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湯気で煙るバスルーム。

一人の少女が鼻歌交じりにシャワーを浴びていた。


背中まである銀色のロングヘアー、スラリと伸びた両足、細い腰、

小ぶりだが形の良い乳房・・・一見、子供のように見える、その小さな

身体からは信じられないほど、均整のとれたボディーライン。


必要以上の脂肪はついておらず。引き締まった筋肉を纏ったその姿は、
猫科の猛獣の子を、おもわせる。


違和感を感じさせるのは、その背中にピンク色に浮かび上がった
集積回路のようなアザと、まるでもう一人の存在がいるかの様な独り言。
バスルームには、鈴のような声が響いていた。


「♪♪♪」


「ふ~っ、やっぱりお風呂はサイコォ~♪」

「ほんっと、1週間ぶりなんて信じられない!」


「いったいアイツどーいうつもりなのか、ワカラーン!ヽ(`Д´)ノ 」

「帰ってきたかとおもったら、バタンキュー・・・」


「そりゃ、疲れていたのもわかるけどさぁ・・・」

「ちょっとぐらい、お話しにつきあってくれたっていーじゃん。(´・ω・`)」


「アルファねっ、お前もそう思うでしょ?」


「にゃっ?」


「フ~ッ!!」


「なによぉ~」


「お風呂が気に食わないの?」


「きちゃないよっ!お前だって1週間もお風呂入ってないんだからさぁ」


「あのねっ、そんなことじゃもてないよっ!」

「女の子わ、いっつもキレイキレイじゃないとだめだとおもうんだ。うん。」


「あんたも女の子でしょっ!」

「かっこいいオス猫ちゃんきてもフラちゃうぞぉっ(*´▽`*)」

「それっ、きゅっきゅっきゅっ~♪」


「フギャー!!」


「んっもう!」


「あっ!だっめぇ~!!まだ、シフトしちゃだめぇ~TT」


少女の背中に集積回路状のアザが浮かび上がり、

そのパターンが一瞬、青く輝いたその瞬間・・・
そこには銀色の毛から雫を滴らせた子猫が座っていた。
アニマルフォーム・・・。


「うぅっ・・・(´・ω・`)」


さる事情により、アルの体の中には2つの人格と体が混在していた。、
子猫のアルファ、そしてシャワーを浴びていた少女オメガである。
彼女はナノテクノロジーにより、異なる2つの生命を1つのボディに宿す、
高機能演算型のサイボーグであった。


通常は、アニマルフォームと呼ばれる、機動性を活かせる猫の身体であるが、体内のマイクロマシーンのロジックサイクルが規定時間を迎える

ことで、セミヒューマンフォームと呼ばれる人型にシフト(変異)する。
彼女の言うところの「シンデレラエフェクツ」である。


セミヒューマンフォーム時。彼女は本来の名、オメガと名乗り、
アニマルフォーム時においては、アルファとオメガを統合させた名、

アルフォメガを名乗る。


また、セミヒューマンフォーム時には、猫としての性格が表層意識に出現し、人としての人格とのコミニュケーションが脳内において可能になるが、他者からみれば、ぶつぶつと独り言を言うアブナイ娘。

要するに電波系・・・


アニマルフォーム時においては、ナノマシンによる高機能解析演算能力と、周囲の状況に対しての超アナライズ能力を発揮するが、セミヒューマンフォームにおいては、それら能力は使えず、代わりに破壊的な腕力を発現させる。要するにバカヂカラ・・・


しかも、この少女。もう一つの人格(猫格)に大きな付加がかかると、
セミヒューマンフォームからアニマルフォームへと強制変異してしまうという、しょーもない持病(プログラムバグ)を持つ。要するに持病持ち・・・


誤解を恐れず、あえてミモフタもない表現で言い表すとすれば!
現代科学の粋を凝らした、猫萌え系、持病持ち、ハイテクコスプレ娘・・・

まさに!ナサケナイ・・・(´Д`)

※ドクシャノミナサマ、ホントニ、モウシワケゴザイマセン・・・TT(作者談)


そのころベッドルームでは・・・


泥のように眠る竜。そして悪夢。
サイドテーブルに置かれた黒い本が、まるで生きているかのように脈動を開始、表紙の紋様が怪しく輝きだす。共鳴するかの様に、竜の首筋に魔法円のようなタトゥーが赤黒く浮かび上がった。


「う・・・」


果てしなく広がる薄明の大地、吹きすさぶ瘴気。
周囲では悪霊の叫び声が響き渡り、漆黒の天からは、大地を穿つかのような落雷。金縛りに囚われたかの様に、その場に立ち尽くす竜。


突如、激震とともに大地が割れ、巨大な裂け目から出現したのは・・・

伏魔殿パンデモニゥム!

古来、悪魔が棲み、人の世に害をなす姦計を企むと伝えられる

魔塔である。その上空に浮かび上がるのは、異形の魔人の巨大な顔。
いつか何処かで見たことのある、顔・・・


「てめぇ!!」
怒りも顕に、魔人と対峙する竜。


「全ては既に確定した未来へと向かう。予定調和なのだ・・・。」
「抗うな竜!その血と肉を我に捧げよ。」
周囲に紫電を纏い、圧倒的強制力を持つ念話を使用。

魔人が竜に語りかける。


「ふざけるなよ・・・てめえの思い通りになってたまるか!」

竜の目に、怒りと怨念に満ちた憎悪の炎が燃え上がる。


「みてろよ、クソヤロゥ!」

「這ってでもテメェの所にたどり着き、その喉元に喰らいついてやる!!」


「クックククク・・・いつまで虚勢を張っていられるかな。」
「予言は必ず成就される。それが天理。」

「受け入れるのだ竜、己が身の宿命を。」


「ケッ!だれが!!」
「おれは諦めが悪いんだ。」


「まぁよい。待っておるぞ。」

「我らが再び出会うその時が、新たなる創世の時と知れ。」

魔塔の頂上から噴射された紅蓮の炎が竜の全身を被い、

その全てを焼き尽くす!


「ぐぁああああああぁ・・・」


「竜! 竜! 大丈夫?」

子猫の姿にシフトしたオメガが、心配そうに竜の顔を覗き込んでいた。


「ん・・・あぁ・・・。」


「またいつものヤツ?」


「あぁ・・・」
「あのやろう、毎度、夢の中にまで出てきて苦しめやがる。」


傍らの魔道書の発光は既に収まり、竜の首筋のタトゥーも消えていた。


「竜・・・」
しなやかな身体を竜の首筋に優しく擦り付け、

竜を慰めるかの様にその身を寄せるアル。


「だいじょうぶ、私がついてるよ。」
「たとえどんな事になっても、私は竜の味方だからね。」


「あぁ。」
「たのんだぜ相棒・・・」


すでに時間は午前3時を回っていた。
あと数時間後には、夜が明け、狂気と喧騒にまみれた一日が始まる。
刹那ともいえる静寂の時間が、孤独な魂を共有する2人の旅人を

優しく包み込んでいた・・・。


to be continued・・・