仁義なき戦い 代理戦争(六)跡目問題 | 俺の命はウルトラ・アイ

仁義なき戦い 代理戦争(六)跡目問題

『仁義なき戦い 代理戦争』

映画 トーキー 102分 カラー

公開日 昭和四十八年(1973年)九月二十五日


制作 東映京都

企画 日下部五朗

手記 美能幸三

原作 飯干晃一

脚本 笠原和夫



撮影  吉田貞次

照明  中山治雄

録音  野津裕男

美術  雨森義允

音楽  津島利章

編集  堀池幸三



助監督    土橋亨

記録     田中美佐江

装置     稲田源兵衛

装飾     清水悦夫

美粧結髪  東和美粧

スチール  藤本武

演技事務  森村英次

衣装     豊中健

擬斗     三好郁夫

進行主任  伊藤彰将


出演



菅原文太(広能昌三)



小林旭(武田明)


渡瀬恒彦(倉元猛)

山城新伍(江田省一)
堀越光恵(弘美)



金子信雄(山守義雄)

木村俊恵(山守利香)

成田三樹夫(松永弘)

加藤武(打本昇)



山本麟一(宮地輝男)

川谷拓三(西条勝治)

汐路章(青木彦次郎)

遠藤辰雄(相原重雄)



室田日出男(早川英雄)

五十嵐義弘(水上登)

野口貴史(岩見益夫)

大木晤郎(森久宏)



荒木雅子(倉元うめ)

丘路千(長尾博光)

阿波地大輔(小森安吉)

宇崎尚韶(野戸呂勇)



司裕介

松本泰郎

熊谷武(三杉)

疋田泰盛

堀正夫(豊田良平)

岩尾正隆(浜崎四郎)

名和広(村岡常夫)


笹木俊志

西山清孝

森谷譲

矢部義章

片桐竜次

藤沢徹夫

福本清三

山本清(高石功)

原田君事(谷川義明)

木谷邦臣(和田作次)


宮城幸生

小田真士(児島会会長)

小峰一男

藤長照夫

大矢正利

木田のり子(桃子)

加藤匡志

奈辺悟

前川良三

島田秀雄

酒井哲(ナレーター)


田中邦衛(槇原政吉)

丹波哲郎(明石辰男)


梅宮辰夫(岩井信一)


監督 深作欣二


☆☆☆

美能幸三はノークレジット

堀越光恵→堀越陽子

名和広→名和宏

遠藤辰雄→遠藤太津朗

深作欣二=ふかさくきんじ

☆☆☆

平成十年(1998年)八月十三日新世界東映

にて鑑賞。

☆☆☆
 演出の考察・シークエンスへの言及・台詞

の引用は研究・学習の為です。


 東映様におかれましては、お許しと御理解を

賜りますようお願い申し上げます。


感想文では物語の核心に言及します。未見の

方はご注意下さい。

 ☆☆

 

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 倉元うめ・猛母子と教員青木彦次郎先生

が、広能組を尋ねた。


   青木「広能君は居るかね?」


   西条「広能君?我誰に物言うとんじ

       ゃ!?」


   青木「ここの馬鹿親分はな、儂の昔の

      教え子じゃ。」


 倉元猛はレスラー若松を刺して、広能組

の報復を恐れて詫びに来た。青木は猛が

広能の学校の後輩に当たる縁もあり、広

能組の若衆にしてもらえんかと頼む。猛は

大阪で溶接工として勤務していたが、どうし

ても堅気ではやっていけず、理由は何故か

わからんと答えた。


    広能「お母さん。極道言うたら実の

        親捨てにゃいかん。あんた、

        それでもええでんですか?」


    うめ「この子の罪の半分は私にあると

        思うとりますけん。」


 うめは風呂敷を渡し、腹巻が入っている

ことを息子猛に語る。息子はこれから極道

として生きることとなる、猛の亡父もやくざ

であった。


  広能は拳骨で猛を殴り、「下駄揃えて

やらんかい」と注意する。青木とと共にうめ

が去って行く。


   広能「挨拶して送らんかい!?」


   猛「母ちゃん」


 猛は深々と一礼し、うめは泣きながら去って

いく。


 江田省一が出所し、広能・松永・武田・打本

らが出迎えて記念写真を撮る。

 広能は、山守が無断でスクラップ五百万円

ぶんを持ち出したと聞き、抗議する。山守は

「お前の首くらいいつでもすげ替えちゃるん

ど!」と脅す。槇原も親父さんはこんなの身許

引受人じゃぞと注意する。

 江田が挨拶すると、山守は「こんなが戻って

きてくれたけん、広島も筋が通るようになった」

と祝儀の金を渡す。勿論スクラップ持ち出して

作った金である。広能は勿論、流石の槇原も

吃驚する。


  翌昭和三十六年春、広能と打本は神戸を

尋ねた。打本は長年希望していた、明石組組

長明石辰男の舎弟との兄弟盃について、遂に

検討して貰える時が来て喜ぶ。明石組は明石

組長の舎弟相原重雄と打本の兄弟盃を許可し

てこの年の秋に盛大な盃の式を披露した。


 広能・打本や明石組大幹部たちが明石組

で待機している。

 明石組組長明石辰男が悠然と現れ、厳かに

座る。組長は無言で鋭く周囲を見つめる。

 ウルトラアイは我が命-丹波 さま

 広能・打本は敬意を表する。

 昭和三十五年四月大阪義友会事件・三十六

年奈良石川組組長刺殺事件・三十六年十月鳥

取檜山組長刺殺事件・三十六年十月木屋町事

件・三十七年一月博多事件と言う凄惨な抗争が

起こり、明石組とライバル神和会にとって広島

は、譲れない要衝となった。


 相原は九州に応援に行った岩井が逮捕された

ことを広能に語る。打本が人を介して明石組長

に直系の舎弟にして欲しいと姐さんに頼んだこ

とについて、相原は立腹し、「大事な話を、兄弟

分のわしに内証にしとるなんて、三千世界の何処

にある。第一、極道ちゅうもんは、直系の兄貴

を二人持たんちゅうのが鉄則やろ。」と指摘する。

 広能は「打本さんは事業家で、極道の筋がわか

らんことはわしに免じて堪えてつかい」と謝罪す

る。


 村岡組村岡常夫組長は跡目を山守義雄親

分に譲ることを決める。

 うめが道路補修の仕事をしていると、猛が

「母ちゃんよい」と挨拶し、外国煙草をあげる。

 喫茶店で武田・松永は、村岡組の跡目に

山守が決まったことを、広能に報告する。

 広能は山守の跡目は危険だと大反対する。

村岡は打本が明石組と盃をしたことを怒り、

江田は女遊びが激しく、松永は江田を差し置

いて立てず、武田は持病があった。

 

 彼女を連れた打本が入店し、広能に、相原

に余計なことを言うたなと激怒し、明石さんとの

盃は無期延期になったと告げ、出世しそこな

ったら、責任取れよと詰め寄った。


    広能「なんで儂が責任取らにゃいけんの

        ですか!?位を言うなら死んだ杉原

        さんの落とし前をきっちりつけて

        おくことが極道の位いうもんでしょう

        が?」


    打本「お前のような百姓の意見等聞きとう

        ないわい。これからは儂の付合いに

        口を出すな!」


 猛が打本に接近し包丁で威嚇する。打本は恐れ

て店から出て行く。松永は打本さんに村岡組跡目

について報告しなくともよいのかと尋ねる。


    広能「口出すな言うんじゃけん、放とっきゃ

        ええ。あの人だけは見損ったわい。」


  二か月後、村岡組と山守組が合併し、山守は

傘下二百名の一大組織の組長となった。

  山口の豊田良平会長、浜崎組組長浜崎四郎

が兄貴分の槇原に挨拶し、打本の舎弟小森と争

っていることを指摘される。


 打本は受付で広能に「腹が黒いの」と怒りの声

を浴びせる。


 クラブクラウンで山守は上機嫌でホステス弘美

を同席し、子分の武田・松永・槇原らが金をしっか

り稼いでいますと明石組幹部に語る。


  弘美「お父ちゃんはなんぼ持っとるん?」


  山守「お父ちゃんはな、お前の好きな金の×

     二つ持っとる。」       


 奥のテーブルで打本が早川を連れて、槇原に

浜崎を小森と対立させるなと叱る。江田が打本

を見つけて、山守のテーブルに案内する。打本

は「他に客が」と理由を説明する。


   山守「広島におってよ、儂らより大事な客

       が居るんか?」


   打本「いやあ」


   山守「こういう馬鹿ですけん。村岡さんも

      さじ投げられとっとですよ。打本。儂

      の組来て働らかんかい?」


   打本「例え舎弟に言うても断りますよ。儂

       は明石さんを親分と思うとりますけん」


   山守「誰が舎弟に言うて云うちょるかい!そ

       っちが若衆にさせてくれい云うてきた

       ら使うちゃろと云うとるだけよ。全くこの

       打本いう奴は偉うない偉うない云うたら

       こんな馬鹿はおらんですよ。」

ウルトラアイは我が命-山守 打本


 打本は山守の侮辱に悔しさが溢れ涙する。


   山守「ありゃ、お前泣きよるんか。泣か

       んの、泣かんのよ、飲め、飲めえ。」


 山守は打本にビールを注ぐ。宮地が退席しよ

うとして、早川は女房の店にと案内し、山守以下

親分達はその店に向かう。


  相原「打本の兄弟。あんじょう頼むで。」


  広能は打本を慰めるが、怒りと悔しさが溢れ

る打本は昌三に「腹が黒い」と当たり散らし、広

能は「口を出すないうたのは誰よ?」と問いかけ

る。打本は悔し涙を流しながら怒声を挙げて脅

す。


   打本「まあ見とれ!儂ゃ山守を潰しちゃる

       けん。そん時は真っ先にそっちを

       的にかけちゃるからな!」


   広能「トル云うんなら、ここでトリないや!

      能書きはいらんよ!」


 昌三も激怒し、打本の胸倉を掴んで怒声を

ぶつけ、「トル」、「殺す」気ならここで勝負しよう

と呼びかける。臆病な打本は震える。 


 ☆☆☆神戸の大組織の盃☆☆☆


 倉元猛と母うめのモデルは、第一部に登場

した若杉寛のモデル大西政寛とその母すず

よである。

 すずよさんは、第一作を二度劇場で鑑賞さ

れ、山守の密告で殺害された若杉の壮絶な

生き様・死に様をご覧になって、「これで息子

も浮かばれました」と笠原和夫に一礼された。

 笠原和夫はすずよさんをモデルにした「極道

の母」を、映画に出したくなり描いたのがうめ

だった。


 荒木雅子と渡瀬恒彦が、母子愛の暖かさを

しみじみと勤め静かに伝えてくれる。暴れん

坊で狂犬・狼の凄みを出す倉元猛だが、喧嘩

以外は優しく暖かく、母親思いの好青年だ。だ

が持ち前の短気から喧嘩がやめられず、やく

ざになってしまった。


 深々と頭を下げる愛息猛を見て泣きだしてか

け去るうめ。彼女は息子に襲いかかる悲劇を

予想していたのかもしれない。


 四十五歳の若さで汐路章が初老の青木彦

次郎先生を渋く、飄々と勤める。


 スクラップのエピソードでは、山守の人心

掌握に江田がまんまと嵌ってしまう様が描か

れる。

 新伍の明るさが、江田の気風の良い男っぷ

りにぴったりである。

 邦衛さんの槇原の驚きの目も強烈である。

 


 広能・打本が神戸明石組を尋ね、明石辰雄

組長に挨拶するシーンは凄みがある。


 日本最大のやくざ組織明石組の大親分明石

辰男は出てきた瞬間、全ての登場人物から恐れ

られている怖さを出す存在感が求められる。


 モデルは、勿論山口組三代目田岡一雄(1913

年3月28日ー1981年7月23日)である。


 演ずる人は、大名優・大スタア丹波哲郎

である。


 『仁義なき戦い』シリーズは、暴力・アクションの

壮絶さが強調されることが多い。それを否定する

つもりはないが、『代理戦争』における「静」の怖さ

を象徴するシーンが、明石組長登場シーンであ

ろう。


 明石組長は映画において一言も語らない。


 眼力で無限の存在感を示す。


 映画公開時は、田岡組長が健在であった。この

重厚な象徴性は、天皇制の表現とも深く関わって

いる。

 アメリカ合衆国大統領やソビエト連邦議長といっ

た、強大な権力者とも連関していると言えるだろう。


 こうした無限の権力を象徴的に現す表現は、笠

原和夫の緻密な脚本と深作欣二の深遠な演出と

丹波哲郎の重厚な存在感を以て明かされていると

いう事柄を確かめておきたい。

 打本は明石組では実力者相原と盃を交わし

強大な権力を得るが、明石親分の舎弟になり

たいと欲を出して、相原に警戒され、村岡にも

厳しく見られ、跡目から外される。


 山守は跡目を譲られ、山守組・村岡組は合

併し一大組織となる。


 上機嫌の山守はホステス弘美に自身の資産

を語る場面で、「お父ちゃんはな、お前の好きな

×の玉、二つ持っとる」の台詞を語る。

 卑猥な表現の笑いで、人間の事実を鋭く追求

する。


 笠原和夫脚本は、まさに、広島弁のシェイク

スピア劇だ。


 

   クラブで山守は打本を侮蔑し嘲笑いからか

い虐め抜く。


 明石組に憧れる気持ちを笑いものにされ、

跡目に立てなかったことを侮辱され、打本は

悔し涙を流す。


 この場面の金子信雄の虐めと加藤武の涙

の激突が、演技合戦の極まりを示す。


 複雑な物語を、緊密・精密な構成で、笠原和

夫は書いた。 

 人間のエゴイズムと保身と臆病と欲望の激

しさを、リアルに鋭く追求した。


 盃外交に失敗し跡目に立てなかった打本は

その鬱憤を広能にぶつけて逆上する。


 広能も怒り、打本の弱腰と曖昧な姿勢を怒鳴

りつける。


 菅原文太の芸が怒りの表現において、極ま

りを示し、銀幕に迫力が溢れる。


 本気で怖いと実感せしめるもの。


 文太師の演技は「巧い」というよりも、「深い」

のだ。


 広能の打本への怒りは、仁義を無視して盃

を軽視し交流関係で権力を取ろうとする安易

さへの激怒・否定であった。同時に強大な明石

組を頼ってしまう自己自身の在り方への疑問

も含めた怒りでもあったろう。


 第一作の時代のような、仁義に徹そうとして

仁義なき世界に怒り悲しむやくざとは違って、

組を構え親分として生きねばならぬ者の苦悩が

『代理戦争』の昌三にはある。


 打本のいい加減さを叱責することで、やくざ

社会の複雑さの中で迷う自己自身を、昌三は

怒鳴りつけて、混沌とした抗争の世界にあって

迷う自己自身を確かめているのだろう。


 怒りの広能と怯えの打本を包んで、明石組・

神和会の対立の渦は益々大きくなっていく。



                  文中一部敬称略



                        合掌