仁義なき戦い 代理戦争(五)怒りの工員 | 俺の命はウルトラ・アイ

仁義なき戦い 代理戦争(五)怒りの工員

『仁義なき戦い 代理戦争』


映画 102分 トーキー フジカラー

昭和四十八年(1973年)九月二十五日公開

製作国  日本

制作  東映京都


企画  日下部五朗

手記  美能幸三

原作  飯干晃一

脚本  笠原和夫


撮影  吉田貞次

照明  中山治雄

録音  野津裕男

美術  雨森義允

音楽  津島利章

編集  堀池幸三



助監督    土橋亨

記録     田中美佐江

装置     稲田源兵衛

装飾     清水悦夫

美粧結髪  東和美粧

スチール  藤本武

演技事務  森村英次

衣装     豊中健

擬斗     三好郁夫

進行主任  伊藤彰将


出演



菅原文太(広能昌三)


渡瀬恒彦(倉元猛)


池玲子(富枝)

加藤武(打本昇)

川谷拓三(西条勝治)

室田日出男(早川英雄)

五十嵐義弘(水上登)

大前均(若杉三郎)

野口貴史(岩見益夫)

酒井哲(ナレーター)



梅宮辰夫(岩井信一)


監督 深作欣二


☆☆☆

深作欣二=ふかさくきんじ

☆☆☆

平成十年(1998年)八月十三日新世界東映

にて鑑賞。

☆☆☆
 演出の考察・シークエンスへの言及・台詞

の引用は研究・学習の為です。


 台詞引用に関して、性的な事柄・外国人の

人権を傷つける言葉・排泄に関する事柄に

言及します。


 東映様におかれましては、お許しと御理解を

賜りますようお願い申し上げます。

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仁義なき戦い 代理戦争(四)「手回しがええのお」 川谷拓三二十二回忌命日


  広能「大久保さんに電話せえや」


 子分西条が手を切った。広能は組の

将来を考え、山守の傘下に戻ることを

決意し大久保親分に連絡を取った。

 

  プロレスの試合が開かれ、若松が

外国人レスラーと戦った。選手控え室

で広能や岩見が待機していると打本と

その腹心の部下若衆の早川英男がや

って来た。

 広能が今一つ盛上がりに欠けると報

告すると、打本は「気合入れちゃれ」と

提案する。

 若松が試合を終えて帰ってくる。広能

は「ご苦労さん」と労い、ビールを持って

出迎え試合の結果を聞いた。

 

  若松「反則負けですわ。」


  早川「あほ。馬鹿ッタレ、この。

     毛唐に反則負けして客が

     喜ぶと思うとんか?」


  打本「遺恨試合じゃちゅうてもう一遍

     やってみい!」


 広能はビール瓶で若松の頭を殴り流血さ

せる。若松の頭部は流血で激痛が走る。


 若松「何すんじゃ!?」


 広能「それで遺恨試合になろうが!後で

     ミス広島抱かしちゃるけん!」


 若松は勇んでリングに向かった。

 

 明石組の大幹部岩井信一が入場し、一同

は一礼する。


  岩井「昌ちゃん。」


  広能「信ちゃん。」


  岩井「ポスター貼ってあったんで寄ってみた

     んや。」


 岩井からご祝儀を貰い、広能は一礼する。


 明石組の大幹部岩井から祝辞・祝儀を受け

る広能に、打本は羨望の眼差しを送る。


 バーで打本は広能の交流の広さを讃え、

明石組の斬り込み隊長岩井との懇意に

注目し、村岡組の跡目に立ちたい野心も

あり、明石組の幹部と盃を交わしたいと

望む。


   打本「あの岩井言うたらよ。明石組の

       斬り込み隊長じゃ云われとろう

       が。こんなも旅の付合いが広い

       のう。」


   広能「若い頃旅ばっかり打ってました

       けん。」


   打本「それに比べて儂の兄弟分言うたら

      よ。みんな殺されて。

      のう、昌三。さっきの岩井に言うてよ。

      明石組の誰か儂と兄弟分になるもん

      おらんか言うて一度頼んでみてくれい

      や。」


  広能は明石組は西日本最大の組織で、盃

はよく熟考するように注意する。

 打本は考えたから言うとると積極的に述べる。


    打本「村岡さんもあの身体じゃけん。近々

        のうちに跡目言う問題も出て来よう

        が。儂の他に誰が後、仕切れるん

        ない?」


    広能「跡目に立とういう考えで旅と盃したら

        間違いの因になりますよ。」



   打本は「こんなの考えは古い。これからの

        極道言うたらよ、付合いの広さで。

        云うなりゃ国際外交の時代なんじゃ

        けん」

 

   広能「ほうですかの?儂ゃ、馬鹿でええと思

       うとりますが。」


   早川「山守さんにしても、広能さんを抱き戻し

      たのは、広島に気があってのことでしょ?」

 

   広能「早川。親父の胆迄儂が知るかい。」

 


  若松が暴れ、広能は西条に「もうちっと

いい女世話したれ」と語る。西条は恋人の富

枝に若松の相手をしろと迫るが拒否される。


  電柱に立小便する若松を見て、富枝は

「嫌よ。あんな化け物!」と冷たく拒絶する。

 

 

   西条「あっちの大きさは変わらんのじゃけ

       ん!」


  西条は自分の恋人を義理の為に、若松に

一夜与えようとする。富枝にとっては、勿論裏

切で怒りが湧く。


  「ミス広島」と叫ぶ若松は、暴れ出し、ラーメン

屋の屋台に暴力を振う。


 飲食していた工員の青年倉元猛が「何すんじ

ゃ?」と抗議する。若松は「文句あるのかよ!?」

と怒り、猛に暴力を振い殴り飛ばす。


 激怒した猛は中華そばの包丁を掴み、若松を

刺し、耳を斬る。


   猛「かかってこんかい!」


 激痛で若松は倒れ悲鳴をあげる。



つね

 額から血を流す猛は、地を転がる若松に

包丁を向け、「来い。ぶっころしちゃる」と怒る。


 ☆☆☆国際外交時代☆☆☆


 レスリングの興行を取り仕切る広能だが、

盛り上がりに欠ける。打本は「手抜いとる」

と疑いをかけ、若松に厳しく注意するように

指示する。


 若松のモデルは力道山と言われている。

早川の「毛唐に反則負けして客が喜ぶと

思うとるんか?」の言葉は民族性を鋭く突く

言葉である。


 室田日出男がしたたかさを粘り強く見せる。


 力道山が空手チョップで外国人レスラーを

倒したことの、日本人ファンの感動の凄まじさ

は、私には想像するしか術はない。勿論当時

の日本人プロレスファンにも外国人レスラー

ファンは居たと思うが。


 大前均の迫力は凄い。彼は後に恐喝事件に

巻き込まれ、罪に問われたが、冤罪であった

そうである。自己弁護しないところが、大前均

の強さであると思う、


 広能の「後でミス広島抱かしちゃるけん」の

報酬的感覚の言葉も凄い。



 梅宮辰夫が岩井信一役で帰ってきた。岩井の

モデルは山本健一である。1925年3月5日に誕生

し1982年2月4日に死去した、山健組の大親分であ

る。

 田岡一雄(1913年3月28日ー1981年7月23日)

の腹心の部下である。田岡親分をモデルとして

明石辰男親分が登場し、丹波哲郎御大が後に

登場する。


 辰っちゃんは、役作りの為に、山健親分の顔に

近づける為、眉毛を剃った。乳幼児だった梅宮

アンナさんが泣き出したことは有名なエピソード

だ。


 仁義の為に散った若杉から、明石組の大幹部

岩井へ。


 梅宮辰夫の芸は広い。


 バーのシーンは打本の戦略が語られる。村岡

組跡目を狙う彼は明石組との交流に重点を置く。

 広能は警戒するが「高う売る」という政治的配慮

で盃外交を広げる打本には、明石組の政治的背

景を欲しがる。


 加藤武の欲望追求の芸が開花する。臆病で

喧嘩は出来ないが、欲が深くて野心家である。


 菅原文太の抑えた心と慎重さの探求が深い。


 悪の天才山守と強欲小心者打本の争いが、若

者を犠牲にして行く。盃の義が完全に失われ、国

際外交の道具としていく。


 笠原和夫と深作欣二の「仁義なき戦い」の探求

は鋭い。


 若松が暴れ、西条と富枝の仲にヒビが入る。

巨大な体躯のレスラーが暴れ、殴られた工員が

逆襲し刺して重傷を負わせる。

 猛と富枝のロマンスが喧嘩騒動に始まることも

興味深い。


 渡瀬恒彦の凄みが体当たりの熱演に燃え上が

る。

 


                    文中一部敬称略



                           合掌