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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

1個の企業グループを構成する同族会社数社が、「拠出金還元金規約」を約定し、これに基づいて、特定の仕入先からの各月ごとの購買金額が所定の額を超えるときは、その超過額に所定の係数を乗じた額の金員を拠出し、仕入先を右の仕入先から新たな仕入先に転換したときは、その購買金額の各社別の合計額で案分して右拠出金を各社に還元している場合について、右企業グループの全体から見ればこれによって仕入先の開発が促進されるという利点があるとしても、拠出する額が還元を受ける額より多い会社については、他社による仕入先の開発が自社の支出したその差額分と対価性のある役務の提供であるとはいえないから、右差額分の支出は法人税法37条に規定する寄附金の支出に当たるとした事例

 

 

法人税更正決定等取消請求控訴事件

【事件番号】      大阪高等裁判所判決/昭和58年(行コ)第61号

【判決日付】      昭和60年7月30日

【判示事項】      1、1個の企業グループを構成する同族会社数社が、「拠出金還元金規約」を約定し、これに基づいて、特定の仕入先からの各月ごとの購買金額が所定の額を超えるときは、その超過額に所定の係数を乗じた額の金員を拠出し、仕入先を右の仕入先から新たな仕入先に転換したときは、その購買金額の各社別の合計額で案分して右拠出金を各社に還元している場合について、右企業グループの全体から見ればこれによって仕入先の開発が促進されるという利点があるとしても、拠出する額が還元を受ける額より多い会社については、他社による仕入先の開発が自社の支出したその差額分と対価性のある役務の提供であるとはいえないから、右差額分の支出は法人税法37条に規定する寄附金の支出に当たるとした事例

             2、青色申告に係る法人税の更正の通知書に「雑損失勘定に仕入拡張費として計上したグループ各社による拠出金の支出は、金銭の贈与であり、寄付金と認める。」と記載するにとどめ、右認定の理由及び資料を摘示しないでした理由付記が、右更正は、帳簿書類の記載を否認してされたものではなく、法的評価を申告者と異にしたことによるものであるから、どの事項についてどのような法的判断をしたかを明らかにし得る程度に記載すれば足りるとして、適法とされた事例

【掲載誌】        行政事件裁判例集36巻7~8号1191頁

 

法人税法37

(寄附金の損金不算入)

第三十七条 内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額(次項の規定の適用を受ける寄附金の額を除く。)の合計額のうち、その内国法人の当該事業年度終了の時の資本金の額及び資本準備金の額の合計額若しくは出資金の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

2 内国法人が各事業年度において当該内国法人との間に完全支配関係(法人による完全支配関係に限る。)がある他の内国法人に対して支出した寄附金の額(第二十五条の二(受贈益)の規定の適用がないものとした場合に当該他の内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入される同条第二項に規定する受贈益の額に対応するものに限る。)は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

3 第一項の場合において、同項に規定する寄附金の額のうちに次の各号に掲げる寄附金の額があるときは、当該各号に掲げる寄附金の額の合計額は、同項に規定する寄附金の額の合計額に算入しない。

一 国又は地方公共団体(港湾法(昭和二十五年法律第二百十八号)の規定による港務局を含む。)に対する寄附金(その寄附をした者がその寄附によつて設けられた設備を専属的に利用することその他特別の利益がその寄附をした者に及ぶと認められるものを除く。)の額

二 公益社団法人、公益財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人又は団体に対する寄附金(当該法人の設立のためにされる寄附金その他の当該法人の設立前においてされる寄附金で政令で定めるものを含む。)のうち、次に掲げる要件を満たすと認められるものとして政令で定めるところにより財務大臣が指定したものの額

イ 広く一般に募集されること。

ロ 教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に寄与するための支出で緊急を要するものに充てられることが確実であること。

4 第一項の場合において、同項に規定する寄附金の額のうちに、公共法人、公益法人等(別表第二に掲げる一般社団法人、一般財団法人及び労働者協同組合を除く。以下この項及び次項において同じ。)その他特別の法律により設立された法人のうち、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定めるものに対する当該法人の主たる目的である業務に関連する寄附金(出資に関する業務に充てられることが明らかなもの及び前項各号に規定する寄附金に該当するものを除く。)の額があるときは、当該寄附金の額の合計額(当該合計額が当該事業年度終了の時の資本金の額及び資本準備金の額の合計額若しくは出資金の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える場合には、当該計算した金額に相当する金額)は、第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入しない。ただし、公益法人等が支出した寄附金の額については、この限りでない。

5 公益法人等がその収益事業に属する資産のうちからその収益事業以外の事業のために支出した金額(公益社団法人又は公益財団法人にあつては、その収益事業に属する資産のうちからその収益事業以外の事業で公益に関する事業として政令で定める事業に該当するもののために支出した金額)は、その収益事業に係る寄附金の額とみなして、第一項の規定を適用する。ただし、事実を隠蔽し、又は仮装して経理をすることにより支出した金額については、この限りでない。

6 内国法人が特定公益信託(公益信託ニ関スル法律(大正十一年法律第六十二号)第一条(公益信託)に規定する公益信託で信託の終了の時における信託財産がその信託財産に係る信託の委託者に帰属しないこと及びその信託事務の実施につき政令で定める要件を満たすものであることについて政令で定めるところにより証明がされたものをいう。)の信託財産とするために支出した金銭の額は、寄附金の額とみなして第一項、第四項、第九項及び第十項の規定を適用する。この場合において、第四項中「)の額」とあるのは、「)の額(第六項に規定する特定公益信託のうち、その目的が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定めるものの信託財産とするために支出した金銭の額を含む。)」とするほか、この項の規定の適用を受けるための手続に関し必要な事項は、政令で定める。

7 前各項に規定する寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。

8 内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。

9 第三項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入されない第三項各号に掲げる寄附金の額及び当該寄附金の明細を記載した書類の添付がある場合に限り、第四項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入されない第四項に規定する寄附金の額及び当該寄附金の明細を記載した書類の添付があり、かつ、当該書類に記載された寄附金が同項に規定する寄附金に該当することを証する書類として財務省令で定める書類を保存している場合に限り、適用する。この場合において、第三項又は第四項の規定により第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入されない金額は、当該金額として記載された金額を限度とする。

10 税務署長は、第四項の規定により第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入されないこととなる金額の全部又は一部につき前項に規定する財務省令で定める書類の保存がない場合においても、その書類の保存がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、その書類の保存がなかつた金額につき第四項の規定を適用することができる。

11 財務大臣は、第三項第二号の指定をしたときは、これを告示する。

12 第五項から前項までに定めるもののほか、第一項から第四項までの規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

 

 

法人税法施行令73

(一般寄附金の損金算入限度額)

第七十三条 法第三十七条第一項(寄附金の損金不算入)に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、次の各号に掲げる内国法人の区分に応じ当該各号に定める金額とする。

一 普通法人、法別表第二に掲げる労働者協同組合、協同組合等及び人格のない社団等(次号に掲げるものを除く。) 次に掲げる金額の合計額の四分の一に相当する金額

イ 当該事業年度終了の時における資本金の額及び資本準備金の額の合計額又は出資金の額を十二で除し、これに当該事業年度の月数を乗じて計算した金額の千分の二・五に相当する金額

ロ 当該事業年度の所得の金額の百分の二・五に相当する金額

二 普通法人、協同組合等及び人格のない社団等のうち資本又は出資を有しないもの、法別表第二に掲げる一般社団法人及び一般財団法人並びに財務省令で定める法人 当該事業年度の所得の金額の百分の一・二五に相当する金額

三 公益法人等(前二号に掲げるものを除く。以下この号において同じ。) 次に掲げる法人の区分に応じそれぞれ次に定める金額

イ 公益社団法人又は公益財団法人 当該事業年度の所得の金額の百分の五十に相当する金額

ロ 私立学校法第三条(定義)に規定する学校法人(同法第六十四条第四項(私立専修学校等)の規定により設立された法人で学校教育法第百二十四条(専修学校)に規定する専修学校を設置しているものを含む。)、社会福祉法第二十二条(定義)に規定する社会福祉法人、更生保護事業法(平成七年法律第八十六号)第二条第六項(定義)に規定する更生保護法人又は医療法第四十二条の二第一項(社会医療法人)に規定する社会医療法人 当該事業年度の所得の金額の百分の五十に相当する金額(当該金額が年二百万円に満たない場合には、年二百万円)

ハ イ又はロに掲げる法人以外の公益法人等 当該事業年度の所得の金額の百分の二十に相当する金額

2 前項各号に規定する所得の金額は、次に掲げる規定を適用しないで計算した場合における所得の金額とする。

一 法第二十七条(中間申告における繰戻しによる還付に係る災害損失欠損金額の益金算入)

二 法第四十条(法人税額から控除する所得税額の損金不算入)

三 法第四十一条(法人税額から控除する外国税額の損金不算入)

四 法第四十一条の二(分配時調整外国税相当額の損金不算入)

五 法第五十七条第一項(欠損金の繰越し)

六 法第五十九条(会社更生等による債務免除等があつた場合の欠損金の損金算入)

七 法第六十一条の十一第一項(完全支配関係がある法人の間の取引の損益)(適格合併に該当しない合併による合併法人への資産の移転に係る部分に限る。)

八 法第六十二条第二項(合併及び分割による資産等の時価による譲渡)

九 法第六十二条の五第二項及び第五項(現物分配による資産の譲渡)

十 法第六十四条の五第一項及び第三項(損益通算)

十一 法第六十四条の七第六項(欠損金の通算)

十二 租税特別措置法第五十七条の七第一項(関西国際空港用地整備準備金)

十三 租税特別措置法第五十七条の七の二第一項(中部国際空港整備準備金)

十四 租税特別措置法第五十九条第一項及び第二項(新鉱床探鉱費又は海外新鉱床探鉱費の特別控除)

十五 租税特別措置法第五十九条の二第一項及び第四項(対外船舶運航事業を営む法人の日本船舶による収入金額の課税の特例)

十六 租税特別措置法第六十条第一項、第二項及び第六項(沖縄の認定法人の課税の特例)

十七 租税特別措置法第六十一条第一項及び第五項(国家戦略特別区域における指定法人の課税の特例)

十八 租税特別措置法第六十一条の二第一項(農業経営基盤強化準備金)及び第六十一条の三第一項(農用地等を取得した場合の課税の特例)

十九 租税特別措置法第六十六条の七第二項及び第六項(内国法人の外国関係会社に係る所得の課税の特例)

二十 租税特別措置法第六十六条の九の三第二項及び第五項(特殊関係株主等である内国法人に係る外国関係法人に係る所得の課税の特例)

二十一 租税特別措置法第六十六条の十三第一項、第五項から第十一項まで及び第十五項(特定事業活動として特別新事業開拓事業者の株式の取得をした場合の課税の特例)

二十二 租税特別措置法第六十七条の十二第一項及び第二項並びに第六十七条の十三第一項及び第二項(組合事業等による損失がある場合の課税の特例)

二十三 租税特別措置法第六十七条の十四第一項(特定目的会社に係る課税の特例)

二十四 租税特別措置法第六十七条の十五第一項(投資法人に係る課税の特例)

二十五 租税特別措置法第六十八条の三の二第一項(特定目的信託に係る受託法人の課税の特例)

二十六 租税特別措置法第六十八条の三の三第一項(特定投資信託に係る受託法人の課税の特例)

3 第一項各号に規定する所得の金額は、内国法人が当該事業年度において支出した法第三十七条第七項に規定する寄附金の額の全額は損金の額に算入しないものとして計算するものとする。

4 事業年度が一年に満たない法人に対する第一項第三号ロの規定の適用については、同号ロ中「年二百万円」とあるのは、「二百万円を十二で除し、これに当該事業年度の月数を乗じて計算した金額」とする。

5 第一項及び前項の月数は、暦に従つて計算し、一月に満たない端数を生じたときは、これを切り捨てる。

6 内国法人が第一項各号に掲げる法人のいずれに該当するかの判定は、各事業年度終了の時の現況による。

(公益社団法人又は公益財団法人の寄附金の損金算入限度額の特例)

第七十三条の二 公益社団法人又は公益財団法人の各事業年度において法第三十七条第五項(寄附金の損金不算入)の規定によりその収益事業に係る同項に規定する寄附金の額とみなされる金額(以下この項において「みなし寄附金額」という。)がある場合において、当該事業年度のその公益目的事業(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第二条第四号(定義)に規定する公益目的事業をいう。)の実施のために必要な金額として財務省令で定める金額(当該金額が当該みなし寄附金額を超える場合には、当該みなし寄附金額に相当する金額。以下この項において「公益法人特別限度額」という。)が前条第一項第三号イに定める金額を超えるときは、当該事業年度の同号イに定める金額は、同号イの規定にかかわらず、当該公益法人特別限度額に相当する金額とする。

2 前項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に同項に規定する財務省令で定める金額及びその計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。

3 第一項の場合において、法人が公益社団法人又は公益財団法人に該当するかどうかの判定は、各事業年度終了の時の現況による。

第10章 環境的瑕疵

 

1 騒音

 

東京高判昭和53年12月11日判時921号94頁

閑静な場所であることを条件に不動産仲介業者に仲介を依頼しその仲介により土地建物を買受けたところ当時すでに周辺には開発計画があってその後開発が進んだため閑静な場所でなくなったことを理由として買主に対する仲介業者の過失による債務不履行責任を認めた事例

 

福岡地判平成3年12月26日判時1411号101頁

1 騒音被害を伴うマンションについて、これを新築分譲した売主に債務不履行(不完全履行)があると認めたものの、財産的損害の証明を欠くことを理由に、賠償請求を退けた事例

2 マンション住民の鉄道騒音被害について、これを新築分譲した売主の不法行為責任を肯認したうえ、慰謝料の支払を命じた事例

 以上の事実からすると、本件マンションは、25デシベルの遮音性能を有するサッシが使用されているものの、通常人が騒音を気にしない程度の防音性能を備えているものとは認められない。よって、被告は前記債務の本旨にかなった履行をしたものとはいえない。

 3 してみると、本件マンションの価格は、十分な防音性能を欠くことによって下落し、原告らは下落した価額に相当する損害を被ったものであり、被告は、原告らに対し、右債務不履行から生じた右損害を賠償する責任があるが、その各下落額を認めうる的確な証拠はないから、被告に対し、瑕疵担保責任もしくは債務不履行責任に基づいて財産的損害の賠償を求める原告らの各請求は、結局、失当というほかはない。

 4 請求原因2について判断するに、前記のとおり、被告会社のセールスマンは、本件マンションの販売に当たって、誇大とまでは言えないにしても、被告会社作成のパンフレットに従ってその防音性能を保証する発言をしたこと、原告らは、これを信用し、騒音は気にならないものと思い本件マンションを購入したことがそれぞれ認められる。ところが、前記のように、本件マンションは、十分な防音性能を欠き、それにより、原告らは不眠、不快感といった被害を受けている。そして、被告会社は、本件マンションの売り主なのであるから、防音性能の程度を知っていたか少なくとも知りうべきだったというべきである。

 してみると、被告は、故意または過失により、原告らに対し、不眠、不快感といった精神的損害を与えたものであり、その損害を賠償する責任を負うというべきである。

 5 前記のような原告らのマンションと鉄道線路との位置関係、騒音の程度、その影響の程度、前記のとおり被告の債務不履行により原告らが財産的損害を被っていること等諸般の事情を斟酌すれば、右精神的損害を慰謝する額は、原告原田については金25万円、その余の原告らについては各金15万円と認めるのが相当である。

 

浦和地川越支判平成9年9月25日判時1643号170頁

土地付建物の売買において、売主である宅地建物取引業者には、買主に対し、建物所在地周辺の航空機騒音について告知する義務はないとされた事例

 確かに、右認定の事実によれば、右航空機騒音は、環境庁の基準値を超えており、公害として、原告らに本件土地付建物の利用上一定の支障を及ぼすことは否定できない。しかし、被告のような宅地建物取引業者が売主となる場合、宅地建物取引業者は、取引物件の権利関係ないし法令上の制限や取引条件については、宅地建物取引業法35条所定の重要事項として、専門的立場から調査し買主に説明ないし告知すべき義務を負っているが、本件のような公害問題については、同条所定の説明義務の対象となっておらず、宅地建物取引業者が専門的知識に基づき説明ないし告知すべき事項とはいえない。もっとも、宅地建物取引業者は、事柄によっては、専門的知識に基づき説明ないし告知すべき事項ではなくとも、その職務が誠実性を要求される面からして買主に告知すべき義務を負う場合もあるといえるが、本件のような航空機騒音については、原告らとしては、被告から告知されなくとも、事前に調査し現地を確認する課程で本契約締結に至るまでに当然気付くべき事柄であり、本件土地建物が横田基地からかなり離れており、基地周辺の騒音は本件当時既に社会問題化して公知の事実となっており、本件土地付建物周知においては、騒音の程度も1日のうちのごく限定された時間で、その受け止め方にも個人差のあることを考慮すると、被告が本件土地付建物契約締結に当たり本件航空機騒音の存在を意図的に隠したとか、原告らが被告に購入物件の紹介を依頼するに当たり、その点について特に注文をつけたとかの特段の事情を認めるに足りない本件においては、本件航空機騒音について、被告が原告らに対し告知すべき法律上の義務があったとまではいえない。

  したがって、被告は、原告らに対し、不法行為または債務不履行上の責任を負わない。

 

2 迷惑施設

 

東京地判平成11年1月25日判時1675号103頁

マンションを分譲、販売した宅建業者が高速道路の排気塔等の環境悪化が懸念される施設が計画されていることを告知しなかったことが、錯誤、詐欺、告知義務違反に当たらないとされた事例

告知義務の点からみても、本件道路の施設である本件換気塔及び本件トンネル出人口は嫌悪施設であるが、前記認定事実によれは、本件道路計画は、本件売買契約締結当時において、原案が策定された段階にとどまり、計画決定すらされていないこと、同計画によれば、本件換気塔及び本件トンネル出入口は本件マンションから500メートル以上離れた位置に建設される予定の施設であること、環境アセスメントの実施前の段階であるために、右施設が周辺の環境、道路事情に及ぼす影響も不明であることに照らせば、本件売買契約に際して、被告には本件道路計画を告知する義務があったとはいえない。したがって、被告営業社員が原告に対し本件道路計画を告知しなかったことをもって、欺もう行為にあたるということはできない。

 

松山地判平成10年5月11日判タ994号187頁

宅地取引において隣接地の高架道路建設計画を告知しなかったことにつき、宅地建物取引業者である売主及び仲介業者の損害賠償義務が認められた事例

1 Xの夫である亡Aは、Y1を仲介者として、不動産業者のY2から本件土地を買い受け、木造平屋建の自宅を新築した。

ところが、その南側隣接地に県道バイパス工事として高さ約8メートルのコンクリート擁壁造の高架道路が建設され、日照、通風等の被害を被ることになった。

  亡Aの訴訟承継人であるXは、宅地建物取引業者であるY1及びY2に対し、高架道路建設計画を告知しなかったことにつき、仲介業者であるY1には不法行為責任が、売主であるY2には債務不履行等の責任あるとして、土地、建物の減価等による損害賠償請求に及んだ。

  2 本判決は、本件土地の売主であるY2に対しては、高架道路建設計画を知悉していながら右事実を買主に説明しなかったのは不動産取引業者として重大な義務違反であるとして、債務不履行責任を認め、Y1に対しても、宅地建物取引業者として本件土地売買の仲介をするにつき、容易に知り得た高架道路建設計画の調査を怠った過失があるとして、不法行為責任を認めた。

  3 次に、本判決は、Xの損害について、不動産鑑定士による鑑定結果に基づき、土地につき日照・通風等による減価損10パーセント、建物につき機能的、経済的減価損38パーセントの物的損害を認め、さらに、精神的損害として200万円の慰謝料を認めた。

 不動産業者の債務不履行等による損害賠償の範囲は、物的損害に限られないが、財産権が侵害された場合には、それに基づく物的損害が賠償されれば通常精神的苦痛も同時に慰謝されたとみられ、それによって慰謝されない精神的苦痛が残存するという特段の事情がある場合に慰謝料請求権が認められることになる(大審院以来の判例で、最判昭35年3月10日も、これを肯定している。塚本「財産権侵害と慰藉料」『裁判実務大系(15)』363頁)。

 

3 マンションの眺望

 

東京地判昭和49年1月25日判タ307号246頁

マンションの売主はその分譲に際し、買主に隣地の利用計画について調査告知する義務を信義則上負担しているか(消極)

 

東京地判昭和58年12月27日判タ521号151頁

被告は「コープ野村本八幡」売出しの際には、本件隣接地の利用態様について、何らかの公共施設の用地として使用されるという極めて抽象的なことしか知らなかったと認められるのみならず、〈証拠〉によれば、被告が本件隣接地に「保健センター」が建築されるのを知ったのは昭和55年2月であったと認められる。これらの事実からすると、前記2の1の(2)の(1)で認定したとおり、当時、被告が、原告らに対し、本件隣接地について、単に公共施設用地であるとの説明のみを行ったことは適切であったということができ、被告に説明義務違反があると解することはできない。

 

札幌地判昭和63年6月28日判時1294号110頁

マンションの売主等に対する日照、通風、眺望の享受についての保証特約違反、契約締結準備段階の信義則上の義務違反及び隣接マンションの態様についての説明義務違反等に基づく損害賠償請求が認められなかった事例

 

東京地判平成2年6月26日判タ743号190頁

海浜のリゾート・マンションにおいて、付近にその後別の建築物が建築されてその眺望等が阻害されるに至った事案につき、マンションまたはその売買過程に、錯誤、詐欺、隠れた瑕疵、不法行為があったことを理由とする代金返還ないし減額の請求がいずれも排斥された事例

 1、本件は、眺望権の喪失を理由とする売買代金返還請求事件であり、舞台は千葉県御宿町の2階建リゾートマンション「御宿シーハイツ」である。

 原告Xらは昭和55年に、建築・不動産販売業者であるYから、右マンションの区分所有権及び敷地所有権の持分を購入したのであるが、昭和58年に至って、その東南方向に新たに14階建の別のリゾートマンションができ、Xらのマンションの眺望、日照は大きく損なわれるに至った。

  そこでXらがマンション売買契約の無効または失効を主張して、代金の返還を求めたのであるが、具体的には、契約時にYは、「シーハイツ」は御宿最後の高層マンションで、今後は町の条例規制により4階建以上の高層リゾートマンションが立つことはなく、その眺望、日照は将来とも維持できる。

と説明し、Xらはこれを信用して契約に至ったのであるのに、右説明は虚偽であったから、(1)錯誤により無効、(2)詐欺を理由に取り消した、または(3)環境瑕疵(瑕疵担保責任にいう瑕疵の謂である)がある、というものである。

また予備的に、Yの虚偽の説明に基づく(4)不法行為または(5)環境瑕疵を理由として、マンション価格の下落分の損害賠償を求めた。

  Yは、眺望・日照が障害された事実は認めたが、Yの責任に関する主張を争い、特に、契約時に、「今後建築規則の強化によって本件マンション付近には高層建築物は建築できなくなる」と言ったことはあるが、Xらのいうような説明をしたことは否認した他、時効・除斥期間を援用したので、時効の中断・除斥期間の経過も争点となった。

  2、判旨は事実認定において、Yからマンションの販売を委託されていたA会社がXら主張のような説明をしたこと及びXらに錯誤のあったことを認めたが、眺望・日照は、独占的・排他的に支配できるものとしての法的利益の対象ではなく、周辺の状況の変化によって変容、制約を受けざるを得ないものであるから、マンション売買代金の中に権利としての眺望権、日照権が含まれているものではなく、仮に含まれているとしても、将来の変化を前提としたものに過ぎないから、これは意思表示の錯誤ではなく、動機の錯誤であり、その旨の表示がなされていたとはいえないので、錯誤無効の主張は採用できない、とした。

  また建築規制の展望については、販売社員の説明に事実に反する点があったことは認めたが、販売社員に欺罔の故意が認められないとして、詐欺の主張を退け、またYが販売時に眺望・日照の将来的な保証をしたとは認められず、眺望・日照は私人が保証できるものでもないとして、隠れた瑕疵があったとの主張も退けた。

  また不法行為の点については、Xらのいう減価は別のマンションが建設されたことによるもので、販売社員が建築規則について誤った説明をしたことによるものではなく、また販売社員に欺罔の故意はなく、眺望の利益が不安定なものであることからすれば、説明の誤りとXらの損害との間には相当因果関係はない、とされ、結局Xらの請求は全部棄却となった。

  およそ眺望を売り物にしたリゾート・マンションで、買主が右眺望権の確保を前提に売買に応じたものであることにつき、売主は契約時にこれを認識できたであろうとは認められない、というあたりの判示は議論を呼びそうである。

 

東京地判平5年11月29日判時1498号98頁

リゾートマンション買受後、隣接して建築された別のリゾートマンションにより眺望を阻害されたことを理由とする、買主の売主に対する眺望の良好性に関する保証特約違反、契約締結過程における信義則上の告知義務違反、詐欺または錯誤に基づく売買代金返還等の請求がいずれも排斥された事例

 

大阪地判平5年12月9日判タ888号212頁

眺望を売り物にしてマンションを分譲したマンション業者が、右眺望を阻害するマンションの建築を容認しつつ、隣接地を他のマンション建設業者に売却した行為が、マンション購入者に対する不法行為にあたるとして、損害賠償請求が一部認容された事例

 一 マンション分譲業者Yは、Xらに本件マンションを販売する際、マンション各室からの眺望をセールスポイントとし、その眺望を阻害する建物が建築されるおそれはないと説明したため、Xらはこれを信頼して購入した。

 他方、Yは、本件マンションの南側隣接地をすべて取得し、Xらの右信頼を確実に保証できる状況となっていたが、Xらへの本件マンション売却後、建築制限条項を付してこれをAに売却した。

その後Aが右南側隣接地に5階建てのマンション(以下「南側マンション」という。)を建築したため、本件マンションからの眺望が阻害されるに至った。そこで、XらがYに対し、YがAに南側隣接地を売却したことが不法行為にあたるとしたうえ、本件マンション各室からの眺望が阻害されたことにより、Xら建物の財産的価値のうち、購入代金額の2割に相当する金額が喪失したなどと主張して、右財産的な損害、慰謝料等の支払い等を請求したのが本件である。

  二 本判決は、前記事実を前提として、Yは信義則上、南側隣接地に本件マンションからの眺望を阻害する建物を建築しない義務を負い、前記建築制限条項の存在から、Yが右義務を認識していたことが推認され、Yがこのような建物を建築することは、右信義則上の義務に反してXらに対して違法な行為になるが、加えて、これと同視される行為をすることもXらに対する関係で違法となる旨判示したうえで、(1)Yは、南側隣接地をAに売却する際、分譲販売で採算がとれる販売面積などから、Aが前記建築制限条項に違反して現在の高さの南側マンションを建築するのを予測できたにも拘わらず南側隣接地をAに売却したこと、(2)XらがAを相手方として南側マンション建築の差止を求めた仮処分事件において、YがXらに前記建築制限条項を公にするなどの協力をすれば、Aが南側マンションの建築を強行することができなかった可能性が高いのに、これを承知の上で協力しなかったことから、結局、Yは、Aに対し、Aが本件マンションからの眺望を妨げる南側マンションを建築するのを容認して南側隣接地を売却したと解すべきであり、これはY自身が南側隣接地に本件マンションの眺望を阻害する建物を建築するのと同視でき、Xらに対する違法な行為であるとした。

  そして、Xらのうち、眺望阻害がないとされた4名を除く18名(建物の数としては14軒)について、1軒あたり150ないし250万円の財産的損害と弁護士費用の支払いをYに命じた(慰謝料請求については認めなかった。)

 

東京地判平成10年9月16日判タ1038号226頁

マンションの売買の仲介人及び売主の従業員らが、買主に対し、マンションの住民の同意がなければ隣地に建物が建築されることはなく、将来も本件建物の日照は確保されると説明していたことは、結果的に虚偽の説明であり、買主に対する関係で説明義務違反であると評価せざるを得ず、仲介人及び売主は、いずれも使用者責任を負う。

1 Xらは、Y1(不動産業者)所有のマンション居室をY2の仲介により購入した。その際、Y1Y2の従業員は南西側の隣接地に建物が建築される計画があるという事実を認識していたのにもかかわらず、本件マンションの南西側からの日照は将来にわたって確保される旨の虚偽の説明をした。その結果、Xらは、その説明を信用して前記売買契約を締結したのであるが、その後、隣接地に建物が建築され、日照が阻害される状態となった。そこで、Xらが、Yらに対し、説明義務違反を理由とする不法行為またはその従業員の説明義務違反を理由とする使用者責任に基づく損害賠償として売買代金・諸費用、住宅口ーン利息、弁護士費用を請求したのが、本件訴訟である。

 すなわち、本判決は、(1)本件マンション居室売買契約及びこれに至る経過、隣接地に建物が建設されるに至る経過について詳細に事実認定をした上、Yらの従業員は、「本件マンションの区分所有権者の承諾がなければ隣接地上に建物を建築することはできないので、本件マンションの日照は確保される」旨の説明をしたが、この説明はいずれも結果的に虚偽であり、説明義務違反と評価されるべきところ、Yらの業務の執行について行われたものであり、Yらは使用者責任を負うとし、(2)本件売買契約は、Xらの錯誤により無効であるから、支払額全額(売買代金・諸費用、住宅ローン利息、弁護士費用)が損害となる旨判示したのである。

 3 マンション居室の売買契約後隣接地に建物が建設され日照が阻害された場合において、売主たる不動産業者と不動産仲介業者の従業員が買主に対して、隣接地に建物が建築されず日照は確保される旨の説明をしていたときには、説明義務違反となり、売主及び仲介業者は買主に対して使用者責任を負うとされたケースである。

本判決は、マンション居室の売主・仲介業者の説明義務違反を理由としている点、その説明が積極的な虚偽である点、損害につき売買代金・諸費用、住宅口ーン利息、弁護士費用をすべて認容している。

 

大阪地判平成11年2月9日判タ1002号198頁

原告が被告からマンションを購入した際、近隣に公衆浴場があり、その煙突の存在と排煙の流入について説明しなかったことは債務不履行に当たらないとされた事例

1 本件は原告が被告との間でマンション(以下「本件マンション」という。)の1室(以下「本件建物」という。)について、売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結したところ、本件マンションの近隣に公衆浴場(沢の湯)があり、その煙突(以下「本件煙突」という。)の存在及び排煙の流入について、被告が本件売買契約締結の際に説明をしなかったことが債務不履行に該当するとして、本件売員契約を解除したうえで支払った手付金の倍額の損害賠償を求めている事案である。

2 本件の争点は、本件売買契約において、本件煙突の存在及び排煙の流入について被告は原告に対し、説明をすべき義務を負っているか否かという点である。本判決はまず、本件売買契約において、本件建物が居住用であることから、居住者の生命、身体の安全及び衛生に関する事実は説明義務の対象となると解されるが、それらの事実は多種多様であり、その影響の程度も千差万別であり、したがって、右事実のうちから一定範囲の事実に限定して説明義務を課すべきあり、その基準については、通常一般人がその事実の存在を認識したなら居住用の建物としての購入を断念すると社会通念上解される事実とするのが合理的であるとしたうえで、本件煙突から本件建物への排煙の流入の事実とそれが居住者に対していかなる影響を及ぼしているかについて検討した結果、本件煙突から排出される煙が本件マンションへ流入していることは認められるが、排出される煙のうちどの程度が流入しているかは不明であり、また、本件煙突から排出される煙にいかなる成分が含まれ、その量がどの程度であり、このことにより本件建物の居住者に対して、健康上どのような影響を及ぼしているかも不明であり、他方、本件煙突が本件マンションの南西側角から20メートル離れていること、常時多量の煙を排出しているわけではないこと、公衆浴場は嫌悪施設ではなく、むしろ、利便を提供する施設という側面は否定できないことを併せ考えてみると、通常一般人が本件煙突が存在し、その排煙の流入の可能性についての情報を得ていないとしても、社会通念上その事実を知ったなら本件建物の購入を断念するほどの重要な事実とまでは評価できないと認めるのが相当であるとした。

 

東京地判平成11年2月25日判時1676号71頁

マンションの分譲、販売業者(宅建業者)が南側隣接地に建物の建設計画があることを知っていた場合には、マンションの購入者に売買契約上の付随義務として重要事項である建物の建設計画の告知義務を負うとされた事例

 

東京高判平成11年9月8日判タ1046号175頁

マンション購入後その南側隣地に高層マンションが建築されることになった場合、右マンションの購入を勧誘した不動産業者に告知義務違反の債務不履行責任が認められた事例

 1 Xは、平成8年1月当時、横浜市港北区日吉本町のアパートに居住し、日本油脂に勤務していたものであるが、定年退職後は、郷里から母を呼び寄せて1緒に暮らすためマンションの購入を希望していたところ、不動産会社であるYの営業社員に横浜駅から歩いて数分という距離にある「クリオ横浜1番館」の904号室(以下「本件建物」というこの購入を勧められたため、同月16日、Yから本件建物を代金4303万1000円で買受ける旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、同日までに手付金430万円を、同年2月20日までに中間金430万円を、それぞれ支払った。

  ところが、その後、本件建物の南側隣地に11階建マンションが建築されることが判明し、右マンションが建設されると日照が著しく制限されることになるため、Xは、本件売買契約においては、YがXに対し相当長期間にわたり本件建物の南側隣地にマンションなどが建たないことを保証する旨の特約(以下「本件特約」という。)があったとしたうえ、右特約は履行不能になったとして本件売買契約を解除して手付金430万円の返還を求めるとともに、本件売買契約の錯誤無効による手付金相当額の返還を、または契約締結上の過失に基づき手付金相当損害金の支払を、それぞれ求めた。

  2 1審は、(1)本件売買契約においては、明示であれ黙示であれ、本件特約が存在していたと認めることはできない、(2)XとYとの間で、本件建物の南側隣地に相当期間は建物が建たずに日照が確保されるとのX主張の動機が、本件売買契約の当然の前提となっていたとか、条件となっていたと認めることは困難である、(3)Yの担当者が相当期間高層建物は建たないと断定的に説明したことを認めるに足りる証拠はなく、右担当者は、Xからの質問を受けて、南側隣地にいずれ建物が建つにしても直ぐには建たないとの見通しを述べたにとどまり、本件売買契約にあたって、Yの宅地建物取引主任者がXに対し、重要事項説明書に基づいて、将来周辺空地に中高層建物等が建築されることによって日影等の環境変化が生じる恐れのあることを説明していることも併せると、右担当者が右のように述べているといって、直ちにYに説明義務違反が生じるとはいえない、などと判断し、Xの本訴請求を棄却した。

  3 これに対し、本判決は、(1)本件売買契約は南側隣地に建物が建たないことを保証する旨の特約が存在していたと認めることはできない、(2)本件建物の南側隣地に相当期間建物が建たずに日照が確保されるとのXの動機が本件売買契約の当然の前提あるいは条件となっていたとは認められない、とした1審の判断を是認したが、(3)Yの担当者は、Xに対し、個人的見解と断りながらも、南側隣地の所有者は大蔵省なので、しばらくは何も建たないし、建てられるとしても変な建物は建たないはずである旨説明し、Xをして、南側隣地に建物が建築されることはなく、本件建物の日照が確保される旨の期待を持たせて本件建物の購入を勧誘し、Xをして本件建物を購入させたものであるから、Yには、南側隣地に中高層マンションが建築される可能性やこれによって日照・通風等が阻害される可能性があることを告知すべき義務の違反があったと判断してYの損害賠償責任を肯認し、1審判決を変更したうえ、本訴請求を一部認容した。

 

大阪地判平成11年12月13日判時1719号101頁

同一の所有者の所有に係る広大な土地に18棟のマンションが建設された場合において、右マンションの建設、販売を行った右所有者の関連会社、事業提携会社につき北側マンションの購入者に対する眺望に関する説明義務違反が否定された事例

 

大阪高判平成11年9月17日判タ1051号286頁

建築前のマンション売買交渉において売主が居室からの眺望についてした説明が建築完成後の状況と異なるときは、買主は契約を解除できるとした事例

 1 控訴人はマンションの完成前に、6階西端の603号室を買い受ける契約をした。本件マンションの西方に2条城がある。603号室は6階西端に存し、南向きにベランダが、西に向いて窓がある。

 被控訴人ら(売主と販売代理人)の作ったパンフレットでは、上階からは2条城の眺望が広がると記載されていた。販売代理人の担当者は控訴人の質問に対し、本マンションの6階は西隣のビルより高いから、603号室の西窓からの視界は通っていると説明した。

  ところが、マンションが完成してから見ると、603号室は西隣のビル(5階建)本体よりは高いものの、その屋上のクーリングタワーが本件マンション603号室西窓のすぐ前にあり、西窓からの2条城への視界が大きく妨げられていた。それで控訴人は売買契約を解除したが、売主は手付金を返還しなかった。

  2 原審京都地裁は契約解除、不法行為を理由とする控訴人の請求を棄却した。その理由は、原判決理由2を参照されたいが、控訴人は西窓からの眺望は重視していなかったし、都会における眺望の阻害は受忍せざるを得ないとの認識にたつようである。それに対し、本判決は、控訴人は眺望を重視していたことを理由としている。

  3 完成前のマンションの売買においては、買主は目的物を現物で確認できないから、それについての情報をよりよく把握している売主は、正確な情報を買主に提供することが要求されるとするのが本判決の判示するところである。

 

東京地判平成13年11月8日判時1797号79頁

1 マンションの南側の敷地にあった平屋建ての建物が取り壊され、2階建ての建物が建築、販売された場合について、マンションの分譲業者、販売媒介業者による建物の建築に関する説明義務違反が認められ、マンションの1階、2階の専有部分を購入した区分所有者等に対する損害賠償責任が肯定された事例

2 右2階建ての建物により日照等の被害が生じた場合について、右建物の敷地を右分譲業者から購入し、右建物を建築した建築業者の右分譲業者等との共同不法行為責任が肯定された事例

確かに、被告東葉建宅は、本件不動産自体の調査のみならず、周辺環境についても調査し、区画整理事業の存在及び公園の建設までは確籾している。しかし、当時、既に本件擁壁の設置は決定されていたこと、公園の建設があらゆる場合に環境を向上させるとは限らず、区画整理事業や公園の建設に伴い本件不動産周辺の竹・雑木が伐採される可能性があることは容易に想像できること、公園の具体的な建築内容を把握しなければ、周辺環境への影響の有無はわからないことなどを考慮すれば、本件において、原告の本件不動産の購入動機・目的を知り、購入決定の事情も知っていた被告東葉建宅が、区画整理事業及び公園の建設の事実を把握したにとどまり、その内容の1環である本件擁壁の設置についての調査に至らず、この点についての説明を欠くに至ったことは、仲介契約上の調査義務ないし説明義務に違反したものというべきである。

 

札幌地判平成16年3月31日LLI/DB 判例秘書登載

被告らが建築し販売した15階建てマンションの高層階の区分所有者である原告らが、被告らが新たに同マンション南側に近接して15階建てマンションを建築したのは、信義則上眺望を害さないよう配慮すべき義務に違反するなどと主張して、被告らに対し提起した損害賠償請求の一部が認容された事例

 

福岡地判平成18年2月2日判タ1224号255頁

眺望に関する説明義務違反を理由にマンション販売契約が解除された事例

 1 本件は、XがYに対し、新築マンションを売り渡す契約をしたがYが代金の支払をしないとして、約定の違約金428万円の請求をしたところ、Yは、Xがマンションの眺望について事実と異なる説明をしたとして、消費者契約法による取消し、債務不履行(説明義務違反)による解除、損害賠償を主張して、手付金100万円の返還、オプション工事代金96万3690円、慰謝料100万円の支払を求める反訴を提起した事案である。

  本件マンションは、海の側の敷地に「全戸オーシャンビューのリビングが自慢です」として販売されたものであり、完成予想図には、海側に電柱その他何らの障害物も記載されていなかった。ところが、実際に出来上がってみると、Yが購入した301号室の海側ベランダの前数メートルのところに、電柱が立っており、その電柱から3本の送電線がベランダに沿って水平に走っていたものである。Xの販売員は、301号室と電柱、送電線の位置関係を認識しておらず、したがって、Yから301号室と501号室で眺望に違いがあるか尋ねられたのに対し、ベランダからの眺望に違いはない旨説明したことなどから、Yは301号室を購入したものであった。

  主たる争点は、301号室の販売について、電柱や送電線の存在、これによる眺望への影響について、Xに説明義務違反があったといえるかどうか、というものである。

  判決は、居室からの眺望をセールスポイントとして、建築前のマンションを販売する場合においては、眺望に関係する情報は重要な事項ということができるから、可能な限り正確な情報を提供して説明する義務があるというベきであるとして、本件においては、眺望をセールスポイントとして販売していたものであり、電柱及び送電線による眺望の阻害は小さくないのであるから、これを具体的に説明すべき義務があったとして、説明義務違反を理由とするYからの契約解除を認めた。

  2 眺望権を巡る裁判例について論じた最近の論考として、伊藤茂昭ほか「眺望を巡る法的紛争に係る裁判上の争点の検討」判タ1186号4頁がある。マンション売買の当事者間で眺望が問題となって損害賠償請求が認容された裁判例としては、大阪高判平11年9月17日判タ1051号286頁がある。

 

大阪地判平成20年6月25日判タ1287号192頁

超高層マンションの高層階の専有部分を購入した原告らが、分譲業者である被告らに対し、被告らが同マンション分譲後に約82.5m離れた場所に別の超高層建築物を建設した結果、専有部分からの眺望が悪くなったと主張して、眺望に関する説明義務違反等に基づく損害賠償を求めた事案について、原告らは被告らから重要事項説明を受けるなどして同所に超高層建築物が建設される可能性があることを知っていたなどの事実関係の下では、被告らに上記説明義務違反等はないとされた事例

 1 本件は、超高層マンションの高層階の専有部分を購入した原告らが、分譲業者である被告らに対し、被告らが近隣に別の超高層建築物を建設した結果、眺望が悪くなった等と主張して、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

  2 眺望の法的利益性に関するリーディングケースである東京高決昭51.11.11判タ348号213頁は、「このような利益もまた、1個の生活利益として保護されるベき価値を有しうるのであり、殊に、特定の場所がその場所からの眺望の点で格別の価値をもち、このような眺望利益の亨受を1つの重要な目的としてその場所に建物が建設された場合のように、当該建物の所有者ないし占有者によるその建物からの眺望利益の亨受が社会観念上からも独自の利益として承認せられるべき重要性を有するものと認められる場合には、法的見地からも保護されるべき利益であるということを妨げない。」としつつ、「右の眺望利益に対し、その侵害の排除またはこれによる被害の回復等の形で法的保護を与えうるのは、このような侵害行為が、具体的状況の下において、右の利益との関係で、行為者の自由な行動として一般的に是認しうる程度を超えて不当にこれを侵害するようなものである場合に限られるものと解すべき」であって、「眺望利益なるものが騒音や空気汚濁や日照等ほどには生活に切実なものではないことに照らして、その評価につき特に厳密であることが要求されるといわなければならない。」と判示している。

 3 本件で問題となったのは、被告の1社が大阪市の中心部に建てた超高層マンションである。付近に同種の超高層建築物がなかったことから、パンフレット等でも眺望がセールス・ポイントの1つとして分譲されていたが、被告らが東側近隣地に別の超高層マンションを建築した結果、眺望が遮られた(両者の間隔は約82.5メートル)。

  しかしながら、本判決は、被告らが分譲に際して「東側近隣地は開発予定であり、本マンションの眺望、日照条件、交通量等に変化が生じる場合がある」旨の重要事項説明を行っていたほか、高層建築物が建つかのような看板等が設置されており、原告らもこれを見るなどして高層建築物が建つ可能性を認識していたはずであること、他方、被告らにおいて「将来も東側近隣地に高層建築物が建つことはない」と誤信させるような勧誘・説明を行っていた事実は認められないことなどを認定して、原告らの主張する法的に保護されるベき眺望利益は認められないとした。

  なお、この点、札幌地判平16.3.31は、本件と似た事案(札幌市の中心部で、同じ業者が、約40メートル離れたところに新たなマンションを建て、眺望を害したというもの)で、眺望をセールス・ポイントとしていたことを強調して損害賠償を認めており、本判決とは異なる結論となっている。

 

ビジネス法務2024年7月号【特集1】各法令における個人情報保護法のエッセンス

 

中央経済社

定価(紙 版):1,800円(税込)

発行日:2024/05/21

 

本の紹介

より詳しい内容を、本誌ウェブサイト(https://www.chuokeizai.co.jp/bjh/)にて紹介しています。

 

【特集1】

各法令における個人情報保護法のエッセンス

 

「個人情報」に着目した法律は,個人情報保護法しか存在しません。同法はあくまで行政法規であって,守っていたとしても行政から指導を受けない,という点にとどまります。しかし,そのほかには特段,意識すべき点がないのでしょうか。

データ利活用の場面においては,民法をはじめとする私法を遵守する必要があり,この視点を欠かせば,正確なリーガルチェックはできません。本特集では,主に私法からみた個人情報保護法の周辺領域を明らかにし,知られざる実務に迫ります。

 

コメント

大変勉強になりました

 

公立中学校の教諭らが自己の勤務する中学校に喫煙室の設置を求める措置要求(地方公務員法46条)を斥けた人事委員会の判定の取消しを求める訴えが、同教諭らの転任により訴えの利益を欠くに至ったとして、却下された事例

 

名古屋高等裁判所判決/平成3年(行コ)第5号

平成4年10月29日

措置要求判定取消請求控訴事件

【判示事項】 公立中学校の教諭らが自己の勤務する中学校に喫煙室の設置を求める措置要求(地方公務員法46条)を斥けた人事委員会の判定の取消しを求める訴えが、同教諭らの転任により訴えの利益を欠くに至ったとして、却下された事例

【参照条文】 地方公務員法46

       行政事件訴訟法

【掲載誌】  労働関係民事裁判例集43巻5~6号1108頁

       判例タイムズ859号127頁

       判例時報1496号127頁

       労働判例619号16頁

 

行政事件訴訟法

(原告適格)

第九条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

 

地方公務員法

(勤務条件に関する措置の要求)

第四十六条 職員は、給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、人事委員会又は公平委員会に対して、地方公共団体の当局により適当な措置が執られるべきことを要求することができる。

 

(その他の取引拒絶)

2 不当に、ある事業者に対し取引を拒絶し若しくは取引に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限し、又は他の事業者にこれらに該当する行為をさせること。

 

最高裁判昭和36年1月26日民集15巻1号116頁[北海道新聞社事件]

ⅰ 公正取引委員会が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第20条(昭和28年法律第259号による改正前)により不公正な競争方法であるかどうかを認定するにあたっては、単にその行為の外観にのみとらわれることなく、かかる行為の行われた客観的情勢をも勘案し、その行為の意図とするところをも考慮すべきである。

ⅱ 新聞社の新聞販売店に対する見本紙の供給は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和28年法律第259号による改正前)第2条第6項第5号の「経済上の利益の供給」にあたる。

 

東京高判昭和26年9月19日民集8巻5号967頁

一、審決の事実認定が、審決の援用する証拠によって、理性ある人が合理的に考えれば、終局到達するところのものであるときは、その事実は実質的証拠によって立証されたものである。

二、契約書に共同経営という語を用い、また経営の方針は契約当時者甲乙双方の協議決定することとなっていても、甲は経営上の経費一切を負担して直接経営に任じ、その対価として乙に無利息金融をなし、かつ収益の一割五分を与えるという関係にある場合は、営業の賃貸借の一態様とみるべきである。

三、映画館の多数がある地域に近接して存在するときは、おのずからその地域に集合する観客群を生じ、これらの観客群は通常この地域内でそれぞれ映画館を選択して入場することとなり、この地域の興行者はこの観客群を共通の対象とすることになり、そこに一定の取引分野が形成される。

四、競争の実質的制限とは、競争自体が減少して特定の事業者または事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって市場を支配することができる形態が現われているか、または少なくとも現われようとする程度に至っている状態を指すものである。

 

勧告審決昭和30年12月10日[第二次大正製薬事件]

大正製薬が多数の特約店と結んだ排他約款が旧一般指定7項(現行一般指定11項)に該当するとともに、当該約款の強制手段として、違反者に対する取引を中止したことが旧一般指定1項(現行一般指定2項)に該当するとされた。

 

東京高判平成14年12月5日判例タイムズ1139号154頁[ノエビア事件]

連鎖販売取引の販売システムにより化粧品を販売する会社が、その傘下の販売会社との販売業務委託契約を解除したことが、独占禁止法19条あるいはその趣旨に反し、著しく信義則に反するものであって、不法行為を構成するとされた事例

 

審判審決昭和31年7月26日[雪印乳業・農林中金事件]

農林中金が行った取引拒絶は、自己と密接な関係を有している事業者の競争者と取引する者に融資拒絶したこと。これは関係する事業者の独占的地位を違法に維持、強化することを目的としたものであって、不当な目的のためのものである。

 

審判審決昭和42年4月19日[丸亀青果物事件]

丸亀市内における青果物セリ市場取引の大部分を占める青果仲買人を同社のセリ取引から排除したため、青果物の仕入れに支障をきたした事案で、その排除を不当な取引拒絶とした事例。

 

勧告審決昭和56年2月18日[岡山県南生コンクリート協同組合事件]

価格競争を行う可能性のあるアウトサイダーを取引拒絶によって排除することで価格の維持を図った事例

 

公正取引委員会審決平成10年7月24日審決集46巻119頁

間接の取引拒絶によるピアノの並行輸入妨害の事件

 

勧告審決平成12年5月16日[ヤギサカ事件]

量販店向けの自転車用品パックの販売業者(シェア30%)が、量販店が自社の供給するキャラクター製品を強く望んでいるため、その供給がない限り量販店との取引が困難な状況において、販売先卸売業者に対して自社のキャラクター製品を自社の競争業者に提供させないようにしていた事例。

 

勧告審決平成13年7月27日[松下電器産業事件]

有力なメーカーが、廉売を行っている小売店に対しその流通経路を調査し、廉売店に製品を供給していた代理店等に廉売店に製品の供給を行わないように要請したこと

 

東京地判平成23年7月28日判例タイムズ1383号284頁[東京スター銀行事件]

甲銀行を委託者、乙銀行を受託者とする相互に他行の保有するATM等による現金の払出し等に係る業務提携契約について甲銀行が当該契約の解約を前提にした乙銀行に対する業務の提供の拒絶が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律所定の「不当な取引拒絶」に当たるとして乙銀行が甲銀行に対して当該業務の履行の拒絶の差止め等を求めた請求は、当該業務の提供の拒絶に正当な理由があって、これを「不当な取引拒絶」と認めることができない判示の事実関係の下においては、棄却されるべきものである。

 

流通・取引慣行ガイドライン第2部第3の2

独占禁止法上不当な目的として、競争者(自己と密接な関係のある事業者を含む)を排除する目的を例示し、それに該当するケースとして、①市場における有力な原材料製造業者が自己の供給する原材料の一部の品種を取引先完成品製造業者が自ら製造することを阻止するため、当該完成品製造業者に対し従来供給していた主要な原材料を停止すること、②市場における有力な原材料製造業者が、自己の供給する原材料を用いて当該完成品を製造する自己と密接な関係にある事業者の競争者を当該完成品の市場から排除するために、当該競争者に対し従来供給していた原材料の供給を停止することをあげています。

 

二  不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもって、商品又は役務を継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの

被告人が、元交際相手が撮影された私事性的画像記録をオンライン・ストレージサービスにアップロードし、ストレージサービスが提供する機能を用いて、同画像記録を「公開設定」したが、これにアクセスするために必要な公開URLを被害者以外の第三者に明らかにしなかったという事案について、わいせつ電磁的記録記録物公然陳列罪(刑法175条1項)および私事性的画像記録の提供等による被害防止に関する法律3条2項後段の「公然と陳列した」に当たらないとして、これらの罪の成立を認めた原判決には、法令適用を誤った違法があるとした事例

 

大阪高等裁判所判決/平成29年(う)第136号

平成29年6月30日

強要未遂,私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律違反,わいせつ電磁的記録記録媒体陳列被告事件

【判示事項】 被告人が、元交際相手が撮影された私事性的画像記録をオンライン・ストレージサービスにアップロードし、ストレージサービスが提供する機能を用いて、同画像記録を「公開設定」したが、これにアクセスするために必要な公開URLを被害者以外の第三者に明らかにしなかったという事案について、わいせつ電磁的記録記録物公然陳列罪(刑法175条1項)および私事性的画像記録の提供等による被害防止に関する法律3条2項後段の「公然と陳列した」に当たらないとして、これらの罪の成立を認めた原判決には、法令適用を誤った違法があるとした事例

【参照条文】 刑事訴訟法397-1

       刑事訴訟法380

       私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律

       私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律3

       刑法175-1

【掲載誌】  判例タイムズ1447号114頁

 

刑事訴訟法

第三百八十条 法令の適用に誤があつてその誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、その誤及びその誤が明らかに判決に影響を及ぼすべきことを示さなければならない。

 

第三百九十七条 第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条に規定する事由があるときは、判決で原判決を破棄しなければならない。

② 第三百九十三条第二項の規定による取調の結果、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。

 

私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律

(定義)

第二条 この法律において「私事性的画像記録」とは、次の各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像(撮影の対象とされた者(以下「撮影対象者」という。)において、撮影をした者、撮影対象者及び撮影対象者から提供を受けた者以外の者(次条第一項において「第三者」という。)が閲覧することを認識した上で、任意に撮影を承諾し又は撮影をしたものを除く。次項において同じ。)に係る電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。同項において同じ。)その他の記録をいう。

一 性交又は性交類似行為に係る人の姿態

二 他人が人の性器等(性器、肛こう門又は乳首をいう。以下この号及び次号において同じ。)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

三 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

2 この法律において「私事性的画像記録物」とは、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、前項各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像を記録したものをいう。

(私事性的画像記録提供等)

第三条 第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

2 前項の方法で、私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者も、同項と同様とする。

3 前二項の行為をさせる目的で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を提供し、又は私事性的画像記録物を提供した者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

4 前三項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

5 第一項から第三項までの罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。

 

刑法

(わいせつ物頒布等)

第百七十五条 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。

2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

 

第9章 物理的瑕疵

 

東京地判昭和51年10月14日判時856号63頁

 仲介により売買契約が成立しても、仲介者が仲介の過程で無効または取消の原因となる行為をなし、或いはこれに加担し、それがため契約が無効または取り消された場合、仲介者は仲介に成功したとはいえないから、仲介報酬金を取得し得ない。

 右事実によれば、訴外会社は本件土地の大部分が傾斜地であるのに、小谷野ら仲介者からそのうち約六、七〇〇坪が平坦地である旨の説明を受けたため、その旨誤信して買受け、後に本件売買契約は右詐欺を原因とする訴外会社の取消により実質的には解消され、合意解除の形式による処理がなされたことが明らかである。

 ところで、被告は前認定のように、本件契約の仲介に先立って本件土地の現況を確認し、また原告の代表取締役広田から公図を示され、本件土地の大部分が傾斜地である旨の説明を受けていたものであるが、原告と訴外会社との間で本件契約の締結を直接仲介する立場にあり、かつ小谷野から本件契約につき後に紛糾の生ずるおそれがあることを警告され、契約締結の中止を要請されたのであるから、被告としては訴外会社が小谷野らの説明により本件土地の現況につき錯誤に陥っていることを当然に知りうべきものであった。しかるに、被告は小谷野の警告と要請を無視し、あえて本件契約の締結に至らしめたのであるから、被告みずからは欺罔行為を行なってはいないが、小谷野らによる詐欺に加担したものというべきである。

 したがって、被告は本件契約の解消の原因たる瑕疵につき責任あるものであるから、前記の理により仲介報酬債権を取得し得ないものといわなければならない。

  そうだとすると、被告は仲介報酬金として原告から受領した金三〇〇万円を法律上原因なく利得したいわゆる悪意の受益者というべきものであるから、これを原告に返還する義務がある。

 

神戸地判平成9年9月8日判タ974号150頁

1 新築された鉄筋コンクリート造住宅の売買について、建物内部への雨水等の浸水が、2重地下壁の不設置など居住用建物が備えるべき防水・排水設備に「隠レタル瑕疵」があるために生じたものであり、かつ、右瑕疵のため契約の目的を達成することができないとして、売買契約の解除を認めた事例

1 本件は、土地建物の売買につき、建物に瑕疵があるとして、瑕疵担保責任に基づく売買契約の解除及び建設業者の不法行為責任を問題とした事案である。

  2 原告は、被告不動産業者が被告建築業者の施工により建築する予定の鉄筋コンクリート造の建物(以下「本件建物」という。)及びその敷地を転売目的で買い受け、本件建物完成後、その引渡を受けたが、本件建物では、雨が降り続くと、地下1階の玄関等に水が浮き出る現象(以下「浸水現象」という。)が生じることが判明した。原告は、浸水現象は、本件建物について、地下壁を2重壁構造として排水のための空間を設け、また、地下壁の外側に雨水等を地中に透過させる透水層を設けるなど防水・排水設計がされているにもかかわらず、被告建築業者がそれらを設計どおり施工しなかったことにより、建物が本来備えるべき建物内部への浸水に対する防水構造や排水設備に、通常発見することが困難な構造上・施工上の瑕疵があったため、雨水等が本件建物内に浸水して生じたものであるとして、主位的に、被告不動産業者に対して瑕疵担保責任に基づき売買契約解除による売買代金返還請求及び損害賠償請求、被告建築業者に対して不法行為に基づき損害賠償を求め、予備的に、被告不動産業者に対して瑕疵担保責任、被告建築業者に対して不法行為責任にそれぞれ基づき、瑕疵修補費用等の損害賠償を求めた。

  これに対し、被告らは、本件建物の床に水が浮き出たのは、建物内部の空気中の水蒸気が水滴となって生じる結露現象によるものであって、原告の主張するような雨水等の浸水ではないと主張するとともに、本件建物施工の際、2重壁の施工等を一部変更したが、建物の防水・排水機能上の問題はないと反論して、本件建物に瑕疵があるとの主張を争った。

  3 本判決は、コンクリート製の地下壁を施工する際には、材質上、雨水等が浸水する可能性があることから、2重壁構造を採用し、その間に十分な空間をとって外壁からの浸水を排水する最終的な手段を確保するのが通常であるところ、本件建物の施工においては、監理者らの承諾を得ないまま2重壁の施工が変更され、排水のための空間をほとんど塞いでしまったことから、2重壁による排水機能が働かず、それによって本件建物内部に雨水等が浸水したことを認定した。

そして、2重壁による排水設備は、地下壁を有する本件建物の構造上重要な排水設備であり、また、原告と被告不動産業者との間で、本件建物の売買契約の際、具備すべき設備として合意されていたことから、本件建物が右のような施工であることは、構造上及び売買契約上の瑕疵にあたると判断した。

  そして、本件建物は、右瑕疵により浸水現象が生じることから快適な居住を保証しないこと及びその修補は新築に等しい工事となって事実上不可能であることから、居住用建物として転売することは不可能であり、また、敷地のみを転売することも期待できないことから、売買契約の目的を達することはできなくなったというべきであると判断し、瑕疵担保責任による売買契約の解除及び損害賠償請求を認めて、被告不動産業者に対する売買代金返還請求及び損害賠償請求を認めた。

  しかし、被告建設業者の不法行為責任については、建築請負人は、瑕疵ある建物を建築した場合であっても民法634条以下の瑕疵担保責任を負うにすぎず、一般の債務不履行(不完全履行)責任を負わないとされていることからすると、建築請負人が注文者や建物取得者の権利や利益を積極的に侵害する意図を有していたなどの特段の事情がある場合を除き、建物に瑕疵があっても不法行為責任を負わないと解するのが相当であるとの判断を示し、本件においては、右のような特段の事情を認めることはできないとして、被告建設業者の不法行為責任を否定した。

 

東京地判平成10年5月13日判タ974号268頁

賃貸用マンションの購入に際し、その資金を銀行が融資した場合において、銀行の支店長が支店の重要顧客である売主に代わって売買契約交渉をまとめる役割を事実上担っていた等の事情のもとでは、同支店長が、当該建物に再三原因不明の雨漏りがあり、応急修理で一時的に止まっているが再発の危険もあるという重要な事実を認識していながら、右事実に反した内容の不動産仲介業者の買主に対する説明を聞いてもそれを積極的に正すことをしなかったことは告知義務違反の不法行為に当たり、銀行の融資契約等についても詐欺による取消しが認められる。

中古の賃貸用マンションを買い受けたが、右マンションは雨漏りがひどく、修理不能な欠陥建物であったため、所有者であるY2から売買に関する一切の事項を一任されていたY1の船橋支店の支店長Y3が、右マンションの雨漏りの状況を買主であるXに告知すべき義務があるのに、故意または過失によりこれを告知しなかったとし、不法行為に基づき、Y1やY3らに対し、損害賠償を請求した。

 本件では、不法行為に基づき、顧問税理士、不動産仲介業社やその代表者の損害賠償責任が認められている。また、Y1のXに対する融資金の返還請求が、融資契約の詐欺による取り消しを理由に棄却されている。

 (1)Y3は、右マンションの売却前に、(1)右マンションが再三雨漏りし修理を繰り返していたこと、(2)修理は応急手当であって根本原因を調査して対処するには時間がかかること、(3)昭和63年5月の時点ではいまだ雨漏りの原因が判明しておらず、再発の危険があることを、それぞれ認識していた。

 (2)Y3は、右マンションの売却に当たって、売主のために売買価格を調査検討して価格を引き上げたうえで買主側にこれを提示し、また不動産仲介業者に契約の仲介業務を依頼するなど、売主側の仲介者兼財務コンサルタントとしての役割を果たしていた、(3)Y3は、売主側の仲介者兼財務コンサルタントとしての地位に鑑み、買主であるXに対して、右マンションの売却に先立ち、自己の入手した右のような重要な情報を告知すべき義務があるのに、右情報を告知しなかった過失がある、(4)Y3の右のような不法行為は、Y1の事業の執行につき行われたものである、と判断し、Y3の不法行為責任とY1の使用者責任を肯認して、本訴請求を認容した。

 

神戸地判平成11年7月30日判時1715号64頁

購入した中古住宅の屋根裏に多数のコウモリが住み、この駆除が必要なことにつき、売主の瑕疵担保責任が認められた事例

 

奈良地葛城支判平成11年8月31日判時1719号117頁、

公道に通じる土地の通行承諾の有無につき、媒介の宅建業者に説明義務違反があるとして、買主に対する損害賠償責任(使用者責任)が認められた事例

本件カーポートの利用に関する丙川所有地の通行権の有無は、本件の土地の位置・形状に照らせば、本件カーポートの利用価値に直結するものであるし、しかも本件においては、依頼者である原告から本件カーポートの使用の必要性を強調されて媒介の依頼を受けているのであるから、右通行権の有無は、原告が本件不動産を購入するか否か、ないしその購入代金はいか程にするか等の決定に重大な影響を及ぼすことが明らかであり、また被告にとって、その調査確認も容易である。してみれば、被告としては、右事項が直ちに宅建業法35条1項各号の重要事項に該当しないとしても、同法35条1項3号等に準じるものとして、丙川所有地の通行権の有無及びその具体的内容等について原告に説明する義務があるものと解するのが相当である。

 そうであれば、被告の従業員である今川は、本件売買契約の仲介をするに当たって、前記認定のとおり、丙川所有地の通行権の有無に関して何ら詳細な調査を行うことなく、従前の丙川所有地の利用形態からして簡単に通行の承諾が得られるものと軽信し、原告にほぼ無条件の通行承諾書の見本を示し、あたかも同様の内容の通行の承諾が得られるかのような説明をしたにすぎないのであるが、結果的に丙川は、原告に本件カーポートのゲートや塀の撤去の要求をしたうえ、従前の丙川所有地の利用形態を変更し、自らの自動車等の利用を優先させ、それに支障のない範囲でしか自動車の通行を認めないという態度を示しているというのであるから、今川に右の点につき民法709条の過失があるのは明らかであり、被告は原告に対して民法715条の責任を負うものといわざるをえない。

 

東京地判平成13年6月27日判タ1095号158頁

1 軟弱地盤の土地であるため地盤沈下が発生し建物に居住に困難をもたらす不具合が生じた場合において、軟弱地盤であることは隠れた瑕疵であり、土地付建売住宅の売買契約の目的を達することができないとして、瑕疵担保責任を理由とする売買契約の解除が有効であるとされた事例

2 不動産仲介業者が土地が軟弱地盤であることを説明告知しなかったところ、地盤沈下が発生し建物に居住に困難をもたらす不具合が生じたときは、業者には説明告知義務違反を理由とする不法行為が成立するとされた事例

 

東京高判平成15年9月25日判タ1153号167頁

宅地について、大雨の時など冠水しやすいという土地の性状が民法570条にいう隠れたる瑕疵に当たらないとされ、また、売主たる宅建業者の説明義務違反による債務不履行も認められなかった事例

1(1)本件は、建売業者であるYから本件土地建物を買い受けたXが、本件土地は、大雨のときなど容易に冠水し、宅地として使用することができず、これは売買の目的物の隠れたる瑕疵に当たるとか、売買契約の際、売主であるYが、その説明を怠ったことは債務不履行(説明義務違反)に当たるなどと主張して、1000万円の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

  (2)原判決は、本件土地は居住用建物のために売却されたものであるから、土地の瑕疵の有無は、建物の通常使用に耐えない状態にあるか否か、すなわち、通常程度の降雨でも冠水して床下浸水をきたすとか、地盤が崩壊するおそれがあるかなどによって決せられるべきであるとしたうえ、本件土地は、集中豪雨などのときには、雨水が床下浸水に達する勢いになり、また、駐車場部分が冠水するなどするものの、通常程度の降雨により、このような状態になることを認めるに足りる証拠はないとして、瑕疵の存在を認めず、また、宅建業者であった被控訴人にその点についての説明義務もないとした。

  (3)本判決も、結論としてはXの請求を認めなかったが、このような宅地が冠水しやすいという場合の瑕疵の該当性や、業者の説明義務について、かなり掘り下げた検討をしている点が注目される。すなわち、本判決は、地盤が低く、降雨等により冠水しやすいという土地の性状は、通常、附近一帯の土地の価格評価に織り込まれていること、また、道路の排水設備の整備等により改善されうる性質のものであることなどからして、独立して土地の瑕疵であると認めることは困難であるとした。また、本判決は、瑕疵に当たらないからといって、販売業者に、このような土地の性状についての説明義務が直ちに否定されるものではないが、このような場所的・環境的要因からする土地の性状は、地域の一般的な特性として、当該物件固有の要因とはいえない場合も多いこと、また、このような事柄は、土地の用途地域などとは異なり、簡単に調べられる事柄ではないこと、また、このような土地の冠水傾向について説明義務があることを基礎づけるような法令上の根拠や業界の慣行等もないことなどからして、結論的には、Yの説明義務違反があったとは認め難いと判断した。

  2 本件のような宅地の売買において、どのような事柄が民法570条にいう隠れたる瑕疵に当たるかという点は、難しい問題である。

  本件のように、土地それ自体の事柄ではなく、環境との関係が問題になっている場合に、瑕疵の該当性をどうとらえるかは難しい問題である。一般的には、このような物と環境との関係についても、「長期にわたり、かつ、使用性に影響を与える可能性がある限り」瑕疵に当たるとされる(柚木馨=高木多喜男『旧版注釈民法(14)』244頁)。このような事柄が問題となった裁判例としては、宅地用に買い受けた山林への通路が村道ではなく、通行できない私道であったため、売買の目的物に隠れた瑕疵があるとされた場合(東京高判昭和53年9月21日判タ373号65頁)や、病院用土地建物の売買で売主が正門であると指示したところに通ずべき道路がないことが瑕疵に当たるとされた事例(東京地判昭和32年3月12日判時112号35頁)などがある。

宅地が冠水すれば、それが床下浸水等の程度にまで達しないといっても、床材等に腐食や損傷が生じることは明らかであるし、本件のように駐車場の車が汚損したり、機能が損なわれるおそれもあり、一見すると、瑕疵に当たるとみてもよいように思われる。しかし、翻って考えると、本判決が指摘するように、このような事柄は、当該宅地だけの問題というより、地域一般の場所的・環境的要因という性質の問題であり、それが附近一帯の土地の価格評価に織り込まれている面が大きい。要は、そのような冠水の可能性から値段が安くなっている場合があるこということである。また、これは、附近の宅地開発の進行状況や、道路の排水設備等の整備状況にも大きく左右されることであり、恒久的に続く性質のものというより、いずれ解消される可能性のある事柄である。このように、その瑕疵の該当性には、種々考慮すべき要因があり、直ちに瑕疵といえるか否かは微妙であり、判断はかなり難しい面がある。いずれにせよ、本判決は、このような点を深く検討したものとして注目される。

  もっとも、このような土地の性状が瑕疵に当たらないとしても、販売業者にその点についての説明義務があるか否かは別個の検討が必要である。本判決は、この点につき、このような事柄が、当該土地建物の利用者に日常生活の面で、種々の支障をもたらす可能性があることや、売主が宅建業者である場合、当該業者は、宅地建物の専門的知識を有するのに対し、購入者はそのような知識に乏しいことなどから、一般的には説明義務の対象となりうることを認めた。ただ、本判決は、このような場所的・環境的要因からする土地の性状は、地域の一般的な特性として、当該物件固有の要因とはいえない場合も多いこと、また、このような事柄は、土地の用途地域などとは異なり、簡単に調べられる事柄ではないこと、また、このような土地の冠水傾向について説明義務があることを基礎づけるような法令上の根拠や業界の慣行等もないことなどからして、結論的には、Yの説明義務違反があったとは認め難いと判断した。この点も注目すべき判示である。

 

東京地判平成16年4月23日判時1866号65頁

1 土地、建物の売買において、建物が火災にあって焼損したことが、隠れたる瑕疵に当たるとされた事例

2 土地、建物の売買の仲介において、仲介業者が建物の瑕疵を調査せず、建物が火災にあって焼損したことを看過した場合には、債務不履行責任を免れないとされた事例

 

東京地判平成16年10月28日判時1897号22頁

隣人と共有共用の配水管および浄化槽が地中に埋設されていた土地の売買において、瑕疵担保責任を限定する特約を排除して売主の瑕疵担保責任が肯定された事例

 

東京簡判平成16年12月15日LLI/DB 判例秘書登載

被告の仲介により、訴外会社から中古建物を買った原告が、同建物に設置された飲用水供給用加圧ポンプの1台が、売買契約当時、故障により作動していなかったため、修理費相当額の損害を被ったと主張して、損害賠償を請求した事案について、被告に仲介物件の調査報告義務違反があったとは言えないとして、原告の請求を棄却した事例

 

東京地判平成17年5月24日LLI/DB 判例秘書登載

原告が、被告甲社の仲介により、被告乙社との間に、建物の1室について締結した賃貸借契約について、雨漏り等の瑕疵があるため、また、被告甲には説明義務違反があるため、原告はこうした被告らの債務不履行の結果、契約を終了させ、新たな物件を借り受けなければならなかったなどとして、被告らに対し、債務不履行に基づき、原告の被った損害の賠償を請求するとともに、選択的に、被告らの一般説明義務違反や家屋の瑕疵の放置責任などを理由として、不法行為に基づき同様の請求をした事案(甲に対して棄却、乙に対して認容)

 

最判平成17年9月16日裁判集民事217号1007頁

防火設備の1つとして重要な役割を果たし得る防火戸が室内に設置されたマンションの専有部分の販売に際し、防火戸の電源スイッチが一見してそれとは分かりにくい場所に設置され、それが切られた状態で専有部分の引渡しがされた場合において、宅地建物取引業者が、購入希望者に対する勧誘、説明等から引渡しに至るまで販売に関する一切の事務について売主から委託を受け、売主と1体となって同事務を行っていたこと、買主は、上記業者を信頼して売買契約を締結し、上記業者から専有部分の引渡しを受けたことなど判示の事情の下においては、上記業者には、買主に対し、防火戸の電源スイッチの位置、操作方法等について説明すべき信義則上の義務がある。

 

東京地判平成18年1月20日判タ1240号284頁

不動産売買契約において、対象建物に白ありの侵食による欠陥があるとして、宅地建物取引業者である売主に対して瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求は認められたが、不法行為及び債務不履行に基づく損害賠償請求は認められなかった事例

1 本件は、原告らが、被告Y1から、土地建物(以下、このうち建物を「本件建物」という。)を購入したところ(以下「本件売買契約」という。)、本件建物に白ありの侵食による欠陥があり損害を被ったと主張して、①売主である被告Y1に対して主位的に不法行為(宅地建物取引業法〔以下「宅建業法」という。〕32条、47条1号違反)、予備的に瑕疵担保責任に基づき、②売主の代理人である被告Y2に対して不法行為(宅建業法47条1号違反)に基づき、③原告らとの間で仲介契約を締結した被告Y3に対して主位的に不法行為(宅建業法32条、47条1号違反)、予備的に債務不履行(重要事項説明義務違反)に基づき、それぞれ損害賠償を求める事案である。

  本判決は、原告らの不法行為及び債務不履行の主張をすべて理由がないとする一方で、瑕疵担保責任の主張を認めた。

  2 不法行為の主張について

 本件において、売主である被告Y1、売主の代理人である被告Y2が宅建業者であることが、それぞれの注意義務についていかなる影響を及ぼすかについては検討を要するところと思われるが、本判決は、そもそも被告Y1、Y2には、宅建業法32条、47条1号違反に該当する事実は認められないとして、被告Y1、Y2の不法行為責任を否定している。

(1)原告らは、不法行為の内容として、①宅建業法32条(宅地建物取引業者〔以下「宅建業者」という。〕は、その業務に関して広告をするときは、当該広告に係る宅地・建物の所在・規模・形質、現在・将来の利用の制限、環境・交通その他の利便・代金、借賃等の対価の額もしくはその支払方法・代金・交換差金に関する金銭の貸賃のあっせんについて、著しく事実に相違する表示をし、または実際のものよりも著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。)、②宅建業法47条1号(宅建業者は、業務に関して、宅建業者の相手方等に対し、重要な事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為をしてはならない。)違反を主張した。

 (2)不動産仲介契約は、準委任契約であり、不動産仲介契約を締結した宅建業者は善管注意義務を負うが(民法656条、644条)、宅建業法は、宅建業者に対し、各種の業務上の禁止規定・義務規定を設けており(宅建業法32条以下)、これらの規定は、善管注意義務の重要な具体的内容をなすものと解されている(塩崎勤「宅地建物取引業者の責任」川井健=塩崎勤編『新・裁判実務大系(8)専門家責任訴訟法』166頁~167頁)。

  したがって、本件において、原告らとの間で仲介契約を締結した宅建業者たる被告Y3に、宅建業法32条、47条1号違反があった場合は、被告Y3は不法行為責任を負うことがあるいうことができる。

  しかし、本判決は、被告Y3には、これらの規定違反は認められないとし、被告Y3の不法行為責任を否定した。

 (3)他方、被告Y1、Y2は、それぞれ売主、売主の代理人という立場にあったが、いずれも宅建業者であった。

 3 債務不履行の主張について

 また、原告らは、仲介契約を締結した被告Y3に対し、仲介契約上の重要事項説明義務違反の債務不履行を主張したが、本判決は、被告Y3には、重要事項説明義務違反が認められないとし、被告Y3の債務不履行責任を否定している。

  なお、上記のとおり、本判決は、原告らの不法行為及び債務不履行の主張をすべて理由がないものとしているが、この点に関しては、仲介業者(宅建業者)は、鑑定・評価人ではないのであるから、隠れた瑕疵の有無などにつき、原則として調査・鑑定の義務はないと解する見解があり(明石三郎『不動産仲介契約の研究』210頁~211頁)、本判決が、被告らが白ありによる建物の被害について特別な知識を持っているとは認められていないことを被告らの責任を否定した理由の1つとしていることに留意すベきと思われる。

  4 瑕疵担保責任について

 本判決は、原告らの不法行為及び債務不履行の主張をすべて理由がないとしたが、瑕疵担保責任の主張は認めた。

  被告Y1は、瑕疵の有無につき、本件建物は本件売買契約当時既に建築後約21年を経過していた中古建物であるから、瑕疵の有無は建築後約21年を経過した建物として判断すべきである旨主張した。しかしながら、本判決が指摘するように、本件売買契約は、居住用建物をその目的物の一部とする土地付き建物売買契約であり、そのような売買契約においては、取引通念上、目的物たる土地上の建物は安全に居住することが可能であることが要求されるものと考えられるから、本件建物が白ありにより土台を侵食され、その構造耐力上、危険性を有していたといえる以上、本件建物が本件売買契約当時既に建築後約21年を経過していた中古建物であり、また、現況有姿売買とされていたことを考慮しても、本件建物には瑕疵があったといわざるを得ないと思われる。

  その上で、本判決は、事案に則して、相当因果関係のある信頼利益の範囲での原告らの損害賠償請求を認めている。

 

東京地判平成18年2月13日LLI/DB 判例秘書登載

新築の分譲住宅の売買契約締結に際し、売主及び仲介業者が、公道に出る通路に関して虚偽の説明を行なったこと、売主は、土地建物の引渡しを遅滞させ、さらに欠陥があったこと、その欠陥の補修を早期に行なわなかったことなどに対する損害賠償請求を認めた事例

 (1)本件土地は、本件建物の敷地である別紙物件目録記載1の土地と、その北側に隣接するセットバック部分の持分である同2の土地からなることが認められ、かつ、本件不動産の北側の道路(以下「北側道路」という。)の大部分に当たる東京都荒川区(以下略)の土地は、本件売買契約の対象となっていないことから、これが北側住民らの所有地であることが推認される。

     したがって、原告らは、北側道路について、もともと、上記別紙物件目録記載2の土地部分を除き、北側住民との関係でなにがしかの権限なしには通行することができないことが認められる。

  (2)ア 被告Y1は、本件売買契約締結の日である平成14年9月19日当時、北側住民との間で、北側道路の通行について何らの合意もしておらず、その後、平成14年12月3日、これについての話合いを開始し、幾度かの交渉を経て、北側住民から本件合意書のとおりの合意を求められてこれに応じず、結局、被告Y1と北側住民との間の北側道路の通行に係る交渉は、何らの合意もすることができずに、平成15年9月26日を最後に決裂したことが認められる。

   ウ 以上に述べたところによれば、被告Y1と北側住民との間で、本件売買契約が締結された当時、北側道路の通行について、北側住民との間の合意が本件不動産の購入者が北側道路のうち北側住民所有部分を通行するのに不可欠であったにもかかわらず、何らの合意もなされておらず、むしろ、その通行についての紛争が継続しており、その後、平成15年11月22日に至るまで、これが解決するに至っていなかったことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(2)次に、本件欠陥部分について、以下検討する。

    ア 塗装不全(別紙別表1)

    (ア)本件不動産の引渡し当時、本件建物の外壁の目地が目立つという不具合があったこと、被告Y1が本件確約書によってその補修を平成15年4月22日までに行うことを約したこと、上記補修は結局同年9月2日になってようやく行われたことは当事者間に争いがない。

    (イ)本件建物の外壁面には、上記補修後も、東側外壁面の1階部分、1階部分と2階部分との間の部分及び2階部分から上の部分の間並びに東側外壁面と北側外壁面との間で一見して明らかな色合いの違いが残っていること、東側外壁面1階部分には、水平の筋がくっきりと明確に残っていることが認められ、これらの色合いの相違及び筋の残存は、本件建物の美観を損なうものであると認められる。

    (ウ)そして、前記(ア)の補修の遅滞について、原告がこれに同意したことを認めるに足りる証拠はなく、その他、上記遅滞になにがしかの正当な理由があったと認めるに足りる証拠はない。

   ウ 玄関のポーチの欠損(別紙別表3)

    (ア)本件建物の玄関ポーチの石材に欠損があったこと、被告Y1が本件確約書によってその補修を平成15年4月17日までに行うことを約したこと、上記補修は結局同年秋ころになってようやく行われたことは当事者間に争いがない。

       他方、インターロッキングの一部分が割れていたことを認めるに足りる客観的な証拠はない。

    (イ)上記玄関ポーチの石材の欠損は、本件建物の顔というべき玄関部分におけるものであることなどに照らし、本件建物の美観を損なうものであったことが推認される。

    (ウ)そして、前記(ア)の補修の遅滞について、なにがしかの正当な理由があったと認めるに足りる証拠はない。

    エ ブロックフェンス未完成(別紙別表4)

    (ア)本件建物の周囲には、ブロックフェンスが東側の2分の1程度しか完成していなかったこと、これが予定されていた工事の途中であったことは当事者間に争いがなく、証拠(甲13、甲16④、原告X2本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告らは、上記東側についてブロックフェンスを完成させたが、北側、南側及び西側にはこれを設置しなかったこと、その後、本件建物の西側には、平成16年になって、低いブロック塀の上に柵を設置したものが設けられたことが認められる。

    (イ)本件売買契約において、ブロックフェンスが本件建物の周囲のどの範囲で設置される合意であったかは本件証拠によっても明らかではないが、弁論の趣旨によれば、被告らは、前記(ア)のとおりブロックフェンスを設置しなかった理由として、原告らの生活の利便のために付けていないものであると主張するのみで、その他合理的な理由を主張しないことから、被告Y1は、本件建物の周囲のうち東側以外についてもブロックフェンスを設置すべきであったものと認められる。

       そして、被告Y1が、上記本件売買契約における約定にもかかわらず、前記(ア)のとおり、上記ブロックフェンスを約定どおりに設置しなかったことについて、これが原告らの生活の利便に資すると認めるに足りる合理的な理由も証拠もなく、その他、これについては何らの正当な理由も認められないから、これらはいずれも本件売買契約に違反するものと認められる。

    (ウ)ただし、証拠(甲13、甲16④、原告X2本人)によれば、上記ブロックフェンスのブロックの一部にひび割れと思われる破損があることが認められるものの、これが多数存すること、ブロックフェンスの機能自体を損なうほど著しい程度のものであること、本件建物の美観を看過できないほど損なうものであることなどを認めるに足りる証拠はない。

   コ トイレのドア開閉の不具合、トイレ内の壁ムラの塗装不全(別紙別表10)

    (ア)本件建物のトイレのドアの開閉に不具合が生じたこと、トイレ内の壁面に塗装のムラがあったことは当事者間に争いがない。ただし、これらがいつごろから生じたかは、本件全証拠によっても明らかではない。しかし、被告Y1が、前記(ア)のトイレのドアの開閉について平成15年9月以降に調整を行ったこと、前記(ア)のトイレ内の壁面の塗装のやり直しを同年10月ないし11月ころまでに行うと述べていたのに、結局12月上旬にこれを行ったことは当事者間に争いがない。

    (イ)トイレのドアの開閉に不具合があることが本件建物の機能を損なうものであること、トイレ内の壁面の塗装のムラが本件建物内の美観を損なうものであることは明らかである。

    (ウ)そして、上記トイレ内の壁面の塗装のやり直しについて、被告Y1が遅くとも同年9月には塗装のムラを認識していたにもかかわらずそれから約3か月が経過した後にようやくこれを行ったことについて、正当な理由があったと認めるに足りる証拠はない。

    サ 1階玄関入って手前の部屋のドアの開閉不具合(別紙別表11)

    (ア)本件建物の1階の玄関から入って手前の部屋のとびらの開閉に不具合があったことは当事者間に争いがなく、証拠(甲13、原告X2本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告Y1が平成15年9月以降に上記の調整を行ったことが認められる。ただし、上記不具合がいつごろから生じたかは、本件全証拠によっても明らかではない。

    (イ)部屋のとびらの開閉の不具合が本件建物の機能を損なうものであることは明らかである。

   ス 床下収納が開かない(別紙別表13)

    (ア)本件建物の床下収納のとびらが床から盛り上がり、開かなくなったこと、被告Y1がこれについて、とびらを削って、開くように調整したことは当事者間に争いがない。

    (イ)床下収納のとびらが開かないことが本件建物の機能を損なうものであることは明らかである。

    セ 洗面所壁の塗装がひどいひび割れ(別紙別表14)

    (ア)本件建物の洗面所の壁面の塗装に重度のひび割れがあったこと、被告Y1が原告らに対して、平成15年9月ころ、上記塗装のやり直しを同年10月ないし11月ころまでに行うことを約したが、同年12月上旬になってから上記塗装のやり直しを行ったことは当事者間に争いがない。

    (イ)上記のように洗面所の壁面の塗装に重度のひび割れがあることが本件建物内の美観を損なうものであることは明らかである。

    (ウ)そして、前記(ア)のとおり、塗装のやり直しが、被告Y1が上記ひび割れの存在を認識してから約3か月も経過した後にようやく行われたことについて、正当な理由があったと認めるに足りる証拠はない。

    ソ 風呂の給湯不具合(別紙別表15)

      本件建物の風呂の給湯システムについて、湯量をどのように調整しても湯船1杯に給湯されるまで湯が止まらない状態であったこと、被告Y1が、この点について原告らから指摘された後に上記給湯システムに係る説明書の写しを郵送したこと、上記給湯システムについての修理は、平成15年9月以降に行われたことは当事者間に争いがなく、これが本件建物の機能を損なうものであることは明らかである。

    タ 洗面所の照明がつかない(別紙別表16)

      本件建物の引渡し当時、洗面所の照明が点灯しない状態であったこと、被告Y1が比較的早期にこれを修理したことは当事者間に争いがなく、これが本件建物の機能を損なうものであることは明らかである。

    チ 階段両側の壁の塗装不全(別紙別表17)

    (ア)本件建物の1階から2階に至る階段及び2階から3階に至る階段の左右両側壁面の塗装にムラがあったこと、原告らが被告Y1に対してそのやり直しを求めたこと、被告Y1が原告らに対し、平成15年9月になって、上記塗装のやり直しを同年10月ないし11月ころまでに行うことを約したが、同年12月上旬になってから上記塗装のやり直しを行ったことは当事者間に争いがない。

    (イ)上記塗装のムラが本件建物内の美観を損なうものであることは明らかである。

    (ウ)そして、前記(ア)のとおり、上記塗装のやり直しが、被告Y1が塗装のムラを認識してから約3か月も経過した後にようやく行われたことについて、正当な理由があったと認めるに足りる証拠はない。

   ト トイレのかぎがついていない(別紙別表20)

    (ア)本件建物のトイレのとびらにかぎがついていなかったことは当事者間に争いがない。ただし、この点について原告らが被告らに対していつ伝えたかについて、これを認定するに足りる客観的な証拠はない。

    (イ)上位トイレのかぎの欠如が本件建物の機能を損なうものであることは明らかである。

   ニ 玄関土間部分に穴(別紙別表22)

    (ア)本件建物の玄関ポーチに穴が開いていたこと、Fが平成15年8月9日にこの状況を写真撮影したこと、被告Y1が上記部分について平成15年秋ころに修復したことは当事者間に争いがない。

    (イ)上記のように玄関ポーチに穴があいていることは、その場所が本件建物の顔というべき部分であることなどに照らし、本件建物の美観を損なうものであったことが推認される。

 (3)以上に認定、説示したところによれば、被告Y1は、本件不動産の引渡しを本件売買契約における約定の引渡し期限から約2か月半遅滞し、代金の支払を受けるために、原告らに対し、本件建物について、その機能あるいは美観を損なう欠陥の残ったまま引き渡し、合理的な理由もなくその補修の一部を遅滞し、さらには一部についてはその補修を十分に行わなかったものであることが認められる。

     なお、被告Y1が原告らに対して本件建物に係る欠陥部分について陳謝しその補修を約したのは、本件建物の引渡しから約5か月が経過した平成15年9月13日のことであり、原告らは、その前の同年7月24日に東京都に対して被告Y1が本件建物の欠陥部分について補修しないとの報告をしていたことに加え、前記(1)に認定した北側道路に係る被告Y1の1連の行動をも併せて考慮すれば、被告Y1は、本件建物を自身が建築したのであるから当然認識していたものというべき本件建物の欠陥部分について、自ら補修する意思はなく、東京都からの指導などを受けてようやく上記謝罪と補修の約束に至ったものと強く疑われる。

 

東京地判平成18年5月8日LLI/DB 判例秘書登載

建物に下記欠陥があったとして、被告Y1の仲介により、被告Y2から土地及び建物を買い受けた原告らがした請求のうち、Y1に瑕疵担保責任としての損害賠償金等を、Y2に不法行為に基づく損害賠償金等を求める限度で認容した事例

(ア)403号室の雨漏り

(イ)203号室の上水の出や排水の悪さ、汚水槽、受水槽、排水管の清掃状況、揚水ポンプ工事

(ウ)エレベーターのかごシル交換についてEからかごシルを交換するよう勧告されていたこと

(エ)101号室の開口部枠のひび割れの存在

(オ)101号室の風呂のドア及びタイルの不具合

(カ)403号室のドアの不具合

(キ)303号室の給湯器及びバスタブの不調

 

東京地判平成20年4月11日LLI/DB 判例秘書登載

マンションにおける共用部分や専有部分に瑕疵があるとして、売主もしくは売主の地位を承継した被告らに対し、債務不履行または不法行為に基づき、損害賠償を求めた事案において、防潮板に関する瑕疵、駐輪場のキーシステムに関する瑕疵、空調機に関する瑕疵等の主張をいずれも理由がないとして、請求を棄却した事例

 

大阪地判平成20年5月20日判タ1291号279頁

居住目的による土地・建物の売買契約において売主を仲介する宅地建物取引業者は、建物の物理的瑕疵によって居住目的が実現できない可能性があることを示唆する情報を認識している場合、買主に対し、積極的にその旨を告知すべき注意義務があるとされ、これを尽くさなかったことに不法行為責任が認められた事例

 1 A(1級建築士)は、Yに対し、自己所有の土地・建物(以下、合わせて「本件不動産」といい、建物については「本件建物」という。)の販売の仲介を委託しており、Xは、Bに対し、居住用不動産の購入の仲介を委託していた。X、A、Y代表者、B担当者は、本件建物(当時、Aの妹が居住)を見学したところ、1階和室の柱が相当程度腐食しており、2階和室の柱にガムテープが貼られていた。また、Y代表者は、虫の死がいを発見し、白アリかと思ったが、他の場所から飛んできたかもしれないことから、誰かにそのことを告げることはしなかった。さらに、Y代表者は、1階和室以外に玄関左右の端、浴槽、収納部分の角にも腐食があり、雨漏りの箇所も複数あると認識していた。Xは、Aとの間で本件不動産の売買契約を締結したが、重要事項説明の際にY代表者から白アリ被害・雨漏りは発見されていない、腐食は1階和室に発見しているとの説明を受けたのみであった。Xは、本件不動産の引渡しを受けたところ、本件建物に白アリ被害が広範にわたって存在し、耐震性の観点から非常に危険な状態であることが判明した。Xは、A及びYに対し、不法行為に基づく損害賠償の支払を求めて本件訴訟を提起したが、XとAが口頭弁論終結後に和解を成立させたことから、XのYに対する請求が残った。

  Xの主張は、Yが本件建物の瑕疵を知っていながらAと共謀してXを騙した、仮に知らなかったとしても、外観から分かる範囲で本件建物の柱の腐食や白アリの存否を調査する義務を負っており、この義務に違反したというものであり、これに対するYの反論は、Yは本件建物の瑕疵を知らず、また、売主Aの仲介業者が買主Xにリスクを調査して説明すベき義務を負うものではなく、その調査義務は宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)35条所定の事項に限られ、建物の隠れた瑕疵など他の専門家による専門的調査が必要な事項についてまで及ばないというものである。

  本判決は、宅地建物取引業者(以下「宅建業者」という。)には、直接の委託関係がなくても、業者の介入に信頼して取引するに至った第三者に対して、権利者の真偽等につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務があるとした上で、その注意義務の対象は宅建業法35条所定の事項に限られないとした。そして、本判決は、買主であるXが本件建物に居住する目的を有しており、居住に適した性状、機能を備えているか否かを判断する必要があったから、そのようなXの目的を認識していたY代表者としては、本件建物の物理的瑕疵によってその目的が実現できない可能性を示唆する情報を認識している場合、積極的にその旨を告知すべき業務上の一般的注意義務、具体的には、白アリらしき虫の死がいを発見したこと、腐食部分が1階和室以外にもあること、雨漏りの箇所が複数あることなどを説明し、Xに更に調査を尽くすよう促す注意義務を負っていたが、これを尽くさなかったとして、その責任を肯定した。

本判決は、宅建業者の具体的認識を前提にして説明義務を認めた

 

東京地判平成20年6月4日判タ1298号174頁

1 築後12年の中古木造建物の雨漏りによる腐食及びシロアリによる侵食の一部が「隠れた瑕疵」(民法570条)に該当するとされた事例

2 中古建物の売買契約を仲介した宅地建物取引業者が、委託者である買主に対して、対象建物の雨漏りやシロアリの被害の有無についての調査義務を負担しないとされた事例

3 中古建物売買契約の瑕疵担保責任に基づいて売主が賠償すべき損害額について、瑕疵があることによる本件建物の減価分であるとして、当該減価分を具体的に算出した事例

 1 本件は、宅地建物取引業者Y2(法人)の仲介(担当したのはY2の代表者である宅地建物取引主任者Y3)により売主Y1から土地及び中古建物を共同で購入(本件売買契約)したXらが、同中古建物(本件建物)の柱等には雨漏りによる腐食とシロアリによる侵食といった「隠れた瑕疵」(民法570条)があったところ、Y1及びY3がこれらの腐食及び侵食を知りつつこれを秘し、またはこれらを容易に知ることができたのに十分な調査をしないで本件建物を売却し、またはその売却の仲介をしたものであるとして、Yらに対し、瑕疵担保責任(対Y1のみ)、債務不履行または不法行為に基づき、建物解体費用及び新築費用または補修費用に相当する額の損害賠償を請求した事案である。

  本件においては、①本件建物に本件売買契約当時において雨漏りによる腐食またはシロアリによる侵食という「隠れた瑕疵」があったか否か、②Yらに債務不履行責任または不法行為責任(Y1につき信義則に基づく調査説明義務違反に、Y2及びY3につき宅地建物取引業法47条1号または信義則に基づく調査説明義務違反にそれぞれ基づくもの)があるか否か、③当該瑕疵またはYらの不法行為等によってXに生じた損害額がそれぞれ争われた。

  2 本判決は、①本件建物の瑕疵の存否については、本件売買契約締結時における本件建物内の雨漏りによる腐食及びシロアリによる侵食を認定し、その範囲及び程度並びに本件売買契約の目的(居住利用目的)を考慮した上で、Xらが主張する瑕疵の一部分(サンルームの部分)について「隠れた瑕疵」があるとした。また、②Yらの責任については、まず、売主であるY1については、本件建物に雨漏りがあったことを認識しながら、本件売買契約締結に際して過去雨漏りを発見していない旨の告知をした事実を認定した上、瑕疵の存否に関する事項について故意に虚偽の事実を告知したものとして不法行為責任を負うとした。他方、Y2及びY3については、Y3が本件建物に前記瑕疵が存することを知っていたものと認めることはできない上、仲介業者であるY2は、本件建物に雨漏りやシロアリ被害があることを疑わせるような特段の事情がない限り、シロアリ駆除業者等に依頼するなどして被害の有無を調査するまでの義務があったとはいえず、本件において同特段の事情があったとは認められないとして、いずれもその責任を否定した。そして、③Y1が負担すベき損害額については、まず、瑕疵担保責任に基づいて賠償すべき損害額を、当該瑕疵があることによる本件建物の減価分であると解した上で、当該瑕疵がなかった場合の本件建物のサンルーム部分の本件売買契約締結当時における残存価額184万9081円を当該瑕疵と相当因果関係のある損害額として認めた。他方、Y1の前記不法行為責任に基づく損害賠償については、Xらの請求する弁護士費用相当額等が上記不法行為と相当因果関係のある損害とはいえないとして、前記の瑕疵担保責任に基づいて認めた賠償額のみの支払をY1に命じた。

  3(1) 売買契約の瑕疵担保責任(民法570条)における「隠れた瑕疵」は、一般に、(ア)通常有すべき品質・性能を欠いていること、(イ)そのためその物の価値が逸失あるいは減少していること、(ウ)売買契約当時一般取引上要求される通常の注意によっても知ることができなかったこと、の各要件を充足することによってその存在が肯定されるが、中古建物においてどのような場合に「隠れた瑕疵」が認められるかということについては、前記の各要件に照らし個々の事案において具体的に検討していくほかない。

 

東京地判平成22年3月9日判タ1342号190頁

1 土地の売買契約において、土地の現況と公図の記載とが異なっており、売買契約当時、将来土地所有権をめぐる紛争が生じる可能性があったとして、当該土地につき民法570条の瑕疵があると認められた事例

2 土地の売買契約を仲介した不動産業者が、売買契約当時、土地の現況求積図の地形と公図の地形とが異なり、登記簿上の面積と現況の面積とに違いがあることを認識していたにもかかわらず、買主に対し、このような土地の性状により生じ得る問題について何らの説明もしなかったとして、買主との間の仲介契約に基づく説明義務等を怠ったと認められた事例

1 Y1は、昭和36年7月3日、Aから本件土地を購入して、これを利用してきたが、平成12年ころ、不動産業者であるY2に対し、本件土地売却の仲介業務を委託した。本件土地の登記上の地番は、23番11である。

  Xは、家屋を建築するための土地を探して、Y2を訪れ、本件土地の現況求積図及び公図を示された上で、平成12年5月31日、Y2の仲介の下、Y1との間で、本件土地の売買契約を締結し、代金及び仲介手数料を支払い、上記売買を原因とする本件土地の所有権移転登記手続を了した。

  その後、Xは、本件土地において駐車場業を営んでいたが、平成19年7月20日、登記上の地番が23番31である土地を購入し、所有権移転登記を了したBから、本件土地の大部分がB所有の上記土地に含まれているとして、本件土地の明渡し等を求める内容の通知を受けた。23番31及び23番11の土地の公図における形状は、現在の土地使用状況とは異なっている。

  本件訴訟において、Xは、(1)Y1に対し、(ア)本件土地の売買契約の詐欺取消し、(イ)本件土地の登記移転義務の債務不履行による契約解除、(ウ)他人物売主の担保責任に基づく契約解除、(エ)公図と現況に齟齬がある等の瑕疵につき、瑕疵担保責任に基づく契約解除等を主張して、売買代金相当額等合計2298万円余の支払を請求し、(2)Y2に対し、本件土地の権利関係に問題があること等を説明する仲介契約上の義務の不履行に基づく損害賠償として、売買代金相当額等合計2298万円余の支払を請求した。

  2 本件の主要な争点は、(1)本件土地売買におけるY1の欺罔行為の有無、(2)Y1の本件土地の登記移転義務の不履行の有無、(3)本件土地の全部または一部は他人物であるか否か、(4)公図の記載と本件土地の現況との間に齟齬があること等が本件土地の瑕疵に当たるか否か、仮に、瑕疵に当たる場合、Xの瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権の除斥期間は経過したか否か、(5)Y2の仲介契約上の説明義務等の違反の有無等である。

  3 本判決は、争点(1)ないし(3)について、Y1が、本件土地を購入した以降、Xとの売買に至るまで、本件土地を平穏に占有してきたこと等の本件の事実関係に照らすと、Xの主張はいずれも採用することができないと判断したが、争点(4)については、本件土地の地番が23番11であるか23番31であるかを確定することができないこと、Xが、23番31の土地の登記を有するBから、本件土地の明渡し等を請求されていることによると、本件土地売買当時、本件土地の所有権をめぐる紛争が将来生じる可能性があり、本件土地には瑕疵があったものと認められるとし、他方、Xが、平成17年9月12日の時点で、本件土地の地番が23番11であるのはおかしいということを明確に認識したこと等の事実に照らすと、Xの損害賠償請求権は除斥期間の経過により消滅した旨判断して、XのY1に対する請求を棄却した。争点(5)について、Y2は、本件土地売買当時、本件土地の現況求積図の地形と公図の地形が大きく異なり、登記簿上の面積と現況の面積に違いがあることを認識していたにもかかわらず、Xに対し、本件土地の上記性状により生じ得る問題について何らの説明もせず、Xとの仲介契約に基づく説明義務等を怠ったと判断し、これによりXが本件土地所有権の行使を一定の限度で事実上制限されるという損害を被ったこと等を考慮して、Y2に売買代金の3割に相当する金額の損害賠償義務を認め、XのY2に対する請求を一部認容した。

 

大阪地判平成20年5月20日判タ1291号279頁

居住目的による土地・建物の売買契約において売主を仲介する宅地建物取引業者は、建物の物理的瑕疵によって居住目的が実現できない可能性があることを示唆する情報を認識している場合、買主に対し、積極的にその旨を告知すベき注意義務があるとされ、これを尽くさなかったことに不法行為責任が認められた事例)、

 

東京地判平成25年1月31日判時2200号86頁

中古住宅と敷地の売買において、倒壊のおそれのある擁壁の存在、ブロック塀の所有権の帰属の不明、隣地への越境の可能性が隠れた瑕疵に該当するとし、売主の瑕疵担保責任が肯定され、不動産仲介業者の越境に関する説明義務違反による債務不履行責任が肯定された事例

 

東京地判平成28年3月8日LLI/DB 判例秘書登載

被告所有不動産の売買契約を締結した原告らが、同契約を媒介契約に基づき仲介した被告会社が境界標の有無、隣地への越境の有無等につき虚偽の説明をし、必要な説明等を怠ったことにより物的損害等を被ったなどとして、被告らに対し、支払った手付金等相当額の支払を求めた事案。裁判所は、原告1名が売買契約の当事者であるとした上で、被告につき、事実に反して越境がないと説明したことは不法行為責任を負うとし、原告の財産的損害額は手付金相当額を相当とするが、原告には現地確認等に落ち度があり5割の過失相殺が相当として算出した額の限度で請求を一部認容し、被告会社につき不法行為等はないとして請求棄却した事例

 

東京地判平成28年3月10日LLI/DB 判例秘書登載

原告は、介護施設として利用する目的で被告Y3から建物を賃借したが、建物に検査済証がないため同施設を開設できなかったとして、Y3、Y3側の仲介業者である被告Y2、及び原告から委託を受けた仲介業者である被告Y1に対し、連帯して、原告が支出した費用等の損害を支払うよう求めた。裁判所は、(1)賃貸借契約上の義務として、Y3は、原告に、本件賃貸部分を現状有姿で引き渡せば足り、債務不履行責任はないとしたが、(2)Y2は、賃貸借契約締結時までに、原告に本件事情を告知説明すべき義務を怠り(不法行為)、(3)Y1は、事情を原告に告知説明しなかったことについて委任契約上の注意義務違反があった(債務不履行)として、請求を一部認容した。

そして、Aは、Eから本件賃貸部分について照会を受ける前から、複数の業者から、同部分を介護施設として利用したいとの照会を受けていたところ、それらの業者に本件建物には検査済証がない旨を告知すると、業者らは全て諦めていたという経験を有しており、平成25年6月頃に問い合わせてきたEに対しても、本件建物には検査済証がなく、介護施設として利用したいと照会してきた業者がいずれも諦めていたという事情を告知したこと、それにもかかわらず、Eは、そのことを原告代表者に伝えなかったことが認められる。

 

東京地判平成28年3月11日LLI/DB 判例秘書登載

建物の売買契約に付随する説明義務に違反したとして、原告(買主)が、被告(売主)に対し債務不履行に基づき、被告会社(契約の媒介者)に対し不法行為に基づき、損害賠償金の支払を求めた事案。裁判所は、被告らの説明義務違反の有無につき、電話線アウトレットにつながるはずの電話線の断線、配電盤の回路増設について説明しなくても違反とならないとする一方、建物の浴室が防水不良であり応急措置が行われていたにすぎず、漏水に関する事項の説明義務を怠ったものということができるとし、原告の各請求は、浴室の漏水工事に要した費用のうち、認定した額の限度で損害と認めるのが相当であるとして一部認容した事例

 

売買の価格は米価をもって表示されているが,これをもって民法403条にいう,米価をもって債権額を表示したものとは認め難いとした事例

 

最高裁判所第3小法廷判決/昭和37年(オ)第1231号

昭和40年11月30日

売買代金等請求

【判示事項】    売買の価格は米価をもって表示されているが,これをもって民法403条にいう,米価をもって債権額を表示したものとは認め難いとした事例

【判決要旨】    売買契約において代金額がドルをもって表示されていても、単なる日本国内売買であり1ドルを360円と換算して支払うべき約定であったと認められる合倍には、民法第403条を適用すべきでない。

【参照条文】    民法403

【掲載誌】     最高裁判所裁判集民事81号187頁

 

民法

第四百三条 外国の通貨で債権額を指定したときは、債務者は、履行地における為替相場により、日本の通貨で弁済をすることができる。

 

理美容店を運営するY1と業務委託契約等を締結していたX1が,同契約の解除の無効を主張して,Y1に対し,業務委託料の支払と同契約上の地位確認を求め,X1とX1の店舗事業の一部を受託していたX2が,Y1の代表取締役BとX1の取締役Y3らが共謀して,X1の従業員(理美容師)を違法に引き抜いた等と主張して,Y1およびY3らに対し,損害賠償を求めた事案

 

大阪地方裁判所判決/平成25年(ワ)第5636号

平成27年11月27日

【判示事項】 理美容店を運営するY1と業務委託契約等を締結していたX1が,同契約の解除の無効を主張して,Y1に対し,業務委託料の支払と同契約上の地位確認を求め,X1とX1の店舗事業の一部を受託していたX2が,Y1の代表取締役BとX1の取締役Y3らが共謀して,X1の従業員(理美容師)を違法に引き抜いた等と主張して,Y1およびY3らに対し,損害賠償を求めた事案。

裁判所は,X1は設立後,給与体系を変更し,経費の増額計上を繰り返して賃金を大幅に減額し,従業員の大量退職の具体的な危険が生じた上,割増賃金の計算方法に労働基準法37条1項違反が認められるとして,本件業務委託契約等の解除は有効であると認め,未払の委託料は契約解除に伴う違約金と対等額で相殺されたとして,請求を棄却した事例

【掲載誌】  判例時報2324号130頁

       主   文

 1 原告らの請求をいずれも棄却する。

  2 訴訟費用は原告らの負担とする。

       事実および理由

 第1 請求

  1 被告Y1は、原告X1に対し、720万6760円およびこれに対する平成27年7月8日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

  2 原告X1と被告Y1の間において、原告X1が、別紙「店舗1覧表」《略》記載の店舗に関し、平成23年7月1日にAから承継した、Aと被告Y1との間の平成19年6月30日付けY’事業業務委託契約上の地位を有することを確認する。

  3 原告X1と被告Y1の間において、原告X1が、大阪市中央区××(住居表示上の住所地:大阪市中央区△△)所在の「Y’・F店」に関し、平成23年7月1日にAから承継した、Aと被告Y1との間の平成12年9月29日付けY’・F店フランチャイズシステム契約およびY’・F店出店契約上の地位を有することを確認する。

  4 被告らは、原告X1に対し、連帯して5191万9494円およびこれに対する平成24年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  5 被告らは、原告X2に対し、連帯して8981万6498円およびこれに対する平成24年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 第2 事案の概要等

  1 事案の概要

  原告X1は、いわゆる1000円カットの理美容店を運営する株式会社Y1(なお、同社は平成27年6月1日に被告Y1に吸収合併された。以下、合併の前後を通じて単に「被告Y1」という。)と業務委託契約等を締結していたが、被告Y1は、原告X1との間に契約を継続し難い重大な事由が生じたとして同業務委託契約等を解除する旨の意思表示をした。

  本件は、原告X1が、被告Y1による上記業務委託契約等の解除は無効であると主張して、被告Y1に対し、業務委託料の支払および業務委託契約等における契約上の地位の確認を求めるとともに、原告X1および同社から店舗運営事業の一部を受託していた原告X2が、原告X1の取締役であった被告Y3、同Y4、同Y5、同Y6および同Y7(以下、同人らを併せて「被告Y3ら」という。)と被告Y1の代表取締役であるBが、共謀の上、原告X1に対し無効な解除通知を送付し、原告X1の従業員(理美容師)を違法に引き抜いたなどと主張して、被告Y1に対しては共同不法行為(民法719条1項前段、会社法350条)または債務不履行による損害賠償請求権に基づき、被告Y3らに対しては共同不法行為または債務不履行(善管注意義務違反および忠実義務違反)による損害賠償請求権に基づき、原告らが被った損害の賠償を求めている事案である。

  2 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は、当事者間に争いがない。)

    〈編注・判タでは証拠の表示は省略ないし割愛します〉

  (1) 当事者

  ア 原告X1は、平成23年7月1日に設立され、同社の代表取締役であるAが被告Y1との間で締結していた業務委託契約を承継し、大阪府およびその周辺地域にある「Y’」の店舗運営事業を営んでいた会社である。

  イ 原告X2(平成15年12月12日設立)は、原告X1から「Y’」の店舗運営事業の一部を受託していた会社である。

  ウ 被告Y1は、理容・美容店経営のフランチャイズシステムの指導等を目的とする株式会社であり、大規模理美容チェーン店「Y’」を運営する会社である。

  エ 被告Y3らは、いずれもA個人に雇用されていたが、平成21年4月には原告X2の取締役に、平成23年7月以降は原告X1の取締役にそれぞれ就任した。原告X1は、店舗がある地域を6つに区分して、その地域毎に責任者(以下「エリアディレクター」という。)を置いていたが、被告Y3らは、エリアディレクターとして各地域の店舗の運営を管理する役割を担い、店舗でのカット業務に加え、セカンドディレクター(エリアディレクターを補佐する役割を担う者)や現場スタッフとの会議、担当地域におけるシフト作成作業等を行っていた。

  (2) 本件各契約の締結およびその承継

  Aは、平成12年9月29日、理美容店Y’の経営に関し、被告Y1との間で、Y’・F店フランチャイズシステム契約(以下「本件FC契約」という。)およびY’・F店出店契約(以下「本件出店契約」という。)を締結した。

  Aと被告Y1は、平成19年6月30日、Y’事業業務委託契約(以下「本件業務委託契約」といい、本件FC契約、本件出店契約と併せて「本件各契約」という。)を締結した。

  Aは、平成23年7月1日に原告X1を設立し、被告Y1との本件各契約、従業員との雇用契約を原告X1に承継させた。同日以降、本件各契約の当事者は原告X1と被告Y1になり、両者間で同契約が存続していた。

  (3) 本件各契約の内容

  ア 平成24年3月当時、原告X1は、30店舗のY’を運営していたが、そのうち別紙「店舗1覧表」《略》記載の29店舗(以下「本件店舗」という。)は本件業務委託契約に基づくものであり、残りの1店舗(F店)は、本件FC契約および本件出店契約に基づくものであった。

  イ 本件業務委託契約においては、被告Y1が、Y’の店舗として用いる建物およびその設備等を確保して原告X1に提供し、原告X1が、自ら雇用し教育した技術者を各店舗に配属し、顧客に対するカット業務に従事させ、売上金を管理するなどの店舗運営を行うこととされていた。本件業務委託契約に基づく業務委託料は売上金の52%であり、残りの48%が被告Y1の収益になっていた。

  ウ 本件FC契約および本件出店契約においては、原告X1がF店の建物を被告Y1から賃借し、自ら雇用し教育した技術者を同店に配属してカット業務を行っていた。原告X1は、本件FC契約に基づいてロイヤリティ、販促管理費、消耗品費等として売上金の10%を被告Y1に支払うほか、当該店舗の賃料および光熱費等を負担していた。

  (4) 原告X1と原告X2の契約関係

  原告X2は、平成24年3月当時、原告X1から、同社従業員でY’に勤務する新入社員の研修や技術者のカット技術、接客等に関する教育訓練等を委託され、教育訓練プログラムの企画、実施などの業務を行っていた。

  (5) 本件各契約の条項

  本件各契約の契約期間および解除等に関する定め(条項)は概ね次のとおりである。なお、本項中に甲とあるのは被告Y1を、乙とあるのは原告X1を指す。

  ア 本件FC契約

  19条(遵守事項)

  乙は、法令の定めに従うことは勿論、下記事項を遵守して、Y’店を経営しなければならない。

  (以下省略)

  26条(契約期間)

  1項 この契約は、開業の日から起算して、6年間経過したときに、期間を満了する。

  2項 期間満了の場合において、甲および乙において、契約更新について合意ができないときは、契約は終了する。

  3項 期間満了の場合において、契約更新の合意が出来たときは契約更新覚書に甲乙共に押印し、本基本契約プラス覚書を以って契約更新が成立する。

  30条(被告Y1の契約解除)

  (1項省略)

  2項 甲は、乙が下記の契約に関する重大な違反をした場合において、甲から10日間以上の期間をおいて、文章による催告を受けたにも関わらず、その期間経過後もなお、その違反を改めず、また義務を履行しないときは、この契約を解除することができる。

  1号 19条の違反があったとき。(一部省略)

  2号 その他甲に対する重大な不信行為があったとき。

  イ 本件出店契約

  2条(開店日と契約の期間)

  平成12年10月18日に開店し、その日から6年間のフランチャイズ契約とする。甲、乙双方契約解除の意思表示がなければ、自動的に6年間契約は更新されるものとし、乙から甲に契約更新に関わる費用を払い込むものとする。

  ウ 本件業務委託契約

  4条(乙の遵守事項)

  (1項省略)

  2項 乙は、本件委託業務の遂行にあたり、次の各号に定める事項を遵守するものとする。

   1号 理容師法、美容師法、個人情報保護法その他の法令の遵守。

  (2号以下省略)

  15条(損害賠償責任)

  1項 甲は、乙が本契約の定めの1に違反した場合、14日間の期間を定めて催告し、乙が当該催告期間内に当該違反を治癒したことが認められない場合、乙は、甲に対し違約金として、当該契約違反事実が生じた月の直近3か月の業務委託料の平均月額(以下「本件違約金」という。)に相当する金員を支払うものとする。但し、乙が18条2項に該当した場合は事前の催告なく、乙は、甲に対し本件違約金を支払うものとする。

  (2項省略)

  17条(契約期間)

  本契約は、契約締結日から1年間存続するものとする。但し、甲および乙のいずれからも契約終了日から3か月前までに書面による契約終了の意思表示がなされない場合、本契約は同一条件にて自動的に更新されるものとする。

  18条(解除)

  1項 甲または乙は、相手方が本契約の定めの1に違反した場合、14日間の期間を定めて催告し、当該催告期間を経過した後本契約を解除することができるものとする。但し、甲または乙が当該催告期間内に当該違反を治癒した場合はこの限りでない。

  2項 甲は、乙に次の各号に掲げる事由が生じた場合、何らの催告を要することなく、本契約を解除することができるものとする。

  (1号ないし5号省略)

  6号 本契約を継続し難い重大な事由が生じたとき

 (6) 本件各契約の解除

  被告Y1は、原告X1が原告X2またはA個人の支出に充てる資金を捻出するため、Y’店舗のスタッフの処遇について法令違反行為をしており、かかる行為は本件業務委託契約18条2項6号に定める「本契約を継続し難い重大な事由」に該当し、仮に同号に該当しない場合でも同契約4条2項1号に当たり、あるいは同契約17条ただし書きの契約終了の意思表示に当たるとして、また、本件FC契約19条本文、30条2項1号に該当するなどとして、平成24年3月16日、原告X1に対し、本件各契約を解除する旨の意思表示をした。なお、同月1日から同月16日までの本件業務委託契約に基づく業務委託料は1874万4931円であったが、被告Y1から原告X1に対し同委託料(以下「本件未払委託料」という。)の支払はされていない。

  (7) 原告X1の従業員の大量退職と被告Y1による雇用

  原告X1は、平成24年3月16日時点において従業員130名程度を雇用していたが、同日、そのうち123名が退職した。

  被告Y1は、同月17日、原告X1の上記退職者のうち119名を雇用した。

  3 争点

  (1) 本件各契約の解除の有効性(争点1)

  ア 本件各契約の解除事由が認められるか。

  イ 本件FC契約の解除において「催告」の要件を満たすか。

  ウ 解除権の濫用が認められるか。

  (2) 本件各契約の解除が認められない場合、本件各契約は期間満了により終了しているか。(争点2)

  (3) 平成24年3月1日から同月16日までの本件業務委託契約に基づく業務委託料支払請求権は相殺により消滅しているか。(争点3)

  (4) 被告らが、共謀の上、原告X1の従業員を違法に引き抜く行為をしたか(共同不法行為および取締役の責任の有無)。(争点4)

  (5) 被告Y1が、原告X1および原告X2に対し、店舗設備提供義務に係る債務不履行責任を負うか。(争点5)

  (6) 原告らの損害の有無および内容、当該損害と被告Y1の不法行為または債務不履行との間に因果関係が認められるか。(争点6)

(後略)

その控訴審判決である

大阪高等裁判所判決/平成28年(ネ)第94号

平成28年9月2日

損害賠償等請求控訴事件

【判示事項】 ヘアカット専門店の経営事業を営む会社から店舗運営を委託された会社が従業員に対する賃金の支給に際し労働基準法違反をしたとして、業務委託契約を解除された事例

【参照条文】 労働基準法24-1

       労働基準法37-1

【掲載誌】  判例時報2324号120頁

       主   文

 1 本件各控訴をいずれも棄却する。

  2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

(後略)

 

後に解散した被告に対し,劣後ローンとして,弁済期を定め金員を貸付けていた原告が(原告は,他方で,被告から劣後ローンとしての貸付けを受けていたが,後に更生手続においてその全額を免除された。),当該貸金を請求している事案で,被告のした相殺が有効か否か,被告の解散により弁済期が到来したといえるか,原告の請求が信義則違反ないし権利濫用にならないか,などが争われたが,請求を一部認容した事例

 

東京地方裁判所判決/平成15年(ワ)第7142号

平成16年2月19日

貸金請求事件

【判示事項】    後に解散した被告に対し,いわゆる劣後ローンとして,弁済期を定め金員を貸付けていた原告が(原告は,他方で,被告から劣後ローンとしての貸付けを受けていたが,後に更生手続においてその全額を免除された。),当該貸金を請求している事案で,被告のした相殺が有効か否か,被告の解散により弁済期が到来したといえるか,原告の請求が信義則違反ないし権利濫用にならないか,などが争われたが,請求を一部認容した事例

【掲載誌】     LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

    1 原告の第1次的請求について

    (1)被告は,原告に対し,金4142万3958円を支払え。

    (2)原告のその余の第1次的請求を棄却する。

    2 被告は,原告に対し,

    (1)金8828万9535円を支払え。

    (2)平成16年から平成19年までの毎年3月と9月及び平成20年の3月と4月の各末日(ただし,末日が東京・ロンドンの一般休業日に当たる場合は,その前営業日)限り,別紙1(利息目録)記載の各金員を支払え。

    (3)平成20年4月30日限り,金25億円及びこれに対する同年5月1日から支払済みまで年14パーセントの割合(年365日の日割計算)による金員を支払え。

    3 訴訟費用は被告の負担とする。

    4 この判決は,第1項(1)及び第2項に限り,仮に執行することができる。

       事実及び理由

第1 請求

 1 第1次的請求

 (1)被告は,原告に対し,金4142万3958円を支払え。

 (2)被告は,原告に対し,金25億円及びこれに対する平成13年4月2日から支払済みまで年14パーセントの割合による金員を支払え。

 2 第2次的請求(上記1(2)の請求が認められない場合)

 (1)主文第2項(1)と同旨

 (2)(ア又はイを選択的に請求)

   ア 主文第2項(2),(3)と同旨

   イ 原告が被告に対し別紙2(貸金目録)記載の貸金債権を有することを確認する。

 3 第3次的請求(上記1,2の請求が認められない場合)

   被告は,原告に対し,金25億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

   本件は,後に解散した被告に対しいわゆる劣後ローンとして25億円を弁済期平成20年4月30日の約定で貸し付けていた原告が(原告は,他方で,被告から劣後ローンとしての貸付けを受けていたが,後に更生手続においてその全額を免除された。),当該貸金について,被告に対し次のとおり請求している事案であり,被告のした相殺が有効か否か,被告の解散等により弁済期が到来したといえるか否か,原告の請求が信義則違反ないし権利濫用に当たるか否かなどが争われている。

  ① 第1次的に,被告の解散等により弁済期が到来したと主張して,元金及び利息(平成12年4月1日から平成13年3月30日までの分)並びに内元金に対する被告の解散の日の翌日からの約定の割合による遅延損害金の支払を求めている。

  ② 第2次的に(上記の弁済期到来の主張が認められず,上記の元金及びこれに対する遅延損害金の支払請求が認められない場合),既に支払期日の到来した利息(上記①の期間分を除く平成13年3月31日から平成15年9月30日までの分)の支払を求めるとともに,今後到来する支払期日ごとに利息を支払うこと及び弁済期限り元金及びこれに対する弁済期の翌日からの約定の割合による遅延損害金を支払うことを求め,又は原告が被告に対し当該貸金債権を有することの確認を求めている。

  ③ 第3次的に(上記①,②の請求が認められない場合),被告に騙されて貸し付けたものであり,不法行為が成立すると主張して,貸付額相当額の損害金及びこれに対する不法行為後の日からの民法所定の割合による遅延損害金の支払を求めている。

 1 前提事実(証拠原因を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)

 (1)当事者

    原告(旧商号・A株式会社)は,昭和22年5月6日に設立された生命保険事業を営む株式会社であり,平成12年10月23日,更生手続開始の決定を受けて,平成13年4月2日,更生計画認可の決定を受け,同月23日,その更生手続(以下「本件更生手続」という。)が終結したものである。

    被告は,昭和24年8月1日に設立された損害保険事業を営む相互会社(保険業法上の相互会社)であり,平成12年5月1日,保険業法241条に基づき,金融監督庁長官(当時)から,業務の一部停止並びに保険管理人による業務及び財産の管理を命ずる処分を受けて,平成13年4月1日,同法152条3項1号に基づき解散した。

(後略)