仁義なき戦い 代理戦争(十二)「五寸で勝負」 | 俺の命はウルトラ・アイ

仁義なき戦い 代理戦争(十二)「五寸で勝負」


『仁義なき戦い 代理戦争』


ごっすんで

映画 102分 トーキー

フジカラー・白黒静止画像有り

昭和四十八年(1973年)九月二十五日公開

製作国  日本

制作  東映京都


企画  日下部五朗

原作  飯干晃一

脚本  笠原和夫


撮影  吉田貞次

照明  中山治雄

録音  野津裕男

美術  雨森義允

音楽  津島利章

編集  堀池幸三


助監督    土橋亨

記録     田中美佐江

装置     稲田源兵衛

装飾     清水悦夫

美粧結髪  東和美粧

スチール  藤本武

演技事務  森村英次

衣装     豊中健

擬斗     三好郁夫

進行主任  伊藤彰将


出演



菅原文太(広能昌三)


小林旭(武田明)

山城新伍(江田省一)
木村俊恵(山守利香)

成田三樹夫(松永弘)
酒井哲(ナレーター)


田中邦衛(槇原政吉)

金子信雄(山守義雄)


監督 深作欣二


☆☆☆

深作欣二=ふかさくきんじ

☆☆☆

平成十年(1998年)八月十三日新世界東映

にて鑑賞。

☆☆☆
 演出の考察・シークエンスへの言及・台詞

の引用は研究・学習の為です。

 東映様におかれましては、お許しと御理解を

賜りますようお願い申し上げます。 
 感想文では物語の核心に言及します。未見の

方はご注意下さい。

 ☆☆

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 昭和三十七年秋、山守義雄は妻利香と

共に病気療養中の幹部武田明を病院に

尋ねた。病室のベッドでは武田が腕を組み

厳しい表情で山守の話を聞く。利香が新

しい花を花瓶に活ける。

 山守は明石組の明石辰男組長の盃を

貰い強大な権力を得た打本昇が道で会

っても挨拶もせんようになったことを嘆く。


    武田「若いもんから聞いとります。」


     山守「こうなったんのも、広能のせい

        なんじゃ。」

 

 山守は儂が巧く捌こうとしたことを、広能に

ひっくり返され、打本よりも強く明石組の手先

になっていて、あいつを広島から追い出さん

ことには枕を高くして眠れんと嘆く。利香は

近頃は家にも顔を見せんしねと報告する。



    山守「のう。あきちゃん。ほいじゃけん、

       儂ゃ合併の時廃止した若頭の役を

       復活して組の中を締めにゃあいけ

       んと思うとるんじゃが、こんな、やっ

       てくれんか?」


    武田「儂には家賃が高過ぎますけん。」


    山守「いや、こんなしかおらんのじゃ。」


 松永は広能にベタベタしとるし、江田は働か

んし、槇原云うたらいよいよ頼りにならんので、

広能に対抗できるんいうたらこんなしかおらん

と山守は武田に懇願する。


    山守「儂を助けてくれい。この通りじゃ。」


 利香は病気のあんたにこんなこと頼むのも

よくよくのことじゃけんと述べる。山守夫妻の泣

き落としに武田の心が動く。

    武田「ま、手あげてつかあさい。よう分か

       りました」

 

    山守「ほうか、やってくれるんか!」


    武田「ただ、なった以上は儂も他のもんに

       は負けられん意地がありますけん。儂

       のしたいようにやらせて貰えますか?」


 山守は快諾し跡目をお前に考えとると信頼を

語る。武田は仲立ちをしてくれる人を通じて神戸

の神和会と縁組して打本を抑えて組に一本筋

を通したいと展望を語る。


    山守「ほうか、その神和会云うんはちっとは

        強いんか?」


    武田「明石組と五寸で勝負できるいうたら、

        神和会しかありゃせんのですけん。」


 昭和三十八年一月。山守組新年会が開催され

る。山守を上座に、武田・松永・槇原・江田・広能

らが着席している。


     山守「本年も一つ頼みます。」


 幹部たちは一礼する。


 ☆☆☆ライバル対決☆☆☆


  山守夫妻が真剣な表情で武田明に協力

を頼む。

 金子信雄と木村俊恵が山守夫妻の真面目

な「頼み」を鮮やかに明かす。山守義雄・利香

夫妻が泣き落としをするにしても厳しい表情で

真剣に頼む場合がある。

 武田明が広能昌三に智慧才覚度胸で匹敵・

対抗する存在であることを熟知し、彼のプライド

を刺激する形で頼む訳だ。

 頭脳明晰な武田は山守義雄が老獪で強か

な策士であることは熟知している。だが、悪の

天才でも親分は親分であり、頭を下げられれば

若頭就任を断れない。

 打本が明石辰男組長の舎弟になったことか

ら、その権力は強大になる。対抗策として、神

和会との縁組を考案する。

 過去記事で書いた通り、明石組のモデルは

山口組、神和会は本多会である。

 武田明のモデルは服部武である。美能幸三

とは映画『仁義なき戦い』シリーズが公開され

た時代は、良き友人の関係になっていたそう

だが、かつては抗争で戦った仲でもあった。


 広能昌三の菅原文太に対して、武田明役に

は日活の大スタア小林旭が勤める。鏡を見つめ

て、「明石組と五寸で勝負できるいうたら、神和

会しかありゃせんのですけん。」と呟く旭がカッコ

いい。笠原和夫のシナリオでは「五分」と書かれ

ているが、旭は「ごっすん(五寸)」と詠んだ。これ

はこれで渋い。


 新年会のシーンは、山守の穏かな「本年も頼み

ます」で幕を開ける。

 無言の菅原文太が重厚である。田中邦衛は目

で見せる。

 小林旭の颯爽とした姿が強烈である。ここから

いよいよ、「安全保障」について、昌三・明が激論

を戦わし、菅原文太&小林旭の二大スタアの演技

合戦が展開する。

 広能対武田の白熱の議論は、強大な組織の代理

戦争に関わらざるを得なくなるヤクザ達の悩みと苦

悶を語ったもので、本作のテーマを表しているが、

菅原文太と小林旭の熱き会話がその心を重厚な

語りで明かしてくれている。

                       合掌


                  南無阿弥陀仏


                       セブン