仁義なき戦い 代理戦争(十一)盃政争 本日公開四十四年 | 俺の命はウルトラ・アイ

仁義なき戦い 代理戦争(十一)盃政争 本日公開四十四年


『仁義なき戦い 代理戦争』


広能 松永 打本
映画 102分 トーキー

フジカラー・白黒静止画像有り

昭和四十八年(1973年)九月二十五日公開

製作国  日本

制作  東映京都


企画  日下部五朗

原作  飯干晃一

脚本  笠原和夫


撮影  吉田貞次

照明  中山治雄

録音  野津裕男

美術  雨森義允

音楽  津島利章

編集  堀池幸三


助監督    土橋亨

記録     田中美佐江

装置     稲田源兵衛

装飾     清水悦夫

美粧結髪  東和美粧

スチール  藤本武

演技事務  森村英次

衣装     豊中健

擬斗     三好郁夫

進行主任  伊藤彰将


出演



菅原文太(広能昌三)



渡瀬恒彦(倉元猛)

山城新伍(江田省一)


金子信雄(山守義雄)

木村俊恵(山守利香)

成田三樹夫(松永弘)

加藤武(打本昇)


山本麟一(宮地輝男)

川谷拓三(西条勝治)

遠藤辰雄(相原重雄)


室田日出男(早川英雄)

五十嵐義弘(水上登)

野口貴史(岩見益夫)

丘路千(長尾博光)

阿波地大輔(小森安吉)

宇崎尚韶(野戸呂勇)
丘路千(長尾博光)

阿波地大輔(小森安吉)

宇崎尚韶(野戸呂勇)

司裕介

堀正夫(豊田良平)

岩尾正隆(浜崎四郎)


司裕介

松本泰郎

矢奈木邦二朗(吉倉)

熊谷武(三杉)

疋田泰盛

堀正夫(豊田良平)

岩尾正隆(浜崎四郎)

太田のり子(桃子)

酒井哲(ナレーター)


田中邦衛(槇原政吉)

丹波哲郎(明石辰男)




監督 深作欣二


☆☆☆

遠藤辰雄→遠藤太津朗

深作欣二=ふかさくきんじ

☆☆☆

平成十年(1998年)八月十三日新世界東映

にて鑑賞。

☆☆☆
 演出の考察・シークエンスへの言及・台詞

の引用は研究・学習の為です。

 東映様におかれましては、お許しと御理解を

賜りますようお願い申し上げます。 
 感想文では物語の核心に言及します。未見の

方はご注意下さい。

 ☆☆
画像出典『仁義なき戦い 代理戦争』DVD


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仁義なき戦い 代理戦争(十)発煙筒


 広能昌三・松永弘・江田省一は山守組に

高校生制服を着た若者が発煙筒を投げこん

だ事件について、打本組に尋ねた。

 打本昇親分は笑い、「儂が知ったことかい。

そこいらのボンクラのやること迄責任取りゃ

せんよ」と述べ、こんとなもんである発煙筒

で怪我した訳でもあるまあがと問い返す。

  松永は静かに盃を取り出し、「今迄色々と

御世話になりましたが、今日限り他人になって

貰いますけん。武田のぶんも入っとります

けん」と宣言し盃を返し、絶縁関係となった

ことを明かす。江田が拳銃を見せて打本は

恐怖感を覚える。

  広能が挨拶し、松永・江田も続き、三人

は立ち去る。打本は三人の舎弟に絶縁し

窮地に立ったことを痛感する。

 山守組では愛人桃子と賭場で賭け事に

興じていた親分山守義雄が、松永に耳打ち

され、大広間に行く。広間には槇原政吉・

江田・広能が待機して、打本の乾分早川

英雄が控えていた。山守は座れと指示し、

「何なら」と用件を聞く。


    早川「うちの親父が指詰めましたけ

       ん。届けてくれいうて頼まれ

       ました。」


    山守「腐れ外道が。命乞いなら自分

       で来い言うちゃれ。」


    早川「それが今朝から姿が見えんの

       ですよ。」

 

    山守「はん?」


    槇原「シビれて神戸へ逃げやがったん

       です。これらを置き去りにして。」


    早川「ほんまに頭に来たですよ。乾分

       をほったらかにしにして逃げる

       親分が何処に居るんですか?

       盃返したろかと思うとるんです。」


    槇原「親っさん。こいつの力になって貰え

       んですか?」


    山守「打本が逃げたらええ汐時じゃない

       か?お前が号令して打本組を

       解散させんか?それでお前うち

       の組来いや?」


    早川「それでもええですが、儂が二代目

       に立ついうことで面倒見て貰えんで

       すか?小森は必ずトッて来ますけん。」


    広能「早川!おどりゃ男らしくせいや。乾

       分が居らんでも戦うんが乾分やな

       いんかい?おう!そう迄こっちに来

       たい言うんじゃったらよ、打本の首

       トッてから来いや。それが筋言うも

       んで!」


    山守「お前は黙っとれ!」


    広能「こんとなもん、相手にしとる時じゃない  

       ですよ。もし、これが神戸に知れたら

       どうなってるかわかってるんですか?」


 打本が指を詰めたことが明石組に知られたら

どうなるか?このことを指摘され、山守は恐怖を

感じる。

 そこへ電話がなる。松永が取り、明石組では、

打本の事で色々と聴きたいので、相原と宮地が

広島に行くと言うメッセージを伝える。



    山守「わしゃ、知らんぞ。打本に盃返して

        追いこんだんはお前らなんじゃけん。

        お前等で話つけい!」


    広能「もう手遅れですよ。こうなりゃ神戸と

        一戦交えるしかありゃせんですよ!」


  松永・江田は支度にかかると語り足早に去って

行く。広能は一礼して打本が詰めた指が入った瓶

を山守に渡して去る。山守は恐怖から瓶を槇原に

渡す。


 夜。広能組では倉元猛が抗争の準備をして、犬

に語りかけている。広能は岩見達と麻雀をしながら

夜を徹して抗戦準備を確かめている。電話が鳴り

西条が取る。山守の御大の姐さんからと聴き、広

能が取る。

 山守夫人利香は関西弁の男達が自宅周囲に居り

明石組の刺客だと思うので怖いと恐怖感を訴え、警

護に来て欲しいと頼む。山守は恐怖から金庫の金を

手元に置く。

 広能が乾分達と山守の家に行き、船員達が騒い

どっただけですと語って、怯える利香を宥める。利香

は槇原が来る来るいうて少しもこんことに不満を語り

頼りになるんは昌ちゃんだけと讃え、「いざと言う時

はうちの一緒に死んでやってね」と手を握って頼み、

山守が「不眠症で食欲も無いんよ」という状態である

と語った。

 そこへ山守が欠伸をしながら現れ、「どうしたんな

ら?よう寝とるのに叩き起こしやがって」と不満を語

る。利香は昌ちゃんがいざという時はあんたと一緒に

死んでくれると忠誠心を絶賛する。山守は早川に怒

り考え事しとるんじゃと激怒を露にした。広能は早川

がどうしたんですかと問う。打本が明石組に助けを

求めたことを聞いた早川が、打本を神戸迄迎えに

行き、態度を豹変した。山守は激怒して、「ぶち切って

くれちゃる!」と語る。

 広島にやって来た明石組幹部の相原と宮地は、ホ

テルで昌三と会談の場を設けた。


     相原「やあ。突然の話で堪忍や。一辺あんた

        と腹割って話してみたかったんや。」


     宮地「わいらと事構えるんか?手打ちにする

         んか?どっちなんや!」


     広能「頭からそう来られたら、どっちこっち言う

         てないですよ。あんた等が構えるんなら

         こっちも構えますよ。」


     相原「まあまあ。静かに話し合おやないか。知

        らん間柄やなし。広能、打本と仲直りした

        ってくれへんか?」


     広能「仲直り?」



 相原は小森対浜崎の喧嘩は山口の実力者豊田に会

い、打本を仲裁人にすること諒解を得ているので、広能

・江田・松永と打本が対立していると、明石組の格好が

つかなくなってしまうと語った。広能は自分の一存では

即答できないので仲間と相談したいと立場を説明する。

 宮路はこの際だからと断って、広島で構えているのは

あんただけやでと、広能に指摘した。


     宮地「この間うちの舎弟の法事で槇原が山守

         さんの代理で香典持ってきおってな。こ

         の度に騒ぎに関して酔うたような若衆

         抱えて山守さんは往生しとるという口上

         やったんや。その槇原からしてからが、

         『何時でも山守組は出る。明石組で骨

         拾うてくれ』言うて泣いてる始末や。」


     相原「儂のとこにも江田が電話してきおって

         自分はやる気はないちゅうって弁解し

         とった。」

 

     宮地「松永も四国で遊び回っとるいうやない

         け。やる気になっとんおはあんただけ

         や。下手したらわいらや山守・打本・

         みんなを相手にして玉砕せなせなあか

         ん情勢になっとったんやで!」


 広能は愕然とする。

 

 山守は組の広間に幹部を集める。槇原は山口の

豊田の口利きで浜崎と小森が手打ちをするので

みんなにこの手打式に出席してくれと頼む。長尾

が明石組とはどう話がついたんじゃと問う。

 槇原は神戸に行って今後山守組としては浜崎

の援助はせんということで諒解に達したと力強く

語る。江田は自分と松永・広能は、打本に負けた

ことになると怒る。


   槇原「打本とこじれたんは、盃返したそっち

       らのだけの問題で。山守組としては

       勝つも負けるもありゃせんのじゃな

       い?」


   松永「お前みたいな馬鹿とは話する気もな

      れん。明石組に最初から飲まれて帰

      ったんじゃないの?」



   槇原「誰がよ!?儂ゃ明石組の幹部前に

       しよってよ、うちの親父は日本一じゃ

       言うて啖呵切っとるんで!」


昌三が政吉に鋭く問うた。


   広能「槇原。こんな神戸行った言うとるが、

       何の用で行ったんない?おう!」


   槇原「親父さんの用でよ。」


   広能「親父さん。何の用が有ったんですか?」


   山守「何の用言うて法事じゃ言うてチラシ

       が来とったけん。」

 

 

 
山守組2  

 山守は裸足の両足を机に置き、乾分に薬

を塗らしている。恐らくは水虫の薬であろう。

広能の鋭い問いで痒みがきつくなる。  

 

  
   広能「ほいじゃ、儂等に構えさせて、あん

       た一人神戸に靡いとったんですか?」


 山守は痒みの辛さから乾分に「早くせんか!」

と薬塗りを急がせる。

   広能「酔うたような若い衆抱えて往生しとる

      言うて、誰が酔うとるんですかの?」

 

 槇原に明石組へ伝えさせたメッセージを昌三

が知っていることを山守は吃驚し、槇原に怒り

をぶつける。


   山守「そがな事迄喋ったんか!お前は?」


   槇原「云わんです!」


   広能「わしゃの、相原さんや宮地さんから

       はっきり聞いとるんで。組離れて骨

       拾うてくれ言うて明石組に泣き入れ

       たんは誰よ?」


 槇原は秘かに明石組に語った言葉をバラ

されて怯える。山守は槇原の裏切りに怒り

睨みつける。槇原は山守の足の裏に薬を

塗っていた若衆に自分と交代するように命じ、

山守親分の足の裏に丁寧にくすぐるように

薬を塗る。だが、山守親分の眼光の怒りは

熱かった。

 
山守組  

   広能「他にもカバチばっかり垂れとる

       もんが居るようじゃがの!そが

       いに命が惜しいんじゃったら、

       打本と仲直りして手打でも何処

       へでも出て行きゃいいじゃない

       か!そのほうがよっぽど正直で。

       こんとな喧嘩、わしゃ投げたわ

       い!」


 山守が「まあまあ」と広能を宥め、乾分衆

に「ええ話にせえや」と語る。


  浜崎と小森の手打式が行われ、広能・

松永・江田は打本に詫びを入れる形で和解

をする。打本・松永・江田・広能はそれぞれ

手を重ね合う。

  広能が立ちあがると、早川がボディチェック

で改めに来た。


   広能「二代目に成り損ねたの?」

 

   早川「御陰さんで若頭にさして貰いまし

      た。今後も宜しゅう。」


   ナレーター「この手打式は事実上山守組

          の敗北であった。こうして意気

          上がる打本は、その年の秋、

          念願の明石組組長明石辰男

          の六十一番目の舎弟盃を受け

          てその傘下に加わり、山守組の

          対抗組織としての立場をはっきり

          示したのである。」


 明石辰男から盃を受ける打本。打本と早川が

巨大な後ろ盾を得て微笑む姿。それぞれ白黒

静止画像で紹介される。

      

代理戦争


 ☆☆☆広島弁映画のウィリアム・

     シェイクスピア劇☆☆☆


  笠原和夫はシナリオ『仁義なき戦い 仁義

なき戦い 広島死闘篇 代理戦争 頂上作戦』

(幻冬舎アウトロー文庫版)に収録された『ノー

ト「仁義なき戦い」の三百日』において、東映が

第一部の興行成績が良かったことを受けて、

広島事件を二本に分けて作れとオファーを受け

たことを語っている


 笠原は抗争が起こるまでを第三部、暴力抗争

の顛末を第四部にするしかないと判断したが、

内紛が様にならない話で、映画になるのかどう

か大いに迷ったという。


    飯干氏の原作や美能氏の手記では、こ

    の件りの人間葛藤といい盃外交戦とい

    い実に秀逸な読み物となっている。しか

    し映画は読み物とは全く違う表現手段

    なのだ。疑惑、ねたみ、恐怖、思惑、顔

    はニッコリ腹には一物といった男どもを

    いったいどうやったら映像として描き分

    けることが出来るのか。たとえ描き分け

    られたとしても、アクション一つ有るでも

    なし、下品に云うとオール・ズッコケ連中

    のズッコケ話でしかない。爽快なアクション

    を期待して観に来てくれるお客さんのカ

    タルシスを充たすものは何処にもない。

    そんなものを作っても興行成績に自信

    が持てない、と頑強に突っ張ねると、

    それをなんとかするのが、高いギャラ(?)

    を取っているお前の務めではないかと

    脅しにかかる。こっちのほうがはるかに

    仁義なき戦いである。
    (『仁義なき戦い 仁義なき戦い 広島死闘

     篇 代理戦争 頂上作戦』347-348頁)


 第一部の公開が昭和四十八年一月十三日、第

二部「広島死闘篇」が同年四月二十八日である。

 笠原は同年四月二日に取材で美能幸三と服部

武(武田明のモデル)を尋ねた。お二人が現在(昭

和四十八年当時)社会人として交友関係を持って

いるものの、かつて抗争で戦った仲で主張は真逆

であったことを受けて大いに悩んだと言う。もう一度

美能幸三を尋ねたのが五月十四日で、美能さんか

らありのままを語ったもらったが、細部の事実を知れ

ば知る程全容は複雑で怪奇と笠原は感じた。


    私はコトここに及んで真相の究明は捨て、

    多少脈絡はつかなくとも、彼等全員のゴ

    タゴタをスクリーンに放り出すことで、「人

    間喜劇」を載せようと思った。バルザックに

    嗤われても背に腹はかえられぬ。

    (『仁義なき戦い 仁義なき戦い 広島死闘

     篇 代理戦争 頂上作戦』349頁)


 九十一日の時間をかけて、笠原は脚本を完成

させた。膨大な資料の収集・精読と熱心な取材に

よって証言を集め、緻密な構成で壮大な人間喜劇

を描きあげた。

 深作欣二の撮影は苛酷なスケジュールで敢行

されたことが窺える。

 打本は広能・江田・松永に発煙筒で威嚇したの

はボンクラで怪我した訳でもなかろうと笑うが盃を

返され、江田に拳銃を向けられて恐れる。

 指を詰めるが怖くなってアルコールに漬けて

瓶に入れて早川に届けさせて自身は神戸に逃

げる。早川は怒り山守に取り入る。広能は怒り

親分が逃げても戦うんが乾分の筋じゃろと叱り、

山守に打本の指詰めが明石組に知られたらと

迫る。山守は恐れおののき、責任を広能・江田・

松永に転嫁するが、広能は神戸と一戦交えるし

かないと語る。利香の頼みで夜に山守守護に

広能は向かう。利香は誘惑するように、うちのと

一緒に死んでやって欲しいと昌三に頼みこむ。

 シナリオでは山守がわざと眠そうな顔をして登

場すると書かれている。金庫を掴んで怯えていた

恐怖は本当であったのだろう。だが、早川が又

しても裏切って打本と和解したことに、山守の

激怒は熱かった。

 ホテルで相原と宮地から広能が一人で構え

ており、槇原が豹変の態度を神戸で為し、江田・

松永も命惜しさに保身に徹し、四面楚歌で玉砕

する情勢であったと宮地から教えられる。

 こうしてこの中盤のドラマを要約してみて、山守

組・打本組対立は盃外交をめぐり、保身と勢力拡

大を目指すも失敗で恐怖を覚え慌て怯えるやくざ

達の人間喜劇であることを感じる。命惜しさに慌て

ふためき、何とか自分だけは助かりたいという本音

に観客は笑いつつも、危機に立たされたら自分だ

って「命が助かりますように」と怯えるわなと膝を打

って感嘆する。

 打本を馬鹿にしきっていた山守が神戸を激怒さ

せたらと広能に指摘され、指を向けられ恐怖する

シーン。金子信雄の名演が光り輝く。

 水虫のシーンの田中邦衛には、見る度に爆笑

させられる。加藤武と室田日出男の笑いに、腹黒さ

を秘めた欲の世界が語られる。

 成田三樹夫と田中邦衛の口論も名場面だ。仁義

を語り標榜しつつも、親分達は勢力・金力を伸ばし

たいし、強大な明石組を怒らせたくないし、撫でて

欲しいと望む。欲深く生きる人間の本音と危機に

惹起する自己保身と恐怖を、名優達が細かく深く

勤める。

 一方で静止画像で無言で登場する丹波哲郎の

明石辰男親分の存在感が大きい。

 ホテルのシーンにおける遠藤辰雄(遠藤太津朗)

の相原と山本麟一の宮地の明石組大幹部の重み

は圧巻である。

 まさに広島弁のウィリアム・シェイクスピア劇だ。

明石組に泣きを入れた槇原を問い糾し、命を惜し

む松永や江田を叱責しつつ、広能は打本と仲直り

すればいいと厳しく語る。四面楚歌の情勢に置かれ

ていたことの悲しみもあり、怒りの炎も熱くなる。

 「二代目に成り損ねたの?」「御陰さんで若頭に

して貰いました」と演技合戦に菅原文太と室田日

出男の熱さとクールさが輝く。

 欲望・保身・恐怖の爆笑人間喜劇が過激に展開

するが、中心軸に広能の悲しみの物語があり、菅原

文太の深い芸がその悲しみの心を勤め明かしてい

る。

  
『仁義なき戦い 代理戦争』四十四歳誕生日

         平成二十九年九月二十五日



                       合掌


                  南無阿弥陀仏


                       セブン