだ。


本作は、カナダ・モントリオールで開催の第18回ファンタジア国際映画祭において、福本が日本人初となる主演男優賞を受賞し、同時に歴代最年長受賞記録を更新したとのこと。





その福本さん、2003年ころに「どこかで誰かが見ていてくれる」なる小田豊二氏による聞き書き本の題材にもされている。

そして、この本のタイトルが映画のなかでも重要な意味を込めて使われているんですねぇ。



いや~、福本さんは55年も脇の俳優(いわゆる大部屋俳優)をやってきて今更主演なんかできない、と役者仲間にもらしたというけれど、いやいや脚本はまさに福本さんをヒントに書かれたものだし、あなたが演じるしかないっしょ!


そして、この映画のもう一つの魅力!


それは、新進のアクション女優とも言える本職は武道家の山本千尋さんのデビュー映画ということ。

デビュー作にしてヒロインですよ。


物語は、山本千尋さん演じる新人大部屋役者である伊賀さつきが、福本演じる香美山清一というベテランの剣劇役者から手ほどきを得るようになるシーンからはじまる。


そのときに香美山が弟子の伊賀さつきに向かって言い放つ台詞が、「どこかで誰かが見ていてくれる」という言葉。


「どこかで誰かが見ていてくれる」の言葉を胸に、伊賀さつきは日々精進し、テレビ映画のヒロイン役というチャンスをつかむまでに至る。


もともとこの言葉は、若かりし頃に香美山がある女優に言われた台詞で、のちに劇中の大俳優・尾上清十郎(演じるのは小林稔侍)から、認められ(といってもあくまで斬られ役としての腕の良さを認められたわけだが)、「斬られ方がうまいヤツは芝居がうまい」とほめられて、尾上清十郎の銘入りの木刀を贈られるまでになったことから出た言葉だった。


その後も先代・尾上からの信頼は次代・尾上清十郎(演じるのは松方弘樹)に代替わりしてからも続く。


というのが、劇中の話なわけですが、ずっと昔に出た本のタイトルにもなっているように、この劇中エピソードは福本氏自身が、若かりし頃に、なんとあの萬屋錦之介(当時は中村錦之介)に斬られ方がうまいヤツは芝居がうまいと言われた逸話がもとになっているんだそうです。


話は戻って、伊賀さつき演じる山本千尋さんについて。


1996年生まれで、三歳より太極拳をならいはじめた本格派で、得意の長拳をひっさげて、2012年の第4回世界ジュニア武術選手権にて、金メダル一枚、銀メダル二枚を獲得。


なんと武術を習い始めたきっかけは、お母さんがアジア映画マニアだったからなんですって!




この美貌にして、武術は本格派。


Youtubeで調べると、数々の長拳の演舞がアップされていて、その技のキレや表情は若かりし頃のジェット・リーの演舞を彷彿とさせ、笑顔と真顔のギャップは、ブルース・リーの相手役女優であり、売り出し時は武侠映画に数多く出演したノラ・ミャオ(苗可秀)を思い起こさせます。


劇中、スタントなしで彼女が大暴れするシーンが2回だけ出てきます。

やはり初出演だからか、武術の名手であっても、スクリーン用の技に作り直すところはまだまだかもしれない。

しかし、剣をかまえたときの筋肉はほんまもんであることは画面にも現れているし、なにより真剣な表情が武術家ならではの殺気をともなっていて、迫力がある。


これからどんどん大女優になっていくとおもうけれど、それには今回の太秦ライムライトみたいな剣劇シーンが豊富な日本映画がどんどん出てくることが条件。


でないと、彼女くらいの逸材になると、きっと海外作品にとられちゃいますよ!


ところでこの映画、製作はELEVEN ARTSというアメリカ・ロスの映画配給・宣伝会社と、劇団とっても便利というミュージカル劇団(本作脚本の大野裕之が脚本・演出・作曲をつとめる劇団)、そして京都市太秦ライムライト製作委員会との合弁。日米合作で、アメリカ・マーケットも狙えるかもという作品になってます。


ハリウッドメジャーのマークがついた日本映画もいいけれど、こういう形でつくられる映画もまたいいもんですね。