rogo




「うぁっ真っ暗・・・」

「なぁーんにも見えないねぇ」


2人の前方に広がるのは漆黒の闇・・・ダークゾーン。
それは通常の暗さとは異なる、絡みつくような圧迫感を持っていた。
例えるなら、煮詰まったコールタールの池・・・。
ライトなどの物理的な光を一切通さない暗闇の通路である。


しかも闇のそこかしこには、凶悪なトラップが仕掛けられていた。
先のエリアに進む為には、このルートしか存在せず、次のレベルに到達するためには、感だけを頼りに前進する他はない。


「なに?このノイズ。」


「なにか聞こえるのか?」


「うん・・・」

「えーとね変なお経みたいな声が聞こえてる。」

人の可聴域を遥かに超えるアルの耳がヒクヒクと動いていた。


「多分、結界呪を秘領域の周波数に乗せてセキュリティシステムが詠唱してるんだろう。」
「呪力効果で、ダークゾーンが維持されているんだ。」


「なるほどぉ。」
「ということは、同域の周波数で逆ベクトルの投影系抗呪波動を照射/発生させれば・・・」


「そこで、こいつが役に立つ。」


竜が腰のストラップに下げた、アルハザードのランプの頭頂部を

引き上げると閃光が走り、周囲を薄ぼんやりと照らし出した。
ランプに封印されたドールのエナジーが結界呪を消し去ったのである。


「うぇ・・っ@@」


照らし出された周囲の壁面では、人の顔に見えるレリーフが壁一面を

埋め尽くし、うめき声を漏らしていた。あたかも生きているかのように・・・


いや!それは生きていた。
呪力により再配列された生体隔壁の細胞が人面岨化し、

暗黒結界呪を唱えていたのである。
邪悪な意思により操られる、生きたセキュリティシステム・・・


「人工的に造られた人面岨だな・・・」


「なに?それ?」


「簡単に言うと、まぁ・・・人の顔をした腫れ物の様なもんだ。」
「普通の腫れ物と違うところは、周囲に害呪を撒き散らすというとこだ。」


「嫌スギ・・・(´Д`)」


「このアーティファクトの力で、奴らの呪力は封印されているので
壁の模様ぐらいに思ってればいいさ。」


「こんな悪趣味な模様の壁なんてありえないんですけど・・・」


「さぁ、いくぞ、モタモタしてると置いて行くからな」


「いやだぁ~。こんな所においていかないで~TT」


アルハザードのランプの力により、照らし出されているとはいえ、

その効果は周囲数メートルの範囲に限られており、

その先には相変わらず漆黒の闇が続いていた。


「気をつけろアル。」
「どうもおかしい・・・」


「にゃ?」


「妙な空気の流れを感じる。」


「換気システム?」


「いや、違う。気流の方向がランダムに変化している。」


「!」


その時!彼らの後方から突風が吹きつけてきた。
瞬間風速に換算するとおよそ、40メートル!!
それも竜巻のように回転する烈風である。


木の葉のように吹き飛ばされる竜とアル。
その先のT字路の壁面には、丸く開かれた穴が穿たれていた。

円形の穴の周囲にはカッター状の刃物が超高速で回転。
穴に飲み込まれた者の四肢を粉砕する!
イビルファングと呼ばれる凶悪なセキュリティトラップである。


穴に吸い込まれる寸前、ハンドキャノンに仕込まれたアンカーを
天井に打ち込み、アルを抱きかかえる。
アンカーに繋がれたタングステンワイヤーが高速で伸びた。


「どっちだ!アル」


「右ぃ!」


左側の壁面を強くキックし、T字路の右へ向かい方向転換!
掴んでいたタングステンワイアーを切り離し、通路にダイブ!
アルを抱えたまま、数メートルを転がり、クルゥードな着地。


「いたたぁっ・・・」
「なんなのよぉ!一体。」


「トラップだ。」
「危うく、人と猫の合い挽き肉の出来上がりだったな。」


「見ろ、あれを」


「!」


T字路の左方向つまり彼らの後方にアルが目を向けると、そこには・・・
先ほどの壁と同等にイビルファングが設置され、凶悪な唸りを上げて回転していた。


「うっ・・・とんでもね~TT」
「索罠センサーをアイドリングしていてよかったぁ・・・」


「まぁ、結果オーライだな。」


「へっ?」


「L1のファイナルルームだ。」


ほんの数メートル先に青白く燐光を放つ扉が存在していた。


「その向こうの部屋にL2へのトランスポーターが在るはずだ。」
「おそらくゲートキーパーに守られているだろうがな。」


「簡単には通してくれないってわけね・・・」


「その通り。」
「オフェンシブモードにシフト!突入と同時にサーチアンドデストロイだ。」


「了解っ!」


「開けるぞ。」


「うん」


扉の中央にはめ込まれた金属急に手を触れ、押し込む。
「ブシュ!」エアロックが解除され、扉が左右に開かれた。

薄暗い部屋の中には異様な臭気を放つ緑色の霧がたなびいていた。


「くっさぁ!」

「なにこの臭い!」


「アイツらしいな。臭いの元は。」


部屋の中心部では、FATMANと呼ばれる巨大な肉塊のような
ビーストがモゾモゾと、うごめいていた。
襲ってくる気配は今のところ無い。


to be continued・・・

rogo




数度のエンカウントとバトルを繰り返し、竜とアルがたどり着いたのは、
突き当たりに扉のある袋小路であった。


扉には奇怪な紋様が描かれており、
竜が手を触れると、きしむような音をたて、左右に開いていった。


室内は薄暗く、死臭が漂っており、最奥の祭壇の上に置かれたランタン状オブジェクトが、周囲を怪しく照らし出してる。壁面では、松明、否!

松明の様に光る異形の生物が無数に揺らめいていた。


「うぁ!なにアレ(゜Д゜)」
「キモチワル~」


「ドール(Dhole)だ。」
軽く疼く首筋のアザに手を当て、竜が答える。


懐の古代書は共鳴していない。
エンカウントする眷属の霊格により、感応力が変化するようだ。


ドールとは、スクリーマー達からトーチワームと呼ばれるミミズに酷似した生命体で、頭頂部の生体発光器官から催眠性の光を放ち、引き寄せられた獲物に溶解液を吹きかけ、捕食する。催眠光を遮るバイザー類さえ装着していれば、取るに足らぬ下級ビーストである。


「だが、妙だな・・・」


「なにが?」


「ドールにしてはサイズが小さい。」
「元々のサイズは数百メートル。」

「あそこにいるのは大きめに見ても3メートル足らず。小さすぎる。」


「どういうこと?」


「おそらく、何らかの力によって、抑制されているんだろう。」


祭壇を調べようと歩み寄った、その時!

部屋の中央の窪みが光り出し、奇怪な姿をしたヒューマノイドタイプの

ビーストが揺らぐように出現した。


食屍鬼(グール)。その姿は、まるで膨れ上がった腐乱死体・・・。
ゴムのような弾力のある皮膚、ヒヅメ状に割れた足、イヌに似た顔、その指先にはかぎ爪。ファットマンと呼ばれるビーストである。


「竜!後ろ!!」


「BLAM!」

振り返りもせず、後方のファットマンに向け、ハンドキャノンのエナジーブリッドを叩き込む!あっけなく崩れ落ちる敵。


「よっわ~w」


「いや・・・まだだ。」


「えっ?」


倒されたはずのビーストは、あたかも高速度撮影のような速度で
損壊した体組織を瞬時に修復させ、再び起き上がってきた。


ショットガンモードにシフト!振り返りざま、散弾を射出!!

再び崩れ落ちる敵。


「これで暫くは、静かになるはずだ。」


「しばらく?」


「そうだ。」

「こいつは半幻影だ、手ごたえがなさ過ぎる。」
「スイッチを切らない限り何度でも生き返ってくるはずだ。」


「ということは・・・」


「多分、スイッチは、そこのオブジェクトだ。」
「解析してみてくれ」


「うん。」


アルの瞳孔が縦に細く絞られ、アナライズモードに移行。
体内のナノマシーンが持つデータベースにアクセス/検索。
瞬時に該当する答えを引き出す。


「名称ハンドライト。光子プールタイプのアーティファクトです。」
「接触に対しての、ハザードは認められません。」


「やはりな・・・そいつは、アルハザードのランプだ。」
「明かりを灯すことで、異世界を投影する。」


ドール達はこのオブジェクトに光エナジーを注ぎ込み、オブジェクトは
異世界「幻夢郷」のドールやグールのアストラルボディを不完全な形で
現世に投影。塔の持つ呪力が半実体化させる。


原理は異なるが、先だってエンカウントした際のリッパーの蘇生劇と

同様、永遠に繰り返される悪夢のエンドレスムービー・・・


「スイッチさえ切れば、全てが収束するはずだ。」

台の上のオブジェクトを手にし、上部にある突起を押し込む。


途端、周囲のドールが放つ光がオブジェクトに向けて集まり、
オブジェクトが一瞬輝いた後、収束。
アーティファクトの動作が止まった。


「BINGO!」


周囲のトーチワークの群れとファットマンの死体が、
元々そこに存在しなかったかの様に掻き消える。


途端に照度が下がり、生体隔壁による燐光のみが部屋を、

ぼんやりと照らしだした。


入手したアーティファクトを腰のベルトフックに装着。

「お宝入手だ。移送ポイントの位置は?」


「ここより西方向、5ブロック先のダークゾーンの中だよ。」


「近いな・・・」
「いくぞ、アル。こいつがあればダークゾーンを抜けられそうだ。」


「移送ポイント確認後。即、ESC。」
「シティに戻り、WSの情報収集を行う。」


「よぉ~し、いこかぁ~!」
「ミルクとお風呂が待ってるぞぉ~っと♪」


「なぁ、アル。」


「んっ?」


「お前、それしか楽しみが無いのか・・・」


「・・・(´・ω・`)」


to be continued・・・

rogo




「アル、座標確認してくれ。」


「了解。S/X22・Y05だよ」


「レベル2へのトランスポーターの位置は?」


「えーと、ここから約1.5キロ地点。ノイズの為、詳細サーチ不可能なゾーンに位置してるみたい。」


「ダークゾーンか。厄介だな・・・」

竜とアルは、エントリー地点から、およそ500メートル。

直進した十字路に立っていた。


相変わらず瘴気が漂い、得体の知れない気配が二人を取り巻いている。
と、その時。竜の所有する黒い古代書が脈動を始め、首筋に魔法円状のアザが浮かび上がった。


「竜!」


「あぁ。」
「眷属反応だ。ただし、かなり微弱。ザコだな。」


「どうする?念のためにACB張る?」


「いや、それほどの事もないだろう。」

「ただ、用心だけはしておいてくれ」


十字路を左折、そのまま数十メートル直進する。
一気に瘴気濃度が上昇。

首筋に浮き上がったアザの疼きも強くなっていく。

次のT字路でステイ&サーチ。状況を確認。


そこには、人間の姿とおぼしきシルエットが床にうつ伏せに倒れており、
周囲には緑色の燐光を放つジェリー状の物体が無数に蠢いていた。


「アル。データベースにアクセス。カインドリポートしてくれ。」


「K!」


「判明したよ。」
「名称プループ。エレメントは水。スライム系ビーストだね。」


「おかしいなぁ・・・本来、好戦的な種属じゃないはずなのに・・・」
「というか、なんでコイツらここにいる訳??」


「多分、そこに転がってる奴が、ガードビーストとして召還したんだろう。」
「ところが、ここの邪気に当てられて寝返り、召喚主に襲い掛かった。」

「というところだ。多分、エレメントが奴に近い為の共鳴反応だ。」
「マヌケな話さ・・・」


「ということは、あそこで倒れているのは・・・」


「WSだ。DOOMソルジャーの一人のはず。お仲間って訳だ。」


WS・・・それはレベルレッド以前、軍部の手で秘密裏に製造されていた異能兵士、ウイザードソルジャーを意味する略語である。


彼らは魔力を利用したサイバーオペレーションにより、肉体強化された魔道兵である。その身の内に宿した、強力な魔力・筋力・反射能力は、一師団に相当する戦力を持つ。ある事件により、その大半は死亡したが、非公式の記録上では、数人が生存していると伝えられている。


「・・・」


「直接攻撃は効かない。」
「隠業エフェクツによる、バックアップを頼む。」


「俺はその隙に、マイクロウェーブの高出力照射に呪力を乗せた近接射撃で、奴を内側から破壊する。」


「もともとは大した敵じゃないが、奴の邪気による影響で、かなり凶暴化していやがる。」

「油断は禁物だ。一気にかたずけるぞ。」


「らじゃ!」


ハンドキャノンのグリップ横に配置されたモードスイッチを押し、ブラスターモードからマイクロウエーブモードへとチエンジ。


異界から烈火のエナジーを引き出す為、高速呪文詠唱を開始!


呼応するかのように懐の黒い古代書が脈動。
首筋の赤いアザが怪しく輝きだし、強力な呪力がエネルギーチャンバーに注ぎ込まれる。


銃身には何本もの赤い導線が走り、真っ赤に発熱。
「悪く思うなよ・・・恨むならスレイブコードを照射した奴を恨みな。」


発動キーワードを唱える!


「イア! クトゥグア!!」
閃光とともに、呪力強化されたマイクロウェーブがバレルより照射!!


次々に蒸発し、消え去るビースト達。


「よし!そこのDOOM野朗を調べるぞ。」
「なにか情報を得られるかもしれない。」


その男の表情はまるで何者かに魂を抜かれたかのように虚ろであった。
二の腕には竜のアザに酷似した紋様が!
右手には1本の柄の根元に2本の刃が取り付けられた奇怪な武器が握られていた。


ツインソード。
2枚の高分子振動刃を、強力なモーターで高速回転させ、それに触れた敵を切り裂く、凶悪な近接戦闘用武器である。
取り立てて珍しいものでもなく、他の上級ウエポンに比べればそれほどの殺傷能力があるわけではないが、、その扱いやすさから、愛用する

スクリーマーは多い。


「やはりWSだ。見覚えがある。リッパーとか呼ばれていた奴だ。」
「よほど焦っていたんだな・・・。」

「プループ相手にこんな武器を使用するようじゃ。」


「コイツはたしか、呪力を乗せたソードでの戦闘を得意とした、近接戦闘系ソルジャーだ。」
「プループ相手にはちょいと分が悪かったという訳か・・・」


「WSは共時性ロジックが仕込まれた呪力性プログラムにより、同一場所にあつまる特性を持つ。」
「おそらくは他のヤツラもこの町に引き寄せられているはずだ。」


「もしかすると、この中で出会うかもしれないね。」


「その可能性は十分に有る。」
「できれば出合いたくないものだがな。お互い。」


「・・・」


「エントリーから、たった数百メートルでこの状況か。」

「先が思いやられるな・・・」
「よし、リサーチを続けるぞ。」


立ち去ろうとした、その時!


床に倒れ伏していたリッパーと呼ばれる男の死体が、まるでアニメーションのコマ送り巻き戻しのように起き上がり、その手に握ったツインソードを構えた!


「えっ!なに?」


「分からん。」
「攻撃してくる様子は無いようだ。」


「アル。念のため、フルディフェンスモードにシフトしておいてくれ。」
「以後、状況把握が終了するまで待機だ。」


「うん。」


竜とアルの目の前ではおぞましい光景が展開していた。それは・・・
既に終了した、過去の光景のリピート・・・


その情景は、竜が推理した内容通りだった。
ビーストの襲来、使役ビーストの召喚、ビーストの属性変移、抗うすべも無く死んでいく兵士。そして黄泉帰り・・・。


これらの情景が逆に繰り返されていき、敵ビーストとのエンカウントシーンまで到達すると、また、正しい時の流れに準じて、早送りで死の瞬間に向かう。


殺される・生き返る・殺される・生き返る。
永遠に繰り返される、死と生への繰り返し。

さながら悪夢のレイトショウ・・・


「たまらないな・・・悪趣味にも程がある。」

「因果律が歪んでいる!」

「しかし、これではっきりした。この塔の中には間違いなくアウターゴッドの力が介在している。」
「時空間の操作。そんなことを行えるのは、おそらく・・・」


「ヨグ=ソトース!」


人類の住む宇宙とは異なる、次元の裂け目に存在するといわれる。

全にして1、1にして全なる者。

あらゆる時空域へのアクセスを容易く行い、絶対公理であるはずの因果律さえ、ねじ曲げることが可能な邪神である。


「あぁ、そのようだ。」
「そこで再現されている、馬鹿げたカトゥーンを見れば明らかだ。」


「見ろアル!トゥールスチャだ。」
「リッパーは奴と、奴が洗脳したプループにより、殺されたんだ。」


「トゥールスチャは出現した場所から動くことはできない。」

「わかるなアル?だから、奴はそこにいる。」


「うん・・・」


「ヨグ=ソトースが、どんな気まぐれを起こしたのかは、定かじゃない。」
「だが奴は、本来、アザトースの道化であるトゥールスチャの発現に興味を持ち、因果律に介入。エントロピーをねじ曲げやがった!」


「幸い、俺たちは、因果律の外にいる為、トゥールスチャに襲われることはない。」
「ヨグ=ソトースの奴が、また気まぐれを起こさない限りはな・・・」


「とんでもない、アトラクションに乗ってしまったらしい。」
「事態は、想像をはるかに上回っている。」
「気を引き締めて事にあたらないと、リッパーの二の舞だぞ。」


「 ガクガク(((( ;゚Д゚))))ブルブル」


「兎に角、先を急ごう。」

「まずはレベル2へのトランスポーターだけでも確認しなければ。」


「ねぇ、竜」


「なんだ?」


「今日のところは一旦もどらない?」
「ほら、だってさぁ、なんというか、ねっ!」


「ダ・メ・ダ!」


「がーんΣ(゚Д゚,,)」


「さっきも言っただろ、事態の進展は事の他、早い。」
「グズグズしている暇はないんだ。」
「もし、嫌なら一人で戻れ。」


「いゃだぁ~TT 逝くよぉ~逝けばいいんでしょぉ~シクシク・・・(´・ω・`)」


「良い娘だ。」


さらに直進。何回かのビーストとのエンカウントと戦闘を繰り返し、

たどり着いたその場所は・・・


to be continued・・・

rogo




BIASの周囲を取り巻く防御隔壁の前にやってくると、赤い軽装アーマードスーツを身に付けたゲートガーディアンが話しかけてきた。


「お前は既に登録しているスクリーマーか?それとも新人か?」
「なにせ命知らずが多くてね、顔を覚えきれないのさ……」


「もしお前が新人なら、FRDのIDをイリーガルチェッカーに入力しろ。」


先ほど首屋で入手した5桁のIDコードをチェッカーのキーボードに入力。
ほどなく、許可メッセージが認証ディスプレイに浮かび上がる。

「All Green 」


同時にガーディアンのヘッドマウントディスプレイに、確認情報が表示。
「No.42961 Hunter Class90 Legality Screamer 」


「! いったい何者だオマエ・・・」
「ルーキーのくせに、この異常なハンタークラス値は・・・」


ハンタークラスとは、BIAS内での戦闘結果とスクリーマーの身体能力から算出される称号値で、この値が高いほど優秀なスクリーマーとされる。


本来は塔内での戦いにより、アップデートされていくものなのであるが、
身体能力がずば抜けている場合、稀に高デフォルト値となる者がいる。
つまり、竜の戦闘能力が異常に高いことを意味しているのである。


「あ?どういうことだ?」


「いや、なんでもない・・・要するにお前さんが異常にタフだということだ。」


「あぁ、よく言われる。殺しても死なない奴だと(苦笑」


「OK、確かに認証した。お前を登録済みのスクリーマーとして認める。」
「この門から先は一切の統治法が適用されないエリアだ。」


「内部において法的庇護は存在しない!」
「以上の事を承認するならば、門に描かれた紋章に手を合わせろ。」


門には逆十字架を模したセンサーが配されていた。


「統治法?仮に有効だとしてもどんな恩恵があるというんだ・・・」
聞こえよがしに、つぶやく竜。


「そんなものに期待していない。頼れるのは自分だけだ。」
竜が右手の掌をセンサーに重ねる。


刹那、竜の体内のマイクロマシンに記録されたデータをセンサーが読み取り、データベースへアクセス。BIASのゲートロックが開錠された。


「Caution! BIAS Gate Open! Entry Process Start! 」
アラートメッセージが周囲に響き渡る。


「プシューッ!」
頑強なエアロックが解除。


「ゴッゴゴゴゴ・・・」
地獄の底から響くような音たて、ゲートが左右にスライドしていく。
今、魔塔BIASの門が開かれたのである!


「おい!タフガイ」
竜の背後から、先ほどのガーディアンが声をかける。


「ん?」


「機会があったら、酒でも飲もうや!」

「まあ、お互い生きていたらの話だが……」


ガーディアンに背を向けたまま、天に向かい拳を突き上げ、サムアップ。BIASへと踏み出す竜。


「生き延びてやるさ。必ずな・・・」
「いくぞアル! 地獄の釜の蓋が開いたようだ。」


「にゃっ!」


あたりは、まるで生き物のように脈動する、奇怪な生体燐光壁により、
ぼんやりと照らし出されていた。
周囲3メートルぐらいは、視認可能な照度である。

吐き気を催す死臭のような瘴気が漂い、動く者の気配はない。
入塔前の想像とは異なり、竜とアルの周囲を静寂が取り巻いていた。


「静かだね・・・それにこの臭い・・・くっさぁ!」


「入った瞬間に、エンカウントするかと思ったんだがな・・・」


「うん」


「だが、油断はするなよ。」
「いたるところに、糞みたいなトラップが仕掛けられているはずだ。」


「了解。」

「オフェンシブモードは準備完了だよ。」


「よし、索敵を行いながら前進するぞ。」


「おっけぇ!(`゜ω゜´)ゝ」


一歩を踏み出そうとしたその時!
彼らの目の前を子犬ほどの大きさの存在が横切った!


「フギャーッ!」

アルが威嚇の声を上げる。


「DOM!!」
竜の88ヘルファイアーハンドキャノンが火を噴き、眩いマズルフラッシュが周囲を一瞬照らし出す。


「ジャァァァァッ・・・」
断末魔の声が通路に響き渡った。


「ネズミ・・・」


「のようだな。ただし大分でかい。しかも、このツラ見てみな。」
「遊園地のホストとしては上等なキャラだ。(笑」


「!」
「うっわぁ・・・キショイ(´Д`)」


足元に転がっている、その生物の顔は・・・
前頭部・両頬・顎から顔の中心部に向かいサーベルタイガーの様な牙が生えており、顔の中心には邪眼を想像させる単眼が位置していた。


カッターラット。
BIAS内を徘徊する変異体(ビースト)には正式な学術名は存在せず、
塔内でそれらと対峙したスクリーマー達によって略称がつけられている。


毒爪により獲物をひっかき、弱らせた後、
顔に生えた4本の牙で獲物に噛み付き、消化液を注入、

体液を吸い取る。蜘蛛のような特性を持つ下級ビーストである。


「この程度の奴なら、こいつ(ハンドキャノン)を使う必要は無いな。」
「弾がもったいない。NINJYA SHOOTERで十分だ。」


NINJYA SHOOTERとは、古来、忍者が使用した手裏剣に酷似した武器で、ガス噴射により、星型の鋭利な刃が敵の身体に食い込み、内臓された圧縮TNT火薬が爆発するという武器だ。


使い捨てではあるが、コストパフォーマンスの高さから、低レベルスクリーマーご用達のライトウェポンである。


「ホストのお出迎えも終わった。」
「いよいよ、楽しいアトラクションに向かうとするか。」


「う~っ」


「なんだ?」


「遊園地でネズミって、ソレ・・・。」


「レベルレッド以前にそんなアミューズメントパークが存在したらしい。」
「今は、変異体がうろつき、その全体がホラーライド状態だがな。」
「まぁ、ここよりは幾分マシな場所だ。」


「はぁ・・・そんなのばっかり(´゜ω゜`)」
うなだれるアル。


「よし、行くぞ!」
「今日のダイブは、様子見だ。」


「レベル2へのエントリーを確認次第、撤収する。」
「気をぬくなよ。」


「らじゃぁ~♪」


いよいよ、BIASの内部に侵入した竜とアル。
滑り出しは好調と見られた。しかし!

その行く手には、未だ見ぬ数多の強敵と罠が、彼らを待ち構えていた。


to be continued・・・


rogo




ビーストシティの朝は鶏の一番声ならぬ凶鳥の絶叫で明ける。
今朝も悪鬼の様な鳴き声が、早朝のビーストシティに響き渡っていた。

それは城砦都市BIASの上空を取り巻く瘴気の中を、旋回していた。
蝙蝠の翼と、人の手足を持った奇怪な生物、イビルバード。

都市の外壁に取り付けられた自動追尾式迎撃レーザーシステムにより、
絶えず撃ち殺されてはいたが、どの様な理由によるものか、

死んだと思われた瞬間、また、空中で再生する。

つまり、一定数以下にはならないのである。
まるで悪夢のエンドレス上映・・・

「おや?もう、ご出勤かい?早いじゃないかBOY。」
「まぁ、せいぜい稼いでおいで。」
「生きていたら、また戻ってきな。生還祝いをしてやるからさ。あははは。」

頬に星型のタトゥーを入れ、厚化粧をした大柄な女将が軽口をきき、

竜達を宿から送りだした。


彼女は、一階が酒場。2階が宿屋の「Dooms Day」を経営する

BIG MAMAと呼ばれる女丈夫である。

この店はビーストシティにたむろするアウトロー達の情報交換の場で、
酒・ドラッグ・女・ギャンブルを提供する、シティ唯一の娯楽施設だ。

よって、利用するほとんどの者達は、トラブルによる店の出禁を恐れ、
ここの女将に頭が上がらなかった。

竜達は「Dooms Day」出立後、メインストリートを直進。
何本目かの路地を右折すると、怪しげな路地に入って行った。
昨夜、酒場で得た情報を頼りに、BIASへの1歩を踏み出したのである。

その店の壁には、先刻、空を舞っていた凶鳥の首そっくりのレリーフが飾られ、その上にはHEAD CUTTER(首切屋)と書かれていた。


通称、首屋。

魔塔BIASに巣くう、ビーストと呼ばれるモンスターを倒した者に、
業績に応じてクレジットを支払う、統治軍公認の換金所だ。

「首切屋・・・。どいつもこいつも、趣味のいいヤツばっかりだな。」

戸を開け、中に入ると、薄暗い店内では、眼鏡をかけた初老の男が、
様々なビーストのボディサンプルをバックに座っていた。

「お、見かけない顔だな。新人さんかい?」

「そんなところだ。」

「エントリーの方法は、どこかで入手済みかい?」

「いや。」

「そうか、まるっきりのyoungか。」

「それにしちゃいい得物ぶらさげてるじゃないか。twink さんよ。」
竜が腰に付けた、88ヘルファイアーハンドキャノンをちらりと見る。

「いいか、よく聞けよ兄さん。」

「あんたがBIASにダイブする為には、まず統治軍のNoob野郎にお伺いを立てなければならん訳よ。」
「つまり、楽しい遊園地のパスを買わなければならないって事だ。」


「そして、これが入園券だ。」

後ろの棚から、小銃に似たデバイスを取り出し、カウンターの上に置く。

「これは?」

「FRD(ファイティング・リポート・ドラッグ)入りのシュート(注射器)だ。」
「こいつがなければ楽しいアミューズメントパークには入園できない。」

「ドラッグ?」

「そんなもんだ。但し、コイツをキメてもぶっ飛べる訳ではないがな(笑」

「おまえさんがEK(エネミーキル)した情報を視神経から取得。」

「その後、ここにあるデータベースに情報を通信するナノマシーンが封入されたドラッグだ。」

「FRDの効果時間はおよそ24時間。」
「次のダイブ時には、またチクリとやらなければならない。」

「また、こいつは、BIASダイブ時の登録証明書がわりにも機能する。」
「購入後、お前さんに発行されるIDナンバーを塔のガーディアンに告げれば、その場で照会が行われ、ゲートが開かれる。」

「もし生きて出てこれたら、ここに戻ってきな。」

「戦績に応じたクレジットを支払ってやる。」


「手に入れたクレジットをどう使うかは、お前さんの勝手だ。」

「酒や女を買うも良し。」
「次のダイブに備えて上等な武器や防具をショッピングするのも良しだ。」

「だいたい分かった」

「OK、説明はここまでだ。どうする買うかね?」

「あぁ、買わせてもらう。」

昨夜、ブラッドストーンを賭けて行ったホロポーカーで、酔っ払いから巻き上げたクレジットを使い、FRDを購入。

「ほいよ。GOOD LUCK!」

店を出た竜にアルが話しかける。

「いよいよだね。」

「そうだな・・・だが、ファーストダイブで決着がつくとは思えない。」
「いいか、まずは様子見だ。」
「ヤバクなったら、とっととケツをまくるからな。」

「索敵と防御に重点を置き、状況に応じてオフェンスモードに移行。」
「レベル1程度じゃ、ザコしか沸いてないと思うが、念には念を入れる。」
「最低限の情報を入手次第、ダイブアウトだ。」

「了解!」

BIAS内部は、特別なヒエラルキーにより、ビーストの生息域や侵入者を撃退するセキュリティトラップの難易度が定められていた。


上層に行くに従い、出現するビーストは強力になり、仕掛けられた

セキュリティトラップも凶悪化していく。
あたかも、天守に存在する何者かを守るがごとく・・・


BIASの最下層レベル1。そこに生息するのは、最弱のビーストだ。
新米のスクリーマーはまず、この低層部で経験を積み、入手したクレジットにより、武器や防具を強化。上層へとステップアップしていく。


上層部へ上がれるぐらいになると、さすがにソロダイブはきつくなる為、数人でパーティを組みアタックをかけるのが通例となっていた。


他者との協力関係を嫌い、ソロダイブする強者も存在していたが、それは一部の異能力を持つ者だけで、彼らは、他のスクリーマー達からは

尊敬と畏怖の念を込めて、SDS(ソロダイブ・スクリーマー)と呼ばれた。

「首を洗って待っていろ。必ず決着をつけてやるからな・・・」
前方の塔を睨み付ける竜の全身に、強烈な闘気が燃え上がっていた。

to be continued・・・

rogo




湯気で煙るバスルーム。

一人の少女が鼻歌交じりにシャワーを浴びていた。


背中まである銀色のロングヘアー、スラリと伸びた両足、細い腰、

小ぶりだが形の良い乳房・・・一見、子供のように見える、その小さな

身体からは信じられないほど、均整のとれたボディーライン。


必要以上の脂肪はついておらず。引き締まった筋肉を纏ったその姿は、
猫科の猛獣の子を、おもわせる。


違和感を感じさせるのは、その背中にピンク色に浮かび上がった
集積回路のようなアザと、まるでもう一人の存在がいるかの様な独り言。
バスルームには、鈴のような声が響いていた。


「♪♪♪」


「ふ~っ、やっぱりお風呂はサイコォ~♪」

「ほんっと、1週間ぶりなんて信じられない!」


「いったいアイツどーいうつもりなのか、ワカラーン!ヽ(`Д´)ノ 」

「帰ってきたかとおもったら、バタンキュー・・・」


「そりゃ、疲れていたのもわかるけどさぁ・・・」

「ちょっとぐらい、お話しにつきあってくれたっていーじゃん。(´・ω・`)」


「アルファねっ、お前もそう思うでしょ?」


「にゃっ?」


「フ~ッ!!」


「なによぉ~」


「お風呂が気に食わないの?」


「きちゃないよっ!お前だって1週間もお風呂入ってないんだからさぁ」


「あのねっ、そんなことじゃもてないよっ!」

「女の子わ、いっつもキレイキレイじゃないとだめだとおもうんだ。うん。」


「あんたも女の子でしょっ!」

「かっこいいオス猫ちゃんきてもフラちゃうぞぉっ(*´▽`*)」

「それっ、きゅっきゅっきゅっ~♪」


「フギャー!!」


「んっもう!」


「あっ!だっめぇ~!!まだ、シフトしちゃだめぇ~TT」


少女の背中に集積回路状のアザが浮かび上がり、

そのパターンが一瞬、青く輝いたその瞬間・・・
そこには銀色の毛から雫を滴らせた子猫が座っていた。
アニマルフォーム・・・。


「うぅっ・・・(´・ω・`)」


さる事情により、アルの体の中には2つの人格と体が混在していた。、
子猫のアルファ、そしてシャワーを浴びていた少女オメガである。
彼女はナノテクノロジーにより、異なる2つの生命を1つのボディに宿す、
高機能演算型のサイボーグであった。


通常は、アニマルフォームと呼ばれる、機動性を活かせる猫の身体であるが、体内のマイクロマシーンのロジックサイクルが規定時間を迎える

ことで、セミヒューマンフォームと呼ばれる人型にシフト(変異)する。
彼女の言うところの「シンデレラエフェクツ」である。


セミヒューマンフォーム時。彼女は本来の名、オメガと名乗り、
アニマルフォーム時においては、アルファとオメガを統合させた名、

アルフォメガを名乗る。


また、セミヒューマンフォーム時には、猫としての性格が表層意識に出現し、人としての人格とのコミニュケーションが脳内において可能になるが、他者からみれば、ぶつぶつと独り言を言うアブナイ娘。

要するに電波系・・・


アニマルフォーム時においては、ナノマシンによる高機能解析演算能力と、周囲の状況に対しての超アナライズ能力を発揮するが、セミヒューマンフォームにおいては、それら能力は使えず、代わりに破壊的な腕力を発現させる。要するにバカヂカラ・・・


しかも、この少女。もう一つの人格(猫格)に大きな付加がかかると、
セミヒューマンフォームからアニマルフォームへと強制変異してしまうという、しょーもない持病(プログラムバグ)を持つ。要するに持病持ち・・・


誤解を恐れず、あえてミモフタもない表現で言い表すとすれば!
現代科学の粋を凝らした、猫萌え系、持病持ち、ハイテクコスプレ娘・・・

まさに!ナサケナイ・・・(´Д`)

※ドクシャノミナサマ、ホントニ、モウシワケゴザイマセン・・・TT(作者談)


そのころベッドルームでは・・・


泥のように眠る竜。そして悪夢。
サイドテーブルに置かれた黒い本が、まるで生きているかのように脈動を開始、表紙の紋様が怪しく輝きだす。共鳴するかの様に、竜の首筋に魔法円のようなタトゥーが赤黒く浮かび上がった。


「う・・・」


果てしなく広がる薄明の大地、吹きすさぶ瘴気。
周囲では悪霊の叫び声が響き渡り、漆黒の天からは、大地を穿つかのような落雷。金縛りに囚われたかの様に、その場に立ち尽くす竜。


突如、激震とともに大地が割れ、巨大な裂け目から出現したのは・・・

伏魔殿パンデモニゥム!

古来、悪魔が棲み、人の世に害をなす姦計を企むと伝えられる

魔塔である。その上空に浮かび上がるのは、異形の魔人の巨大な顔。
いつか何処かで見たことのある、顔・・・


「てめぇ!!」
怒りも顕に、魔人と対峙する竜。


「全ては既に確定した未来へと向かう。予定調和なのだ・・・。」
「抗うな竜!その血と肉を我に捧げよ。」
周囲に紫電を纏い、圧倒的強制力を持つ念話を使用。

魔人が竜に語りかける。


「ふざけるなよ・・・てめえの思い通りになってたまるか!」

竜の目に、怒りと怨念に満ちた憎悪の炎が燃え上がる。


「みてろよ、クソヤロゥ!」

「這ってでもテメェの所にたどり着き、その喉元に喰らいついてやる!!」


「クックククク・・・いつまで虚勢を張っていられるかな。」
「予言は必ず成就される。それが天理。」

「受け入れるのだ竜、己が身の宿命を。」


「ケッ!だれが!!」
「おれは諦めが悪いんだ。」


「まぁよい。待っておるぞ。」

「我らが再び出会うその時が、新たなる創世の時と知れ。」

魔塔の頂上から噴射された紅蓮の炎が竜の全身を被い、

その全てを焼き尽くす!


「ぐぁああああああぁ・・・」


「竜! 竜! 大丈夫?」

子猫の姿にシフトしたオメガが、心配そうに竜の顔を覗き込んでいた。


「ん・・・あぁ・・・。」


「またいつものヤツ?」


「あぁ・・・」
「あのやろう、毎度、夢の中にまで出てきて苦しめやがる。」


傍らの魔道書の発光は既に収まり、竜の首筋のタトゥーも消えていた。


「竜・・・」
しなやかな身体を竜の首筋に優しく擦り付け、

竜を慰めるかの様にその身を寄せるアル。


「だいじょうぶ、私がついてるよ。」
「たとえどんな事になっても、私は竜の味方だからね。」


「あぁ。」
「たのんだぜ相棒・・・」


すでに時間は午前3時を回っていた。
あと数時間後には、夜が明け、狂気と喧騒にまみれた一日が始まる。
刹那ともいえる静寂の時間が、孤独な魂を共有する2人の旅人を

優しく包み込んでいた・・・。


to be continued・・・


rogo




「一雨きそうだな・・・」

上空では不吉な黒雲が渦巻き、不気味な放電現象が発生していた。


「雨きらいだぁ~TT」


インペリアルヒルからおよそ4キロ。
竜とアルは、ビーストシティの存在する大地の入り口に立ち、

それを見上げていた。


HAVENS GATE・・・チタニウム合金で作られた、巨大な門である。


門の基部にはこう記されていた。

Dinanzi a me non fuor cose create
永遠の物のほか物として我より先に
se non etterne, e io etterno duro.
造られしは無し。しかして我、永遠に立つ。
Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate'
汝等こゝに入る者、一切の望みを棄てよ。


「ダンテ神曲の一文か・・・。」
定礎部分に刻まれた文章を眺めながら、苦笑する竜。


大地の周囲は隔壁で囲われており、内側に侵入するためには、

この門を通過しなければならない。

隔壁の内側に広がるのは、10年前、魔塔BIASと共に海底から浮かび上がった広大な土地、デビルスランド。

その地のほぼ中心にレベルレッドの元凶といわれる塔BIASと、

それを取り囲むビーストシティが存在する。


最外周が、デビルスランドの周囲を取り囲む壁。次にビーストシティを

外部の脅威から防御するための壁、そして最後にビーストシティの中心に位置するBIASを囲む壁。この3重のセキュリティにより、デビルスランドは厳重にプロテクトされていた。


内陸部は、非ユーグリッド幾何学状の奇石が乱立し、そのいたるところで毒煙が大地から噴出。デモンストライクと呼ばれる落雷が現象が絶えず発生しており、無数にうろつく変異体が侵入者の命を狙っていた。

竜とアルが目指すビーストシティとは、内外に敵を抱える、超危険区域なのである。


「アル。」


「ん?」


「デフェンシブモードをビーストシティに辿り着くまで張りつづけてくれ」
「エネミーインサイト毎にオフェンシブにシフト。」

「それ以降はサーチアンドKILLだ。」


「うん、分かったぁ。」

「ねぇ竜・・・」
肩の上からアルが、いつになく神妙な声で竜に語りかける。


「ん?」


「ようやくここまで来たね・・・」


「あぁ・・・。」
彼方に見えるビーストシティから視線を外さぬまま、竜が答える。
その目には悲壮とも受け取れる色と、不退転の決意が浮かんでいた。


「覚悟はしていたけど、実際たどりついてみると、すんごい不安だよぉ。」


「心配するな。お前は俺が守る。」
「そして、全てに決着が着いたら・・・。」


「うん・・・。」


「アル。いいか。今は目の前の事だけを考えるんだ。」

「余計な感傷と躊躇は死を招く。」
「お前はなにも心配せずに、サポートだけに専念してくれ。」


「竜・・・」


「なんだ?」


「必ず生きて帰ろうね。それと・・・。」


「ん?」


「ヤッパリ、やぁーめた!ぜーんぶ終わってから話すよぉ。」


「・・・勝手にしろ!」


「あはははは。」
「んじゃ、いこぉかぁ~!」


「あぁ・・・」


竜がゲートの定礎に手を合わせると、セキュリティシステムが作動。


「ここより先、侵入する者の生命の保証はない。」

「汝、自己責任において進入を望むなら、祈りの言葉を我に捧げよ。」


「アル!ゲートキーパーにコネクト。パスワードをハック。」


「にゃっ!」

アルの両目が赤色に変化。生態素子より発された磁気により、

ゲートの動作を司るデータベースにアクセス。
待ち受ける攻性ウィルスを迎撃し、内部コードをアナライズ。

パスワードをハック!


「all data analysis & Hack completion!」
  
アルが入手したパスワードを唱える。
「Ηλι ηλι λεμα σαβαχθανι」


エリ、エリ、ラマ、サバクタニ・・・ユダの姦計により、十字架に貼り付けになったキリストが最後の時に発した言葉・・・

「神よ、神よ、我を見捨てたもうたか。」
このプログラムを組んだのは、よほど信心深く且つシニカルなソフトウェアエンジニアだったらしい。


「ZUGOGOGOGOGOGO----!」


地響きと共に強化チタニュウム製巨大ゲートが開かれる。
そして、その先には・・・魑魅魍魎跋扈する地獄の荒野が広がっていた!


「いくぞ!!」


「うん!」


進入した竜達に、次々に襲い掛かる変異体の群れ。
折りしも振り出した黒い雨と突風が吹きすさぶ中、

大地からは瘴気が吹き上がり、天からは落雷が!


右へ左へと巧みにビーグルを操りながら、敵と障害物を避け、疾走。
さながら、永遠に続くかと思われる地獄の逃避行・・・。


ビーグルのモーターはオーバーヒート寸前。

アルの予測演算速度が能力限界値まで跳ね上がる!


コンマ数ミリハンドルを切り間違えれば、地獄行きの瞬間が継続する。
竜の反応力を上げるために自閉モードにシフトさせた精神拘束プログラムも外界からの情報負荷により、実行限界が迫っていた。


もはや、これまでかと思われたその時・・・


彼らの前方に漆黒の空間が出現した。
否!それは空間ではなく物理的な質量を持つ巨大な壁であった。


高さ数百メートル、左右には無限に続くかのように見える、巨壁。それは、ビーストシティを外部の脅威から防御し、且つシティ内で発生する脅威を外部に漏らさないために建築された防御隔壁だ。


フルスロットルのまま、隔壁に向かい全速で突進する竜。
壁に激突するその直前!隔壁の一部が開かれ、その中から

誘導レーザー光が放たれた!


「アル!誘導レーザーをキャッチ&トレース!!」


「にゃー!!」


前方から発せられる誘導レーザー光がアルの両眼に集束。
ビーグルはランディングラインに導かれ、わずかに開いた外壁の穴をすり抜け、シティ内のビーグル専用滑走路に突入。

エアブレーキを作動させる。


BAM!


ブレーキ発動による破裂音とともにビーグルが急減速。

エンドラインすれすれに停止。


「Touchdown! Well Come to Beast City 」
インフォメーションボイスが二人を迎える。


「ふぅ、思ったよりきっつかったねぇ(´Д`;)」


「あぁ、どうにか、たどり着いたようだ・・・」


「オイお前達。表から来たのか?」
一息ついている竜達に,発着オペレーターが声をかけてきた。


「あぁ・・・」


「信じられん! モーゼエフェクツが発生している訳でもないのに・・・」


「なんだそれは?」


「月に一度、新月の夜、理由は定かではないが、外界が静かになる。」

「今ここにいる奴らは、それを利用して此処に辿り着いたのさ。」

「おまえさんのように、平常日に来る奴なんて、ここ数年みかけないよ。」


「ということは、以前、俺の他にも同じようにやってきた奴が?」

怪訝な表情で問い返す竜。


「たしか3年前にも同じように、たどり着いたヤツがいたなぁ・・・」


「どんな奴だ?」


「あぁ・・・なんかボロボロのローブで全身を被った不気味な奴だった。」


「竜 もしかして・・・」
アルが耳元でささやく。


「ああ。そうかもしれないな・・・」

「まぁ、ここまで来たんだ、焦らなくても、そのうち出合うはずだ。」


「うん・・・」


「おい、オッサン。」


「あ?」


「頼みがある。」


「なんだ?」


「上等な酒と新鮮なミルクを飲ませる酒場、それに熱いシャワーを浴びることができる宿を教えてくれないか?」


アルに向かいウインク。


「うにゃ~♪」


to be continued・・・

rogo




「3E 31 36-にいちゃん。5E 3C 2F 54-目的地はビーストシティだろ?」
妙な数列を唱えながら、カウンターにもたれかけ、話をつづける小男。
どうやら背中に背負ったカスタムPCから脳に結線されている
データバスの内容が言語中枢にリークしているらしい・・・。


「お前は?」


「俺は- 44 3E 3C-ラット。ガイアブラザースの舎弟だ。」
「クレジットさえ貰えれば-FF 2C 00-どんな情報でもお望み次第だ。」


「ようするに情報屋か?」


「-2F 48 44-そんなところだ。」


「で、その情報屋が何の用だ?」


「あぁ。取っておきの情報がある。-C0 C0 80 80-買わねぇか?」


「いらん。」


「おいおい、ちょっと待てよ-00 FF FF-決して損はしない情報だぞ」
「かなりヤバイ奴らが-BF BF-00-あんたの事を探してるんだがな・・・」


「?」


「しかもそいつらは-FD D7 BD-アンタの命を狙っている。」
「と、ここまでの情報はサービスだ-FF 00 FF-どうだい、続きを聞きたくねぇか?安くしとくぜ。」


「そうか。それは大変だ。」
まるで他人事のように平然と言い放つ竜。


「しかも、そいつらが本当に狙っているのは俺の命じゃなくて、

こいつって訳だ。」

内懐から無造作に、一冊の古びた本を取り出す。
現在では珍しい皮の装丁で、表紙には不思議な紋様が描かれている。


「!? 知っていたのか?-00 FF 00-」


「あぁ・・・俺にも高性能の情報収集デバイスがついているんでな。」
チラリとスツールの上で毛づくろいしているアルに目をやる。


「ニャ?」


「何でそんなもんに-61 64 00-手を出したのかはよく分からんが、SITが動き出すぐらいだ。そいつにはとんでもねぇ価値があるんだろ。」

「いったいそいつは?」


SIT。それはレベルレッド以降、暫定政府機構により作られた、Security・Impart・teamの略称である。表向きは統治地の秩序を乱す、ならず者達を規制する警察機構とされていたが、その実、暫定政府機構の不利になる反動因子の強制粛清を行う、ゲシュタポのような存在で、人々からは毒虫のように嫌われていた。


「さぁな。」

「だが、ヤツラにとってはライナスの毛布ぐらいには大切なものらしい。」
「要は価値観の問題だ。」
「あんたも分不相応な問題に首をつっこむと、痛い目をみるぞ。」

「気をつけたほうがいい・・・」


「価値観の-00 FF 00-問題って訳だ。」


「Turue! さすが情報を商品にしているだけはある。飲み込みが早いな。」


「分かった-61 64 00-どうやら俺のビジネスは此処には無いらしい。」
「実は俺もこれからビーストシティに向かうところだ。」

「-2C 00 00-もし、向こうでなにかあったら声かけてくれ、」


「あぁ・・価値観が合致したらな。」


食事と一時の休息を取り、竜とアルが店を出ようと戸を開けた瞬間・・・
「DOM!!」
衝撃波が竜の耳元をかすめた。


「ヤレヤレ・・・早速お出ましか。まったく、落ち着かない町だ。(笑」


「第一級情報犯罪者 RYU KAIMON(開門 竜)持ち出したオブジェクトを返還し、すみやかに投降せよ。」

「これは警告ではない命令だ!さもなくばデリートする!!」


「俺はビーストシティに行かなければならないんだ。」

「こんなところでグズグズしてられるか・・・」
竜のその目には、何者も抗えない強烈な決心が浮かんでいた。


「アル。」


「ニャ?」


「コード・ブルー発動!」
「周囲の状況をアナライズ。アクティブエネミーをロックオンだ。」


「りょ~かい♪」

アルの瞳孔が細く引き絞られ、青色から金色に変化。尻尾が立ち、

耳が微動する。少女のような声は無機質なマシンボイスに変化。
「i acceptance! all data analysis completion. redy to connection!!」


「Turue!」


ハンドキャノンをブラスターモードにチェンジ。
まるで無人の荒野を歩むがごとく、敵に向かい、真っ直ぐに進んでいく。
すべての攻撃を完全予測。最小限の動きで避け、迎撃する。
サイバーオペレーションにより、脳の反応速度と筋力を強化した
ソルジャーだけに使用が可能な銃撃格闘術。ブラストアーツだ!!


竜の攻撃により、次々と倒されていくSITの精鋭達。
死の間際、彼らの顔には驚愕の表情が浮かんでいた。


数刻後、ビーグルのバッテリーと弾丸の補給をウエポンショップで手早く済ませた2人は町の出口に立っていた。


「さて、補給は終わった。出発するぞ」


「えーっ!(゚Д゚;)」

「2~3日休んでいこぉよぉ~TT たまにはセミヒューマンフォームでお風呂にだって入りたいしぃ~」


「False! ここで休んでいればまた、SITが来る。」
「ビーストシティまでたどりつけば特別法が適応される。やつらもおおっぴらには手を出してこれないはずだ。」


「むぅ~・・・しょうがないかぁ・・・┐(´д`)┌」


「そういうことだ。」


「ビーストシティまであとわずかの距離だ。一気につっ走るぞ!」


ビーグルの出力をホイールスピン寸前まで上昇させ、クラッチミート!
強烈な加速とともに発進したビーグルは、彼方に見えるビーストシティに向かい、疾走を開始した。


謎の本、それを追うSIT、竜と呼ばれる男がその身につけた格闘技術。

幾多の謎を残し、新たなる伝説は、魔塔BIASの元に結実していく・・・。


to be continued・・・

rogo



瘴気を帯びた風が吹く荒野を、異形の集団に追われ、一台のカスタムビーグルが疾走していた。ビーグルを追うのは・・・


通称ヘル・スプリンターと呼ばれるモンスター。
身長およそ3メーター。全てを切り裂く鎌状の腕を持ち、
その強靭な脚力により、時速60キロを超えるスピードで
敵を追撃し、獲物を切り裂くバケモノである。


彼らの行動原理はあまりにもシンプル。
サーチ&デストロイ!見つけた対象全ての殺害と捕食!!


「FUCK!ここまできてスタンピートに出くわすとは。」
「あと少しでインペリアルヒルだと言うのに・・・」
「しかも残弾は・・・あと1発ってか(笑」


「ちょっと竜!笑い事じゃないでしょお!!」
「なんでもいいから早く、ぶっぱなしなさいよぉ!!」


竜と呼ばれた男の首筋には銀色の子猫が、いまにも振り落とされそうになりながら、しがみついていた。しかも、この猫、なんと人語を解する。


「やかましい!小動物は黙ってろ。」


「な、なななによぉ~っ!」

「その小動物のおかげでここまでこれたんでしょうがぁ~!!」
「それに私にはアルフォメガつーちゃんとした名前があるんだっーの!」


「しょうがねぇ、えーい、ままよ!」


「無視かい!」


「オイ、小動物。オーバーチャージすんぞ。コネクトしろ!」


「ちょ、マジっすかぁΣ(゚Д゚;)」


「冗談でこんなこと言えるか。それともここで死にてぇのかよ?」


「わかった!やるわよ!やればいんでしょ!」


「いい娘だ。」


「フゥーッ!」
アルフォメガと名乗る人語を解する子ネコの全身の毛が逆立つと同時に、男の持つ、88ヘルファイアーハンドキャノンのエナジーチャンバーが黄金色に光り輝き出した。彼女?の持つ生体エナジー(オルゴンエネルギー)がハンドキャノンに転送されたのである。

ハンドキャノンの出力を暴発寸前まで引き絞り、エナジーチャンバーへ転送されたオルゴンエネナジーを弾丸にオーバーチャージ!
銃身のチャージメーターが一気にMAXレベルまで跳ね上がる! 
攻撃属性を三次元積層散弾にSET!


「これでも喰らいやがれ!!」
銃口を後方の敵集団に向けSHOOT!!


すさまじい閃光とともに弾丸がバレルより放たれ、後方の大地に着弾。
弾丸から開放された凶悪なエネルギーは散弾となり飛び散り、暴走するヘル・スプリンターの一群は全て焼滅した。


「ふぅ、どうにか片付けたか。」


「ゼェ~ゼェ~ッ、もうダメ。マジ無理(´゜ω゜`)」

「これやると暫く虚脱状態になるのですが・・・」


何事もなかったかの様にナビゲーターディスプレイに目をむける竜。
「ビーストシティまで20Km・・・弾切れだし、走行用のバッテリーもたりねぇ。まずはインペリアルヒルで補給だな・・・」


「おぃ!アリガトウわ!!」


「・・・・」


「あのねぇ。アンタのボキャブラリーにはゴメンとか、ありがとうとか、アルちゃんカワイイねとか、無い訳?」


「ない。(キッパリ)」


「ぶっ! ( ̄□ ̄;)」


「そうよね、アンタってそういうヒトだったよね・・・はぁ~っ(タメイキ)」

「まぁいいわ、その代わりにインペリアルヒルに到着したら、合成物じゃない新鮮なミルクを飲ませてよね!」
「さっきのでお腹がもうペッコペコなんだからぁ」


「あぁ・・・分かった。あと10分もあれば到着するはずだ。着いたら好きなだけ飲ませてやるよ。」


「やったぁ~♪」
「んじゃ、いこぉかぁー!」


インペリアルヒル・・・そこはかって災害時の緊急避難地として作られ、震災以後は生き延びた人々により、交易地として発展してきたシェルター区域である。以降、この地はビーストシティへ向かう者の最終準備地点として、軍人やスクリーマーと呼ばれるビーストハンター候補により、賑わってきた。多くの人間はここで装備を整え、魔都ビーストシティへと向かうことになる。


インペリアルヒルにたどり着いた竜とアルは、腹ごしらえと情報収集の為、とりあえず目に付いた店に入っていった。店の中は誇り臭く、薄暗く、少しも効かないエアコンが壊れそうな音をたてている。正面のカウンターには小太りの店主とおもわれる男がコップを磨いていた。


「酒となにか食い物をくれ、それとコイツにはミルクだ。」


竜の肩からスツールに飛び降りたアルは、先ほどまでの饒舌が嘘のように口を閉ざし、普通の子猫のようにゴロゴロと喉を鳴らしている。


「はいよ、うちの酒と食い物はまじりっけなしの天然物だ、値は張るが、合成はいっさい使ってないからイケルぜ。」
「クレジットの持ち合わせはあるんだろうな?」


ドサッ!竜がカウンターの上に小型のポーチを投げ捨てるように置いた。


「ん?なんだこれは?」


「クレジットは無い。その代わりこれでどうだ?」


ポーチの中身を確認する店主。

「ちょっと待てオイ!こいつはブラッドストーンじゃねぇか!!」

「どこでこんなに・・・」


ブラッドストーン。それは、レベルレッド以降、不特定の地域にて産出されるようになった、真紅の鉱石である。一定の圧力をかけることで、強力なエネルギーを発生する。様々なエネルギー資源が枯渇した現在において、その一片ですら旧世界のダイヤ以上の価値を持つ。


「だめなのか?」


「い、いや、とんでもねぇ。これだけ有ればこの店ごと買い取れるぜ。」


「そうか。だが、そんなには飲み食いできない。」

「必要な分だけ取ってくれ。」


「いいのか?」


「あぁ・・かまわない。ほしけりゃ全部くれてやってもいいぞ。」


「へっ、分相応てやつだ。身に余る儲けは己を殺すってな。」

「この一番ちいせぇやつ貰っとくぜ。まいどっ!」


「好きにしな。」


「おい、にいちゃん随分と景気がいいじゃないか?」

出された食事と酒を、竜が口に運び始めようとしたその時。
背後のテーブルから声をかけてくる者があった。


声をかけてきたのはラットと呼ばれている札付きの情報屋。
身長およそ140センチ、一見子供のように見えるが、その姿は醜悪なドブネズミをイメージさせる小男である。

そいつは、頭部には視神経に直結させた三次元投影方式のヘッドマウントディスプレイを装着し、背には数千ギガバイトを超える各種情報を蓄えたカスタムPCを背負っていた。
金の為であればどのようなことでもやってのける男・・・


「なにか用か?」


振り返りもせず、問いかける竜。


to be continued・・・


rogo

西暦20××年3月 TOKYO・SHIBUYA・BURNING STREET


「ねぇねぇ今なんかシェイク地震Run?」
「え?True?」
「True!So、ここんとこ、やたらシェイク地震Runしてね?」
「Say、アルチマっからシェイク地震Runヒアなのに、Nopじゃん」
「K♪」
「 False、シェイク地震Runがいいでしょ。」
「なんで?」
「Scoolもフォールトで、Fuckボランティアもフォールトじゃん」
「True!つーか俺ら、スクールなんてしばらくRunしてねーし!」
「ギャハハハハ!!」


日本は21世紀初頭からの幾多の経済危機を乗り越え、

新政府体制の下、人々は、つかの間の平和と繁栄を謳歌していた。

国家は完全とも言える社会保障制度による安定と引き換えに、

半強制的な社会貢献(ボランティア)を市民に求めた。

はたして、その反動であろうか?

町にはストリートランナーと呼ばれる社会体制からドロップアウトした

若者達が急増し、無軌道な日々を送っていた・・・。
そして、今日もいつもと変わらぬ1日が始まり、落日と共に喧騒の夜が訪れるはずであった・・・


「ゴゴゴゴッゴゴ・・・」


地獄の底から響くような鳴動。そして・・・・


「ZUGAAAAANNNNNNNNN!!」


日本を震源地とした超巨大地震が突如、世界中を襲った!!
マグネチュード10を超える激震により、世界各地の近代建築郡は砂上の楼閣のごとく崩壊。地震による地割れからは謎の致死光が照射され、光を浴びた人々は怪異な姿に豹変し死亡していった。


「うぁっ、Trueバッド!!それになんだよあの光は!」
「Awayすんぞ!」
「何処に?」
「何処でもいい!とにかくEscだよ!!Yu、望Dead?」
「K!ここらにいたらリアルDie!速Escだ!!」


カスタム・モータービーグルを操り、倒壊する建造物と火災をかわしながらSHIBUYAを脱出するストリートランナーの2人組。
彼らが必死の思いでたどり着いたのは、もしもの事態に備え、政府が用意していた震災時緊急避難場所、インペリアルヒル(西暦2000年初頭まで皇居が存在した場所)であった。


「もうだめ!オレ、True無理Move・・・」
「どうやらEsc出来たみたい?俺たち?」
「おい、なんだあれ・・・」
「ん?」
「あっちのほうたしかTOKYO湾だよな・・・」
「True!」
「海が見えない・・・」
「へっ!?」


突如、東京湾の海底から浮かび上がった島というには巨大すぎる大地と謎の塔!その周囲には、数万ボルトを超える放電現象と、漆黒の瘴気が渦巻き、最上部からは謎の紋様がTOKYO上空に空間投影されていた。


「いったい、なんなんだよ。あの塔と島は・・・・」
「それにあの空に浮かんだ、Unknown文字みたいなのは・・・」
「さぁ・・・」
「つーか、Yu顔・・・なんかFunny変だぞ・・・」
「え?」
「Hate! Notねーよ!」
「あれ? Yuこそ・・・」
「え?」
「グググググ・・・」
「おい!どうした!!」
「f・u・n・g・l・u・・・・・」
「え?なに言ってんだよYu!うっ、グハッ!!」
「グルルルルルルル・・・」
「ヴォォォオオオオオ!!」


異形の姿に変異し、互いの四肢を喰らい合いう2人の若者・・・。
脱出の再、微量に浴びた致死光の影響は、遅延をもって彼らの身体を蝕んでいたのである。変異により、彼らの身体にもたらされた驚異的な筋力と鋭利な牙は、互いの皮膚を切り裂き、骨を切断し、友の肉を咀嚼する為には十分すぎるものであった。


数刻後、同場所・・・


本来なら、ほのかに潮の香がたゆたい、夕刻の穏やかな時が流れるはずであったその場所は、血と臓腑の匂いに覆われ、2体の異形の者の死体が折り重なる地獄の様相を成し、彼方に見える塔からは、さながら煉獄に落とされた人々の悲鳴にも似た稼動音がレクイエムのように遠く鳴り響いていた・・・。


その後、強烈なカタストロフィーは1ヶ月に渡り継続し、全世界人口の

半数が死滅。以降、地球規模で地形層、気候層、生物層が激変。
昨日までの安穏な日々は消滅し、混沌の時代が訪れた。

後世、「レベルレッド」と呼ばれ、語り継がられる大災害であった。


そして10年後・・・真の物語は、ここより始まる事になる・・・


to be continued・・・