理美容店を運営するY1と業務委託契約等を締結していたX1が,同契約の解除の無効を主張して,Y1に | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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理美容店を運営するY1と業務委託契約等を締結していたX1が,同契約の解除の無効を主張して,Y1に対し,業務委託料の支払と同契約上の地位確認を求め,X1とX1の店舗事業の一部を受託していたX2が,Y1の代表取締役BとX1の取締役Y3らが共謀して,X1の従業員(理美容師)を違法に引き抜いた等と主張して,Y1およびY3らに対し,損害賠償を求めた事案

 

大阪地方裁判所判決/平成25年(ワ)第5636号

平成27年11月27日

【判示事項】 理美容店を運営するY1と業務委託契約等を締結していたX1が,同契約の解除の無効を主張して,Y1に対し,業務委託料の支払と同契約上の地位確認を求め,X1とX1の店舗事業の一部を受託していたX2が,Y1の代表取締役BとX1の取締役Y3らが共謀して,X1の従業員(理美容師)を違法に引き抜いた等と主張して,Y1およびY3らに対し,損害賠償を求めた事案。

裁判所は,X1は設立後,給与体系を変更し,経費の増額計上を繰り返して賃金を大幅に減額し,従業員の大量退職の具体的な危険が生じた上,割増賃金の計算方法に労働基準法37条1項違反が認められるとして,本件業務委託契約等の解除は有効であると認め,未払の委託料は契約解除に伴う違約金と対等額で相殺されたとして,請求を棄却した事例

【掲載誌】  判例時報2324号130頁

       主   文

 1 原告らの請求をいずれも棄却する。

  2 訴訟費用は原告らの負担とする。

       事実および理由

 第1 請求

  1 被告Y1は、原告X1に対し、720万6760円およびこれに対する平成27年7月8日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

  2 原告X1と被告Y1の間において、原告X1が、別紙「店舗1覧表」《略》記載の店舗に関し、平成23年7月1日にAから承継した、Aと被告Y1との間の平成19年6月30日付けY’事業業務委託契約上の地位を有することを確認する。

  3 原告X1と被告Y1の間において、原告X1が、大阪市中央区××(住居表示上の住所地:大阪市中央区△△)所在の「Y’・F店」に関し、平成23年7月1日にAから承継した、Aと被告Y1との間の平成12年9月29日付けY’・F店フランチャイズシステム契約およびY’・F店出店契約上の地位を有することを確認する。

  4 被告らは、原告X1に対し、連帯して5191万9494円およびこれに対する平成24年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  5 被告らは、原告X2に対し、連帯して8981万6498円およびこれに対する平成24年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 第2 事案の概要等

  1 事案の概要

  原告X1は、いわゆる1000円カットの理美容店を運営する株式会社Y1(なお、同社は平成27年6月1日に被告Y1に吸収合併された。以下、合併の前後を通じて単に「被告Y1」という。)と業務委託契約等を締結していたが、被告Y1は、原告X1との間に契約を継続し難い重大な事由が生じたとして同業務委託契約等を解除する旨の意思表示をした。

  本件は、原告X1が、被告Y1による上記業務委託契約等の解除は無効であると主張して、被告Y1に対し、業務委託料の支払および業務委託契約等における契約上の地位の確認を求めるとともに、原告X1および同社から店舗運営事業の一部を受託していた原告X2が、原告X1の取締役であった被告Y3、同Y4、同Y5、同Y6および同Y7(以下、同人らを併せて「被告Y3ら」という。)と被告Y1の代表取締役であるBが、共謀の上、原告X1に対し無効な解除通知を送付し、原告X1の従業員(理美容師)を違法に引き抜いたなどと主張して、被告Y1に対しては共同不法行為(民法719条1項前段、会社法350条)または債務不履行による損害賠償請求権に基づき、被告Y3らに対しては共同不法行為または債務不履行(善管注意義務違反および忠実義務違反)による損害賠償請求権に基づき、原告らが被った損害の賠償を求めている事案である。

  2 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は、当事者間に争いがない。)

    〈編注・判タでは証拠の表示は省略ないし割愛します〉

  (1) 当事者

  ア 原告X1は、平成23年7月1日に設立され、同社の代表取締役であるAが被告Y1との間で締結していた業務委託契約を承継し、大阪府およびその周辺地域にある「Y’」の店舗運営事業を営んでいた会社である。

  イ 原告X2(平成15年12月12日設立)は、原告X1から「Y’」の店舗運営事業の一部を受託していた会社である。

  ウ 被告Y1は、理容・美容店経営のフランチャイズシステムの指導等を目的とする株式会社であり、大規模理美容チェーン店「Y’」を運営する会社である。

  エ 被告Y3らは、いずれもA個人に雇用されていたが、平成21年4月には原告X2の取締役に、平成23年7月以降は原告X1の取締役にそれぞれ就任した。原告X1は、店舗がある地域を6つに区分して、その地域毎に責任者(以下「エリアディレクター」という。)を置いていたが、被告Y3らは、エリアディレクターとして各地域の店舗の運営を管理する役割を担い、店舗でのカット業務に加え、セカンドディレクター(エリアディレクターを補佐する役割を担う者)や現場スタッフとの会議、担当地域におけるシフト作成作業等を行っていた。

  (2) 本件各契約の締結およびその承継

  Aは、平成12年9月29日、理美容店Y’の経営に関し、被告Y1との間で、Y’・F店フランチャイズシステム契約(以下「本件FC契約」という。)およびY’・F店出店契約(以下「本件出店契約」という。)を締結した。

  Aと被告Y1は、平成19年6月30日、Y’事業業務委託契約(以下「本件業務委託契約」といい、本件FC契約、本件出店契約と併せて「本件各契約」という。)を締結した。

  Aは、平成23年7月1日に原告X1を設立し、被告Y1との本件各契約、従業員との雇用契約を原告X1に承継させた。同日以降、本件各契約の当事者は原告X1と被告Y1になり、両者間で同契約が存続していた。

  (3) 本件各契約の内容

  ア 平成24年3月当時、原告X1は、30店舗のY’を運営していたが、そのうち別紙「店舗1覧表」《略》記載の29店舗(以下「本件店舗」という。)は本件業務委託契約に基づくものであり、残りの1店舗(F店)は、本件FC契約および本件出店契約に基づくものであった。

  イ 本件業務委託契約においては、被告Y1が、Y’の店舗として用いる建物およびその設備等を確保して原告X1に提供し、原告X1が、自ら雇用し教育した技術者を各店舗に配属し、顧客に対するカット業務に従事させ、売上金を管理するなどの店舗運営を行うこととされていた。本件業務委託契約に基づく業務委託料は売上金の52%であり、残りの48%が被告Y1の収益になっていた。

  ウ 本件FC契約および本件出店契約においては、原告X1がF店の建物を被告Y1から賃借し、自ら雇用し教育した技術者を同店に配属してカット業務を行っていた。原告X1は、本件FC契約に基づいてロイヤリティ、販促管理費、消耗品費等として売上金の10%を被告Y1に支払うほか、当該店舗の賃料および光熱費等を負担していた。

  (4) 原告X1と原告X2の契約関係

  原告X2は、平成24年3月当時、原告X1から、同社従業員でY’に勤務する新入社員の研修や技術者のカット技術、接客等に関する教育訓練等を委託され、教育訓練プログラムの企画、実施などの業務を行っていた。

  (5) 本件各契約の条項

  本件各契約の契約期間および解除等に関する定め(条項)は概ね次のとおりである。なお、本項中に甲とあるのは被告Y1を、乙とあるのは原告X1を指す。

  ア 本件FC契約

  19条(遵守事項)

  乙は、法令の定めに従うことは勿論、下記事項を遵守して、Y’店を経営しなければならない。

  (以下省略)

  26条(契約期間)

  1項 この契約は、開業の日から起算して、6年間経過したときに、期間を満了する。

  2項 期間満了の場合において、甲および乙において、契約更新について合意ができないときは、契約は終了する。

  3項 期間満了の場合において、契約更新の合意が出来たときは契約更新覚書に甲乙共に押印し、本基本契約プラス覚書を以って契約更新が成立する。

  30条(被告Y1の契約解除)

  (1項省略)

  2項 甲は、乙が下記の契約に関する重大な違反をした場合において、甲から10日間以上の期間をおいて、文章による催告を受けたにも関わらず、その期間経過後もなお、その違反を改めず、また義務を履行しないときは、この契約を解除することができる。

  1号 19条の違反があったとき。(一部省略)

  2号 その他甲に対する重大な不信行為があったとき。

  イ 本件出店契約

  2条(開店日と契約の期間)

  平成12年10月18日に開店し、その日から6年間のフランチャイズ契約とする。甲、乙双方契約解除の意思表示がなければ、自動的に6年間契約は更新されるものとし、乙から甲に契約更新に関わる費用を払い込むものとする。

  ウ 本件業務委託契約

  4条(乙の遵守事項)

  (1項省略)

  2項 乙は、本件委託業務の遂行にあたり、次の各号に定める事項を遵守するものとする。

   1号 理容師法、美容師法、個人情報保護法その他の法令の遵守。

  (2号以下省略)

  15条(損害賠償責任)

  1項 甲は、乙が本契約の定めの1に違反した場合、14日間の期間を定めて催告し、乙が当該催告期間内に当該違反を治癒したことが認められない場合、乙は、甲に対し違約金として、当該契約違反事実が生じた月の直近3か月の業務委託料の平均月額(以下「本件違約金」という。)に相当する金員を支払うものとする。但し、乙が18条2項に該当した場合は事前の催告なく、乙は、甲に対し本件違約金を支払うものとする。

  (2項省略)

  17条(契約期間)

  本契約は、契約締結日から1年間存続するものとする。但し、甲および乙のいずれからも契約終了日から3か月前までに書面による契約終了の意思表示がなされない場合、本契約は同一条件にて自動的に更新されるものとする。

  18条(解除)

  1項 甲または乙は、相手方が本契約の定めの1に違反した場合、14日間の期間を定めて催告し、当該催告期間を経過した後本契約を解除することができるものとする。但し、甲または乙が当該催告期間内に当該違反を治癒した場合はこの限りでない。

  2項 甲は、乙に次の各号に掲げる事由が生じた場合、何らの催告を要することなく、本契約を解除することができるものとする。

  (1号ないし5号省略)

  6号 本契約を継続し難い重大な事由が生じたとき

 (6) 本件各契約の解除

  被告Y1は、原告X1が原告X2またはA個人の支出に充てる資金を捻出するため、Y’店舗のスタッフの処遇について法令違反行為をしており、かかる行為は本件業務委託契約18条2項6号に定める「本契約を継続し難い重大な事由」に該当し、仮に同号に該当しない場合でも同契約4条2項1号に当たり、あるいは同契約17条ただし書きの契約終了の意思表示に当たるとして、また、本件FC契約19条本文、30条2項1号に該当するなどとして、平成24年3月16日、原告X1に対し、本件各契約を解除する旨の意思表示をした。なお、同月1日から同月16日までの本件業務委託契約に基づく業務委託料は1874万4931円であったが、被告Y1から原告X1に対し同委託料(以下「本件未払委託料」という。)の支払はされていない。

  (7) 原告X1の従業員の大量退職と被告Y1による雇用

  原告X1は、平成24年3月16日時点において従業員130名程度を雇用していたが、同日、そのうち123名が退職した。

  被告Y1は、同月17日、原告X1の上記退職者のうち119名を雇用した。

  3 争点

  (1) 本件各契約の解除の有効性(争点1)

  ア 本件各契約の解除事由が認められるか。

  イ 本件FC契約の解除において「催告」の要件を満たすか。

  ウ 解除権の濫用が認められるか。

  (2) 本件各契約の解除が認められない場合、本件各契約は期間満了により終了しているか。(争点2)

  (3) 平成24年3月1日から同月16日までの本件業務委託契約に基づく業務委託料支払請求権は相殺により消滅しているか。(争点3)

  (4) 被告らが、共謀の上、原告X1の従業員を違法に引き抜く行為をしたか(共同不法行為および取締役の責任の有無)。(争点4)

  (5) 被告Y1が、原告X1および原告X2に対し、店舗設備提供義務に係る債務不履行責任を負うか。(争点5)

  (6) 原告らの損害の有無および内容、当該損害と被告Y1の不法行為または債務不履行との間に因果関係が認められるか。(争点6)

(後略)

その控訴審判決である

大阪高等裁判所判決/平成28年(ネ)第94号

平成28年9月2日

損害賠償等請求控訴事件

【判示事項】 ヘアカット専門店の経営事業を営む会社から店舗運営を委託された会社が従業員に対する賃金の支給に際し労働基準法違反をしたとして、業務委託契約を解除された事例

【参照条文】 労働基準法24-1

       労働基準法37-1

【掲載誌】  判例時報2324号120頁

       主   文

 1 本件各控訴をいずれも棄却する。

  2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

(後略)