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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

不正競争防止法第1条第1号にいう「本法施行ノ地域内ニ於テ広ク認識セラルル」(周知性)の意義

 

最高裁判所第2小法廷決定昭和34年5月20日

不正競争防止法違反被告事件

【判示事項】 不正競争防止法第1条第1号にいう「本法施行ノ地域内ニ於テ広ク認識セラルル」の意義

【判決要旨】 不正競走防止法第1条第1号にいう「本法施行ノ地域内ニ於テ広ク認識セラルル」とは、本邦全般にわたり広く知られていることを要するという趣旨ではなく、1地方(例えば中部地方というが如き)において広く知られている場合をも含むものと解するのが相当である。

【参照条文】 不正競争防止法

【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集13巻5号755頁

       最高裁判所裁判集刑事129号881頁

 

不正競争防止法

(定義)

第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為

四 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「営業秘密不正取得行為」という。)又は営業秘密不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。次号から第九号まで、第十九条第一項第七号、第二十一条及び附則第四条第一号において同じ。)

五 その営業秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為

六 その取得した後にその営業秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為

七 営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為

八 その営業秘密について営業秘密不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為

九 その取得した後にその営業秘密について営業秘密不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為

十 第四号から前号までに掲げる行為(技術上の秘密(営業秘密のうち、技術上の情報であるものをいう。以下同じ。)を使用する行為に限る。以下この号において「不正使用行為」という。)により生じた物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為(当該物を譲り受けた者(その譲り受けた時に当該物が不正使用行為により生じた物であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)が当該物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為を除く。)

十一 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により限定提供データを取得する行為(以下「限定提供データ不正取得行為」という。)又は限定提供データ不正取得行為により取得した限定提供データを使用し、若しくは開示する行為

十二 その限定提供データについて限定提供データ不正取得行為が介在したことを知って限定提供データを取得し、又はその取得した限定提供データを使用し、若しくは開示する行為

十三 その取得した後にその限定提供データについて限定提供データ不正取得行為が介在したことを知ってその取得した限定提供データを開示する行為

十四 限定提供データを保有する事業者(以下「限定提供データ保有者」という。)からその限定提供データを示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその限定提供データ保有者に損害を加える目的で、その限定提供データを使用する行為(その限定提供データの管理に係る任務に違反して行うものに限る。)又は開示する行為

十五 その限定提供データについて限定提供データ不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその限定提供データを開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその限定提供データについて限定提供データ不正開示行為が介在したことを知って限定提供データを取得し、又はその取得した限定提供データを使用し、若しくは開示する行為

十六 その取得した後にその限定提供データについて限定提供データ不正開示行為があったこと又はその限定提供データについて限定提供データ不正開示行為が介在したことを知ってその取得した限定提供データを開示する行為

十七 営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録されたものに限る。以下この号、次号及び第八項において同じ。)の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録をさせないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録(以下この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)、当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)若しくは指令符号(電子計算機に対する指令であって、当該指令のみによって一の結果を得ることができるものをいう。次号において同じ。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、若しくは当該機能を有するプログラム若しくは指令符号を電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)又は影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする役務を提供する行為

十八 他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録をさせないために営業上用いている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録(以下この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)、当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)若しくは指令符号を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を当該特定の者以外の者に譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、若しくは当該機能を有するプログラム若しくは指令符号を電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)又は影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする役務を提供する行為

十九 不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為

二十 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為

二十一 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為

二十二 パリ条約(商標法(昭和三十四年法律第百二十七号)第四条第一項第二号に規定するパリ条約をいう。)の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。以下この号において単に「権利」という。)を有する者の代理人若しくは代表者又はその行為の日前一年以内に代理人若しくは代表者であった者が、正当な理由がないのに、その権利を有する者の承諾を得ないでその権利に係る商標と同一若しくは類似の商標をその権利に係る商品若しくは役務と同一若しくは類似の商品若しくは役務に使用し、又は当該商標を使用したその権利に係る商品と同一若しくは類似の商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくは当該商標を使用してその権利に係る役務と同一若しくは類似の役務を提供する行為

2 この法律において「商標」とは、商標法第二条第一項に規定する商標をいう。

3 この法律において「標章」とは、商標法第二条第一項に規定する標章をいう。

4 この法律において「商品の形態」とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう。

5 この法律において「模倣する」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう。

6 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

7 この法律において「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(営業秘密を除く。)をいう。

8 この法律において「技術的制限手段」とは、電磁的方法により影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録を制限する手段であって、視聴等機器(影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録のために用いられる機器をいう。以下この項において同じ。)が特定の反応をする信号を記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音、プログラムその他の情報を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。

9 この法律において「プログラム」とは、電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。

10 この法律において「ドメイン名」とは、インターネットにおいて、個々の電子計算機を識別するために割り当てられる番号、記号又は文字の組合せに対応する文字、番号、記号その他の符号又はこれらの結合をいう。

11 この法律にいう「物」には、プログラムを含むものとする。

 

第15章 賃貸用マンションの売買仲介

 

東京地判平成9年10月20日判タ973号184頁

一 賃貸中のマンションを購入したところ、賃借人が暴力団員であったというだけでは、売買契約が要素の錯誤により無効とはならない

二 賃貸中のマンションの売買を媒介する宅建業者は、客観的に通常の賃料収受目的の賃貸人ならば関心を寄せるべき事項及び賃借人の属性のうちで賃貸借関係が将来継続し難くなる事情については、重要事項として調査する義務がある。その場合、通常は、入居申込書記載の事項について所有者及び管理会社に確認し、当該マンションが外観上通常の用法で使用されていることを確認すれば足りる

原告が,処分行政庁がした原告の法人税に係る更正処分のうち,原告主張の所得金額及び納付すべき税額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(国税不服審判所長の裁決により一部取消後のもの)は違法であるとして,その取消を求め,弁護士費用相当額の損害が生じたとして,国家賠償請求をした事案について,原告が,子会社の倒産防止(再建)のために行ったとする金銭債権の放棄は寄付金に該当するとして行った本件各処分はいずれも適法であるとして請求を棄却した事例

 

 

              法人税更正及び加算税賦課決定取消等請求事件

【事件番号】      東京地方裁判所判決/平成18年(行ウ)第144号

【判決日付】      平成19年6月12日

【判示事項】      原告が,処分行政庁がした原告の法人税に係る更正処分のうち,原告主張の所得金額及び納付すべき税額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(国税不服審判所長の裁決により一部取消後のもの)は違法であるとして,その取消を求め,弁護士費用相当額の損害が生じたとして,国家賠償請求をした事案について,原告が,子会社の倒産防止(再建)のために行ったとする金銭債権の放棄は寄付金に該当するとして行った本件各処分はいずれも適法であるとして請求を棄却した事例

【判決要旨】      (1) 国税通則法102条1項は、原処分が裁決によって取り消されあるいは変更された場合に、原処分行政庁を含む関係行政庁が原処分と同一の事情の下で同一の理由により同一の処分をすることを禁じ、違法ないし不当な原処分を受けた者の権利利益の救済を徹底するためのものである。したがって、ここにいう裁決とは、取消裁決又は変更裁決のことを指し、却下裁決及び棄却裁決にはこの意味の拘束力はない。却下裁決又は棄却裁決があった場合に、なお不服があるとして提起された原処分の取消訴訟において、処分行政庁が裁決の理由と異なった主張をすることが、裁決の上記拘束力によって妨げられることはない。

             (2) 省略

             (3) 法人税法37条の寄附金の支出は様々な目的をもって行われ、法人の事業との関連性も明確ではないから、それが法人の収益を生み出すのに必要な費用といえるかどうかは必ずしも明らかでなく、どれが費用の性質をもち、どれがそれをもたないのかを客観的に判定することは困難であるため、同条は、行政的便宜及び公平の維持の観点から、統一的な損金算入限度額を設け、寄附金のうちその限度額の範囲内の金額は損金算入を認め、それを超える部分の金額は損金に算入しないこととしたのである。

             (4) 法人税法37条7項(寄附金の損金算入)の括弧書が、広告宣伝費等を寄附金からは除くこととしているのは、それらの支出は、その費用としての性格が明白であるため、全額を損金に算入することとして差し支えがないからであることからすると、広告宣伝費等には当たらない支出であっても、その費用性が明白であるものは、その全額を損金に算入することができると解されるところ、法人税法37条が、寄附金について統一的な損金算入限度額の制度を設けていることからすると、これはその例外としての取扱いに当たるから、その範囲をみだりに広げることはできないから、「資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」であって広告宣伝費等に当たらないものは、法文どおり原則としてすべて寄附金に該当すると、事実上推定されるというべきであり、客観的にみて費用性が明白な支出であると認められない限り寄附金該当性は否定されないと解すべきである。

             (5) ある支出の寄附金該当性を否定する場合には、否定する者が、客観的にみて費用性が明白であることを基礎付ける事情が存在することの立証を負担すべきである。

             (6) 金銭債権の放棄が寄附金に該当しない(客観的にみて明白に費用と認められる)例として、子会社など資本関係、取引関係、人的関係、資金関係等において密接なつながりのある会社が業績不振に陥り、その子会社等を整理するに当たり、あるいはその倒産を防止するために(再建のために)、債権を放棄する場合が挙げられる。法人税基本通達9-4-1及び同9-4-2は、このような場合に債権放棄などの支援を行わなければ、かえって支援する側の法人自身が将来的に大きな損失を被ることがあり得るから、一定の要件の下において債権放棄等が寄附金に該当しないことを定めたものであると解され、その趣旨は正当である。

             (7) 省略

             (8) 法人税基本通達9-4-2の「業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもの」の要件は、子会社の倒産防止という観点から債権放棄の費用性を肯定するために充足されなければならない要件であり、その費用性は客観的にみて明白でなければならないから、この要件を満たすには、第一に、子会社が倒産の危機にあったと認められなければならないと解すべきである。

             (9) 省略

             (10) 課税処分が国家賠償法上違法であると評価される場合、その課税処分の取消しを求めるために訴えの提起を余儀なくされ、その訴訟追行を弁護士に委任した者は、その訴訟の提起及び追行に係る弁護士費用のうち相当と認められる額の範囲内のものにつき、違法な課税処分と相当因果関係のある損害として国家賠償請求をすることが可能である(最高裁昭和44年3月6日判決、同平成16年12月17日判決参照)が、これは、そのような違法な課税処分を受けた者が自己の権利利益を擁護するためには、処分取消し等の訴えを提起する以外に方法はないと認められるところ、「右の訴を提起し追行するには高度に専門化された技術を必要とし、一般人としては弁護士に委任しなければその目的を達成することがほとんど不可能に近い」(前掲最高裁昭和44年3月6日判決参照)からである。

             (11) 省略

【掲載誌】        税務訴訟資料257号順号10725

 

寄付金とは、法人税法37条7項

寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。

 

 

 

法人税法

(寄附金の損金不算入)

第三十七条 内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額(次項の規定の適用を受ける寄附金の額を除く。)の合計額のうち、その内国法人の当該事業年度終了の時の資本金の額及び資本準備金の額の合計額若しくは出資金の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

2 内国法人が各事業年度において当該内国法人との間に完全支配関係(法人による完全支配関係に限る。)がある他の内国法人に対して支出した寄附金の額(第二十五条の二(受贈益)の規定の適用がないものとした場合に当該他の内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入される同条第二項に規定する受贈益の額に対応するものに限る。)は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

3 第一項の場合において、同項に規定する寄附金の額のうちに次の各号に掲げる寄附金の額があるときは、当該各号に掲げる寄附金の額の合計額は、同項に規定する寄附金の額の合計額に算入しない。

一 国又は地方公共団体(港湾法(昭和二十五年法律第二百十八号)の規定による港務局を含む。)に対する寄附金(その寄附をした者がその寄附によつて設けられた設備を専属的に利用することその他特別の利益がその寄附をした者に及ぶと認められるものを除く。)の額

二 公益社団法人、公益財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人又は団体に対する寄附金(当該法人の設立のためにされる寄附金その他の当該法人の設立前においてされる寄附金で政令で定めるものを含む。)のうち、次に掲げる要件を満たすと認められるものとして政令で定めるところにより財務大臣が指定したものの額

イ 広く一般に募集されること。

ロ 教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に寄与するための支出で緊急を要するものに充てられることが確実であること。

4 第一項の場合において、同項に規定する寄附金の額のうちに、公共法人、公益法人等(別表第二に掲げる一般社団法人、一般財団法人及び労働者協同組合を除く。以下この項及び次項において同じ。)その他特別の法律により設立された法人のうち、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定めるものに対する当該法人の主たる目的である業務に関連する寄附金(出資に関する業務に充てられることが明らかなもの及び前項各号に規定する寄附金に該当するものを除く。)の額があるときは、当該寄附金の額の合計額(当該合計額が当該事業年度終了の時の資本金の額及び資本準備金の額の合計額若しくは出資金の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える場合には、当該計算した金額に相当する金額)は、第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入しない。ただし、公益法人等が支出した寄附金の額については、この限りでない。

5 公益法人等がその収益事業に属する資産のうちからその収益事業以外の事業のために支出した金額(公益社団法人又は公益財団法人にあつては、その収益事業に属する資産のうちからその収益事業以外の事業で公益に関する事業として政令で定める事業に該当するもののために支出した金額)は、その収益事業に係る寄附金の額とみなして、第一項の規定を適用する。ただし、事実を隠蔽し、又は仮装して経理をすることにより支出した金額については、この限りでない。

6 内国法人が特定公益信託(公益信託ニ関スル法律(大正十一年法律第六十二号)第一条(公益信託)に規定する公益信託で信託の終了の時における信託財産がその信託財産に係る信託の委託者に帰属しないこと及びその信託事務の実施につき政令で定める要件を満たすものであることについて政令で定めるところにより証明がされたものをいう。)の信託財産とするために支出した金銭の額は、寄附金の額とみなして第一項、第四項、第九項及び第十項の規定を適用する。この場合において、第四項中「)の額」とあるのは、「)の額(第六項に規定する特定公益信託のうち、その目的が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定めるものの信託財産とするために支出した金銭の額を含む。)」とするほか、この項の規定の適用を受けるための手続に関し必要な事項は、政令で定める。

7 前各項に規定する寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。

8 内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。

9 第三項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入されない第三項各号に掲げる寄附金の額及び当該寄附金の明細を記載した書類の添付がある場合に限り、第四項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入されない第四項に規定する寄附金の額及び当該寄附金の明細を記載した書類の添付があり、かつ、当該書類に記載された寄附金が同項に規定する寄附金に該当することを証する書類として財務省令で定める書類を保存している場合に限り、適用する。この場合において、第三項又は第四項の規定により第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入されない金額は、当該金額として記載された金額を限度とする。

10 税務署長は、第四項の規定により第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入されないこととなる金額の全部又は一部につき前項に規定する財務省令で定める書類の保存がない場合においても、その書類の保存がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、その書類の保存がなかつた金額につき第四項の規定を適用することができる。

11 財務大臣は、第三項第二号の指定をしたときは、これを告示する。

12 第五項から前項までに定めるもののほか、第一項から第四項までの規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

 

国税通則法

(裁決の拘束力)

第百二条 裁決は、関係行政庁を拘束する。

2 申請若しくは請求に基づいてした処分が手続の違法若しくは不当を理由として裁決で取り消され、又は申請若しくは請求を却下し若しくは棄却した処分が裁決で取り消された場合には、当該処分に係る行政機関の長は、裁決の趣旨に従い、改めて申請又は請求に対する処分をしなければならない。

3 国税に関する法律に基づいて公示された処分が裁決で取り消され、又は変更された場合には、当該処分に係る行政機関の長は、当該処分が取り消され、又は変更された旨を公示しなければならない。

4 国税に関する法律に基づいて処分の相手方以外の第百九条第一項(参加人)に規定する利害関係人に通知された処分が裁決で取り消され、又は変更された場合には、当該処分に係る行政機関の長は、その通知を受けた者(審査請求人及び参加人を除く。)に、当該処分が取り消され、又は変更された旨を通知しなければならない。

 

 

 

             LLI/DB 判例秘書登載

覚せい剤取締法41条の覚せい剤輸入罪の既遂時期

 

最高裁判所第3小法廷決定/平成13年(あ)第92号

平成13年11月14日

覚せい剤取締法違反、関税法違反被告事件

【判示事項】    覚せい剤取締法41条の覚せい剤輸入罪の既遂時期

【判決要旨】    覚せい剤を船舶によって領海外から搬入する場合における覚せい剤取締法41条の覚せい剤輸入罪は、船舶から領土への陸揚げの時点で既遂に達する。

【参照条文】    覚せい剤取締法13

          覚せい剤取締法41

【掲載誌】     最高裁判所刑事判例集55巻6号763頁

          裁判所時報1303号457頁

          判例タイムズ1079号203頁

          判例時報1769号153頁

 

覚醒剤取締法

(氏名又は住所等の変更届)

第十二条 覚醒剤製造業者は、その氏名(法人にあつてはその名称)若しくは住所又は製造所の名称を変更したときは十五日以内に、その製造所の所在地の都道府県知事を経て厚生労働大臣に指定証を添えてその旨を届け出なければならない。

2 覚醒剤施用機関の開設者は、その覚醒剤施用機関の名称を変更したときは十五日以内に、その病院又は診療所の所在地の都道府県知事に指定証を添えてその旨を届け出なければならない。

3 覚醒剤研究者は、その氏名若しくは住所を変更し、又は研究所の名称の変更があつたときは十五日以内に、その研究所の所在地の都道府県知事に指定証を添えてその旨を届け出なければならない。

4 前三項の場合においては、厚生労働大臣又は都道府県知事は、速やかに指定証を訂正して返還しなければならない。

 

(刑罰)

第四十一条 覚醒剤を、みだりに、本邦若しくは外国に輸入し、本邦若しくは外国から輸出し、又は製造した者(第四十一条の五第一項第二号に該当する者を除く。)は、一年以上の有期懲役に処する。

2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、無期若しくは三年以上の懲役に処し、又は情状により無期若しくは三年以上の懲役及び一千万円以下の罰金に処する。

3 前二項の未遂罪は、罰する。

 

一酸化炭素中毒事故につき一定の設備を具備しない風呂釜を使用する者に対しプロパンガスを販売した業者に過失責任があるとされた事例

 

東京高等裁判所判決/昭和46年(ネ)第748号、昭和46年(ネ)第816

昭和49年10月28日

損害賠償、同反訴各請求控訴

【判示事項】    一酸化炭素中毒事故につき一定の設備を具備しない風呂釜を使用する者に対しプロパンガスを販売した業者に過失責任があるとされた事例

【参照条文】    民法709

【掲載誌】     東京高等裁判所判決時報民事25巻10号165頁

          判例時報766号51頁

 

道法

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う

防衛庁の職員が防衛庁長官に対して行政文書開示請求をした者のリストを作成し配付した行為が不法行為を構成するとされた事例

 

東京地判平成16年2月13日訟務月報51巻2号489頁 判タ1173号204頁 判時1895号73頁 

【判示事項】 防衛庁の職員が防衛庁長官に対して行政文書開示請求をした者のリストを作成し配付した行為が不法行為を構成するとされた事例

【参照条文】 国家賠償法1-1

       行政機関の電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律4 、12

 

国家賠償法

第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

② 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

 

行政機関の保有する情報の公開に関する法律

(開示請求の手続)

第四条 前条の規定による開示の請求(以下「開示請求」という。)は、次に掲げる事項を記載した書面(以下「開示請求書」という。)を行政機関の長に提出してしなければならない。

一 開示請求をする者の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人その他の団体にあっては代表者の氏名

二 行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項

2 行政機関の長は、開示請求書に形式上の不備があると認めるときは、開示請求をした者(以下「開示請求者」という。)に対し、相当の期間を定めて、その補正を求めることができる。この場合において、行政機関の長は、開示請求者に対し、補正の参考となる情報を提供するよう努めなければならない。

 

(事案の移送)

第十二条 行政機関の長は、開示請求に係る行政文書が他の行政機関により作成されたものであるときその他他の行政機関の長において開示決定等をすることにつき正当な理由があるときは、当該他の行政機関の長と協議の上、当該他の行政機関の長に対し、事案を移送することができる。この場合においては、移送をした行政機関の長は、開示請求者に対し、事案を移送した旨を書面により通知しなければならない。

2 前項の規定により事案が移送されたときは、移送を受けた行政機関の長において、当該開示請求についての開示決定等をしなければならない。この場合において、移送をした行政機関の長が移送前にした行為は、移送を受けた行政機関の長がしたものとみなす。

3 前項の場合において、移送を受けた行政機関の長が第九条第一項の決定(以下「開示決定」という。)をしたときは、当該行政機関の長は、開示の実施をしなければならない。この場合において、移送をした行政機関の長は、当該開示の実施に必要な協力をしなければならない。

 

 

 

 

 1 本件の事案の概要は次のとおりである。ノンフィクション作家である原告は、数回にわたり、防衛庁長官に対して情報公開法に基づく行政文書開示請求を行い、その際、氏名、住所、電話番号等を記載した行政文書開示請求書を提出したほか、原告の手続を担当した防衛庁職員に対して、「私もジャーナリストの端くれですから、記者発表の資料が見たいですよね。」という趣旨の発言をした。防衛庁の海上幕僚監部において開示請求に基づく情報公開に関する業務に従事していた三等海佐は、防衛庁長官に対して行政文書の開示請求をした者のリスト(本件リスト)を作成し、他の防衛庁の職員(情報公開室以外の職員を含む。)にも配布していたところ、本件リストには、原告の氏名、郵便番号、住所、電話番号のほか、「ジャーナリストの端くれ(自称)」との記載がされているものがあった。そこで、原告が、本件リストの作成・配布により、原告の名誉が毀損されるとともに、原告のプライバシーが侵害されたと主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき200万円の損害賠償金の支払を求めるとともに、謝罪広告およびお詫び文の掲載を求めたものである。

  本件の主たる争点は、①本件リストの記述が原告の名誉を毀損するか否か、②本件リストの作成・配布が、原告のプライバシーを侵害するか否かである。

  2 本判決は、名誉毀損の成否については、本件リストの記載中、「ジャーナリストの端くれ(自称)」との記述は原告の社会的評価を低下させるものでないことは明らかであるとして、名誉毀損の成立を否定した。しかし、プライバシー侵害の成否については、本件リストは、原告の氏名、郵便番号、住所、電話番号といった個人識別情報や「ジャーナリストの端くれ(自称)」との記述に係る情報に加え、原告が防衛庁長官に対して行政文書の開示請求をした者であるとの情報をも含むものであるところ、当該情報は、原告のプライバシーに係る情報として法的保護の対象になるとした上で、原告が防衛庁長官に対して提出した行政文書開示請求書の記載等から本件個人情報を収集した三等海佐は、情報公開業務を行うため必要な限度を超えてみだりにこれを保有したり他人に開示することは許されないというべきであるところ、①本件リストに記載された本件個人情報の一部は、開示請求状況の把握、行政文書の特定、開示・不開示の決定等の情報公開業務とは何らの関係を持たない個人に関する記載内容であること、および②少なくとも本件リストを情報公開室以外に配布したことについては、情報公開業務を行う上での必要性その他これを許容すべき事由が全くうかがわれないことからすると、本件個人情報を含む本件リストを作成して配布した三等海佐の行為は、原告のプライバシーを侵害するものとして、違法であるといわざるを得ない旨判示し、被告に対し慰謝料10万円の支払を命じた。なお、原告の謝罪広告およびお詫び文の掲載の請求は棄却した。

第14章 税

 

東京地判昭和49年12月6日判タ322号190頁

宅地建物取引業者の業務上の注意義務違反による不法行為責任が認められた事例

 Xは、不動産取引業者Yの申出によって土地を交換したところ、多額の所得税・地方税を賦課され、納税を余儀なくされた。

そこで、XはYを相手として、まず第1次的に、土地交換によってXに税金が賦課されたときにはYがこれを負担するとの確約があったと主張し、第2次的には、Yの社員らは税金の賦課という重要な事項について、故意に事実を告げなかったかまたは不実のことを告げたため、Xが不測の損害を被ったと主張して、納税額相当の金員の支払を求めた。

 本判決は、Xの主張するがごとき確約が認められないとして第1次的主張を排斥したが、Yに判示のごとき業務上の注意義務違反があったとして第2次的主張を肯認したものである。

 建物取引業者は、建設大臣または知事の免許という形で不動産取引に関する法律知識や土地、建物に関する技術的、専門的知識を有するものとして公認され、素人から当該事務の委託を引受けることを業とするものであるから、その注意義務は当該事務についての周到な専門家を標準とする高い程度のものが一般に要求されているものといいうる(我妻『債権各論中巻』2663頁)。

そして、業者はその事務所ごとに、宅地建物取引主任者試験に合格し、登録を受けた者を専任の取引主任者として、1人以上置かねばならないものとされている(建物取引業法11条の2)ところ、右の試験は、宅地建物自体に関する知識のみならず、その取引に必要な民法、税法その他の法律上の知識、宅地建物の評価に関する知識にも及ぶものであるから、宅地建物についての税についても一応の知識をも備えているものと素人には期待されているものと解せられる。

  したがって、本件のように、業者の申出によってその利益のために土地を交換するような場合にあっては、業者に対して、判示のごとき注意義務を要求したとしても、必ずしも苛酷なものとはいえないのではあるまいか。

 但し判示のごとき理論を一般論として拡大することには問題があろう。

 

第13章 価格情報

 

東京地判平成元年3月29日判タ716号148頁

不動産仲介業者が自己の利益及びその親会社が仲介土地売却後に土地の買主との間でマンション建設の請負契約を締結できるという利益をはかること、親会社の委託者に対する債権回収を容易にすること、担当従業員の成績向上を主な目的として土地売買契約の仲介を行い、契約に先だって適切な取引相場価格の調査をせず、委託者にとって不当に低額の金額を時価である旨告げ、強引に説得して土地を売却することを決意させ、その結果委託者が相当額の損害を被っているなど判示の事情のもとにおいては、仲介業者が委託者に仲介手数料を請求することは、信義則に反する権利濫用として認められない。

1、Xは、不動産仲介業者であるが、売主たるYの委託を受けて本件土地売買契約の仲介をなし、YA間で代金8300万円(坪当たり90万円)による売買契約を成立させたとして、Yに対し右仲介手数料255万円の支払を訴求した。

これに対しYは、抗弁として「Xの社員らがその利益を図るべく、もともと本件土地を売却する意思のなかったYに対し執拗に売却を勧め、しかも仲介業者として果たすべき調査義務を怠り、十分な調査もしないままに、Yに対し、坪当たり150万円から180万円前後の本件土地の時価を坪当たりせいぜい80万円であると告げ、坪当り90万円で本件売買契約を成立させた。

その後Yは、本件土地を右のとおり適正価格で売却できなかった損害を多少なりとも埋める目的で、右売買契約を解約して違約金1000万円の出捐を余儀なくされた」との事実を主張し、Xの請求は信義則に反する権利の濫用であって許されないと抗争した。

  本判決は「有償で不動産売買を仲介する者は、あらかじめ依頼者により指値をされた場合を除き、原則として、善良な管理者としての注意をもって、取引相場価格の調査をなし、依頼者の利益となるような売買条件の策定に向けて努力する義務を負うものと解するのが相当である。」としたうえ、Xの社員らには右義務違反があり、そのためYが相当額の損害を被っていると認定し、Yの抗弁を理由ありとしてXの請求を棄却した。

 問題は、右の注意義務の具体的内容の範囲についてであるが、「不動産仲介業者の注意義務としては、取引当事者の同一性の調査・確認、当事者の代理人と称する者の代理権の有無の調査・確認、目的物の権利関係、特にそれの上に制限物権等の有無の調査・確認ぐらいまでは、最小限度の要請と考えるべきであろう。

しかし、それ以外には、仲介人は鑑定人・評価人ではないのであるから、目的物の代価の妥当性や目的物の物的状況(土地の実測面積、建物の建坪、使用材質、建築後の経過年数など)や隠れた瑕疵の有無などにつき、原則として調査・鑑定の義務はなく、また当事者の弁済資力を担保する義務はない」と解する説が有力である(明石・前掲判評190号127頁、同『不動産仲介契約の研究』210頁、河田・前掲434頁)。

  これに対して、本判決は、不動産仲介業者について、取引対象不動産の相場価格の調査義務を原則的に肯定した。

 

東京地判平10・1・23判タ991号206頁

ハワイ島の土地の分譲を仲介した不動産業者及びその代表者が現地価額等の説明を怠ったとして不法行為責任が認められた事例(過失相殺3割)

Xは、海外不動産の売買、仲介等を業とするY1株式会社(代表者Y2)の仲介によりハワイ島所在の土地を3回にわたり、これを所有する会社(Y2が代表者または実質的経営者)から購入し、代金を支払った。

 Xはそのほか、ハワイ島の土地を譲渡担保としてY1に金銭を貸し付けた。

 Xはその後、各土地の現地価格を鑑定させたところ、購入金額は鑑定価額の2倍ないし4倍であったため、鑑定価額から購入金額を差し引いた額についてYらの詐欺行為によるものであると主張して損害賠償を求め、併せて貸金の返還を求めた。

これに対しYらは、詐欺の主張については、実際の取引価格と比較すべきなのは単にハワイ島における取引価額だけでなく、これに日本在住の英語を話せない日本人がY1に頼らず、ハワイ島の土地を購入した場合の諸費用を加算した金額であると主張し、譲渡担保付き貸金債務の主張については、実際に土地売買であったとして否認した。

  本判決は、ハワイの物件を仲介し、購入者に代わって購入手続を代行すること等を考慮しても、売主の希望金額が著しく不相当な場合には、購入者の不測の損害の発生を防止するため、およその現地価額等の基本的な事項を説明した上で購入の勧誘をすべきであり、本件においては、諸般の事情を考慮し、鑑定評価額の2倍程度の価額が相当で、Yらには注意義務違反があり、Xの被った損害額は右の金額を超える額と認めるのが相当であるとし、ただし、Xにおいても本件各土地の価格について何らの調査もしておらず、その過失割合は3割とするのが相当であるとし、貸金債権の存在をも認め、Xの請求を一部認容した。

  本件は、海外不動産売買の仲介業者の不法行為責任を認めた事例として注目すべきである。

 本件において仲介業者の責任原因は不法行為(詐欺)であるとされたが、仲介契約上の債務不履行構成も可能であろう。

しかし、この場合、受任者以外の例えば代表者の責任については、不法行為または取締役の第三者責任の構成が必要となるから、不法行為の主張が可能であれば、その方が単純であると思われる。

 原野商法につき仲介業者の幇助責任を認めた事例として大阪高判平7・5・30判タ889号253頁、

原野商法の仲介等をした不動産業者に不法行為の過失による幇助が認められた事例

 本件は、原野商法により被害にあったXらがXらに対する売主BまたはCに土地を仲介または転売した不動産会社Aの代表者Y個人に対し、幇助責任があると主張し、売主に支払った代金額と弁護士費用相当の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決である。

  第1審の大阪地判平6・1・28は、Yは、売主BまたはCがXらに対して行った勧誘がどのようなものかを知っておらず、不法行為に当たることを知っていなかったから、故意による幇助は認められず、また、通常の注意を払えばBまたはCの詐欺的商法を容易に知り得たともいえないとして、過失による幇助責任をも否定し、Xらの請求を棄却した。

  本控訴審判決は、昭和54年以降、原野商法による被害が社会問題となっており、業者の逮捕、行政処分が新聞報道されていたこと、Yが青森県の原野を短期的には値上がりを期待できないことを知りながら、BやCに多数回売却、仲介し、BやCがこれを細分化し、現地を特定できない、細分化した土地を都会の住民らに相場よりもかなり高額で販売しているのを知っていたことから、勧誘方法についても予見可能であったと認定し、過失によってBまたはCの不法行為を幇助したとしてYの損害賠償責任を肯定した。

なお、土地の時価額が損害額から控除されたうえ、Xらにも過失があり、その割合は7割であるとして、Xらの請求は一部認容されるに止まった。

  原野商法は、利用価値の殆どない格安の原野をあたかも開発予定地として値上がりが期待できるかのように詐言を弄して売買代金名下に現金を詐取する商法である。

原野商法について業者らの損害賠償責任を認めた事例としては、東京地判昭和58年6月13日判タ508号140頁、名古屋地判昭和61年9月19日判タ631号185頁、京都地判昭和62年3月31日判タ655号197頁、東京地判昭和62年8月25日判時1276号55頁、大阪地判昭和63年2月24日判タ680号199頁、大阪地判昭63年2月26日判時1292号113頁、大阪地判昭和63年3月25日判タ672号194頁、大阪地判平成5年3月29日判タ831号191頁、名古屋地判平成6年9月26日金法1403号30頁などがある。

 

第12章 収益性

 

東京地判平成10年7月13日判時1678号99頁

米国内のモーテルを投資目的で購入した買主が右モーテルの経営不振により損失を受けた場合において、右売買契約の仲介業者に収益性等に関する説明義務違反の債務不履行責任が認められた事例(過失相殺2割)

東京高判平6・7・18判時1518号19頁(建築制限についての説明義務が問題となった事例)、

1 第1種住居専用地域の土地建物を、建蔽率、容積率の異なる住居地域のものとの説明を信じて購入した場合に、錯誤無効が認められた事例

2 建築制限等について誤った新聞折込広告をし、その内容の重要事項説明書を作成して説明した宅地建物取引業者に不法行為責任を認め、また、代表者に有限会社法30条ノ3の規定による責任が認められた事例

 

第11章 心理的瑕疵

 

1 隣人

 

大阪高判平成16年12月2日判タ1189号275頁

隣人から苦情がある土地建物を購入したXに対し、売主であるYはそのことを説明しなかったことにつき説明義務違反があり、売主からの仲介業者であるY会社は、購入希望者であるXに重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される、隣人から苦情のあった件を説明しなかったもので、Xに対する説明義務違反があり、Y両名は売買価格の2割の損害賠償義務がある。

 1 Xは、平成14年3月16日にY1、Y2から宝塚市所在の本件土地建物(Y1持分20分の3、Y2持分20分の17)を2280万円で買い受ける旨の売買契約を締結し、同年5月に代金を支払ってその所有権を取得したが、その直後に、本件建物はその西側隣人Aとのトラブルによって居住の用に耐えないことが判明したとして、主位的には、売主であるY1、Y2及びその仲介業者であるY3に対し、YらはXに対する説明義務に違反し、またY1、Y2はXを欺罔したとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、各自2833万2516円及び遅延損害金の支払を求め、予備的には、Y1、Y2に対し、本件土地建物の売買契約は錯誤により無効であるとして、不当利得返還請求権に基づき、各自2280万円及び遅延損害金の支払を求めた。1審は、Xの請求をいずれも棄却し、本判決はその控訴審判決である。なお、控訴審においては、X側の伸介業者であるZがXに補助参加している。

  2 本件の中心争点は、事実認定に関しては、①Y1、Y2とAとの過去のトラブルの内容、②Y3の担当者Bは、Zの担当者Cに対して、Y1、Y2とAとの過去のトラブルをXに伝えるよう依頼していたか否か、③売買契約締結の際のY1及びBの説明内容などであり、法的評価に関しては、④売主であるY1、Y2はいかなる場合に、売買契約の対象物そのものではなく、本件土地建物の隣人についてまで説明義務を負うのか、⑤売主側の仲介業者であるY3はいかなる場合にAに関する説明義務を負うのか、またその履行方法、などである。さらに、Yらの不法行為責任が肯定される場合には、Xの損害額も問題となる。

  3 1審判決は、①平成11年11月に本件土地建物に引っ越してきたY1、Y2は、翌日には、Aから「子供がうるさい」などと怒鳴られ、平成12年3月には洗濯物に水をかけられたり、泥を投げ付けられたりし、自治会長や警察に相談するなどしていた、また平成14年3月3日にY3の別の担当者とZの別の担当者がX以外の購入希望者を本件土地建物に案内していたところ、Aが大声でうるさいと苦情を述べたことがあった、②これを聞いたBはCに、隣人Aの件をXに説明するよう依頼したが、CはXにその説明をしなかった、③Bは重要事項説明に用いる報告書に「西側隣接地の住人の方より、騒音等による苦情ありました。」と記載した、また、Y1は、売買契約締結の際に、Xから尋ねられて、Aからうるさいと言われて子供部屋を東側に移動させたことがあるが、その後はAから怒られたことがないなどと説明した、と認定した。その上で、④Y1、Y2の説明義務違反については、宅建業者であるY3に媒介を委託している以上、自らが説明を求められた事項につき事実に反する説明をし、または取引上重要な事項をあえて秘匿したような場合を除き、説明義務違反は認められないとし、本件においてはかかる説明義務違反の事実はないと判断した。また、⑤Y3の説明義務違反については、隣人に関する事情は宅地建物取引業法上の重要事項とされていない上、その調査は困難かつプライバシー侵害のおそれがあることから一般的説明義務を否定しつつ、仲介業者が隣人に関する事情を認識した場合であって、その事情が客観的に明らかなものであり、購入希望者の契約締結の可否の判断に重大な影響を及ぼすことが客観的に明らかな場合には、これをあえて秘匿することは許されないとの基準を定立した上で、その事情の伝達方法につき、相手方の仲介業者に上記事情を購入希望者に伝えるよう依頼することをもって足りるとして、Y3の説明義務違反を否定した。

  4 本判決は、上記①ないし③については1審判決とおおむね同様の事実認定をしながら(もっともAとのトラブルや経過はより詳しく認定され、またY1は契約締結の際に、Xから「同じ子供を持つ親として聞いておきたいのですが、近隣の環境に問題はありませんか。」などと尋ねられたにもかかわらず「全く問題ありません。」と答えたことが認定されている。)、Y1、Y3の説明義務違反を肯定した(Y2については、契約締結の場にいなかったことから説明義務違反が否定され、また、Xの錯誤の主張については、動機の表示がないとして否定されている。)。

  具体的には、本判決は、Y1の説明義務違反の点については、「売主が買主から直接説明することを求められ」、かつ、「その事項が購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される場合」には、売主は、信義則上、当該事項について「買主を誤信させるような説明をすることは許されない」として、Y1の契約締結の場での説明は、最近はAとの間で全く問題が生じていないという誤信をXに生じさせたと判断した。またY3の説明義務違反の点についても、Aが迷惑行為を行う可能性が高く、その程度も著しいなど、購入者が当該建物において居住するのに支障を来すおそれがあるような事情について客観的事実を認識した場合には、当該客観的事実について説明する義務を負うとし、かつ、本件の事実関係の下では、BがZの担当者Cに事情説明を依頼していただけでは、説明義務を尽くしたとはいえないと判示している

 

東京地判平成18年1月20日判タ1240号284頁

不動産売買契約において、対象建物に白ありの侵食による欠陥があるとして、宅地建物取引業者である売主に対して瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求は認められたが、不法行為及び債務不履行に基づく損害賠償請求は認められなかった事例

 1 本件は、原告らが、被告Y1から、土地建物(以下、このうち建物を「本件建物」という。)を購入したところ(以下「本件売買契約」という。)、本件建物に白ありの侵食による欠陥があり損害を被ったと主張して、①売主である被告Y1に対して主位的に不法行為(宅地建物取引業法〔以下「宅建業法」という。〕32条、47条1号違反)、予備的に瑕疵担保責任に基づき、②売主の代理人である被告Y2に対して不法行為(宅建業法47条1号違反)に基づき、③原告らとの間で仲介契約を締結した被告Y3に対して主位的に不法行為(宅建業法32条、47条1号違反)、予備的に債務不履行(重要事項説明義務違反)に基づき、それぞれ損害賠償を求める事案である。

  本判決は、原告らの不法行為及び債務不履行の主張をすべて理由がないとする一方で、瑕疵担保責任の主張を認めた。

  2 不法行為の主張について

(1)原告らは、不法行為の内容として、①宅建業法32条(宅地建物取引業者〔以下「宅建業者」という。〕は、その業務に関して広告をするときは、当該広告に係る宅地または建物の所在、規模、形質もしくは現在もしくは将来の利用の制限、環境もしくは交通その他の利便または代金、借賃等の対価の額もしくはその支払方法もしくは代金もしくは交換差金に関する金銭の貸賃のあっせんについて、著しく事実に相違する表示をし、または実際のものよりも著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。)、②宅建業法47条1号(宅建業者は、その業務に関して、宅建業者の相手方等に対し、重要な事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為をしてはならない。)違反を主張した。

 (2)不動産仲介契約は、準委任契約であり、不動産仲介契約を締結した宅建業者は善管注意義務を負うが(民法656条、644条)、宅建業法は、宅建業者に対し、各種の業務上の禁止規定・義務規定を設けており(宅建業法32条以下)、これらの規定は、善管注意義務の重要な具体的内容をなすものと解されている(塩崎勤「宅地建物取引業者の責任」川井健=塩崎勤編『新・裁判実務大系(8)専門家責任訴訟法』166頁~167頁)。

  したがって、本件において、原告らとの間で仲介契約を締結した宅建業者たる被告Y3に、宅建業法32条、47条1号違反があった場合は、被告Y3は不法行為責任を負うことがあるいうことができる。

  しかし、本判決は、被告Y3には、これらの規定違反は認められないとし、被告Y3の不法行為責任を否定した。

 (3)他方、被告Y1、Y2は、それぞれ売主、売主の代理人という立場にあったが、いずれも宅建業者であった。宅建業者は、直接の委託関係はなくても、業者の介入に信頼して取引をするに至った第三者に対して、信義誠実を旨とし、権利の真偽につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務があるとした判例があり(最2小判昭36.5.26民集15巻5号1440頁)、学説上も、この判例理論に異論を唱える者は見当たらないとされている(塩崎・前掲167頁~168頁)。

  本件において、売主である被告Y1、売主の代理人である被告Y2が宅建業者であることが、それぞれの注意義務についていかなる影響を及ぼすかについては検討を要するところと思われるが、本判決は、そもそも被告Y1、Y2には、宅建業法32条、47条1号違反に該当する事実は認められないとして、被告Y1、Y2の不法行為責任を否定している。

  3 債務不履行の主張について

 また、原告らは、仲介契約を締結した被告Y3に対し、仲介契約上の重要事項説明義務違反の債務不履行を主張したが、本判決は、被告Y3には、重要事項説明義務違反が認められないとし、被告Y3の債務不履行責任を否定している。

  なお、上記のとおり、本判決は、原告らの不法行為及び債務不履行の主張をすべて理由がないものとしているが、この点に関しては、仲介業者(宅建業者)は、鑑定・評価人ではないのであるから、隠れた瑕疵の有無などにつき、原則として調査・鑑定の義務はないと解する見解があり(明石三郎『不動産仲介契約の研究』210頁~211頁)、本判決が、被告らが白ありによる建物の被害について特別な知識を持っているとは認められていないことを被告らの責任を否定した理由の1つとしていることに留意すベきと思われる。

  4 瑕疵担保責任について

 本判決は、原告らの不法行為及び債務不履行の主張をすべて理由がないとしたが、瑕疵担保責任の主張は認めた。

  被告Y1は、瑕疵の有無につき、本件建物は本件売買契約当時既に建築後約21年(ただし、被告Y1の主張上は約20年)を経過していた中古建物であるから、瑕疵の有無は建築後約21年を経過した建物として判断すべきである旨主張した。しかしながら、本判決が指摘するように、本件売買契約は、居住用建物をその目的物の一部とする土地付き建物売買契約であり、そのような売買契約においては、取引通念上、目的物たる土地上の建物は安全に居住することが可能であることが要求されるものと考えられるから、本件建物が白ありにより土台を侵食され、その構造耐力上、危険性を有していたといえる以上、本件建物が本件売買契約当時既に建築後約21年を経過していた中古建物であり、また、現況有姿売買とされていたことを考慮しても、本件建物には瑕疵があったといわざるを得ないと思われる。

  その上で、本判決は、事案に則して、相当因果関係のある信頼利益の範囲での原告らの損害賠償請求を認めている。

 

東京高判平成20年5月29日判時2033号15頁

売買の対象となった宅地について、隣人の強迫的言辞のため事実上建物建築が制限されることが、一般人に共通の重大な心理的欠陥がある場合として、民法570条の瑕疵に当たるとされた事例

 

東京高判平成2年1月25日金判845号19頁

1、ともに宅建業者である売主と買主間の土地売買契約において、売買の目的とされた本件土地に関しては白子川の拡幅計画があって本件土地の3分の1が右計画部分に含まれ、同部分には建物を建築させない行政指導がなされており、これに反する建築確認申請は事実上確認を得るのが難しいこと、さらに敷地面積の計算上からも同部分は除いてほしてとの意向を示された。このような行政指導に基づく建築規制が存することは買主にとって重要な事柄であり、売主としても右事実を容易に買主に説明でき、またその重要性を認識しうる職業的立場にあったことからすれば、売主には売買契約の締結にあたって右建築規制の存在について買主に説明すべき義務があるものと認められ、この説明義務は売買契約における信義則から導かれる広義の契約上の附随義務の一種であるから、売主の右義務の不履行を理由に買主は売買契約を解除することができる。

2、売主及び買主がともに宅建業者である土地取引においては、買主にも業者としての専門的知見と調査が期待されるのであり、買主がこれを欠いたために不十分な情報に誤導されて損害を被ったときは、買主もまた過失の責任を負うべきであり、売買契約において手付金倍返しの約定による損害賠償額の予定が合意されていても、裁判所はその合理的意思解釈と公平の見地から買主の右過失を考慮して売主の支払うべき損害額を定めることができ、民法420条1項後段の規定はこのような減額までも禁ずるものではない。

 

 

大阪高判平成16年12月2日判タ1189号275頁

居住用不動産の売買において、隣人から苦情がある土地建物を購入したXに対し、売主であるYはそのことを説明しなかったことにつき説明義務違反があり、売主からの仲介業者であるY会社は、購入希望者であるXに重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される、隣人から苦情のあった件を説明しなかったもので、Xに対する説明義務違反があり、Y両名は売買価格の2割の損害賠償義務がある。

1 Xは、平成14年3月16日にY1、Y2から宝塚市所在の本件土地建物(Y1持分20分の3、Y2持分20分の17)を2280万円で買い受ける旨の売買契約を締結し、同年5月に代金を支払ってその所有権を取得したが、その直後に、本件建物はその西側隣人Aとのトラブルによって居住の用に耐えないことが判明したとして、主位的には、売主であるY1、Y2及びその仲介業者であるY3に対し、YらはXに対する説明義務に違反し、またY1、Y2はXを欺罔したとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、各自2833万2516円及び遅延損害金の支払を求め、予備的には、Y1、Y2に対し、本件土地建物の売買契約は錯誤により無効であるとして、不当利得返還請求権に基づき、各自2280万円及び遅延損害金の支払を求めた。1審は、Xの請求をいずれも棄却し、本判決はその控訴審判決である。なお、控訴審においては、X側の伸介業者であるZがXに補助参加している。

  2 本件の中心争点は、事実認定に関しては、①Y1、Y2とAとの過去のトラブルの内容、②Y3の担当者Bは、Zの担当者Cに対して、Y1、Y2とAとの過去のトラブルをXに伝えるよう依頼していたか否か、③売買契約締結の際のY1及びBの説明内容などであり、法的評価に関しては、④売主であるY1、Y2はいかなる場合に、売買契約の対象物そのものではなく、本件土地建物の隣人についてまで説明義務を負うのか、⑤売主側の仲介業者であるY3はいかなる場合にAに関する説明義務を負うのか、またその履行方法、などである。さらに、Yらの不法行為責任が肯定される場合には、Xの損害額も問題となる。

  3 1審判決は、①平成11年11月に本件土地建物に引っ越してきたY1、Y2は、翌日には、Aから「子供がうるさい」などと怒鳴られ、平成12年3月には洗濯物に水をかけられたり、泥を投げ付けられたりし、自治会長や警察に相談するなどしていた、また平成14年3月3日にY3の別の担当者とZの別の担当者がX以外の購入希望者を本件土地建物に案内していたところ、Aが大声でうるさいと苦情を述べたことがあった、②これを聞いたBはCに、隣人Aの件をXに説明するよう依頼したが、CはXにその説明をしなかった、③Bは重要事項説明に用いる報告書に「西側隣接地の住人の方より、騒音等による苦情ありました。」と記載した、また、Y1は、売買契約締結の際に、Xから尋ねられて、Aからうるさいと言われて子供部屋を東側に移動させたことがあるが、その後はAから怒られたことがないなどと説明した、と認定した。その上で、④Y1、Y2の説明義務違反については、宅建業者であるY3に媒介を委託している以上、自らが説明を求められた事項につき事実に反する説明をし、または取引上重要な事項をあえて秘匿したような場合を除き、説明義務違反は認められないとし、本件においてはかかる説明義務違反の事実はないと判断した。また、⑤Y3の説明義務違反については、隣人に関する事情は宅地建物取引業法上の重要事項とされていない上、その調査は困難かつプライバシー侵害のおそれがあることから一般的説明義務を否定しつつ、仲介業者が隣人に関する事情を認識した場合であって、その事情が客観的に明らかなものであり、購入希望者の契約締結の可否の判断に重大な影響を及ぼすことが客観的に明らかな場合には、これをあえて秘匿することは許されないとの基準を定立した上で、その事情の伝達方法につき、相手方の仲介業者に上記事情を購入希望者に伝えるよう依頼することをもって足りるとして、Y3の説明義務違反を否定した。

  4 本判決は、上記①ないし③については1審判決とおおむね同様の事実認定をしながら(もっともAとのトラブルや経過はより詳しく認定され、またY1は契約締結の際に、Xから「同じ子供を持つ親として聞いておきたいのですが、近隣の環境に問題はありませんか。」などと尋ねられたにもかかわらず「全く問題ありません。」と答えたことが認定されている。)、Y1、Y3の説明義務違反を肯定した(Y2については、契約締結の場にいなかったことから説明義務違反が否定され、また、Xの錯誤の主張については、動機の表示がないとして否定されている。)。

  具体的には、本判決は、Y1の説明義務違反の点については、「売主が買主から直接説明することを求められ」、かつ、「その事項が購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される場合」には、売主は、信義則上、当該事項について「買主を誤信させるような説明をすることは許されない」として、Y1の契約締結の場での説明は、最近はAとの間で全く問題が生じていないという誤信をXに生じさせたと判断した。またY3の説明義務違反の点についても、Aが迷惑行為を行う可能性が高く、その程度も著しいなど、購入者が当該建物において居住するのに支障を来すおそれがあるような事情について客観的事実を認識した場合には、当該客観的事実について説明する義務を負うとし、かつ、本件の事実関係の下では、BがZの担当者Cに事情説明を依頼していただけでは、説明義務を尽くしたとはいえないと判示している。

  5 本件は、事実認定にそれほど差がないのに1審と控訴審で結論が分かれた事案であり、特に、重要事項説明のための報告書に隣人Aに関する注意を喚起する記載を加え、X側の仲介業者であるZに隣人Aの事情を伝達するよう依頼までしていたY3の責任については異論もありうると思われる。また、1審判決及び本判決の事実認定によれば、Zが責任を負うことは明らかであり、なぜZが被告とされていないのかという疑問も生じる。ただ、Y3の主張によっても、本件土地建物の査定金額は口頭弁論終結時に1307万円しかなく、売買契約締結後約2年間の地価変動からすると、約43%も価格が下落するとは考え難いから、当初の価格設定自体に大いに問題があったと推認できる事案であって、その意味では、特殊な事案における事例判断にすぎないとも考えられる。

 

京都地判平成12年3月24日判タ1098号184頁

「全戸南向き」と宣伝してマンションを販売したが、実際には「全戸南向き」でないことが判明した場合、売主に不正確な表示・説明を行わないという信義則上の付随義務の違反があったとして損害賠償責任が認められた事例

 1 Xらは、平成6年に、不動産会社であるYから、京都右京区梅ヶ畑高鼻町所在のマンション「シエモア広沢北」を購入したが、その当時、右マンションが未完成であったため、モデルハウスで間取りの確認等を行って購入した。

  Yが作成したマンションのパンフレットには、「全戸南面・採光の良い明るいリビングダイニング」と記載され、新聞広告や折込チラシでも、「全戸南向き」、「全戸南向の明るい室内」と記載して宣伝されていたが、実際に完成したマンションはかなり西に向いていたため、Xらは、Yのマンションの販売方法は詐欺または宅建業法に違反するか、説明義務に違反するなどと主張し、Yに対して、マンションの価値減少損害、光熱費増加損害、慰謝料等の賠償を求めた。

  2 本判決は、本件のようなマンションの売買に当たっては、マンションの向きによって、日照時間が異なり、日照の確保、生活の快適性に大きな影響を及ぼすものであるから、マンションの向きは、売買契約を締結するかどうかを判断する際に重視される事項の1つであるとしたうえ、Yは、パンフレット、新聞広告、折込チラシにおいて、マンションは「全戸南向き」であると宣伝したが、実際は62度11分西方向に向いているから、Yは、マンションの向きにつき、不正確な表示・説明をしたものというべきであるとし、Yのマンションの売買契約に付随する信義則上の義務違反の責任を肯定し、Yに対して慰謝料と弁護士費用の支払を命じた。

 

2 自殺物件

 

大阪地判平成11年2月18日判タ1003号218頁

既存建物の取り壊しを目的とする土地及び建物の売買契約において、右建物内で売主の母親の縊首自殺があったことは民法570条にいう隠れた瑕疵に該当しない

 1 本件は既存建物を取り壊して、新たに建物を建てて、その敷地と新築建物を第三者に売却する目的で平成10年3月12日、建物とその敷地を被告らから購入した原告が、右建物を取り壊したのちに、建物内で平成8年に被告らの母親が首吊り自殺していることを知るに至り、右事実は本件売買契約の目的物である土地及び建物の隠れた瑕疵に該当するとして、本件売買契約を解除したうえ、違約金の請求をしているという事案である。

  2 本判決は、本件土地及び建物を買い受けたのは、本件建物に原告が居住するのではなく、本件建物を取り壊した上、本件土地上に新たに建物を建築して、これを第三者に売却するためであり、遅くとも平成10年5月12日までに本件建物は原告によって解体されていることから、本件売買契約における原告の意思は主として本件土地を取得することにあったものと認められるとしたうえで、解体して存在しなくなった本件建物において、被告らの母親が平成8年に首吊り自殺したという事実が本件土地の取得においていかなる意味を有するかという点が本件の争点であるとしたうえで、確かに継続的に生活する場所である建物内において、首吊り自殺があったという事実は民法570条が規定する物の瑕疵に該当する余地があると考えられるが、本件において問題とされているのは、かって本件土地上に存していた本件建物内で平成8年に首吊り自殺があったという事実であり、嫌悪すべき心理的欠陥の対象は具体的な建物の中の一部の空間という特定を離れて、もはや特定できない1空間内におけるものに変容していることや、土地にまつわる歴史的背景に原因する心理的な欠陥は少なくないことが想定されるのであるから、その嫌悪の度合いは特に縁起をかついだり、因縁を気にするなど特定の者はともかく、通常一般人が本件土地上に新たに建築された建物を居住の用に適さないと感じることが合理的であると判断される程度には至っておらず、このことからして、原告が本件土地の買主となった場合においてもおよそ転売が不能であると判断することについて合理性があるとはいえないとして、本件建物内において、平成8年に首吊り自殺があったという事実は、本件売買契約において、隠れた瑕疵には該当しないとするのが相当であるとした。

  3 参考裁判例として、土地建物の売買において、右建物内において売主の親族が首吊り自殺をしていたことが目的物の瑕疵に該当するとした浦和地川越支判平成9年8月19日判タ960号189頁、土地建物の売買について、売主の前所有者が約7年前に同建物に付属している物置内で農薬自殺したことが、隠れた瑕疵に該当するとした東京地判平成7年5月31日判タ910号170頁、家族の居住のため、マンションを購入したが、そのマンションで6年前に縊首自殺があったことは隠れた瑕疵に該当するとした横浜地判平成元年9月7日判タ729号174頁、売買の目的物となった建物内で縊死した事実が年月の経過その他の事情によって目的物の隠れた瑕疵に当たらないとされた大阪高判昭和37年6月21日判時309号15頁がある。

 

東京地判平成20年4月28日判タ1275号329頁

1 マンションを販売した不動産業者に、当該マンションで飛び降り自殺があったことを告知、説明すべき義務があるとされた事例

2 上記義務違反によって原告が被った損害は、性質上、損害額を立証することが極めて困難であると認められるとして、民事訴訟法248条の趣旨を援用して、慰謝料名目の損害賠償を命じた事例

 1 本件は、1棟のマンションを購入したXが、売主であるYに対し、同マンション販売に際し、飛び降り自殺があったことを告知、説明しなかったことが、不動産を取り扱う専門業者としての告知、説明義務に違反すると主張して、慰謝料の支払を求めた事案である。

  2 Xは、不動産業者Yから、代金1億7500万円で9階建マンション1棟を購入したが、間もなく、約2年前に当該マンションから居住者Aが飛び降り自殺した事実があったことを知った。そこで、Xは、Yに対し、Yが当該マンションで飛び降り自殺があったことを知っていたのに、同事実を告げずに本件不動産を売却したなどと主張して、慰謝料の支払を求めた。Yは、Xに転売する1年前に、同マンションの所有者Bから、代金1億3000万円で上記マンションを購入したものであり、購入時の重要事項説明書には、売主Bの娘Aが道路に転落する死亡事故があったとの記載があったが、YからXに販売する際の重要事項説明書には、当該事実の記載もなかった。Xは、本件訴訟物を慰謝料請求権とし、飛び降り自殺があったことを知らずに購入したことによる損害につき、Yの仕入価格とXヘの販売価格との差額に相当する4500万円、懲罰的損害賠償2500万円の合計7000万円と構成している(請求減縮前の請求額は2億5452万円余であった)。

  Yは、前記重要事項説明書の記載から調査したものの、転落事故が飛び降り自殺であったことは分からなかったなどと争ったが、本判決は、Yは、売主Bから直接買い受けたものであり、XがAの子らから、同マンションの価格が、Aの自殺があったため下がってしまったなどと聞いていたことなどから、当時のY買入担当者が具体的事情を知らなかったとは考えられないとし、同人が急に退職して連絡がとれなくなったとしても、Yの従業員が知っていたと認められる以上、Yとしての認識はあったとして、告知説明義務を認めた。

  3 損害額について、Xは、かなり漠然とした主張をしており、Yの仕入価格とXへの販売価格との差額に相当する4500万円については、「慰謝料と言い換える」と主張し、同マンション購入に際して支出した費用額等も主張はするものの、2500万円については、詐欺的不法行為による懲罰的損害賠償であると主張している。これに対し、Yは、Yの購入価格がXへの販売価格として適正価格であるとはいえないし、賃料収入に着目した収益物件として売買したのであって、死亡事故の後も収益に減少はなく、原告に損害はないと争った。本判決は、X主張の4500万円は、経済的損害を含める趣旨であると善解した上で、Xが主張、立証した出費(積極損害)について検討し、告知説明義務違反との因果関係を否定し、消極損害について①賃料収入の減少、②収益物件としての賃貸マンションの利回り、③自殺物件であることによる価格の低落等に関する判断を示した上で、証拠関係によって経済的損害を各側面から検討しても、その全容を1義的に特定して認定するには至らないとし、民事訴訟法248条の趣旨に鑑み、Xの精神的損害と合わせて損害額を2500万円と評価するとした。

 

3 その他

 

大阪地判昭54.12.27判タ415号155頁

一、不動産売買の仲介契約において、仲介業者の仲介により不動産の売買契約が成立した以上、仲介人の報酬請求権が発生し、かりに仲介人が仲介業務を行う過程で善管注意義務を怠ったとしても、右報酬請求権の発生が妨げられるものではない。

二、不動産売買の専門業者である仲介人は、その仲介にあたり、大学教授の未亡人で不動産取引について素人である委託者が判示のような拙劣かつ不適当な土地の売買をしないよう適切な助言をして右売買の仲介をなすべき善管注意義務を負い、これを怠ったときは、損害賠償義務がある。

2、売主から1区画の土地の売買の仲介を依頼された不動産仲介業者が、その仲介により、巾50センチメートルのそれだけでは使用価値のない土地部分を残して、他の大部分の土地を売却する旨の売買契約を成立させた場合において、委託者に右の如き拙劣かつ不適当な売買をしないよう適切な助言をしない限り、善管義務を怠ったものとして、不動産仲介業者の委託者に対する損害賠償責任の認められた事例

 依頼者が記念碑を建立するための土地を残して残部を売却する契約をしたところ、残った土地では記念碑が建てられなかったという事案において、依頼者は売買契約の内容を認識していたものであるが、宅建業者には依頼者が拙劣・不適当な売買をしないよう適切な助言をすべき義務を認めたものがある。