防衛庁の職員が防衛庁長官に対して行政文書開示請求をした者のリストを作成し配付した行為が不法行為を | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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防衛庁の職員が防衛庁長官に対して行政文書開示請求をした者のリストを作成し配付した行為が不法行為を構成するとされた事例

 

東京地判平成16年2月13日訟務月報51巻2号489頁 判タ1173号204頁 判時1895号73頁 

【判示事項】 防衛庁の職員が防衛庁長官に対して行政文書開示請求をした者のリストを作成し配付した行為が不法行為を構成するとされた事例

【参照条文】 国家賠償法1-1

       行政機関の電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律4 、12

 

国家賠償法

第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

② 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

 

行政機関の保有する情報の公開に関する法律

(開示請求の手続)

第四条 前条の規定による開示の請求(以下「開示請求」という。)は、次に掲げる事項を記載した書面(以下「開示請求書」という。)を行政機関の長に提出してしなければならない。

一 開示請求をする者の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人その他の団体にあっては代表者の氏名

二 行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項

2 行政機関の長は、開示請求書に形式上の不備があると認めるときは、開示請求をした者(以下「開示請求者」という。)に対し、相当の期間を定めて、その補正を求めることができる。この場合において、行政機関の長は、開示請求者に対し、補正の参考となる情報を提供するよう努めなければならない。

 

(事案の移送)

第十二条 行政機関の長は、開示請求に係る行政文書が他の行政機関により作成されたものであるときその他他の行政機関の長において開示決定等をすることにつき正当な理由があるときは、当該他の行政機関の長と協議の上、当該他の行政機関の長に対し、事案を移送することができる。この場合においては、移送をした行政機関の長は、開示請求者に対し、事案を移送した旨を書面により通知しなければならない。

2 前項の規定により事案が移送されたときは、移送を受けた行政機関の長において、当該開示請求についての開示決定等をしなければならない。この場合において、移送をした行政機関の長が移送前にした行為は、移送を受けた行政機関の長がしたものとみなす。

3 前項の場合において、移送を受けた行政機関の長が第九条第一項の決定(以下「開示決定」という。)をしたときは、当該行政機関の長は、開示の実施をしなければならない。この場合において、移送をした行政機関の長は、当該開示の実施に必要な協力をしなければならない。

 

 

 

 

 1 本件の事案の概要は次のとおりである。ノンフィクション作家である原告は、数回にわたり、防衛庁長官に対して情報公開法に基づく行政文書開示請求を行い、その際、氏名、住所、電話番号等を記載した行政文書開示請求書を提出したほか、原告の手続を担当した防衛庁職員に対して、「私もジャーナリストの端くれですから、記者発表の資料が見たいですよね。」という趣旨の発言をした。防衛庁の海上幕僚監部において開示請求に基づく情報公開に関する業務に従事していた三等海佐は、防衛庁長官に対して行政文書の開示請求をした者のリスト(本件リスト)を作成し、他の防衛庁の職員(情報公開室以外の職員を含む。)にも配布していたところ、本件リストには、原告の氏名、郵便番号、住所、電話番号のほか、「ジャーナリストの端くれ(自称)」との記載がされているものがあった。そこで、原告が、本件リストの作成・配布により、原告の名誉が毀損されるとともに、原告のプライバシーが侵害されたと主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき200万円の損害賠償金の支払を求めるとともに、謝罪広告およびお詫び文の掲載を求めたものである。

  本件の主たる争点は、①本件リストの記述が原告の名誉を毀損するか否か、②本件リストの作成・配布が、原告のプライバシーを侵害するか否かである。

  2 本判決は、名誉毀損の成否については、本件リストの記載中、「ジャーナリストの端くれ(自称)」との記述は原告の社会的評価を低下させるものでないことは明らかであるとして、名誉毀損の成立を否定した。しかし、プライバシー侵害の成否については、本件リストは、原告の氏名、郵便番号、住所、電話番号といった個人識別情報や「ジャーナリストの端くれ(自称)」との記述に係る情報に加え、原告が防衛庁長官に対して行政文書の開示請求をした者であるとの情報をも含むものであるところ、当該情報は、原告のプライバシーに係る情報として法的保護の対象になるとした上で、原告が防衛庁長官に対して提出した行政文書開示請求書の記載等から本件個人情報を収集した三等海佐は、情報公開業務を行うため必要な限度を超えてみだりにこれを保有したり他人に開示することは許されないというべきであるところ、①本件リストに記載された本件個人情報の一部は、開示請求状況の把握、行政文書の特定、開示・不開示の決定等の情報公開業務とは何らの関係を持たない個人に関する記載内容であること、および②少なくとも本件リストを情報公開室以外に配布したことについては、情報公開業務を行う上での必要性その他これを許容すべき事由が全くうかがわれないことからすると、本件個人情報を含む本件リストを作成して配布した三等海佐の行為は、原告のプライバシーを侵害するものとして、違法であるといわざるを得ない旨判示し、被告に対し慰謝料10万円の支払を命じた。なお、原告の謝罪広告およびお詫び文の掲載の請求は棄却した。