rogo




「うぁっ真っ暗・・・」

「なぁーんにも見えないねぇ」


2人の前方に広がるのは漆黒の闇・・・ダークゾーン。
それは通常の暗さとは異なる、絡みつくような圧迫感を持っていた。
例えるなら、煮詰まったコールタールの池・・・。
ライトなどの物理的な光を一切通さない暗闇の通路である。


しかも闇のそこかしこには、凶悪なトラップが仕掛けられていた。
先のエリアに進む為には、このルートしか存在せず、次のレベルに到達するためには、感だけを頼りに前進する他はない。


「なに?このノイズ。」


「なにか聞こえるのか?」


「うん・・・」

「えーとね変なお経みたいな声が聞こえてる。」

人の可聴域を遥かに超えるアルの耳がヒクヒクと動いていた。


「多分、結界呪を秘領域の周波数に乗せてセキュリティシステムが詠唱してるんだろう。」
「呪力効果で、ダークゾーンが維持されているんだ。」


「なるほどぉ。」
「ということは、同域の周波数で逆ベクトルの投影系抗呪波動を照射/発生させれば・・・」


「そこで、こいつが役に立つ。」


竜が腰のストラップに下げた、アルハザードのランプの頭頂部を

引き上げると閃光が走り、周囲を薄ぼんやりと照らし出した。
ランプに封印されたドールのエナジーが結界呪を消し去ったのである。


「うぇ・・っ@@」


照らし出された周囲の壁面では、人の顔に見えるレリーフが壁一面を

埋め尽くし、うめき声を漏らしていた。あたかも生きているかのように・・・


いや!それは生きていた。
呪力により再配列された生体隔壁の細胞が人面岨化し、

暗黒結界呪を唱えていたのである。
邪悪な意思により操られる、生きたセキュリティシステム・・・


「人工的に造られた人面岨だな・・・」


「なに?それ?」


「簡単に言うと、まぁ・・・人の顔をした腫れ物の様なもんだ。」
「普通の腫れ物と違うところは、周囲に害呪を撒き散らすというとこだ。」


「嫌スギ・・・(´Д`)」


「このアーティファクトの力で、奴らの呪力は封印されているので
壁の模様ぐらいに思ってればいいさ。」


「こんな悪趣味な模様の壁なんてありえないんですけど・・・」


「さぁ、いくぞ、モタモタしてると置いて行くからな」


「いやだぁ~。こんな所においていかないで~TT」


アルハザードのランプの力により、照らし出されているとはいえ、

その効果は周囲数メートルの範囲に限られており、

その先には相変わらず漆黒の闇が続いていた。


「気をつけろアル。」
「どうもおかしい・・・」


「にゃ?」


「妙な空気の流れを感じる。」


「換気システム?」


「いや、違う。気流の方向がランダムに変化している。」


「!」


その時!彼らの後方から突風が吹きつけてきた。
瞬間風速に換算するとおよそ、40メートル!!
それも竜巻のように回転する烈風である。


木の葉のように吹き飛ばされる竜とアル。
その先のT字路の壁面には、丸く開かれた穴が穿たれていた。

円形の穴の周囲にはカッター状の刃物が超高速で回転。
穴に飲み込まれた者の四肢を粉砕する!
イビルファングと呼ばれる凶悪なセキュリティトラップである。


穴に吸い込まれる寸前、ハンドキャノンに仕込まれたアンカーを
天井に打ち込み、アルを抱きかかえる。
アンカーに繋がれたタングステンワイヤーが高速で伸びた。


「どっちだ!アル」


「右ぃ!」


左側の壁面を強くキックし、T字路の右へ向かい方向転換!
掴んでいたタングステンワイアーを切り離し、通路にダイブ!
アルを抱えたまま、数メートルを転がり、クルゥードな着地。


「いたたぁっ・・・」
「なんなのよぉ!一体。」


「トラップだ。」
「危うく、人と猫の合い挽き肉の出来上がりだったな。」


「見ろ、あれを」


「!」


T字路の左方向つまり彼らの後方にアルが目を向けると、そこには・・・
先ほどの壁と同等にイビルファングが設置され、凶悪な唸りを上げて回転していた。


「うっ・・・とんでもね~TT」
「索罠センサーをアイドリングしていてよかったぁ・・・」


「まぁ、結果オーライだな。」


「へっ?」


「L1のファイナルルームだ。」


ほんの数メートル先に青白く燐光を放つ扉が存在していた。


「その向こうの部屋にL2へのトランスポーターが在るはずだ。」
「おそらくゲートキーパーに守られているだろうがな。」


「簡単には通してくれないってわけね・・・」


「その通り。」
「オフェンシブモードにシフト!突入と同時にサーチアンドデストロイだ。」


「了解っ!」


「開けるぞ。」


「うん」


扉の中央にはめ込まれた金属急に手を触れ、押し込む。
「ブシュ!」エアロックが解除され、扉が左右に開かれた。

薄暗い部屋の中には異様な臭気を放つ緑色の霧がたなびいていた。


「くっさぁ!」

「なにこの臭い!」


「アイツらしいな。臭いの元は。」


部屋の中心部では、FATMANと呼ばれる巨大な肉塊のような
ビーストがモゾモゾと、うごめいていた。
襲ってくる気配は今のところ無い。


to be continued・・・