宅地建物取引業者の説明義務13 第13章 価格情報 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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第13章 価格情報

 

東京地判平成元年3月29日判タ716号148頁

不動産仲介業者が自己の利益及びその親会社が仲介土地売却後に土地の買主との間でマンション建設の請負契約を締結できるという利益をはかること、親会社の委託者に対する債権回収を容易にすること、担当従業員の成績向上を主な目的として土地売買契約の仲介を行い、契約に先だって適切な取引相場価格の調査をせず、委託者にとって不当に低額の金額を時価である旨告げ、強引に説得して土地を売却することを決意させ、その結果委託者が相当額の損害を被っているなど判示の事情のもとにおいては、仲介業者が委託者に仲介手数料を請求することは、信義則に反する権利濫用として認められない。

1、Xは、不動産仲介業者であるが、売主たるYの委託を受けて本件土地売買契約の仲介をなし、YA間で代金8300万円(坪当たり90万円)による売買契約を成立させたとして、Yに対し右仲介手数料255万円の支払を訴求した。

これに対しYは、抗弁として「Xの社員らがその利益を図るべく、もともと本件土地を売却する意思のなかったYに対し執拗に売却を勧め、しかも仲介業者として果たすべき調査義務を怠り、十分な調査もしないままに、Yに対し、坪当たり150万円から180万円前後の本件土地の時価を坪当たりせいぜい80万円であると告げ、坪当り90万円で本件売買契約を成立させた。

その後Yは、本件土地を右のとおり適正価格で売却できなかった損害を多少なりとも埋める目的で、右売買契約を解約して違約金1000万円の出捐を余儀なくされた」との事実を主張し、Xの請求は信義則に反する権利の濫用であって許されないと抗争した。

  本判決は「有償で不動産売買を仲介する者は、あらかじめ依頼者により指値をされた場合を除き、原則として、善良な管理者としての注意をもって、取引相場価格の調査をなし、依頼者の利益となるような売買条件の策定に向けて努力する義務を負うものと解するのが相当である。」としたうえ、Xの社員らには右義務違反があり、そのためYが相当額の損害を被っていると認定し、Yの抗弁を理由ありとしてXの請求を棄却した。

 問題は、右の注意義務の具体的内容の範囲についてであるが、「不動産仲介業者の注意義務としては、取引当事者の同一性の調査・確認、当事者の代理人と称する者の代理権の有無の調査・確認、目的物の権利関係、特にそれの上に制限物権等の有無の調査・確認ぐらいまでは、最小限度の要請と考えるべきであろう。

しかし、それ以外には、仲介人は鑑定人・評価人ではないのであるから、目的物の代価の妥当性や目的物の物的状況(土地の実測面積、建物の建坪、使用材質、建築後の経過年数など)や隠れた瑕疵の有無などにつき、原則として調査・鑑定の義務はなく、また当事者の弁済資力を担保する義務はない」と解する説が有力である(明石・前掲判評190号127頁、同『不動産仲介契約の研究』210頁、河田・前掲434頁)。

  これに対して、本判決は、不動産仲介業者について、取引対象不動産の相場価格の調査義務を原則的に肯定した。

 

東京地判平10・1・23判タ991号206頁

ハワイ島の土地の分譲を仲介した不動産業者及びその代表者が現地価額等の説明を怠ったとして不法行為責任が認められた事例(過失相殺3割)

Xは、海外不動産の売買、仲介等を業とするY1株式会社(代表者Y2)の仲介によりハワイ島所在の土地を3回にわたり、これを所有する会社(Y2が代表者または実質的経営者)から購入し、代金を支払った。

 Xはそのほか、ハワイ島の土地を譲渡担保としてY1に金銭を貸し付けた。

 Xはその後、各土地の現地価格を鑑定させたところ、購入金額は鑑定価額の2倍ないし4倍であったため、鑑定価額から購入金額を差し引いた額についてYらの詐欺行為によるものであると主張して損害賠償を求め、併せて貸金の返還を求めた。

これに対しYらは、詐欺の主張については、実際の取引価格と比較すべきなのは単にハワイ島における取引価額だけでなく、これに日本在住の英語を話せない日本人がY1に頼らず、ハワイ島の土地を購入した場合の諸費用を加算した金額であると主張し、譲渡担保付き貸金債務の主張については、実際に土地売買であったとして否認した。

  本判決は、ハワイの物件を仲介し、購入者に代わって購入手続を代行すること等を考慮しても、売主の希望金額が著しく不相当な場合には、購入者の不測の損害の発生を防止するため、およその現地価額等の基本的な事項を説明した上で購入の勧誘をすべきであり、本件においては、諸般の事情を考慮し、鑑定評価額の2倍程度の価額が相当で、Yらには注意義務違反があり、Xの被った損害額は右の金額を超える額と認めるのが相当であるとし、ただし、Xにおいても本件各土地の価格について何らの調査もしておらず、その過失割合は3割とするのが相当であるとし、貸金債権の存在をも認め、Xの請求を一部認容した。

  本件は、海外不動産売買の仲介業者の不法行為責任を認めた事例として注目すべきである。

 本件において仲介業者の責任原因は不法行為(詐欺)であるとされたが、仲介契約上の債務不履行構成も可能であろう。

しかし、この場合、受任者以外の例えば代表者の責任については、不法行為または取締役の第三者責任の構成が必要となるから、不法行為の主張が可能であれば、その方が単純であると思われる。

 原野商法につき仲介業者の幇助責任を認めた事例として大阪高判平7・5・30判タ889号253頁、

原野商法の仲介等をした不動産業者に不法行為の過失による幇助が認められた事例

 本件は、原野商法により被害にあったXらがXらに対する売主BまたはCに土地を仲介または転売した不動産会社Aの代表者Y個人に対し、幇助責任があると主張し、売主に支払った代金額と弁護士費用相当の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決である。

  第1審の大阪地判平6・1・28は、Yは、売主BまたはCがXらに対して行った勧誘がどのようなものかを知っておらず、不法行為に当たることを知っていなかったから、故意による幇助は認められず、また、通常の注意を払えばBまたはCの詐欺的商法を容易に知り得たともいえないとして、過失による幇助責任をも否定し、Xらの請求を棄却した。

  本控訴審判決は、昭和54年以降、原野商法による被害が社会問題となっており、業者の逮捕、行政処分が新聞報道されていたこと、Yが青森県の原野を短期的には値上がりを期待できないことを知りながら、BやCに多数回売却、仲介し、BやCがこれを細分化し、現地を特定できない、細分化した土地を都会の住民らに相場よりもかなり高額で販売しているのを知っていたことから、勧誘方法についても予見可能であったと認定し、過失によってBまたはCの不法行為を幇助したとしてYの損害賠償責任を肯定した。

なお、土地の時価額が損害額から控除されたうえ、Xらにも過失があり、その割合は7割であるとして、Xらの請求は一部認容されるに止まった。

  原野商法は、利用価値の殆どない格安の原野をあたかも開発予定地として値上がりが期待できるかのように詐言を弄して売買代金名下に現金を詐取する商法である。

原野商法について業者らの損害賠償責任を認めた事例としては、東京地判昭和58年6月13日判タ508号140頁、名古屋地判昭和61年9月19日判タ631号185頁、京都地判昭和62年3月31日判タ655号197頁、東京地判昭和62年8月25日判時1276号55頁、大阪地判昭和63年2月24日判タ680号199頁、大阪地判昭63年2月26日判時1292号113頁、大阪地判昭和63年3月25日判タ672号194頁、大阪地判平成5年3月29日判タ831号191頁、名古屋地判平成6年9月26日金法1403号30頁などがある。