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ビーストシティの朝は鶏の一番声ならぬ凶鳥の絶叫で明ける。
今朝も悪鬼の様な鳴き声が、早朝のビーストシティに響き渡っていた。

それは城砦都市BIASの上空を取り巻く瘴気の中を、旋回していた。
蝙蝠の翼と、人の手足を持った奇怪な生物、イビルバード。

都市の外壁に取り付けられた自動追尾式迎撃レーザーシステムにより、
絶えず撃ち殺されてはいたが、どの様な理由によるものか、

死んだと思われた瞬間、また、空中で再生する。

つまり、一定数以下にはならないのである。
まるで悪夢のエンドレス上映・・・

「おや?もう、ご出勤かい?早いじゃないかBOY。」
「まぁ、せいぜい稼いでおいで。」
「生きていたら、また戻ってきな。生還祝いをしてやるからさ。あははは。」

頬に星型のタトゥーを入れ、厚化粧をした大柄な女将が軽口をきき、

竜達を宿から送りだした。


彼女は、一階が酒場。2階が宿屋の「Dooms Day」を経営する

BIG MAMAと呼ばれる女丈夫である。

この店はビーストシティにたむろするアウトロー達の情報交換の場で、
酒・ドラッグ・女・ギャンブルを提供する、シティ唯一の娯楽施設だ。

よって、利用するほとんどの者達は、トラブルによる店の出禁を恐れ、
ここの女将に頭が上がらなかった。

竜達は「Dooms Day」出立後、メインストリートを直進。
何本目かの路地を右折すると、怪しげな路地に入って行った。
昨夜、酒場で得た情報を頼りに、BIASへの1歩を踏み出したのである。

その店の壁には、先刻、空を舞っていた凶鳥の首そっくりのレリーフが飾られ、その上にはHEAD CUTTER(首切屋)と書かれていた。


通称、首屋。

魔塔BIASに巣くう、ビーストと呼ばれるモンスターを倒した者に、
業績に応じてクレジットを支払う、統治軍公認の換金所だ。

「首切屋・・・。どいつもこいつも、趣味のいいヤツばっかりだな。」

戸を開け、中に入ると、薄暗い店内では、眼鏡をかけた初老の男が、
様々なビーストのボディサンプルをバックに座っていた。

「お、見かけない顔だな。新人さんかい?」

「そんなところだ。」

「エントリーの方法は、どこかで入手済みかい?」

「いや。」

「そうか、まるっきりのyoungか。」

「それにしちゃいい得物ぶらさげてるじゃないか。twink さんよ。」
竜が腰に付けた、88ヘルファイアーハンドキャノンをちらりと見る。

「いいか、よく聞けよ兄さん。」

「あんたがBIASにダイブする為には、まず統治軍のNoob野郎にお伺いを立てなければならん訳よ。」
「つまり、楽しい遊園地のパスを買わなければならないって事だ。」


「そして、これが入園券だ。」

後ろの棚から、小銃に似たデバイスを取り出し、カウンターの上に置く。

「これは?」

「FRD(ファイティング・リポート・ドラッグ)入りのシュート(注射器)だ。」
「こいつがなければ楽しいアミューズメントパークには入園できない。」

「ドラッグ?」

「そんなもんだ。但し、コイツをキメてもぶっ飛べる訳ではないがな(笑」

「おまえさんがEK(エネミーキル)した情報を視神経から取得。」

「その後、ここにあるデータベースに情報を通信するナノマシーンが封入されたドラッグだ。」

「FRDの効果時間はおよそ24時間。」
「次のダイブ時には、またチクリとやらなければならない。」

「また、こいつは、BIASダイブ時の登録証明書がわりにも機能する。」
「購入後、お前さんに発行されるIDナンバーを塔のガーディアンに告げれば、その場で照会が行われ、ゲートが開かれる。」

「もし生きて出てこれたら、ここに戻ってきな。」

「戦績に応じたクレジットを支払ってやる。」


「手に入れたクレジットをどう使うかは、お前さんの勝手だ。」

「酒や女を買うも良し。」
「次のダイブに備えて上等な武器や防具をショッピングするのも良しだ。」

「だいたい分かった」

「OK、説明はここまでだ。どうする買うかね?」

「あぁ、買わせてもらう。」

昨夜、ブラッドストーンを賭けて行ったホロポーカーで、酔っ払いから巻き上げたクレジットを使い、FRDを購入。

「ほいよ。GOOD LUCK!」

店を出た竜にアルが話しかける。

「いよいよだね。」

「そうだな・・・だが、ファーストダイブで決着がつくとは思えない。」
「いいか、まずは様子見だ。」
「ヤバクなったら、とっととケツをまくるからな。」

「索敵と防御に重点を置き、状況に応じてオフェンスモードに移行。」
「レベル1程度じゃ、ザコしか沸いてないと思うが、念には念を入れる。」
「最低限の情報を入手次第、ダイブアウトだ。」

「了解!」

BIAS内部は、特別なヒエラルキーにより、ビーストの生息域や侵入者を撃退するセキュリティトラップの難易度が定められていた。


上層に行くに従い、出現するビーストは強力になり、仕掛けられた

セキュリティトラップも凶悪化していく。
あたかも、天守に存在する何者かを守るがごとく・・・


BIASの最下層レベル1。そこに生息するのは、最弱のビーストだ。
新米のスクリーマーはまず、この低層部で経験を積み、入手したクレジットにより、武器や防具を強化。上層へとステップアップしていく。


上層部へ上がれるぐらいになると、さすがにソロダイブはきつくなる為、数人でパーティを組みアタックをかけるのが通例となっていた。


他者との協力関係を嫌い、ソロダイブする強者も存在していたが、それは一部の異能力を持つ者だけで、彼らは、他のスクリーマー達からは

尊敬と畏怖の念を込めて、SDS(ソロダイブ・スクリーマー)と呼ばれた。

「首を洗って待っていろ。必ず決着をつけてやるからな・・・」
前方の塔を睨み付ける竜の全身に、強烈な闘気が燃え上がっていた。

to be continued・・・