「一雨きそうだな・・・」
上空では不吉な黒雲が渦巻き、不気味な放電現象が発生していた。
「雨きらいだぁ~TT」
インペリアルヒルからおよそ4キロ。
竜とアルは、ビーストシティの存在する大地の入り口に立ち、
それを見上げていた。
HAVENS GATE・・・チタニウム合金で作られた、巨大な門である。
門の基部にはこう記されていた。
Dinanzi a me non fuor cose create
永遠の物のほか物として我より先に
se non etterne, e io etterno duro.
造られしは無し。しかして我、永遠に立つ。
Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate'
汝等こゝに入る者、一切の望みを棄てよ。
「ダンテ神曲の一文か・・・。」
定礎部分に刻まれた文章を眺めながら、苦笑する竜。
大地の周囲は隔壁で囲われており、内側に侵入するためには、
この門を通過しなければならない。
隔壁の内側に広がるのは、10年前、魔塔BIASと共に海底から浮かび上がった広大な土地、デビルスランド。
その地のほぼ中心にレベルレッドの元凶といわれる塔BIASと、
それを取り囲むビーストシティが存在する。
最外周が、デビルスランドの周囲を取り囲む壁。次にビーストシティを
外部の脅威から防御するための壁、そして最後にビーストシティの中心に位置するBIASを囲む壁。この3重のセキュリティにより、デビルスランドは厳重にプロテクトされていた。
内陸部は、非ユーグリッド幾何学状の奇石が乱立し、そのいたるところで毒煙が大地から噴出。デモンストライクと呼ばれる落雷が現象が絶えず発生しており、無数にうろつく変異体が侵入者の命を狙っていた。
竜とアルが目指すビーストシティとは、内外に敵を抱える、超危険区域なのである。
「アル。」
「ん?」
「デフェンシブモードをビーストシティに辿り着くまで張りつづけてくれ」
「エネミーインサイト毎にオフェンシブにシフト。」
「それ以降はサーチアンドKILLだ。」
「うん、分かったぁ。」
「ねぇ竜・・・」
肩の上からアルが、いつになく神妙な声で竜に語りかける。
「ん?」
「ようやくここまで来たね・・・」
「あぁ・・・。」
彼方に見えるビーストシティから視線を外さぬまま、竜が答える。
その目には悲壮とも受け取れる色と、不退転の決意が浮かんでいた。
「覚悟はしていたけど、実際たどりついてみると、すんごい不安だよぉ。」
「心配するな。お前は俺が守る。」
「そして、全てに決着が着いたら・・・。」
「うん・・・。」
「アル。いいか。今は目の前の事だけを考えるんだ。」
「余計な感傷と躊躇は死を招く。」
「お前はなにも心配せずに、サポートだけに専念してくれ。」
「竜・・・」
「なんだ?」
「必ず生きて帰ろうね。それと・・・。」
「ん?」
「ヤッパリ、やぁーめた!ぜーんぶ終わってから話すよぉ。」
「・・・勝手にしろ!」
「あはははは。」
「んじゃ、いこぉかぁ~!」
「あぁ・・・」
竜がゲートの定礎に手を合わせると、セキュリティシステムが作動。
「ここより先、侵入する者の生命の保証はない。」
「汝、自己責任において進入を望むなら、祈りの言葉を我に捧げよ。」
「アル!ゲートキーパーにコネクト。パスワードをハック。」
「にゃっ!」
アルの両目が赤色に変化。生態素子より発された磁気により、
ゲートの動作を司るデータベースにアクセス。
待ち受ける攻性ウィルスを迎撃し、内部コードをアナライズ。
パスワードをハック!
「all data analysis & Hack completion!」
アルが入手したパスワードを唱える。
「Ηλι ηλι λεμα σαβαχθανι」
エリ、エリ、ラマ、サバクタニ・・・ユダの姦計により、十字架に貼り付けになったキリストが最後の時に発した言葉・・・
「神よ、神よ、我を見捨てたもうたか。」
このプログラムを組んだのは、よほど信心深く且つシニカルなソフトウェアエンジニアだったらしい。
「ZUGOGOGOGOGOGO----!」
地響きと共に強化チタニュウム製巨大ゲートが開かれる。
そして、その先には・・・魑魅魍魎跋扈する地獄の荒野が広がっていた!
「いくぞ!!」
「うん!」
進入した竜達に、次々に襲い掛かる変異体の群れ。
折りしも振り出した黒い雨と突風が吹きすさぶ中、
大地からは瘴気が吹き上がり、天からは落雷が!
右へ左へと巧みにビーグルを操りながら、敵と障害物を避け、疾走。
さながら、永遠に続くかと思われる地獄の逃避行・・・。
ビーグルのモーターはオーバーヒート寸前。
アルの予測演算速度が能力限界値まで跳ね上がる!
コンマ数ミリハンドルを切り間違えれば、地獄行きの瞬間が継続する。
竜の反応力を上げるために自閉モードにシフトさせた精神拘束プログラムも外界からの情報負荷により、実行限界が迫っていた。
もはや、これまでかと思われたその時・・・
彼らの前方に漆黒の空間が出現した。
否!それは空間ではなく物理的な質量を持つ巨大な壁であった。
高さ数百メートル、左右には無限に続くかのように見える、巨壁。それは、ビーストシティを外部の脅威から防御し、且つシティ内で発生する脅威を外部に漏らさないために建築された防御隔壁だ。
フルスロットルのまま、隔壁に向かい全速で突進する竜。
壁に激突するその直前!隔壁の一部が開かれ、その中から
誘導レーザー光が放たれた!
「アル!誘導レーザーをキャッチ&トレース!!」
「にゃー!!」
前方から発せられる誘導レーザー光がアルの両眼に集束。
ビーグルはランディングラインに導かれ、わずかに開いた外壁の穴をすり抜け、シティ内のビーグル専用滑走路に突入。
エアブレーキを作動させる。
BAM!
ブレーキ発動による破裂音とともにビーグルが急減速。
エンドラインすれすれに停止。
「Touchdown! Well Come to Beast City 」
インフォメーションボイスが二人を迎える。
「ふぅ、思ったよりきっつかったねぇ(´Д`;)」
「あぁ、どうにか、たどり着いたようだ・・・」
「オイお前達。表から来たのか?」
一息ついている竜達に,発着オペレーターが声をかけてきた。
「あぁ・・・」
「信じられん! モーゼエフェクツが発生している訳でもないのに・・・」
「なんだそれは?」
「月に一度、新月の夜、理由は定かではないが、外界が静かになる。」
「今ここにいる奴らは、それを利用して此処に辿り着いたのさ。」
「おまえさんのように、平常日に来る奴なんて、ここ数年みかけないよ。」
「ということは、以前、俺の他にも同じようにやってきた奴が?」
怪訝な表情で問い返す竜。
「たしか3年前にも同じように、たどり着いたヤツがいたなぁ・・・」
「どんな奴だ?」
「あぁ・・・なんかボロボロのローブで全身を被った不気味な奴だった。」
「竜 もしかして・・・」
アルが耳元でささやく。
「ああ。そうかもしれないな・・・」
「まぁ、ここまで来たんだ、焦らなくても、そのうち出合うはずだ。」
「うん・・・」
「おい、オッサン。」
「あ?」
「頼みがある。」
「なんだ?」
「上等な酒と新鮮なミルクを飲ませる酒場、それに熱いシャワーを浴びることができる宿を教えてくれないか?」
アルに向かいウインク。
「うにゃ~♪」
to be continued・・・