最近、中華圏映画の新作が全く公開されない(地方在住なもので)。


仕方がないので、DVDの新作巡りを開始すると、最近、香港映画の旧作(ほとんどがマレーシアの星空華文傳媒=Fortune Star Mediaが版権を持っているもの)が続々と、それも3本3000円という格安でDVD化されているじゃないか!


リリースしているのは、パラマウント・ジャパン。




(パラマウント盤)


「香港映画公式サイト」なるWEBページも用意して一気にDVD化なさっている。

http://dvd.paramount.jp/fortunestar/


マレーシアのFortune Starから一括で権利を得ている(DVD権利許諾については後述)ようで、ものすごい本数である。

しかも、ゴールデン・ハーベスト、ショウ・ブラザーズ、シネマシティ、D&Bと製作会社を横断して取りそろえている。

というより、Fortune Starがこれら香港映画の版権を集めているのだから、会社を横断するのも当然。


いずれの会社も既に映画製作をやめたり、解散しており、ちゃんと管理してくれるのはありがたい。

日本の大映時代の作品なんて、DVD化されないものも多いもんね。


さて、本作『レディ・ブレイド』は今年2015年4月28日にいくつか発売されたうちの一本で、2008年にキングレコードから発売されたDVDが品切れ状態になっていたもの(だからAmazonとかで高値で売っていた)。


香港映画好きには有名だけど、マイナーな映画を含めて、2000年代にがんばって香港映画をDVD化してくれたのはキングレコード。

そのときもFortune Starと契約を結んでいたみたいで、キングレコードのDVDパッケージにはFortune Star Kung-Fu Classicなんて帯がありました。




(キングレコード盤)


映画のDVD商売というのは、権利元から5年くらいの許諾の契約を結ぶことが多く、この作品も2008年から数年はキングレコードに販売権があった。


しかし、売れる作品じゃないから、当然一回だけ刷って売り切れたら終わりって商売なので、発売直後に買い逃した香港映画ファンはAmazonとかでプレミアついたDVDを買ってたってわけ。

私も何度となく定価以上の値段で買いましたよ。トホホ。


2010年代には、香港映画をたくさん買い付けてくれる配給会社として知られるツイン(TWIN)が、Fortune Starと一括契約を結んだらしく(同じく映画配給会社のFREEMAN Officeのツイートによる)、緩やかながらも、「発売元:ツイン 販売元:パラマウント・ジャパン」という廉価DVDが発売されているというわけ。


さて、前置きはさておき、本作『レディ・ブレイド』(原題:刀不留人)ですが、ブルース・リー映画のヒロインで知られるノラ・ミャオ(苗可秀)さんの実質的デビュー作。


見始めると、まずゴールデンハーベスト(嘉禾)のロゴが違う。




(本作『レディ・ブレイド』の嘉禾ロゴ)



(のちに定着した嘉禾ロゴ)


1970年映画ということで、嘉禾設立間もないこともあってまだロゴが確立していなかったようで、四角四つがボン・ボン・ボン・ボン・パッパラパーってな具合で迫り来るお馴染みのロゴに定着するまでいくつかのバージョンがある。


ちなみに嘉禾の記念すべき第一作目『鬼怒川 The Angry River』のタイトルロゴは本作と一緒でした。


映画の冒頭でノラ・ミャオ登場!

なんと、りりしい。





この撮影時、ノラはまだ18歳かそこらのはずで、とてもそんなお嬢さんには見えないくらいの貫禄がある。

デビュー作オープニングにて大女優の予感である。


しかし、フレッシュなノラはカワイイのだが、開始直後のノラのアクションシーン、それから序盤のノラの高い物見櫓でのアクションシーンは凡庸。

正直、退屈で、あーつまんないのかなーと思って気を抜いてた。


しかし、この作品。

中盤当たりからミステリ要素が入り、徐々に面白くなってくるのである。

ハナシがよく出来ているのである。


調べたら、脚本は羅大維。これはブルース・リーの一作目二作目の監督ロー・ウェイ(羅維)のペンネーム。

え? 彼の脚本はどうかしらねー。あんま緻密とは言えない作品が多いけど、と思ったら、原作がちゃんとあって『龍虎雙劍侠』というタイトル。


原作者は香港の四大小説家の一人、倪匡(ニー・クワン)のもの。

彼の作品の映画化は、「衛斯理」(ウェイスリーあるいはワイズリーなどと発音)シリーズが超有名。一例を挙げればジェット・リー主演の『冒険王』でジェットが演じたのが衛斯理。


彼は脚本も書いてたらしく、武侠モノの大ヒット作でジミーウォンをスターにした『片腕必殺剣』などがあります。

ちなみに、ブルース・リー第二作『ドラゴン怒りの鉄拳』(原題:精武門)は、ロー・ウェイの単独脚本ではなく、倪匡が共同脚本(無記名)であったって事実がwikipedia中国語版を見ると書いてあります。


本作の脚本はロー・ウェイで倪匡が脚本を書いたのではないけれど、私が思うに、ハナシが面白いのは原作力ということなのかな?


ちなみに、四大小説家は他に、最も有名な金庸(その映画化作品はスォーズマンやら楽園の瑕やら数え切れない)。そして黃霑、蔡瀾がいます。


あれ、またまたスゴイ脱線。本題本題。


で『レディ・ブレイド』。

話が面白くなってきたと同時に、ノラのアクションにもキレが出てくる。

いや、後半の大人数入り乱れての大乱闘シーンに至っては、ノラは素晴らしい殺陣を見せてくれていると言って良い。ほとんどスタントを使ってないことは映像からしっかりわかるのだ。





撮影が話の流れ通りに進んだかわからないが、仮にそうだったとして撮影中メキメキと技術をあげたということになる。『大酔侠』のチェン・ペイペイも初主演で立派だったが、ノラもそれに匹敵すると思う。

このあたり、彼女の天性なのだろうか。


そして、その大乱闘シーンまで来たところで、ふと「誰が武術指導なのだろう?」ってことが気になった。

正直、ここまで殺陣が素晴らしい感じになってくると思わなかったので、オープニングのクレジットをよく見てなかった。


チャプター戻して確認したら、「韓英傑、朱元龍」の文字が!!


そう! ドラゴン危機一発のラスボスであるハン・インチェと、サモ・ハン(洪金寶)の名コンビです。

この組み合わせは、キン・フーの名作『俠女』にもつながる鉄壁のもの。


そりゃ見事なはずだ!

(あ、そういや大酔侠の武術指導もハン・インチェだったな。)


ちなみに朱元龍という名はサモハンの昔の芸名。七小福時代の名前が元龍だったのにちなむようです。

七小福のメンバーはみんな元(ユン)がつくのです(例えば、ユン・ワー、ユン・ピョウ、ユン・ケイ)。ジャッキーは元楼でした。


大乱闘シーンはラストにもう一回あって、そこでのノラはさらに見事。

かなり長い殺陣のシーンをカット割りなしにこなしていました。これは現代の女優では絶対無理。ケガをしなかったのが不思議(おそらくはケガしたはず)の演舞で、シニアのアクションスターなみでしたよ。





結果、ハナシもけっこう面白く、アクションもかなり良く、見てよかったというのが本作を見終えての感想。


これから見る方は、序盤のぐだぐだをぐっと我慢して見てみましょう。