今の日本の状況は
「衣食住満ち足りて寿命が全うできる、法の支配が行き届いた自由な社会」
で、特にここ30年は低成長時代ではありますが、いまだ世界的には先進国の水準を維持し、基本的には「うまくやっている」と思っています。
さらにこの状況を維持成長させていくために①経済面(持続的な経済成長)、②安全面(国内は治安、国外は安全保障)、③法の支配(法が機能する公正な社会)、④自由な社会、⑤気候の維持(気候変動への対応)、でより深化した政策を実行してべきと考えています。
①経済面:「格差流動化の実現」
長期間繁栄する社会の実現には、歴史的にみると公正な競争環境の維持による血縁的階層→実力的階層への切替(=格差の流動化)が一番効果的です。格差そのものは問題ではありません、格差が血縁・地縁などで固定化することが問題なのです。
(古代ローマ・中国王朝、中世のベネチア、オスマン帝国、欧州における近代社会、日本の戦国時代・明治維新など事例はたくさん)
生物学的には経済的付加価値を生む優秀な人材は、半分ぐらいが親の遺伝と言われており、血縁的階層が富裕層に一部残存するのは致し方ないと思います。むしろ問題なのは親の遺伝とは関係ない残り半分の次世代(子供たち)が階層の固定化によって活躍できない社会になってしまうことです。
したがって一言でいえば親が誰かに関係なく「完全な機会平等の実現による実力社会の徹底」が政策で、
キーワードは「格差と雇用の流動化」です。
<具体案その1:機会平等・適材適所の教育環境>
近代市民社会の原理の内面化策を前提に、機会平等の最大化。小中学生レベルでは「字が読める」「計算ができる」「社会生活ができる」などの基本的教育をベースにしつつ高校以上については、それぞれの領域(学問、芸術、スポーツなど)が優秀な学生に親の貧富に関係なく機会を平等に提供。
幸いにして行動遺伝学の成果に基づけば、親の育て方(共有環境)はその子の能力形成に相関関係がなく、子供たちの経験する学校やクラブ活動など(非共有環境)に相関関係があるので、親が貧乏かどうかに関係なく、子供達ごとに、その才能を発揮させるに足る非共有環境を用意することが大事。
例えば、スポーツなどにある「特待生制度」を個別の学問(数学得意だったら残額授業料無料+お小遣い支給など)に関して導入しても面白いのではないかと思います。
<具体策その2:雇用の流動化によるイノベーションの拡大>
バブル崩壊に始まる日本の供給過剰需要不足問題は「イノベーションの停滞」に尽きると思います。菅政権も「デジタル」と「環境」によるイノベーション進展に躍起になっていますが、何より優先すべきなのは雇用制度の改正、具体的には、解雇しやすい法律改正とセットにした同一労働同一賃金=ジョブ型雇用の徹底です。
メンバーシップ型雇用はもう限界。解雇が簡単にできないと人的資本が流動化せず、イノベーションは起きないのではと思います。80年代まではメンバーシップ型雇用の大企業が電気・化学・自動車などの第二次産業で世界的なイノベーションを起こしていましたが、逆に今はこれが足枷となって成長を阻害しています。更にメンバーシップ型雇用を採用する大企業では、30代・40代で辞めると損するような人事制度設計になっています。退職金などの優遇税制をやめたり企業年金制度を改正するなどして、30代40代で社員が辞めても損しないような制度改正をすべきです。労働組合の抵抗で相当難易度高いですが、そろそろ潮時かなと思います。
そして合わせて重要なのは失業による困窮者を出さないこと。失業しても安心して生活できるようスウェーデンのように徹底した失業対策が必要。失業専門部署の組織化含め、雇用保険の増額、職業訓練制度はもちろん公的な働き口を作って誰でも働ける(=働かない人を作らない)などの環境づくりが大前提。失業対策を充実させることでイノベーションの源泉となる起業家の育成にも効果を発揮します。
ⅰ)企業意志による解雇が容易になるよう労働基準法改正と失業時の国策による労働環境の提供(労働を前提にした補助金の支給=スウェーデンの事例)
→(日本固有の)メンバーシップ型雇用から(世界標準の)ジョブ型雇用への転換推進
ⅱ)産業政策は極小化し、規制緩和して競争環境の機会平等を確保。公正取引の前提に基づく流動的な産業政策による競争環境の維持。
ⅲ)起業家の限定責任:借金個人保証による一生かけた起業ではなく、失敗しても社会復帰・起業できる制度の導入(自殺者の防止にも繋がります)。
ⅳ)最低賃金の上昇:Lの世界(冨山和彦)の単純労働者の賃金を上げるべく、最低賃金の更なるアップをして最低賃金でも生活保護費を上回る収入を確保。
ⅴ)専業主婦優遇の廃止:専業主婦にまつわる各種控除や第3号被保険者等の社会保険などの専業主婦優遇政策を廃止すれば、イノベーションの裾野が拡大(人口的に男性より女性の方が多い)
ⅵ)不動産の流動化促進:普通借地借家法の廃止と定期借地借家法への一本化(究極の賃借人の権利の制限)による不動産の流動化促進
②安全面(治安と安全保障)
治安面については現状維持。問題は安全保障。安全保障に関しては「寿命を全うする」観点から「専守防衛の徹底」と「攻められない軍事力前提の同盟関係再構築」の2本立て。米国主導の安保法制など、戦争に巻き込まれかねない現状の属国的な日米関係から対等な関係に再構築して(日米同盟維持しつつ他国との多方面外交のベースとなる)、専守防衛を徹底できる体制を構築。このための増税もやむなし。ただし、これはすぐには実現できないので外交上の経済面での不利益や他国との関係も踏まえて長期的視野で実現。
<具体策その1:専守防衛の徹底>
自衛隊を明確に合法化・強化(米軍代替機能の可能な限りの置換)し、正規軍とした上で、日本の周辺事態以外の戦闘は日本存続危機状態であっても絶対しない(安保法制廃止とセット)。沖縄の基地も負荷低減。
核保有も検討。コンセンサス困難な課題ですが、核保有国が削減努力しない以上検討すべき。核保有は先制攻撃されない最も有効な専守防衛策。
<具体策その2:日米安保・地位協定見直し>
旧枢軸国ドイツ・イタリアの事例を見習い、従属的な日米安保条約から米国と対等な軍事同盟に切り替え。これも難易度高いですが軍事的独立性を持たないと、日本とは関係ない米国主導の余計な戦争に巻き込まれる恐れあり。
*武力を紛争の解決手段としたくありませんが「北朝鮮」「中国」といった、我々と同じ価値観を持たない国家が近隣にある以上、残念ながら相応の武力なしでは国民の安全は守れません。
③法の支配に基づく自由な社会(法が機能する公正な社会)
法の支配に基づく公正を維持するための国民の意識は、既に浸透していると感じます。日本は原則的に発展途上国にありがちな賄賂やコネ、裏社会で政治や経済が動く社会ではありません。世界で台頭しつつある目立った原理主義・教条主義もなく(日本の極右や極左は可愛いレベル)、司法も機能した法治国家ではあるものの、課題はあります。課題は「公文書管理」「民主主義の公正な運用」「公正な税の徴収」です。
<具体策その1:公文書のみえる化>
何よりも重要なのは政治の足跡が全てわかるよう、あらゆる文書が公文書として扱われ、その全てを後世の人が誰でも自由に閲覧できる仕組みを作ること。ただ文書やデータを保存するだけではダメで、目指す情報に簡単にアクセスできるよう、全ての文書をデータベース化(最悪でもPDFレベル)して、その上で分類方法や検索方法をシステム化。これが最も効果的な市民による政治へのガバナンス。民主主義国家としての体をなす最優先事項だと思います。
<具体策その2:民主主義制度のより公正な運用>
米国大統領選挙は論外ですが、日本でもまだまだ民意が正確に政治に反映されているとは思えません。日本人全員の意思が正確に反映される政治が課題。
ⅰ)投票の義務化
既得権益を持っている国民だけでなく国民全員の自由意志を忠実に政治に反映させる趣旨から投票の義務化。選挙の投票日は休日とし、商業施設等もすべて営業停止にする(E Uも同様)。その上で有権者全員が投票できる環境にした上で、投票しない場合は罰則を設ける(罰金1万円から2万円程度)。投票率を限りなく100%に近づけることにより、シルバー民主主義や組織票の排除を狙う。
ⅱ)国会改革(一院政導入と首相の解散権廃止)
国民の意志をより正確に反映させる観点から1票の格差と地域別の偏りの排除。
*参院を廃止して衆議院議員定数を増員して一院制に。更に合区を解消するとともに限りなく1票の格差を排除。ただし人件費総額は維持。
*総理大臣の解散権廃止。議員の大きな負担となっている選挙運動にかかる労力を軽減し、任期を全うする間は国政だけに労力をかけられるようにする。
<具体策その3:公正な税・社会保障料の徴収>
ⅰ)歳入庁の新設:税金並みに社会保険を企業から強制徴収して税・年金財源を確保。さらに国民年金も税金と同じ扱いにして強制徴収し、年金未納者の将来の生活保護による税負担を減らす。
ⅱ)マイナンバー制度強化:全ての金融機関口座はじめ、健康保険証・免許証・パパスポートなどを全てマイナンバーに紐付け(または統合)義務化(金融口座は欧米で実施済)。金融資産のみえる化を図り税金逃れを防止。同時に税逃れを助長する現金中心社会からキャッシュレス社会への転換を図る。今話題のデジタル化浸透には国民ID(マイナンバー)の統合&活用が必須条件です。
④自由な社会(国家の目的は、個人の自由を守るため)
LGBTの権利拡大・選択的夫婦別姓の合法化など、いわゆる権利革命の進展(スティーブン・ピンカー)についても「自由の拡大」という視点で議論の余地なく速やかに立法化。
他市民の権利を侵害する行為に抵触しない限り、個人の自由は徹底的に解放すべきです。「同性の人と結婚したい」「結婚しても同じ名前で生活したい」という自由は、一体どういう根拠で他市民の権利を侵害する行為に抵触するといえるのでしょう。基本的に個人の自由な意志を阻害する権限は国家にはありません。
国家の目的は「個人の自由を守るため」であって「国家を守るため」ではありません。ともすると、これをはき違える人も多いですが、近代市民社会の原理の「根本」です。
⑤気候の維持(人為的気候変動への対応)
「人為的気候変動」については、かつて懐疑的でしたがコンピュータの性能向上によってシミュレーション精度が圧倒的に向上し「今の気候変動は人為的要因」ということが科学的に定説になりました。問題は人間への悪影響ですが、大幅な気温上昇(具体的には地球平均気温3℃以上)は人間にとってデメリットの方が多いという結論(特に海水準上昇)。
菅政権による2050年までの温室ガス排出ゼロという目標値に向けた対策のほか、気候工学(※)への財政的支援など。
気候工学:二酸化炭素を固定化する技術や、意図的に雲を多く発生させて、太陽放射の反射を地球規模的に増やしていく(=寒冷化の方向の強化)など、気候を人為的に調整する技術。
以上、次回は「少数の寿命を全うできない国民」や「衣食住満ち足りた生活ができない国民」に向けた政策について展開します。