瘴気を帯びた風が吹く荒野を、異形の集団に追われ、一台のカスタムビーグルが疾走していた。ビーグルを追うのは・・・
通称ヘル・スプリンターと呼ばれるモンスター。
身長およそ3メーター。全てを切り裂く鎌状の腕を持ち、
その強靭な脚力により、時速60キロを超えるスピードで
敵を追撃し、獲物を切り裂くバケモノである。
彼らの行動原理はあまりにもシンプル。
サーチ&デストロイ!見つけた対象全ての殺害と捕食!!
「FUCK!ここまできてスタンピートに出くわすとは。」
「あと少しでインペリアルヒルだと言うのに・・・」
「しかも残弾は・・・あと1発ってか(笑」
「ちょっと竜!笑い事じゃないでしょお!!」
「なんでもいいから早く、ぶっぱなしなさいよぉ!!」
竜と呼ばれた男の首筋には銀色の子猫が、いまにも振り落とされそうになりながら、しがみついていた。しかも、この猫、なんと人語を解する。
「やかましい!小動物は黙ってろ。」
「な、なななによぉ~っ!」
「その小動物のおかげでここまでこれたんでしょうがぁ~!!」
「それに私にはアルフォメガつーちゃんとした名前があるんだっーの!」
「しょうがねぇ、えーい、ままよ!」
「無視かい!」
「オイ、小動物。オーバーチャージすんぞ。コネクトしろ!」
「ちょ、マジっすかぁΣ(゚Д゚;)」
「冗談でこんなこと言えるか。それともここで死にてぇのかよ?」
「わかった!やるわよ!やればいんでしょ!」
「いい娘だ。」
「フゥーッ!」
アルフォメガと名乗る人語を解する子ネコの全身の毛が逆立つと同時に、男の持つ、88ヘルファイアーハンドキャノンのエナジーチャンバーが黄金色に光り輝き出した。彼女?の持つ生体エナジー(オルゴンエネルギー)がハンドキャノンに転送されたのである。
ハンドキャノンの出力を暴発寸前まで引き絞り、エナジーチャンバーへ転送されたオルゴンエネナジーを弾丸にオーバーチャージ!
銃身のチャージメーターが一気にMAXレベルまで跳ね上がる!
攻撃属性を三次元積層散弾にSET!
「これでも喰らいやがれ!!」
銃口を後方の敵集団に向けSHOOT!!
すさまじい閃光とともに弾丸がバレルより放たれ、後方の大地に着弾。
弾丸から開放された凶悪なエネルギーは散弾となり飛び散り、暴走するヘル・スプリンターの一群は全て焼滅した。
「ふぅ、どうにか片付けたか。」
「ゼェ~ゼェ~ッ、もうダメ。マジ無理(´゜ω゜`)」
「これやると暫く虚脱状態になるのですが・・・」
何事もなかったかの様にナビゲーターディスプレイに目をむける竜。
「ビーストシティまで20Km・・・弾切れだし、走行用のバッテリーもたりねぇ。まずはインペリアルヒルで補給だな・・・」
「おぃ!アリガトウわ!!」
「・・・・」
「あのねぇ。アンタのボキャブラリーにはゴメンとか、ありがとうとか、アルちゃんカワイイねとか、無い訳?」
「ない。(キッパリ)」
「ぶっ! ( ̄□ ̄;)」
「そうよね、アンタってそういうヒトだったよね・・・はぁ~っ(タメイキ)」
「まぁいいわ、その代わりにインペリアルヒルに到着したら、合成物じゃない新鮮なミルクを飲ませてよね!」
「さっきのでお腹がもうペッコペコなんだからぁ」
「あぁ・・・分かった。あと10分もあれば到着するはずだ。着いたら好きなだけ飲ませてやるよ。」
「やったぁ~♪」
「んじゃ、いこぉかぁー!」
インペリアルヒル・・・そこはかって災害時の緊急避難地として作られ、震災以後は生き延びた人々により、交易地として発展してきたシェルター区域である。以降、この地はビーストシティへ向かう者の最終準備地点として、軍人やスクリーマーと呼ばれるビーストハンター候補により、賑わってきた。多くの人間はここで装備を整え、魔都ビーストシティへと向かうことになる。
インペリアルヒルにたどり着いた竜とアルは、腹ごしらえと情報収集の為、とりあえず目に付いた店に入っていった。店の中は誇り臭く、薄暗く、少しも効かないエアコンが壊れそうな音をたてている。正面のカウンターには小太りの店主とおもわれる男がコップを磨いていた。
「酒となにか食い物をくれ、それとコイツにはミルクだ。」
竜の肩からスツールに飛び降りたアルは、先ほどまでの饒舌が嘘のように口を閉ざし、普通の子猫のようにゴロゴロと喉を鳴らしている。
「はいよ、うちの酒と食い物はまじりっけなしの天然物だ、値は張るが、合成はいっさい使ってないからイケルぜ。」
「クレジットの持ち合わせはあるんだろうな?」
ドサッ!竜がカウンターの上に小型のポーチを投げ捨てるように置いた。
「ん?なんだこれは?」
「クレジットは無い。その代わりこれでどうだ?」
ポーチの中身を確認する店主。
「ちょっと待てオイ!こいつはブラッドストーンじゃねぇか!!」
「どこでこんなに・・・」
ブラッドストーン。それは、レベルレッド以降、不特定の地域にて産出されるようになった、真紅の鉱石である。一定の圧力をかけることで、強力なエネルギーを発生する。様々なエネルギー資源が枯渇した現在において、その一片ですら旧世界のダイヤ以上の価値を持つ。
「だめなのか?」
「い、いや、とんでもねぇ。これだけ有ればこの店ごと買い取れるぜ。」
「そうか。だが、そんなには飲み食いできない。」
「必要な分だけ取ってくれ。」
「いいのか?」
「あぁ・・かまわない。ほしけりゃ全部くれてやってもいいぞ。」
「へっ、分相応てやつだ。身に余る儲けは己を殺すってな。」
「この一番ちいせぇやつ貰っとくぜ。まいどっ!」
「好きにしな。」
「おい、にいちゃん随分と景気がいいじゃないか?」
出された食事と酒を、竜が口に運び始めようとしたその時。
背後のテーブルから声をかけてくる者があった。
声をかけてきたのはラットと呼ばれている札付きの情報屋。
身長およそ140センチ、一見子供のように見えるが、その姿は醜悪なドブネズミをイメージさせる小男である。
そいつは、頭部には視神経に直結させた三次元投影方式のヘッドマウントディスプレイを装着し、背には数千ギガバイトを超える各種情報を蓄えたカスタムPCを背負っていた。
金の為であればどのようなことでもやってのける男・・・
「なにか用か?」
振り返りもせず、問いかける竜。
to be continued・・・