「アル、座標確認してくれ。」
「了解。S/X22・Y05だよ」
「レベル2へのトランスポーターの位置は?」
「えーと、ここから約1.5キロ地点。ノイズの為、詳細サーチ不可能なゾーンに位置してるみたい。」
「ダークゾーンか。厄介だな・・・」
竜とアルは、エントリー地点から、およそ500メートル。
直進した十字路に立っていた。
相変わらず瘴気が漂い、得体の知れない気配が二人を取り巻いている。
と、その時。竜の所有する黒い古代書が脈動を始め、首筋に魔法円状のアザが浮かび上がった。
「竜!」
「あぁ。」
「眷属反応だ。ただし、かなり微弱。ザコだな。」
「どうする?念のためにACB張る?」
「いや、それほどの事もないだろう。」
「ただ、用心だけはしておいてくれ」
十字路を左折、そのまま数十メートル直進する。
一気に瘴気濃度が上昇。
首筋に浮き上がったアザの疼きも強くなっていく。
次のT字路でステイ&サーチ。状況を確認。
そこには、人間の姿とおぼしきシルエットが床にうつ伏せに倒れており、
周囲には緑色の燐光を放つジェリー状の物体が無数に蠢いていた。
「アル。データベースにアクセス。カインドリポートしてくれ。」
「K!」
「判明したよ。」
「名称プループ。エレメントは水。スライム系ビーストだね。」
「おかしいなぁ・・・本来、好戦的な種属じゃないはずなのに・・・」
「というか、なんでコイツらここにいる訳??」
「多分、そこに転がってる奴が、ガードビーストとして召還したんだろう。」
「ところが、ここの邪気に当てられて寝返り、召喚主に襲い掛かった。」
「というところだ。多分、エレメントが奴に近い為の共鳴反応だ。」
「マヌケな話さ・・・」
「ということは、あそこで倒れているのは・・・」
「WSだ。DOOMソルジャーの一人のはず。お仲間って訳だ。」
WS・・・それはレベルレッド以前、軍部の手で秘密裏に製造されていた異能兵士、ウイザードソルジャーを意味する略語である。
彼らは魔力を利用したサイバーオペレーションにより、肉体強化された魔道兵である。その身の内に宿した、強力な魔力・筋力・反射能力は、一師団に相当する戦力を持つ。ある事件により、その大半は死亡したが、非公式の記録上では、数人が生存していると伝えられている。
「・・・」
「直接攻撃は効かない。」
「隠業エフェクツによる、バックアップを頼む。」
「俺はその隙に、マイクロウェーブの高出力照射に呪力を乗せた近接射撃で、奴を内側から破壊する。」
「もともとは大した敵じゃないが、奴の邪気による影響で、かなり凶暴化していやがる。」
「油断は禁物だ。一気にかたずけるぞ。」
「らじゃ!」
ハンドキャノンのグリップ横に配置されたモードスイッチを押し、ブラスターモードからマイクロウエーブモードへとチエンジ。
異界から烈火のエナジーを引き出す為、高速呪文詠唱を開始!
呼応するかのように懐の黒い古代書が脈動。
首筋の赤いアザが怪しく輝きだし、強力な呪力がエネルギーチャンバーに注ぎ込まれる。
銃身には何本もの赤い導線が走り、真っ赤に発熱。
「悪く思うなよ・・・恨むならスレイブコードを照射した奴を恨みな。」
発動キーワードを唱える!
「イア! クトゥグア!!」
閃光とともに、呪力強化されたマイクロウェーブがバレルより照射!!
次々に蒸発し、消え去るビースト達。
「よし!そこのDOOM野朗を調べるぞ。」
「なにか情報を得られるかもしれない。」
その男の表情はまるで何者かに魂を抜かれたかのように虚ろであった。
二の腕には竜のアザに酷似した紋様が!
右手には1本の柄の根元に2本の刃が取り付けられた奇怪な武器が握られていた。
ツインソード。
2枚の高分子振動刃を、強力なモーターで高速回転させ、それに触れた敵を切り裂く、凶悪な近接戦闘用武器である。
取り立てて珍しいものでもなく、他の上級ウエポンに比べればそれほどの殺傷能力があるわけではないが、、その扱いやすさから、愛用する
スクリーマーは多い。
「やはりWSだ。見覚えがある。リッパーとか呼ばれていた奴だ。」
「よほど焦っていたんだな・・・。」
「プループ相手にこんな武器を使用するようじゃ。」
「コイツはたしか、呪力を乗せたソードでの戦闘を得意とした、近接戦闘系ソルジャーだ。」
「プループ相手にはちょいと分が悪かったという訳か・・・」
「WSは共時性ロジックが仕込まれた呪力性プログラムにより、同一場所にあつまる特性を持つ。」
「おそらくは他のヤツラもこの町に引き寄せられているはずだ。」
「もしかすると、この中で出会うかもしれないね。」
「その可能性は十分に有る。」
「できれば出合いたくないものだがな。お互い。」
「・・・」
「エントリーから、たった数百メートルでこの状況か。」
「先が思いやられるな・・・」
「よし、リサーチを続けるぞ。」
立ち去ろうとした、その時!
床に倒れ伏していたリッパーと呼ばれる男の死体が、まるでアニメーションのコマ送り巻き戻しのように起き上がり、その手に握ったツインソードを構えた!
「えっ!なに?」
「分からん。」
「攻撃してくる様子は無いようだ。」
「アル。念のため、フルディフェンスモードにシフトしておいてくれ。」
「以後、状況把握が終了するまで待機だ。」
「うん。」
竜とアルの目の前ではおぞましい光景が展開していた。それは・・・
既に終了した、過去の光景のリピート・・・
その情景は、竜が推理した内容通りだった。
ビーストの襲来、使役ビーストの召喚、ビーストの属性変移、抗うすべも無く死んでいく兵士。そして黄泉帰り・・・。
これらの情景が逆に繰り返されていき、敵ビーストとのエンカウントシーンまで到達すると、また、正しい時の流れに準じて、早送りで死の瞬間に向かう。
殺される・生き返る・殺される・生き返る。
永遠に繰り返される、死と生への繰り返し。
さながら悪夢のレイトショウ・・・
「たまらないな・・・悪趣味にも程がある。」
「因果律が歪んでいる!」
「しかし、これではっきりした。この塔の中には間違いなくアウターゴッドの力が介在している。」
「時空間の操作。そんなことを行えるのは、おそらく・・・」
「ヨグ=ソトース!」
人類の住む宇宙とは異なる、次元の裂け目に存在するといわれる。
全にして1、1にして全なる者。
あらゆる時空域へのアクセスを容易く行い、絶対公理であるはずの因果律さえ、ねじ曲げることが可能な邪神である。
「あぁ、そのようだ。」
「そこで再現されている、馬鹿げたカトゥーンを見れば明らかだ。」
「見ろアル!トゥールスチャだ。」
「リッパーは奴と、奴が洗脳したプループにより、殺されたんだ。」
「トゥールスチャは出現した場所から動くことはできない。」
「わかるなアル?だから、奴はそこにいる。」
「うん・・・」
「ヨグ=ソトースが、どんな気まぐれを起こしたのかは、定かじゃない。」
「だが奴は、本来、アザトースの道化であるトゥールスチャの発現に興味を持ち、因果律に介入。エントロピーをねじ曲げやがった!」
「幸い、俺たちは、因果律の外にいる為、トゥールスチャに襲われることはない。」
「ヨグ=ソトースの奴が、また気まぐれを起こさない限りはな・・・」
「とんでもない、アトラクションに乗ってしまったらしい。」
「事態は、想像をはるかに上回っている。」
「気を引き締めて事にあたらないと、リッパーの二の舞だぞ。」
「 ガクガク(((( ;゚Д゚))))ブルブル」
「兎に角、先を急ごう。」
「まずはレベル2へのトランスポーターだけでも確認しなければ。」
「ねぇ、竜」
「なんだ?」
「今日のところは一旦もどらない?」
「ほら、だってさぁ、なんというか、ねっ!」
「ダ・メ・ダ!」
「がーんΣ(゚Д゚,,)」
「さっきも言っただろ、事態の進展は事の他、早い。」
「グズグズしている暇はないんだ。」
「もし、嫌なら一人で戻れ。」
「いゃだぁ~TT 逝くよぉ~逝けばいいんでしょぉ~シクシク・・・(´・ω・`)」
「良い娘だ。」
さらに直進。何回かのビーストとのエンカウントと戦闘を繰り返し、
たどり着いたその場所は・・・
to be continued・・・