仁義なき戦い 代理戦争(十四)蝋燭の火 | 俺の命はウルトラ・アイ

仁義なき戦い 代理戦争(十四)蝋燭の火

『仁義なき戦い 代理戦争』

映画 102分 トーキー

フジカラー・白黒静止画像有り

昭和四十八年(1973年)九月二十五日公開

製作国  日本

制作  東映京都

 

企画  日下部五朗

原作  飯干晃一

脚本  笠原和夫

 

撮影  吉田貞次

照明  中山治雄

録音  野津裕男

美術  雨森義允

音楽  津島利章

編集  堀池幸三


助監督    土橋亨

記録     田中美佐江

装置     稲田源兵衛

装飾     清水悦夫

美粧結髪  東和美粧

スチール  藤本武

演技事務  森村英次

衣装     豊中健

擬斗     三好郁夫

進行主任  伊藤彰将


出演



菅原文太(広能昌三)


小林旭(武田明)

 

 

渡瀬恒彦(倉元猛)

山城新伍(江田省一)

 

 

池玲子(富枝)

中村英子(江奈)

 

 

金子信雄(山守義雄)

成田三樹夫(松永弘)

加藤武(打本昇)

 

 

山本麟一(宮地輝男)

川谷拓三(西条勝治)

内田朝雄(大久保憲一)

遠藤辰雄(相原重雄)

 

 

室田日出男(早川英雄)

五十嵐義弘(水上登)

野口貴史(岩見益夫)

曽根晴美(上田利男)

中村錦司(伊丹義一)

司裕介

木谷邦臣(和田作次)

小田真士(神代己之吉)

酒井哲(ナレーター)

 

 

田中邦衛(槇原政吉)

丹波哲郎(明石辰男)

 

梅宮辰夫(岩井信一)

 

 

監督 深作欣二

 

☆☆☆

深作欣二=ふかさくきんじ

☆☆☆

平成十年(1998年)八月十三日新世界東映

にて鑑賞。

☆☆☆
 演出の考察・シークエンスへの言及・台詞

の引用は研究・学習の為です。

 東映様におかれましては、お許しと御理解を

賜りますようお願い申し上げます。 
 感想文では物語の核心に言及します。未見の

方はご注意下さい。

 ☆☆
 

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 武田が昌三に近付く。

 

   武田「のうや。神和会との縁組よのう。これの

       取り持ちを山口の豊田さんに頼もうと

       思うとるんじゃが、こんな、一緒に頼み

       に行ってくれんか?わしゃ、付合いが

       無いけん。」

 

   広能「わしゃ、その話には乗れんの。今のまま

       で縁組したら、神和会にも豊田さんにも

       迷惑かける事になるんじゃけん。」 

 

   武田「まあ、そう言うなや。これから組のほうは

      儂が絶対にシャンとさすけん!」

 

 松永が酔って武田の言葉に突っかかる。

 

    松永「どうシャンとさすんなら?神和会と縁組

        じゃ何じゃ言うちょるので見てみぃ。あら

        何処の女なら?早川の店の女共じゃな

        いかい!親父は槇原と組んで早川を抱き

        こんどるらしいんど。明石組がえびせいで

        尻尾振っとるんじゃ!」

 

 山守は早川夫人の江奈と桃子の肩を抱きしめ、両手

に花である。

 

    江田「おい、弘」

 

    松永「なんじゃい!」

 

    江田「若頭が言うてるんじゃけん。協力してやりゃ

        ええじゃないかよ。」

        

 

    広能「そっちがやる言うんじゃったらやるでええよ。

        じゃがそうなったら明石組と事を構えるいう

        もんじゃけん。そん時に又考えるけんのお。」

 

    武田「ほおか。ほんなら仕方ないわ。じゃったら神和

        会との縁組がはっきりするまで明石組のもん

        とは会うてくれなや。」

 

 

    広能「親父があげな事しとるのに、何で儂だけ束縛

        されにゃならんの?大体親父がだらしのうて

        敵味方の筋がガタガタじゃけん、こっちも安全

        保障付けとかにゃなるまあが!」

 

    江田「じゃったら、我、明石組に大事に抱えて貰え

       や!」

 

    松永「そっちは武田にケツ掻かれて跡目に欲が有る

        んじゃけん、それでよかろうがよ、こっちはそう

        単純には行かんのじゃい!」

 

  江田は眼鏡を捨てる。

 

    江田「何時儂が跡目を口にした!?」

 

  江田と松永が喧嘩になり、若衆が留めに入り、広能が

「やめろ、お前ら」と叱責する。

   槇原が山守の耳に何かを囁く。江奈が乱闘を見つめ

る。

 

 夜の川端通りを広能と倉元が歩み、芸者衆から新年の

挨拶を受け、笑顔で答える。

 突然槇原組的場がピストルを出して狙うが、広能は「安

全装置が外れとらんぞ!」と語り、動揺させ、持っていた

包みを投げつけ、的場は銃を暴発させ、弾丸は広能・倉

元には当たらなかった。倉元が追い、的場は逃げて待機

していた自動車に乗って逃走する。

 懸命に追いかけた倉元だったが、車を逃がした。彼が

「あの外道は?」と聴くと、広能は「見当は付いとる」と予想

を語った。

 

  ラーメン屋で西条と倉元がラーメンをすする。

 

   西条「こんな親父から盃貰っとるんか?」

 

   倉元「いや未だです。」

 

   西条「はよ、貰わんとの。何か手柄でも立てての。」

 

  倉元は「わかってます」と返事し頷く。

 

   西条「じゃったら儂と一緒に飛んでみんか?」

 

   倉元「飛ぶ言うて?」

 

   西条「親父が的にかけられたろうが。絵図描き

      おったのは槇原よ。親父は山守の御大に

      遠慮して辛抱しよるんじゃ。じゃったら、儂

      等で殺ったらええ。おう。二人で手柄立て

      て男にならんかい?」

 

   倉元「兄貴是非やらしてつかい!」

 

   西条「ほおか。儂は片手はこがなけん。槇原の

       居る所には儂が案内しちゃるけん!」

 

 西条は倉元を自身のアパートに待機させ、自身の

女の富枝に相手をするように命じる。「うちは嫌よ」

と抵抗する富枝に西条はビンタを喰らわし、「儂等

の仲を知らんのじゃけん」と言い、無理矢理情を交

わすことを強要しつつ、「三十分で切り上げよ」と注

意する。

 富枝は西条のアパートで倉元に挨拶し、服を脱い

で寝転び、電気を消してもらい、短時間で切り上げる

つもりだった。倉元は兄貴分の女とも知らずに抱き

付く。

 

   「いや!しつこい。」

 

 富枝は、泣きながらも強く抱きしめる倉元に惹かれ

心は薄情な西条から一徹な倉元に移って行く。

 

  パチンコ屋の前で打本・早川は槇原の提案を聞く。

 

    槇原「とにかく親父さんが話したい言うてます

        けん。会うてつかァさいや。」

 

    打本「儂ゃ何時でも構わんが、広能がゴチャ

        ゴチャ言うとるんじゃないか?」

 

    槇原「ありゃ、相手にせんで下さい。そのうち

        手も足も出せんようになりますけん。」

 

    早川「親父さんが留守の時に儂に組解散せえ

        て迫ったんもあいつですよ。」

 

    打本「昌三の奴!そがな事抜かしおったんか?」

 

    槇原「儂もねきで聞いとりましたけん。」

 

    打本「あの外道!木っ葉喰らわしちゃる!」

 

 西条が倉元を導き、刺客として放つ。倉元は銃を撃ち

槇原を狙うが、槇原・早川・打本は逃げて車で走り去る。

倉元は車に捕まって飛ばされ、路上に落ちるがそれで

も追って撃つが取り逃がす。

 

  料亭

 広能と明石組の岩井信一が蟹鍋を食べている。

 

   広能「無事に出てこられて良かったの。」

 

   岩井「保釈やさけ。未だ裁判が残ってると思うと

       うっとしこっちゃ。それより山守組が神和会

       と縁組するっちゅう話はほんまかいな?」

 

   広能「武田や親父が云うちょるけん。そうなるじ

       ゃろ。」

 

   岩井「何とか潰せんか?」

 

   広能「儂の力では出来んわい。此処んとこ儂は

       組からはみ出しとるけんのう。」

 

 

   岩井「そやったらせめて打本とあんた等の兄弟

       盃元に戻してくれや。ほやったら明石組

       も広島に道がつくのやさかい。」

 

   広能「それも痛しいの。」

 

   岩井「昌ちゃんよ。これはあんたにとっても正念

      場や。今神和会と縁組しよってみい。わい

      等と一番近いあんた、山守組の邪魔もん

      になるやないか。あんたが山守に的にかけ

      られたいう噂聞いとんのやで。どや、この辺

      で山守追込んでそっちが広島取ったら!わ

      いも応援するで。実は打本にはこっちゃの旗

      持たしとるだけで実力は当てにしてへんのや。」

 

   広能「のう。信ちゃん。儂ゃ呉でおさまっとりゃええ

       んじゃ。」

 

   岩井「そんな極楽は極道の世界に無いで。人を

       喰わにゃ己が喰われる。そうとちゃうか?」

 

   広能「そりゃ分かっとるがの。まさか親の寝首掻く

       訳にも行かんじゃろうが。」

 

   岩井「ほたら、何時になったら山守を追いこめる

       んや。黙って首の座につくつもりか?とも

       かく打本との盃の件は武田等にあんじょう

       伝えといてや。こっちも後には引けんとこや

       さかい、頼んだで。」

 

  電話が鳴り、水上が取り、猛の槇原襲撃を聞か

され驚愕する。

   

  広能は組事務所に帰り、木刀で猛を打擲し血を

流して詫びる彼を叱責し怒鳴りつける。

 

 

    広能「誰に飛べ言われたんない!?」

 

    岩見「己一人で考えた言うとります。」

 

    広能「馬鹿タレ!自分の勝手な考えで

        組潰す気か!儂の立場云うもん

        がわからんのかい。立場云うもん

        が!」

 

  猛は血に塗れながらも、襲撃失敗が悪かった

と思い込んで自転車の車輪の下で再挑戦を頼む。

 

     猛「親父さん。又やらしてつかい。今度は

       きっと殺ってきますけん!」

 

     

     広能「おどりゃ!蛸の糞!頭にのぼせや

         がって!糞ったれ。立てこりゃ!」

 

     水上「親っさん!」

 

     岩見「これ以上やったら往生しますけん!」

 

     広能「往生するなら往生すりゃいいんんじゃ!」

 

  尚も広能は木刀で猛を打って罰した。影で西条が

見つめ震える。後に猛は岩見や水上から看護を受け

る。広能は容態を聞くが熱が下がったと聞き、ほっと

して穏かに諭す。

 

     広能「ええから寝とけ。今の時代は相手を殺

         りさえすれば勝てるいう時代ではないん

         で。それさえ分かってくれればそれで

         ええ。」

 

  武田から広能に電話が入る。

 

     武田「こんな今日明石組の岩井と会うとった

        そうじゃの?どういう話か聞かしてくれ

        んか?」

 

    

     広能「ほう。なんなら。そっちはスパイの網迄

         張っとるんか?何の話やないよ。九州

         から保釈で出てきたけん言うて挨拶に

         寄っただけじゃ。」

 

     武田「ほんまにそれだけか?それだけならええ

         が。」

 

     広能「のう明。儂もつくづく考えたんじゃがの。

         神和会との縁組は儂も乗るけん。山口

         の豊田さんとこに一緒に行ってもええが

         の。」

 

      武田「ほうか。そりゃ助かるわい。是非そうして

          くれい。」

 

  広能は明日の対面を確かめて電話を切る。水上は

神和会との縁組が明石組に対する関係を厳しくしてしま

うのではないかと案ずる。

 

 

     広能「山守を追いこんで見せちゃるけん。

         見とれ!」

 

 

     ナレーター「その年の六月。山守組と神和

             会は豊田の取り持ちで五分の

            兄弟盃を結んだ。

            一方明石組もその一週間後岡山

            最大の暴力団児島会との盃を交

            わして対決の姿勢を打ち出し更に

            時を置かず最高幹部の一団を広

            島に送り込んで、山守組幹部と打

            本の盃復活を強硬に求めて来たの

            である。」

山麟 丹波 辰夫

  山守組事務所では幹部組員が紫煙をくゆらして

悩みと不安を確かめつつ、煙草の力で落ち着きを

回復しようとしていた。

 

    武田「おい、広能。そっちゃよ。打本との盃の

        件、前から岩井に聞いとったそうじゃな

        いか?おう。なしてその時に言うてくれ

        なかったんない?」

 

    広能「言うたところで仕方無かろうが。そっちは

        神和会との縁組でのぼせあがっとる時じ

        ゃけんのう。」

 

  武田は打本との盃はできないので断ってくれと頼

む。広能は他の幹部達に「それでええんか?」と聴く。

江田は明石組の文句なんか聞けるかいと強硬に態度

を表明する。松永は逆に広能に「どうするんない?」と

方針を聞く。

 

 

   広能「みんなの意見は意見として伝えるがの。儂

       は断り切れんかもしれんけ。呑むか呑まん

       かは向こうで考えるわい。」

 

   武田「そんな勝手はやめてくれ!若頭として許

       さんぞ!」

 

   広能「ほう。じゃったらよ。みんなで断りに行ったら

       よかろうが。じゃったら儂はみんなの意見

       に従うけんよ。只話を蹴りに行くようなもん

       じゃけん。その場で喧嘩になる言う事だけは

       覚悟しといてくれ!」

 

 広能に導かれ、武田・松永・江田は恐怖と緊張を抱き

ながら、会談の場である高級旅館に入り、明石組組員

から一礼を受け、喧嘩の可能性を思った。会談の部屋

の前で岩井が微笑みつつ怖い視線を浮かべて挨拶す

る。

 

     「まあ、入っとくなはれ。」

 

 相原が上座に座り宮地が控え、怒り心頭に達している

打本は氷をグラスに入れる。山守組組員が着席する。

 広能は、遠路はるばる来てくれたことに礼を言いつつ、

打本さんとの盃は蹴るいう事になりましたと方針を述べ

る。電気が消えて暗闇に乗り、一同は恐怖に怯える。

 

    岩井「どないしたんや?」

 

 明石組組員が「停電ですわ。すぐに火の用意させま

すし」と返事する。

 

    岩井「ほたら走らんかい!」

 

  女中が蝋燭を持ってくる。

 

   女中「どうも遅なりまして。お願いします。」

 

  蝋燭が机に置かれ、女中が去り、会談が再開する。

 

    相原「こっちゃの言い分を言うときますと元はと

        言えば小森と浜崎の喧嘩から始まったこ

        っちゃ。それで打本さんとの盃を水にさ

        れんたんは認められるけども、その為に

        打本も指詰めたんや。なあ。それが盃が

        未だに水のままいうのはどうやろな?こ

        れでは平和は維持出来んのとちゃいます

        か?どうだす?」

 

    武田「儂等一度打本さんには詫び入れとりますけ

        ん。それで済んどる思うとりますが。」

 

    宮地「仲直りはそれで済んでるけど、打本はんが

        指詰めた落とし前はついとらんやないけ。

        ここはやっぱり一度盃を戻して元通り付き

        合ってやるっちゅうんがやくざの筋とちゃう

        か?」

 

    武田「儂等にも立場はありますけんの。それだけ

        は絶対にでけんです。」

 

    宮地「ほたら何やの。わいらとあんたらとは全くの

        縁が切れちまうことになるが、松永はん。

        あんた、ほんまにそれでええのやな?」

 

    松永「蹴るいうことは言うとらんですよ。親父や

        若頭がそうせい言うとるんで。」

 

    岩井「江田はん。あんたどない思ってはんね?」

 

    江田「わしゃの、そこまでよう考えとらんじゃ。」

 

    相原「するとどうも頭だけが反対されてるよう

        でんな。なあ武田さん。あんた神和会

        の連中に余計な気兼ねしてるんとちゃう

        か?」

 

 相原は神和会にとって山守組との縁組は仕事だけ

で、山守組が助力を乞う時には助けられない立場で

あると指摘し、宮路は神和会の宮路さんに確かめ

よかと受話器を取った。

 

   武田「そこまでせんでも、あんたらの言うことの

       意味はようわかっとりますけん!」

 

  そこへ大久保憲一親分が哄笑して現れ、武田・

松永・江田は吃驚する。

 

   大久保「悪い時に停電になったのお」

 

   武田「大久保さん!」

 

   大久保「若い衆がこがにいりゃ威勢がええのお。

       それで結論は出たんかいの?」

 

  相原は上座を大久保に譲る。岩井が大久保に

出席への礼を言う。

 

    岩井「武田はん。あんた承知してくれると思う

        て取り持ちを大久保さんにお願いしまし

        たんや。大久保さんやったら山守さんも

        あかんとは言わんでしょ。」

 

    宮地「わいらはともかくもしてもやな、大久保は

        んの顔迄潰したら、あんたら広島での立

        場が無いようになってしまうのとちゃうか?」

 

   武田「叔父さん。一つ宜しゅう頼んます。」


   大久保「ほうか!そういう事なら一つ力になっちゃ

        るけん。」

 

 相原が礼を言って挨拶する。

 

   打本「兄弟、儂にも一言言わしてくれよ!。わしゃ

       他のもんとはええが、この広能だけは絶対

       盃せんぞ!」

   

   相原「おまはんもしつこいお人やで。その話はええ

       加減にせんかい!」

 

 

   打本「儂は人形じゃないけん!ええ加減にはできん

       よ!第一早川がこいつに木っ葉喰らわされと

       るけん。絶対承知せんのじゃ。」

 

   宮地「早川の話は後でするとして、話のけりもつい

       たこっちゃ、何処か陽気な所へ行ってパーッと

       やろうやないかい!」

 

   大久保「此処は陰気じゃの!女子でもからかおか。」

 

   打本「儂ゃ行かんぞ!」

   

  岩井が諌める。電気が付く。

 

  打本は岩井に静められ、悔し涙を堪えて別の店に向

かう。明石・山守両陣営の幹部達も、広能・武田の二人の

みを残して別の店へ向かう。

 

   武田「大久保さん引き出したんはそっちが仕組んだ

       事じゃろ。明石組があの人知っとる訳ないん

       じゃけん。おう?そっちは初めから筋書知っと

       ってよ。儂等を此処に引っ張りこんだんじゃ。

       神和会との縁組に協力してみせたもんも、こ

       こういう裏迄考えた上でのこっちゃろう?おう」

 

   広能「そう思うんじゃったら、それでええよ。」

 

   武田「負けたい!」

 

   広能「待てや、のう明。わしゃそっちを苦しめよう

       としてる事じゃないんで。儂が的にかけと

       るんは山守よ。のう、あれが上に居る間

       はなんぼやっても広島は纏まらん。ほいじ

       ゃけんよ。あれを明石組と神和会の競り

       合いの場に引きずり出してにっちもさっちも

       いかんような恥をかかして引退に追い込

       んじゃれと思うとるんじゃ。のう、山守が

       引退したら、こんなが跡目に立ちないや。

       そうなりゃ儂ゃとことんこんなに付いて行

       っちゃるけん。儂等ばっかり火の粉浴びる

       事ないじゃない。山守も火傷さしちゃれや、

       のう?」

 

  武田は頷く。

 

     ナレーター「打本の縁組復活を広島のテコ入れ

            としたい明石組は打本を説得して

            反対派の早川を破門させ、予定通り

            一同の盃復活を済ませた。一方それ

            を知った神和会は直ちに副会長の

            伊丹を派遣して山守の責任を難詰

            した。全ては広能の思い通りに山守

            は追い詰められたのである。だが、

            その決着が媒酌人の豊田のもとに

            持ち込まれてから事態は予想外の

            方向に進み始めた。」

 

 

   大久保邸。広能が部屋で待機している。大久保

親分が上田利男を伴って現れる。

 

 

     大久保「今、武田が来おってな。山守組と神

          和会が出した結論言うのを伝えに来

          おったんじゃがな、こんなに堅気にな

          ってくれ言うとるんじゃ。」

 

     広能「儂が堅気に?」

 

     大久保「ほうよ。それを条件にようやく神和会

          を納得させたげな。」

 

     上田「言うなりゃ兄貴一人に泥被せて八方丸く

         収めようちゅう肚なんじゃ!」

 

     広能「そがな事言うて、もし儂が断わる言うた

         らどうするんですか?」

 

 

     大久保「ほいじゃけん。儂も『広能は堅気には

          ならんよ』、言うてやったんじゃ!ところ

          がじゃ、こんな物を渡していきやがった!」

 

  大久保は机に破門状を置く。山守が広能を破門した。

広能は自身が破門されたことを知る。

 

    大久保「お前もこうなりゃ肚決めい。あれもお前には

         のトコトン助けちゃる言うとるんじゃ。」

 

    上田「のう兄貴。叔父さんの言うとおりじゃ。兄貴は

        明石組に近いし、儂等手を組めば呉はもう貰

        うたようなもんじゃ。山守の鼻へしあげてやろう

        じゃないですか。」

 

  ☆☆☆蝋燭の炎☆☆☆

  新年会では広能が神和会との縁組を巡って武田と激論

し対立する。このシーンは、東映の新スタア菅原文太と日活

の大スタア小林旭と激突をたっぷりと見せてくれる。年は旭

が下であっでも、大スタアとしては先輩である。

  戦後の大スタア小林旭に、後輩菅原文太がぶつかる。安

全保障として同盟関係を築き、武田が打ち出す神和会との

縁組には強く反対している。武田は広能が明石組と強い絆を

確かめ合っていることを快しとせず、神和会と組むことが山守

組にとって最善の道とする。

  広島の山守組は、明石組・神和会の代理戦争の時代に

在って、明石組につくか、神和会につくか、両方との関係を

大事にするかの三つの立場を選ばねばならぬことになる。

 広能・武田・山守の三者の道がそれぞれにあるが、結局は

武田の案に収斂され、山守は親分として残り、広能は結果的

に失脚する。

 彼は武田を見込んで積年の怒りをこめて、山守を追い落と

そうとするのだが、協力が得られなくなる。

 この筋の文太と旭の二大スタア激突は、笠原和夫の脚本・

深作欣二の演出を得て、最大級の盛り上がりを見せる。

 眼鏡を取って怒る山城新伍と酔って絡む成田三樹夫の凄み

も忘れられない。

 ホステス達を抱きしめつつ、広能暗殺を狙う山守の怖さを

金子信雄が目で表現する。田中邦衛の「ええとこ付き」槇原

の悪の表現も鋭い。

  広能・倉元は的場に襲撃されるが機転で逃れる。平沢彰

の恐怖の演技も鋭くて見応えがある。

 

  広能組組員西条は臆病者で自らは手を下さずに、舎弟

の倉元を派遣して槇原暗殺を狙う。自身の恋人富枝に相手

をさせてでも、倉元を自身の舎弟として動かそうとする。

  倉元と富枝のラブシーンでは二十九歳の渡瀬恒彦が十

九歳の池玲子に抱き付く。二人の間に恋が生まれていく道

を、池玲子が涙で表現する。西条は自分の女に他の男の

相手をさせる卑劣な男だ。 

  川谷拓三が男の狡さと哀れさを粘り強く見せる。池玲子

は本作公開時十九歳の若さである。

 

  眉毛を剃ってモデル山本健一の凄みを、岩井信一役で

見せた梅宮辰夫の役者魂は凄い。蟹鍋を美味しそうに食べる

辰っちゃんの迫力は凄まじい。

  「極道に極楽はない」「人を喰わにゃ己が喰われる」は

やくざ社会の生存競争の厳しさを現す名台詞である。

  物語の時は昭和三十八年(1963年)、アメリカを頭領と

する西側諸国の資本主義勢力とソビエト連邦を頭領とす

る共産主義陣営の対立が世界を覆っていた。冷戦構造

の時代である。

  朝鮮半島は1945年(昭和二十年)8月15日、大日本

帝国がポツダム宣言を受諾し、朝鮮は日本の統治下か

ら離脱した。韓国では光復が宣言された。北緯38℃より

北はソ連、南はアメリカに占領された。

 1948年(昭和二十三年)8月13日李承晩大統領は大韓

民国政府じの樹立を宣言する。同年9月9日朝鮮半島北方

地域では金日成首相が朝鮮民主主義人民共和国を名乗

って独立する。

 1950年(昭和二十五年)六月二十五日、金日成を頭領

とする朝鮮民主主義人民共和国が大韓民国を侵略し、

朝鮮戦争が始まった。この戦争には北朝鮮の背後のソ連

と大韓民国の背後のアメリカの野望と思惑が大きく影響

していた。

 第一部で語られたように、日本は朝鮮戦争を契機に

アメリカ軍への支援で経済状態は好景気を迎え特需で

産業界は大いに儲けた。経済の戦いも又弱肉強食で

ある。

 1960年ベトナムでは南ベトナム解放民族戦線が南ベ

トナム政府軍を攻撃した。アメリカが背後にある南ベト

ナムとソビエト連邦を背後にある北ベトナムの戦いは

長く続いた。

 本作『仁義なき戦い 代理戦争』公開時はベトナム

戦争の時代であったことを忘れてはいけない。

 

 物語の時と公開時代における冷戦の大事件を尋ね

たが、笠原和夫の脚本が語るように、世界の戦争・紛

争はこの時代、米ソ二大国家の冷戦の影響を受け、

両者の代理戦争の様相を表していた。

 

 山口組と本多会の対立が本作では明石組と神和会

の対立として描かれる。

 広島やくざは、明石組か神和会のどちらかにつくと

いう旗幟を鮮明にせねばならぬ所に追込まれていた。

 

  深作欣二監督は、光の描写でやくざの緊張感・

恐怖感を物語る。

 広能は武田との電話で電燈の点灯・消灯を繰り返

す。彼の賭けが成るか成らぬかの境界にあることを

物語っている。

 

  山守組事務所の虎の毛皮の前で幹部達は恐怖

におののいている。笠原和夫は人間喜劇を書きたい

と語ったが、やくざの親分達も強大な神戸の組に睨

まれればいのちの恐怖を覚える存在であることを明

かしている。

 

  料亭のシーンは名場面の極まりである。

 

  停電が起こり親分・幹部達が恐怖感を覚える

シーンは強烈である。

 

  蝋燭の火が印象的だ。広島やくざの恐怖と緊張

が闇の中の蝋燭の火に反映されている。

 

  緊張と恐怖の仲、武田は明石組の大きさを痛感

しながらも広島ヤクザへは圧迫の中での意地を示

している。

 

 相原役の遠藤辰雄の関西弁が綺麗だ。大親分

の貫録も大きい。

 

 山本麟一の宮地の凄み、梅宮辰夫の岩井の

迫力も印象的だ。

 

 広能の予定通り事は進み大久保親分の登場もあり、

武田達は打本との兄弟盃を受け入れざるを得なくなる。

 

  二人になり、広能は怒れる武田に的にかけたいのは

山守だと語る。

 

  広能の予定通り事は進み大久保親分の登場もあり、

武田達は打本との兄弟盃を受け入れざるを得なくなる。

 

  二人になり、広能は怒れる武田に的にかけたいのは

山守だと語る。山守組の傘下に復帰したことも、長年苦

しめられたことへの闘志を込めて、逆襲の機会を待って

いたのであろう。

 

  山守が難詰されるシーンでは、伊丹役の中村錦司の

怒りの表情が迫力豊かだ。

 『仁義なき戦い 代理戦争』における数秒無言での登場

というと大スタア丹波哲郎御大の明石辰男組長の凄みに

話題が集中しがちである。それも察するし、自分も過去記

事で述べたように、数秒の登場で大いなる存在感を出せる

のは丹波御大の芸力に依るものと思う。同時に神代役の

小田真士や伊丹役の中村錦司や豊田役の堀正夫の重み

も強調したい。

 

 だが、協力者と思い込んでいた武田明の離反にあい、

山守は窮地から復活し、全ての泥を着せられた広能は

破門されてしまう。大久保親分も武田には逆らえない。

 内田朝雄の老獪な名演は圧巻である。

 

 曽根晴美が上田利男役の義を熱く表現する。孤立無

援の広能にとって上田利男は大切な仲間だ。上田利男

は第一作で伊吹吾郎が熱演した、上田透の弟である。

 

  破門状を見つめる菅原文太の視線が鋭い。策略・

智謀の戦いにおいて、広能はどうしても山守に勝てず

いつも苦杯を飲まされる。しかし、仁義と平和を求めて

山守の強大な力に挑む。

 

 広能役の菅原文太が、生涯を賭けて、安倍晋三政権

の平和憲法改変に反対したことを忘れてはけない。

 

 昌三役に熱く燃えた菅原文太は、実生活においても、

平和の為に命を捧げ、戦争推進勢力の横暴に対して

非暴力で戦った。

 

 『仁義なき戦い 代理戦争』は個人と組織の問題も

鋭く探求している。広能が広島を平和的に治める為に

山守追い落としを計るが、協力を呼びかけた武田に

手のひらを返され失脚する。武田は組織を守らずし

て個人は成り立たないという立場である。親分は老

獪で冷酷であっても、親は親という事柄を確かめて

戦いに挑む。

 

 小林旭の静かな闘争心の表現も深く重い。

 

 

 

                         文中敬称略

 

                             合掌