東京国立近代美術館フィルムアーカイブではいま
「現代アジア映画の作家たち」
福岡市総合図書館コレクションより
(2015年2月17日-3月15日)
をやっています。
一本当たり一般520円・学生310円・小中学生100円で、各国映画祭の受賞作(とくに東京国際映画祭=TIFFとか、福岡アジアフォーラムの注目作)となったアジア名画が観られる素晴らしい催し。
私は地方在住だから、たまたま仕事で東京に行った空き時間に一本だけ鑑賞。
それが、2008年のインドネシア映画『虹の兵士たち』
正直、期待していなかったというか、たまたま時間がこれしか合わなかったから観たという消極的な感じで向かったのですが、会場は土曜ということもあって大入り。
東京国立近代美術館フィルムアーカイブが毎月発行するパンフレットである『NFC』2月号によれば、
1974年のインドネシア、ブリトン島にある古いイスラム学校を舞台に、新任の女教師と新入学の子供たちの交流を描いた作品。10人の個性豊かな子供たちは皆現地のオーディションで抜擢された。この年最大のヒットを記録して、社会現象にもなった、リリ・リザの代表作。
だそうな。
ストーリーは、ありがちかなぁと思いながら、直前にネット上でちょこっとだけ調べてみたら、インドネシア版「二十四の瞳」とか書いてあって、その例えも私にはイマイチで期待が高まらなかった。
女性教師が子どもたちに情熱を持って教育し、一生懸命に頑張る映画―ってな紋切り型のストーリーを思い浮かべていた。
こういう映画がトップになるのがインドネシアらしいのかなーとか、乗り気になれない。
虹の兵士たちというタイトルがなんとなく戦争をイメージさせて(実際は関係ないのだけれど)それも誤解の元になった。
しかーし!
始まってすぐに、グイグイ引き込まれた。
10人の子どもたちでメインになるのは、上記のTIFFから拝借した写真にもある三人の子ども。
リンタン・・・貧しい漁師の子どもなのに、近くにある活字を読みあさり博学。数理的思考にも優れる
イカル・・・本作の語り部。庶民の子だけれど詩が好きで、華僑の子に恋をしたりと早熟
マハル・・・いつもラジオを首から下げてジャズを愛する少年。歌が上手で芸術的センスがある
で、それぞれに非凡な取り柄を持たされていて、貧しい小学校のなかでも未来はあるんだ、って思わせてくれる構図になっている。
もちろん、本作は島唯一のイスラム学校が舞台になっていて、未来はあるっていうのと宗教的価値観が結びつくのだけれど、そういう宗教臭さはあまり感じない。
インドネシアやマレーシアに住むイスラム教徒(主にマレー人)たちは、南アジアや中東のそれのような戒律にがんじがらめになった感じはなぜかしなくて、こういうと誤解があるかもしれないけれど、かなり緩い宗教観を持っているような気がする。
だから、宗教の教えというよりも、ところどころに「アッラー」だの「全能の神」なんて言葉で語られる教えが、素直に道徳的生き方の推奨の言葉として、日本人にスッと入ってくるような気がした。
つまり、東洋的(東アジアの儒教的)格言に聞こえるから、抵抗がない。
そして、それを体現していく少年たちが、魅力的なことこの上ない。
本作のヒーローといえば、やっぱり貧しい小学校のなかの秀才であるリンタン。
先生の代わりに皆を教えたり、あふれる知識でクラスメイトたちの疑問に答えていく。小学生ながらにわがままを言わず、妹たちを育て、父親の漁を手伝い、学校は休まない。
なんというか、昭和の苦学生的な位置づけにあって、日本人は共感しちゃう。とくに私みたいな昭和の男は「感心だなーボク」なんて思っちゃう。
そして、成績はさっぱりながらも、芸術的センスに恵まれたマハル。
彼は、恋に傷ついたクラスメイトがいれば歌でなぐさめ、地域イベントで学校対抗の出し物が求められた際は、舞台監督兼振り付け師みたいに活躍しちゃう。
彼の見せ場のシーンは、歌だけでなく踊りありで、インド映画のミュージカルシーンみたいな雰囲気になります。これがまたいいんだ。
で、語り部だから主役なんであろうイカル。
彼は文学的な才能があるとは描かれないけれども、早熟で恋に興味があって、それを詩につづったりしてその片鱗を見せます。
実は本作には原作『虹の少年たち』というアンドレア・ヒラタ作の本があって、イカルは作者であるヒラタ自身の投影なんだそうです。
つまり、自伝的な小説がもとになっているんですね。だから、あまり才能を見せつけるというのではなく、魅力的なクラスメイトに助けられて、自分が居場所を見つけるというような役どころになっているみたい。
(ヒラタさんは日本人みたいな名前だけどインドネシア人です)
そして、彼は語り部なので、最終的には成長後の姿を終盤で見せてくれます。
はい、二十四の瞳というからには女性教師が主役と思いきや、実は主演は彼らです。
本作のタイトルは虹の兵士たち(英語題名はTHE RAINBOW TROOPS)だけれど、その兵士とは子どもたちのこと。
私は詳しくないけど、映画を観る限り、イスラムの教えのなかに勇敢な兵をたたえる(人数で勝る敵に勇敢なイスラム兵が勝利するというような)逸話があって、そんな思いもあって兵という言葉がタイトルにあてられているみたい。
女性教師であるムスリマが、虹を夢中になって見ていた彼らのことをそう呼ぶのだけれど、小説のタイトルである虹の少年たちのほうが、日本人の観客にとっては本作のイメージをより伝えるかもね。
ただ、その背景にあるイスラム教に思いをはせてみると言う点では、やっぱこのタイトルでいいのかな。
ところで、女性教師のムスリマ先生もスチールで見るよりチャーミングな女優さんでした。
(それにしてもイスラム小学校の先生らしい役名ですな)
女優さんのお名前は、チュ・ミニ(Cut Mini Theo)さんです。
というように登場人物がそれぞれ魅力的で、監督・脚本のリリ・リザさんの手腕も確かでした。
私もそうでしたが、あまりパッとしないなーと思っても、機会があればぜったい見るべきです。
ホロリと感動させられ、インドネシアのイスラム教に興味がわき、そしてこれからのインドネシア映画に注目したくなる作品であること請け合いです!
それにしても、福岡市総合図書館はアジア映画をいっぱいアーカイブしてて、素晴らしいぞ。
リリ・リザ監督作だけでも、6本もコレクションしているじゃないか。感謝!!