宅地建物取引業者の説明義務9 第9章 物理的瑕疵 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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第9章 物理的瑕疵

 

東京地判昭和51年10月14日判時856号63頁

 仲介により売買契約が成立しても、仲介者が仲介の過程で無効または取消の原因となる行為をなし、或いはこれに加担し、それがため契約が無効または取り消された場合、仲介者は仲介に成功したとはいえないから、仲介報酬金を取得し得ない。

 右事実によれば、訴外会社は本件土地の大部分が傾斜地であるのに、小谷野ら仲介者からそのうち約六、七〇〇坪が平坦地である旨の説明を受けたため、その旨誤信して買受け、後に本件売買契約は右詐欺を原因とする訴外会社の取消により実質的には解消され、合意解除の形式による処理がなされたことが明らかである。

 ところで、被告は前認定のように、本件契約の仲介に先立って本件土地の現況を確認し、また原告の代表取締役広田から公図を示され、本件土地の大部分が傾斜地である旨の説明を受けていたものであるが、原告と訴外会社との間で本件契約の締結を直接仲介する立場にあり、かつ小谷野から本件契約につき後に紛糾の生ずるおそれがあることを警告され、契約締結の中止を要請されたのであるから、被告としては訴外会社が小谷野らの説明により本件土地の現況につき錯誤に陥っていることを当然に知りうべきものであった。しかるに、被告は小谷野の警告と要請を無視し、あえて本件契約の締結に至らしめたのであるから、被告みずからは欺罔行為を行なってはいないが、小谷野らによる詐欺に加担したものというべきである。

 したがって、被告は本件契約の解消の原因たる瑕疵につき責任あるものであるから、前記の理により仲介報酬債権を取得し得ないものといわなければならない。

  そうだとすると、被告は仲介報酬金として原告から受領した金三〇〇万円を法律上原因なく利得したいわゆる悪意の受益者というべきものであるから、これを原告に返還する義務がある。

 

神戸地判平成9年9月8日判タ974号150頁

1 新築された鉄筋コンクリート造住宅の売買について、建物内部への雨水等の浸水が、2重地下壁の不設置など居住用建物が備えるべき防水・排水設備に「隠レタル瑕疵」があるために生じたものであり、かつ、右瑕疵のため契約の目的を達成することができないとして、売買契約の解除を認めた事例

1 本件は、土地建物の売買につき、建物に瑕疵があるとして、瑕疵担保責任に基づく売買契約の解除及び建設業者の不法行為責任を問題とした事案である。

  2 原告は、被告不動産業者が被告建築業者の施工により建築する予定の鉄筋コンクリート造の建物(以下「本件建物」という。)及びその敷地を転売目的で買い受け、本件建物完成後、その引渡を受けたが、本件建物では、雨が降り続くと、地下1階の玄関等に水が浮き出る現象(以下「浸水現象」という。)が生じることが判明した。原告は、浸水現象は、本件建物について、地下壁を2重壁構造として排水のための空間を設け、また、地下壁の外側に雨水等を地中に透過させる透水層を設けるなど防水・排水設計がされているにもかかわらず、被告建築業者がそれらを設計どおり施工しなかったことにより、建物が本来備えるべき建物内部への浸水に対する防水構造や排水設備に、通常発見することが困難な構造上・施工上の瑕疵があったため、雨水等が本件建物内に浸水して生じたものであるとして、主位的に、被告不動産業者に対して瑕疵担保責任に基づき売買契約解除による売買代金返還請求及び損害賠償請求、被告建築業者に対して不法行為に基づき損害賠償を求め、予備的に、被告不動産業者に対して瑕疵担保責任、被告建築業者に対して不法行為責任にそれぞれ基づき、瑕疵修補費用等の損害賠償を求めた。

  これに対し、被告らは、本件建物の床に水が浮き出たのは、建物内部の空気中の水蒸気が水滴となって生じる結露現象によるものであって、原告の主張するような雨水等の浸水ではないと主張するとともに、本件建物施工の際、2重壁の施工等を一部変更したが、建物の防水・排水機能上の問題はないと反論して、本件建物に瑕疵があるとの主張を争った。

  3 本判決は、コンクリート製の地下壁を施工する際には、材質上、雨水等が浸水する可能性があることから、2重壁構造を採用し、その間に十分な空間をとって外壁からの浸水を排水する最終的な手段を確保するのが通常であるところ、本件建物の施工においては、監理者らの承諾を得ないまま2重壁の施工が変更され、排水のための空間をほとんど塞いでしまったことから、2重壁による排水機能が働かず、それによって本件建物内部に雨水等が浸水したことを認定した。

そして、2重壁による排水設備は、地下壁を有する本件建物の構造上重要な排水設備であり、また、原告と被告不動産業者との間で、本件建物の売買契約の際、具備すべき設備として合意されていたことから、本件建物が右のような施工であることは、構造上及び売買契約上の瑕疵にあたると判断した。

  そして、本件建物は、右瑕疵により浸水現象が生じることから快適な居住を保証しないこと及びその修補は新築に等しい工事となって事実上不可能であることから、居住用建物として転売することは不可能であり、また、敷地のみを転売することも期待できないことから、売買契約の目的を達することはできなくなったというべきであると判断し、瑕疵担保責任による売買契約の解除及び損害賠償請求を認めて、被告不動産業者に対する売買代金返還請求及び損害賠償請求を認めた。

  しかし、被告建設業者の不法行為責任については、建築請負人は、瑕疵ある建物を建築した場合であっても民法634条以下の瑕疵担保責任を負うにすぎず、一般の債務不履行(不完全履行)責任を負わないとされていることからすると、建築請負人が注文者や建物取得者の権利や利益を積極的に侵害する意図を有していたなどの特段の事情がある場合を除き、建物に瑕疵があっても不法行為責任を負わないと解するのが相当であるとの判断を示し、本件においては、右のような特段の事情を認めることはできないとして、被告建設業者の不法行為責任を否定した。

 

東京地判平成10年5月13日判タ974号268頁

賃貸用マンションの購入に際し、その資金を銀行が融資した場合において、銀行の支店長が支店の重要顧客である売主に代わって売買契約交渉をまとめる役割を事実上担っていた等の事情のもとでは、同支店長が、当該建物に再三原因不明の雨漏りがあり、応急修理で一時的に止まっているが再発の危険もあるという重要な事実を認識していながら、右事実に反した内容の不動産仲介業者の買主に対する説明を聞いてもそれを積極的に正すことをしなかったことは告知義務違反の不法行為に当たり、銀行の融資契約等についても詐欺による取消しが認められる。

中古の賃貸用マンションを買い受けたが、右マンションは雨漏りがひどく、修理不能な欠陥建物であったため、所有者であるY2から売買に関する一切の事項を一任されていたY1の船橋支店の支店長Y3が、右マンションの雨漏りの状況を買主であるXに告知すべき義務があるのに、故意または過失によりこれを告知しなかったとし、不法行為に基づき、Y1やY3らに対し、損害賠償を請求した。

 本件では、不法行為に基づき、顧問税理士、不動産仲介業社やその代表者の損害賠償責任が認められている。また、Y1のXに対する融資金の返還請求が、融資契約の詐欺による取り消しを理由に棄却されている。

 (1)Y3は、右マンションの売却前に、(1)右マンションが再三雨漏りし修理を繰り返していたこと、(2)修理は応急手当であって根本原因を調査して対処するには時間がかかること、(3)昭和63年5月の時点ではいまだ雨漏りの原因が判明しておらず、再発の危険があることを、それぞれ認識していた。

 (2)Y3は、右マンションの売却に当たって、売主のために売買価格を調査検討して価格を引き上げたうえで買主側にこれを提示し、また不動産仲介業者に契約の仲介業務を依頼するなど、売主側の仲介者兼財務コンサルタントとしての役割を果たしていた、(3)Y3は、売主側の仲介者兼財務コンサルタントとしての地位に鑑み、買主であるXに対して、右マンションの売却に先立ち、自己の入手した右のような重要な情報を告知すべき義務があるのに、右情報を告知しなかった過失がある、(4)Y3の右のような不法行為は、Y1の事業の執行につき行われたものである、と判断し、Y3の不法行為責任とY1の使用者責任を肯認して、本訴請求を認容した。

 

神戸地判平成11年7月30日判時1715号64頁

購入した中古住宅の屋根裏に多数のコウモリが住み、この駆除が必要なことにつき、売主の瑕疵担保責任が認められた事例

 

奈良地葛城支判平成11年8月31日判時1719号117頁、

公道に通じる土地の通行承諾の有無につき、媒介の宅建業者に説明義務違反があるとして、買主に対する損害賠償責任(使用者責任)が認められた事例

本件カーポートの利用に関する丙川所有地の通行権の有無は、本件の土地の位置・形状に照らせば、本件カーポートの利用価値に直結するものであるし、しかも本件においては、依頼者である原告から本件カーポートの使用の必要性を強調されて媒介の依頼を受けているのであるから、右通行権の有無は、原告が本件不動産を購入するか否か、ないしその購入代金はいか程にするか等の決定に重大な影響を及ぼすことが明らかであり、また被告にとって、その調査確認も容易である。してみれば、被告としては、右事項が直ちに宅建業法35条1項各号の重要事項に該当しないとしても、同法35条1項3号等に準じるものとして、丙川所有地の通行権の有無及びその具体的内容等について原告に説明する義務があるものと解するのが相当である。

 そうであれば、被告の従業員である今川は、本件売買契約の仲介をするに当たって、前記認定のとおり、丙川所有地の通行権の有無に関して何ら詳細な調査を行うことなく、従前の丙川所有地の利用形態からして簡単に通行の承諾が得られるものと軽信し、原告にほぼ無条件の通行承諾書の見本を示し、あたかも同様の内容の通行の承諾が得られるかのような説明をしたにすぎないのであるが、結果的に丙川は、原告に本件カーポートのゲートや塀の撤去の要求をしたうえ、従前の丙川所有地の利用形態を変更し、自らの自動車等の利用を優先させ、それに支障のない範囲でしか自動車の通行を認めないという態度を示しているというのであるから、今川に右の点につき民法709条の過失があるのは明らかであり、被告は原告に対して民法715条の責任を負うものといわざるをえない。

 

東京地判平成13年6月27日判タ1095号158頁

1 軟弱地盤の土地であるため地盤沈下が発生し建物に居住に困難をもたらす不具合が生じた場合において、軟弱地盤であることは隠れた瑕疵であり、土地付建売住宅の売買契約の目的を達することができないとして、瑕疵担保責任を理由とする売買契約の解除が有効であるとされた事例

2 不動産仲介業者が土地が軟弱地盤であることを説明告知しなかったところ、地盤沈下が発生し建物に居住に困難をもたらす不具合が生じたときは、業者には説明告知義務違反を理由とする不法行為が成立するとされた事例

 

東京高判平成15年9月25日判タ1153号167頁

宅地について、大雨の時など冠水しやすいという土地の性状が民法570条にいう隠れたる瑕疵に当たらないとされ、また、売主たる宅建業者の説明義務違反による債務不履行も認められなかった事例

1(1)本件は、建売業者であるYから本件土地建物を買い受けたXが、本件土地は、大雨のときなど容易に冠水し、宅地として使用することができず、これは売買の目的物の隠れたる瑕疵に当たるとか、売買契約の際、売主であるYが、その説明を怠ったことは債務不履行(説明義務違反)に当たるなどと主張して、1000万円の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

  (2)原判決は、本件土地は居住用建物のために売却されたものであるから、土地の瑕疵の有無は、建物の通常使用に耐えない状態にあるか否か、すなわち、通常程度の降雨でも冠水して床下浸水をきたすとか、地盤が崩壊するおそれがあるかなどによって決せられるべきであるとしたうえ、本件土地は、集中豪雨などのときには、雨水が床下浸水に達する勢いになり、また、駐車場部分が冠水するなどするものの、通常程度の降雨により、このような状態になることを認めるに足りる証拠はないとして、瑕疵の存在を認めず、また、宅建業者であった被控訴人にその点についての説明義務もないとした。

  (3)本判決も、結論としてはXの請求を認めなかったが、このような宅地が冠水しやすいという場合の瑕疵の該当性や、業者の説明義務について、かなり掘り下げた検討をしている点が注目される。すなわち、本判決は、地盤が低く、降雨等により冠水しやすいという土地の性状は、通常、附近一帯の土地の価格評価に織り込まれていること、また、道路の排水設備の整備等により改善されうる性質のものであることなどからして、独立して土地の瑕疵であると認めることは困難であるとした。また、本判決は、瑕疵に当たらないからといって、販売業者に、このような土地の性状についての説明義務が直ちに否定されるものではないが、このような場所的・環境的要因からする土地の性状は、地域の一般的な特性として、当該物件固有の要因とはいえない場合も多いこと、また、このような事柄は、土地の用途地域などとは異なり、簡単に調べられる事柄ではないこと、また、このような土地の冠水傾向について説明義務があることを基礎づけるような法令上の根拠や業界の慣行等もないことなどからして、結論的には、Yの説明義務違反があったとは認め難いと判断した。

  2 本件のような宅地の売買において、どのような事柄が民法570条にいう隠れたる瑕疵に当たるかという点は、難しい問題である。

  本件のように、土地それ自体の事柄ではなく、環境との関係が問題になっている場合に、瑕疵の該当性をどうとらえるかは難しい問題である。一般的には、このような物と環境との関係についても、「長期にわたり、かつ、使用性に影響を与える可能性がある限り」瑕疵に当たるとされる(柚木馨=高木多喜男『旧版注釈民法(14)』244頁)。このような事柄が問題となった裁判例としては、宅地用に買い受けた山林への通路が村道ではなく、通行できない私道であったため、売買の目的物に隠れた瑕疵があるとされた場合(東京高判昭和53年9月21日判タ373号65頁)や、病院用土地建物の売買で売主が正門であると指示したところに通ずべき道路がないことが瑕疵に当たるとされた事例(東京地判昭和32年3月12日判時112号35頁)などがある。

宅地が冠水すれば、それが床下浸水等の程度にまで達しないといっても、床材等に腐食や損傷が生じることは明らかであるし、本件のように駐車場の車が汚損したり、機能が損なわれるおそれもあり、一見すると、瑕疵に当たるとみてもよいように思われる。しかし、翻って考えると、本判決が指摘するように、このような事柄は、当該宅地だけの問題というより、地域一般の場所的・環境的要因という性質の問題であり、それが附近一帯の土地の価格評価に織り込まれている面が大きい。要は、そのような冠水の可能性から値段が安くなっている場合があるこということである。また、これは、附近の宅地開発の進行状況や、道路の排水設備等の整備状況にも大きく左右されることであり、恒久的に続く性質のものというより、いずれ解消される可能性のある事柄である。このように、その瑕疵の該当性には、種々考慮すべき要因があり、直ちに瑕疵といえるか否かは微妙であり、判断はかなり難しい面がある。いずれにせよ、本判決は、このような点を深く検討したものとして注目される。

  もっとも、このような土地の性状が瑕疵に当たらないとしても、販売業者にその点についての説明義務があるか否かは別個の検討が必要である。本判決は、この点につき、このような事柄が、当該土地建物の利用者に日常生活の面で、種々の支障をもたらす可能性があることや、売主が宅建業者である場合、当該業者は、宅地建物の専門的知識を有するのに対し、購入者はそのような知識に乏しいことなどから、一般的には説明義務の対象となりうることを認めた。ただ、本判決は、このような場所的・環境的要因からする土地の性状は、地域の一般的な特性として、当該物件固有の要因とはいえない場合も多いこと、また、このような事柄は、土地の用途地域などとは異なり、簡単に調べられる事柄ではないこと、また、このような土地の冠水傾向について説明義務があることを基礎づけるような法令上の根拠や業界の慣行等もないことなどからして、結論的には、Yの説明義務違反があったとは認め難いと判断した。この点も注目すべき判示である。

 

東京地判平成16年4月23日判時1866号65頁

1 土地、建物の売買において、建物が火災にあって焼損したことが、隠れたる瑕疵に当たるとされた事例

2 土地、建物の売買の仲介において、仲介業者が建物の瑕疵を調査せず、建物が火災にあって焼損したことを看過した場合には、債務不履行責任を免れないとされた事例

 

東京地判平成16年10月28日判時1897号22頁

隣人と共有共用の配水管および浄化槽が地中に埋設されていた土地の売買において、瑕疵担保責任を限定する特約を排除して売主の瑕疵担保責任が肯定された事例

 

東京簡判平成16年12月15日LLI/DB 判例秘書登載

被告の仲介により、訴外会社から中古建物を買った原告が、同建物に設置された飲用水供給用加圧ポンプの1台が、売買契約当時、故障により作動していなかったため、修理費相当額の損害を被ったと主張して、損害賠償を請求した事案について、被告に仲介物件の調査報告義務違反があったとは言えないとして、原告の請求を棄却した事例

 

東京地判平成17年5月24日LLI/DB 判例秘書登載

原告が、被告甲社の仲介により、被告乙社との間に、建物の1室について締結した賃貸借契約について、雨漏り等の瑕疵があるため、また、被告甲には説明義務違反があるため、原告はこうした被告らの債務不履行の結果、契約を終了させ、新たな物件を借り受けなければならなかったなどとして、被告らに対し、債務不履行に基づき、原告の被った損害の賠償を請求するとともに、選択的に、被告らの一般説明義務違反や家屋の瑕疵の放置責任などを理由として、不法行為に基づき同様の請求をした事案(甲に対して棄却、乙に対して認容)

 

最判平成17年9月16日裁判集民事217号1007頁

防火設備の1つとして重要な役割を果たし得る防火戸が室内に設置されたマンションの専有部分の販売に際し、防火戸の電源スイッチが一見してそれとは分かりにくい場所に設置され、それが切られた状態で専有部分の引渡しがされた場合において、宅地建物取引業者が、購入希望者に対する勧誘、説明等から引渡しに至るまで販売に関する一切の事務について売主から委託を受け、売主と1体となって同事務を行っていたこと、買主は、上記業者を信頼して売買契約を締結し、上記業者から専有部分の引渡しを受けたことなど判示の事情の下においては、上記業者には、買主に対し、防火戸の電源スイッチの位置、操作方法等について説明すべき信義則上の義務がある。

 

東京地判平成18年1月20日判タ1240号284頁

不動産売買契約において、対象建物に白ありの侵食による欠陥があるとして、宅地建物取引業者である売主に対して瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求は認められたが、不法行為及び債務不履行に基づく損害賠償請求は認められなかった事例

1 本件は、原告らが、被告Y1から、土地建物(以下、このうち建物を「本件建物」という。)を購入したところ(以下「本件売買契約」という。)、本件建物に白ありの侵食による欠陥があり損害を被ったと主張して、①売主である被告Y1に対して主位的に不法行為(宅地建物取引業法〔以下「宅建業法」という。〕32条、47条1号違反)、予備的に瑕疵担保責任に基づき、②売主の代理人である被告Y2に対して不法行為(宅建業法47条1号違反)に基づき、③原告らとの間で仲介契約を締結した被告Y3に対して主位的に不法行為(宅建業法32条、47条1号違反)、予備的に債務不履行(重要事項説明義務違反)に基づき、それぞれ損害賠償を求める事案である。

  本判決は、原告らの不法行為及び債務不履行の主張をすべて理由がないとする一方で、瑕疵担保責任の主張を認めた。

  2 不法行為の主張について

 本件において、売主である被告Y1、売主の代理人である被告Y2が宅建業者であることが、それぞれの注意義務についていかなる影響を及ぼすかについては検討を要するところと思われるが、本判決は、そもそも被告Y1、Y2には、宅建業法32条、47条1号違反に該当する事実は認められないとして、被告Y1、Y2の不法行為責任を否定している。

(1)原告らは、不法行為の内容として、①宅建業法32条(宅地建物取引業者〔以下「宅建業者」という。〕は、その業務に関して広告をするときは、当該広告に係る宅地・建物の所在・規模・形質、現在・将来の利用の制限、環境・交通その他の利便・代金、借賃等の対価の額もしくはその支払方法・代金・交換差金に関する金銭の貸賃のあっせんについて、著しく事実に相違する表示をし、または実際のものよりも著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。)、②宅建業法47条1号(宅建業者は、業務に関して、宅建業者の相手方等に対し、重要な事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為をしてはならない。)違反を主張した。

 (2)不動産仲介契約は、準委任契約であり、不動産仲介契約を締結した宅建業者は善管注意義務を負うが(民法656条、644条)、宅建業法は、宅建業者に対し、各種の業務上の禁止規定・義務規定を設けており(宅建業法32条以下)、これらの規定は、善管注意義務の重要な具体的内容をなすものと解されている(塩崎勤「宅地建物取引業者の責任」川井健=塩崎勤編『新・裁判実務大系(8)専門家責任訴訟法』166頁~167頁)。

  したがって、本件において、原告らとの間で仲介契約を締結した宅建業者たる被告Y3に、宅建業法32条、47条1号違反があった場合は、被告Y3は不法行為責任を負うことがあるいうことができる。

  しかし、本判決は、被告Y3には、これらの規定違反は認められないとし、被告Y3の不法行為責任を否定した。

 (3)他方、被告Y1、Y2は、それぞれ売主、売主の代理人という立場にあったが、いずれも宅建業者であった。

 3 債務不履行の主張について

 また、原告らは、仲介契約を締結した被告Y3に対し、仲介契約上の重要事項説明義務違反の債務不履行を主張したが、本判決は、被告Y3には、重要事項説明義務違反が認められないとし、被告Y3の債務不履行責任を否定している。

  なお、上記のとおり、本判決は、原告らの不法行為及び債務不履行の主張をすべて理由がないものとしているが、この点に関しては、仲介業者(宅建業者)は、鑑定・評価人ではないのであるから、隠れた瑕疵の有無などにつき、原則として調査・鑑定の義務はないと解する見解があり(明石三郎『不動産仲介契約の研究』210頁~211頁)、本判決が、被告らが白ありによる建物の被害について特別な知識を持っているとは認められていないことを被告らの責任を否定した理由の1つとしていることに留意すベきと思われる。

  4 瑕疵担保責任について

 本判決は、原告らの不法行為及び債務不履行の主張をすべて理由がないとしたが、瑕疵担保責任の主張は認めた。

  被告Y1は、瑕疵の有無につき、本件建物は本件売買契約当時既に建築後約21年を経過していた中古建物であるから、瑕疵の有無は建築後約21年を経過した建物として判断すべきである旨主張した。しかしながら、本判決が指摘するように、本件売買契約は、居住用建物をその目的物の一部とする土地付き建物売買契約であり、そのような売買契約においては、取引通念上、目的物たる土地上の建物は安全に居住することが可能であることが要求されるものと考えられるから、本件建物が白ありにより土台を侵食され、その構造耐力上、危険性を有していたといえる以上、本件建物が本件売買契約当時既に建築後約21年を経過していた中古建物であり、また、現況有姿売買とされていたことを考慮しても、本件建物には瑕疵があったといわざるを得ないと思われる。

  その上で、本判決は、事案に則して、相当因果関係のある信頼利益の範囲での原告らの損害賠償請求を認めている。

 

東京地判平成18年2月13日LLI/DB 判例秘書登載

新築の分譲住宅の売買契約締結に際し、売主及び仲介業者が、公道に出る通路に関して虚偽の説明を行なったこと、売主は、土地建物の引渡しを遅滞させ、さらに欠陥があったこと、その欠陥の補修を早期に行なわなかったことなどに対する損害賠償請求を認めた事例

 (1)本件土地は、本件建物の敷地である別紙物件目録記載1の土地と、その北側に隣接するセットバック部分の持分である同2の土地からなることが認められ、かつ、本件不動産の北側の道路(以下「北側道路」という。)の大部分に当たる東京都荒川区(以下略)の土地は、本件売買契約の対象となっていないことから、これが北側住民らの所有地であることが推認される。

     したがって、原告らは、北側道路について、もともと、上記別紙物件目録記載2の土地部分を除き、北側住民との関係でなにがしかの権限なしには通行することができないことが認められる。

  (2)ア 被告Y1は、本件売買契約締結の日である平成14年9月19日当時、北側住民との間で、北側道路の通行について何らの合意もしておらず、その後、平成14年12月3日、これについての話合いを開始し、幾度かの交渉を経て、北側住民から本件合意書のとおりの合意を求められてこれに応じず、結局、被告Y1と北側住民との間の北側道路の通行に係る交渉は、何らの合意もすることができずに、平成15年9月26日を最後に決裂したことが認められる。

   ウ 以上に述べたところによれば、被告Y1と北側住民との間で、本件売買契約が締結された当時、北側道路の通行について、北側住民との間の合意が本件不動産の購入者が北側道路のうち北側住民所有部分を通行するのに不可欠であったにもかかわらず、何らの合意もなされておらず、むしろ、その通行についての紛争が継続しており、その後、平成15年11月22日に至るまで、これが解決するに至っていなかったことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(2)次に、本件欠陥部分について、以下検討する。

    ア 塗装不全(別紙別表1)

    (ア)本件不動産の引渡し当時、本件建物の外壁の目地が目立つという不具合があったこと、被告Y1が本件確約書によってその補修を平成15年4月22日までに行うことを約したこと、上記補修は結局同年9月2日になってようやく行われたことは当事者間に争いがない。

    (イ)本件建物の外壁面には、上記補修後も、東側外壁面の1階部分、1階部分と2階部分との間の部分及び2階部分から上の部分の間並びに東側外壁面と北側外壁面との間で一見して明らかな色合いの違いが残っていること、東側外壁面1階部分には、水平の筋がくっきりと明確に残っていることが認められ、これらの色合いの相違及び筋の残存は、本件建物の美観を損なうものであると認められる。

    (ウ)そして、前記(ア)の補修の遅滞について、原告がこれに同意したことを認めるに足りる証拠はなく、その他、上記遅滞になにがしかの正当な理由があったと認めるに足りる証拠はない。

   ウ 玄関のポーチの欠損(別紙別表3)

    (ア)本件建物の玄関ポーチの石材に欠損があったこと、被告Y1が本件確約書によってその補修を平成15年4月17日までに行うことを約したこと、上記補修は結局同年秋ころになってようやく行われたことは当事者間に争いがない。

       他方、インターロッキングの一部分が割れていたことを認めるに足りる客観的な証拠はない。

    (イ)上記玄関ポーチの石材の欠損は、本件建物の顔というべき玄関部分におけるものであることなどに照らし、本件建物の美観を損なうものであったことが推認される。

    (ウ)そして、前記(ア)の補修の遅滞について、なにがしかの正当な理由があったと認めるに足りる証拠はない。

    エ ブロックフェンス未完成(別紙別表4)

    (ア)本件建物の周囲には、ブロックフェンスが東側の2分の1程度しか完成していなかったこと、これが予定されていた工事の途中であったことは当事者間に争いがなく、証拠(甲13、甲16④、原告X2本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告らは、上記東側についてブロックフェンスを完成させたが、北側、南側及び西側にはこれを設置しなかったこと、その後、本件建物の西側には、平成16年になって、低いブロック塀の上に柵を設置したものが設けられたことが認められる。

    (イ)本件売買契約において、ブロックフェンスが本件建物の周囲のどの範囲で設置される合意であったかは本件証拠によっても明らかではないが、弁論の趣旨によれば、被告らは、前記(ア)のとおりブロックフェンスを設置しなかった理由として、原告らの生活の利便のために付けていないものであると主張するのみで、その他合理的な理由を主張しないことから、被告Y1は、本件建物の周囲のうち東側以外についてもブロックフェンスを設置すべきであったものと認められる。

       そして、被告Y1が、上記本件売買契約における約定にもかかわらず、前記(ア)のとおり、上記ブロックフェンスを約定どおりに設置しなかったことについて、これが原告らの生活の利便に資すると認めるに足りる合理的な理由も証拠もなく、その他、これについては何らの正当な理由も認められないから、これらはいずれも本件売買契約に違反するものと認められる。

    (ウ)ただし、証拠(甲13、甲16④、原告X2本人)によれば、上記ブロックフェンスのブロックの一部にひび割れと思われる破損があることが認められるものの、これが多数存すること、ブロックフェンスの機能自体を損なうほど著しい程度のものであること、本件建物の美観を看過できないほど損なうものであることなどを認めるに足りる証拠はない。

   コ トイレのドア開閉の不具合、トイレ内の壁ムラの塗装不全(別紙別表10)

    (ア)本件建物のトイレのドアの開閉に不具合が生じたこと、トイレ内の壁面に塗装のムラがあったことは当事者間に争いがない。ただし、これらがいつごろから生じたかは、本件全証拠によっても明らかではない。しかし、被告Y1が、前記(ア)のトイレのドアの開閉について平成15年9月以降に調整を行ったこと、前記(ア)のトイレ内の壁面の塗装のやり直しを同年10月ないし11月ころまでに行うと述べていたのに、結局12月上旬にこれを行ったことは当事者間に争いがない。

    (イ)トイレのドアの開閉に不具合があることが本件建物の機能を損なうものであること、トイレ内の壁面の塗装のムラが本件建物内の美観を損なうものであることは明らかである。

    (ウ)そして、上記トイレ内の壁面の塗装のやり直しについて、被告Y1が遅くとも同年9月には塗装のムラを認識していたにもかかわらずそれから約3か月が経過した後にようやくこれを行ったことについて、正当な理由があったと認めるに足りる証拠はない。

    サ 1階玄関入って手前の部屋のドアの開閉不具合(別紙別表11)

    (ア)本件建物の1階の玄関から入って手前の部屋のとびらの開閉に不具合があったことは当事者間に争いがなく、証拠(甲13、原告X2本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告Y1が平成15年9月以降に上記の調整を行ったことが認められる。ただし、上記不具合がいつごろから生じたかは、本件全証拠によっても明らかではない。

    (イ)部屋のとびらの開閉の不具合が本件建物の機能を損なうものであることは明らかである。

   ス 床下収納が開かない(別紙別表13)

    (ア)本件建物の床下収納のとびらが床から盛り上がり、開かなくなったこと、被告Y1がこれについて、とびらを削って、開くように調整したことは当事者間に争いがない。

    (イ)床下収納のとびらが開かないことが本件建物の機能を損なうものであることは明らかである。

    セ 洗面所壁の塗装がひどいひび割れ(別紙別表14)

    (ア)本件建物の洗面所の壁面の塗装に重度のひび割れがあったこと、被告Y1が原告らに対して、平成15年9月ころ、上記塗装のやり直しを同年10月ないし11月ころまでに行うことを約したが、同年12月上旬になってから上記塗装のやり直しを行ったことは当事者間に争いがない。

    (イ)上記のように洗面所の壁面の塗装に重度のひび割れがあることが本件建物内の美観を損なうものであることは明らかである。

    (ウ)そして、前記(ア)のとおり、塗装のやり直しが、被告Y1が上記ひび割れの存在を認識してから約3か月も経過した後にようやく行われたことについて、正当な理由があったと認めるに足りる証拠はない。

    ソ 風呂の給湯不具合(別紙別表15)

      本件建物の風呂の給湯システムについて、湯量をどのように調整しても湯船1杯に給湯されるまで湯が止まらない状態であったこと、被告Y1が、この点について原告らから指摘された後に上記給湯システムに係る説明書の写しを郵送したこと、上記給湯システムについての修理は、平成15年9月以降に行われたことは当事者間に争いがなく、これが本件建物の機能を損なうものであることは明らかである。

    タ 洗面所の照明がつかない(別紙別表16)

      本件建物の引渡し当時、洗面所の照明が点灯しない状態であったこと、被告Y1が比較的早期にこれを修理したことは当事者間に争いがなく、これが本件建物の機能を損なうものであることは明らかである。

    チ 階段両側の壁の塗装不全(別紙別表17)

    (ア)本件建物の1階から2階に至る階段及び2階から3階に至る階段の左右両側壁面の塗装にムラがあったこと、原告らが被告Y1に対してそのやり直しを求めたこと、被告Y1が原告らに対し、平成15年9月になって、上記塗装のやり直しを同年10月ないし11月ころまでに行うことを約したが、同年12月上旬になってから上記塗装のやり直しを行ったことは当事者間に争いがない。

    (イ)上記塗装のムラが本件建物内の美観を損なうものであることは明らかである。

    (ウ)そして、前記(ア)のとおり、上記塗装のやり直しが、被告Y1が塗装のムラを認識してから約3か月も経過した後にようやく行われたことについて、正当な理由があったと認めるに足りる証拠はない。

   ト トイレのかぎがついていない(別紙別表20)

    (ア)本件建物のトイレのとびらにかぎがついていなかったことは当事者間に争いがない。ただし、この点について原告らが被告らに対していつ伝えたかについて、これを認定するに足りる客観的な証拠はない。

    (イ)上位トイレのかぎの欠如が本件建物の機能を損なうものであることは明らかである。

   ニ 玄関土間部分に穴(別紙別表22)

    (ア)本件建物の玄関ポーチに穴が開いていたこと、Fが平成15年8月9日にこの状況を写真撮影したこと、被告Y1が上記部分について平成15年秋ころに修復したことは当事者間に争いがない。

    (イ)上記のように玄関ポーチに穴があいていることは、その場所が本件建物の顔というべき部分であることなどに照らし、本件建物の美観を損なうものであったことが推認される。

 (3)以上に認定、説示したところによれば、被告Y1は、本件不動産の引渡しを本件売買契約における約定の引渡し期限から約2か月半遅滞し、代金の支払を受けるために、原告らに対し、本件建物について、その機能あるいは美観を損なう欠陥の残ったまま引き渡し、合理的な理由もなくその補修の一部を遅滞し、さらには一部についてはその補修を十分に行わなかったものであることが認められる。

     なお、被告Y1が原告らに対して本件建物に係る欠陥部分について陳謝しその補修を約したのは、本件建物の引渡しから約5か月が経過した平成15年9月13日のことであり、原告らは、その前の同年7月24日に東京都に対して被告Y1が本件建物の欠陥部分について補修しないとの報告をしていたことに加え、前記(1)に認定した北側道路に係る被告Y1の1連の行動をも併せて考慮すれば、被告Y1は、本件建物を自身が建築したのであるから当然認識していたものというべき本件建物の欠陥部分について、自ら補修する意思はなく、東京都からの指導などを受けてようやく上記謝罪と補修の約束に至ったものと強く疑われる。

 

東京地判平成18年5月8日LLI/DB 判例秘書登載

建物に下記欠陥があったとして、被告Y1の仲介により、被告Y2から土地及び建物を買い受けた原告らがした請求のうち、Y1に瑕疵担保責任としての損害賠償金等を、Y2に不法行為に基づく損害賠償金等を求める限度で認容した事例

(ア)403号室の雨漏り

(イ)203号室の上水の出や排水の悪さ、汚水槽、受水槽、排水管の清掃状況、揚水ポンプ工事

(ウ)エレベーターのかごシル交換についてEからかごシルを交換するよう勧告されていたこと

(エ)101号室の開口部枠のひび割れの存在

(オ)101号室の風呂のドア及びタイルの不具合

(カ)403号室のドアの不具合

(キ)303号室の給湯器及びバスタブの不調

 

東京地判平成20年4月11日LLI/DB 判例秘書登載

マンションにおける共用部分や専有部分に瑕疵があるとして、売主もしくは売主の地位を承継した被告らに対し、債務不履行または不法行為に基づき、損害賠償を求めた事案において、防潮板に関する瑕疵、駐輪場のキーシステムに関する瑕疵、空調機に関する瑕疵等の主張をいずれも理由がないとして、請求を棄却した事例

 

大阪地判平成20年5月20日判タ1291号279頁

居住目的による土地・建物の売買契約において売主を仲介する宅地建物取引業者は、建物の物理的瑕疵によって居住目的が実現できない可能性があることを示唆する情報を認識している場合、買主に対し、積極的にその旨を告知すべき注意義務があるとされ、これを尽くさなかったことに不法行為責任が認められた事例

 1 A(1級建築士)は、Yに対し、自己所有の土地・建物(以下、合わせて「本件不動産」といい、建物については「本件建物」という。)の販売の仲介を委託しており、Xは、Bに対し、居住用不動産の購入の仲介を委託していた。X、A、Y代表者、B担当者は、本件建物(当時、Aの妹が居住)を見学したところ、1階和室の柱が相当程度腐食しており、2階和室の柱にガムテープが貼られていた。また、Y代表者は、虫の死がいを発見し、白アリかと思ったが、他の場所から飛んできたかもしれないことから、誰かにそのことを告げることはしなかった。さらに、Y代表者は、1階和室以外に玄関左右の端、浴槽、収納部分の角にも腐食があり、雨漏りの箇所も複数あると認識していた。Xは、Aとの間で本件不動産の売買契約を締結したが、重要事項説明の際にY代表者から白アリ被害・雨漏りは発見されていない、腐食は1階和室に発見しているとの説明を受けたのみであった。Xは、本件不動産の引渡しを受けたところ、本件建物に白アリ被害が広範にわたって存在し、耐震性の観点から非常に危険な状態であることが判明した。Xは、A及びYに対し、不法行為に基づく損害賠償の支払を求めて本件訴訟を提起したが、XとAが口頭弁論終結後に和解を成立させたことから、XのYに対する請求が残った。

  Xの主張は、Yが本件建物の瑕疵を知っていながらAと共謀してXを騙した、仮に知らなかったとしても、外観から分かる範囲で本件建物の柱の腐食や白アリの存否を調査する義務を負っており、この義務に違反したというものであり、これに対するYの反論は、Yは本件建物の瑕疵を知らず、また、売主Aの仲介業者が買主Xにリスクを調査して説明すベき義務を負うものではなく、その調査義務は宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)35条所定の事項に限られ、建物の隠れた瑕疵など他の専門家による専門的調査が必要な事項についてまで及ばないというものである。

  本判決は、宅地建物取引業者(以下「宅建業者」という。)には、直接の委託関係がなくても、業者の介入に信頼して取引するに至った第三者に対して、権利者の真偽等につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務があるとした上で、その注意義務の対象は宅建業法35条所定の事項に限られないとした。そして、本判決は、買主であるXが本件建物に居住する目的を有しており、居住に適した性状、機能を備えているか否かを判断する必要があったから、そのようなXの目的を認識していたY代表者としては、本件建物の物理的瑕疵によってその目的が実現できない可能性を示唆する情報を認識している場合、積極的にその旨を告知すべき業務上の一般的注意義務、具体的には、白アリらしき虫の死がいを発見したこと、腐食部分が1階和室以外にもあること、雨漏りの箇所が複数あることなどを説明し、Xに更に調査を尽くすよう促す注意義務を負っていたが、これを尽くさなかったとして、その責任を肯定した。

本判決は、宅建業者の具体的認識を前提にして説明義務を認めた

 

東京地判平成20年6月4日判タ1298号174頁

1 築後12年の中古木造建物の雨漏りによる腐食及びシロアリによる侵食の一部が「隠れた瑕疵」(民法570条)に該当するとされた事例

2 中古建物の売買契約を仲介した宅地建物取引業者が、委託者である買主に対して、対象建物の雨漏りやシロアリの被害の有無についての調査義務を負担しないとされた事例

3 中古建物売買契約の瑕疵担保責任に基づいて売主が賠償すべき損害額について、瑕疵があることによる本件建物の減価分であるとして、当該減価分を具体的に算出した事例

 1 本件は、宅地建物取引業者Y2(法人)の仲介(担当したのはY2の代表者である宅地建物取引主任者Y3)により売主Y1から土地及び中古建物を共同で購入(本件売買契約)したXらが、同中古建物(本件建物)の柱等には雨漏りによる腐食とシロアリによる侵食といった「隠れた瑕疵」(民法570条)があったところ、Y1及びY3がこれらの腐食及び侵食を知りつつこれを秘し、またはこれらを容易に知ることができたのに十分な調査をしないで本件建物を売却し、またはその売却の仲介をしたものであるとして、Yらに対し、瑕疵担保責任(対Y1のみ)、債務不履行または不法行為に基づき、建物解体費用及び新築費用または補修費用に相当する額の損害賠償を請求した事案である。

  本件においては、①本件建物に本件売買契約当時において雨漏りによる腐食またはシロアリによる侵食という「隠れた瑕疵」があったか否か、②Yらに債務不履行責任または不法行為責任(Y1につき信義則に基づく調査説明義務違反に、Y2及びY3につき宅地建物取引業法47条1号または信義則に基づく調査説明義務違反にそれぞれ基づくもの)があるか否か、③当該瑕疵またはYらの不法行為等によってXに生じた損害額がそれぞれ争われた。

  2 本判決は、①本件建物の瑕疵の存否については、本件売買契約締結時における本件建物内の雨漏りによる腐食及びシロアリによる侵食を認定し、その範囲及び程度並びに本件売買契約の目的(居住利用目的)を考慮した上で、Xらが主張する瑕疵の一部分(サンルームの部分)について「隠れた瑕疵」があるとした。また、②Yらの責任については、まず、売主であるY1については、本件建物に雨漏りがあったことを認識しながら、本件売買契約締結に際して過去雨漏りを発見していない旨の告知をした事実を認定した上、瑕疵の存否に関する事項について故意に虚偽の事実を告知したものとして不法行為責任を負うとした。他方、Y2及びY3については、Y3が本件建物に前記瑕疵が存することを知っていたものと認めることはできない上、仲介業者であるY2は、本件建物に雨漏りやシロアリ被害があることを疑わせるような特段の事情がない限り、シロアリ駆除業者等に依頼するなどして被害の有無を調査するまでの義務があったとはいえず、本件において同特段の事情があったとは認められないとして、いずれもその責任を否定した。そして、③Y1が負担すベき損害額については、まず、瑕疵担保責任に基づいて賠償すべき損害額を、当該瑕疵があることによる本件建物の減価分であると解した上で、当該瑕疵がなかった場合の本件建物のサンルーム部分の本件売買契約締結当時における残存価額184万9081円を当該瑕疵と相当因果関係のある損害額として認めた。他方、Y1の前記不法行為責任に基づく損害賠償については、Xらの請求する弁護士費用相当額等が上記不法行為と相当因果関係のある損害とはいえないとして、前記の瑕疵担保責任に基づいて認めた賠償額のみの支払をY1に命じた。

  3(1) 売買契約の瑕疵担保責任(民法570条)における「隠れた瑕疵」は、一般に、(ア)通常有すべき品質・性能を欠いていること、(イ)そのためその物の価値が逸失あるいは減少していること、(ウ)売買契約当時一般取引上要求される通常の注意によっても知ることができなかったこと、の各要件を充足することによってその存在が肯定されるが、中古建物においてどのような場合に「隠れた瑕疵」が認められるかということについては、前記の各要件に照らし個々の事案において具体的に検討していくほかない。

 

東京地判平成22年3月9日判タ1342号190頁

1 土地の売買契約において、土地の現況と公図の記載とが異なっており、売買契約当時、将来土地所有権をめぐる紛争が生じる可能性があったとして、当該土地につき民法570条の瑕疵があると認められた事例

2 土地の売買契約を仲介した不動産業者が、売買契約当時、土地の現況求積図の地形と公図の地形とが異なり、登記簿上の面積と現況の面積とに違いがあることを認識していたにもかかわらず、買主に対し、このような土地の性状により生じ得る問題について何らの説明もしなかったとして、買主との間の仲介契約に基づく説明義務等を怠ったと認められた事例

1 Y1は、昭和36年7月3日、Aから本件土地を購入して、これを利用してきたが、平成12年ころ、不動産業者であるY2に対し、本件土地売却の仲介業務を委託した。本件土地の登記上の地番は、23番11である。

  Xは、家屋を建築するための土地を探して、Y2を訪れ、本件土地の現況求積図及び公図を示された上で、平成12年5月31日、Y2の仲介の下、Y1との間で、本件土地の売買契約を締結し、代金及び仲介手数料を支払い、上記売買を原因とする本件土地の所有権移転登記手続を了した。

  その後、Xは、本件土地において駐車場業を営んでいたが、平成19年7月20日、登記上の地番が23番31である土地を購入し、所有権移転登記を了したBから、本件土地の大部分がB所有の上記土地に含まれているとして、本件土地の明渡し等を求める内容の通知を受けた。23番31及び23番11の土地の公図における形状は、現在の土地使用状況とは異なっている。

  本件訴訟において、Xは、(1)Y1に対し、(ア)本件土地の売買契約の詐欺取消し、(イ)本件土地の登記移転義務の債務不履行による契約解除、(ウ)他人物売主の担保責任に基づく契約解除、(エ)公図と現況に齟齬がある等の瑕疵につき、瑕疵担保責任に基づく契約解除等を主張して、売買代金相当額等合計2298万円余の支払を請求し、(2)Y2に対し、本件土地の権利関係に問題があること等を説明する仲介契約上の義務の不履行に基づく損害賠償として、売買代金相当額等合計2298万円余の支払を請求した。

  2 本件の主要な争点は、(1)本件土地売買におけるY1の欺罔行為の有無、(2)Y1の本件土地の登記移転義務の不履行の有無、(3)本件土地の全部または一部は他人物であるか否か、(4)公図の記載と本件土地の現況との間に齟齬があること等が本件土地の瑕疵に当たるか否か、仮に、瑕疵に当たる場合、Xの瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権の除斥期間は経過したか否か、(5)Y2の仲介契約上の説明義務等の違反の有無等である。

  3 本判決は、争点(1)ないし(3)について、Y1が、本件土地を購入した以降、Xとの売買に至るまで、本件土地を平穏に占有してきたこと等の本件の事実関係に照らすと、Xの主張はいずれも採用することができないと判断したが、争点(4)については、本件土地の地番が23番11であるか23番31であるかを確定することができないこと、Xが、23番31の土地の登記を有するBから、本件土地の明渡し等を請求されていることによると、本件土地売買当時、本件土地の所有権をめぐる紛争が将来生じる可能性があり、本件土地には瑕疵があったものと認められるとし、他方、Xが、平成17年9月12日の時点で、本件土地の地番が23番11であるのはおかしいということを明確に認識したこと等の事実に照らすと、Xの損害賠償請求権は除斥期間の経過により消滅した旨判断して、XのY1に対する請求を棄却した。争点(5)について、Y2は、本件土地売買当時、本件土地の現況求積図の地形と公図の地形が大きく異なり、登記簿上の面積と現況の面積に違いがあることを認識していたにもかかわらず、Xに対し、本件土地の上記性状により生じ得る問題について何らの説明もせず、Xとの仲介契約に基づく説明義務等を怠ったと判断し、これによりXが本件土地所有権の行使を一定の限度で事実上制限されるという損害を被ったこと等を考慮して、Y2に売買代金の3割に相当する金額の損害賠償義務を認め、XのY2に対する請求を一部認容した。

 

大阪地判平成20年5月20日判タ1291号279頁

居住目的による土地・建物の売買契約において売主を仲介する宅地建物取引業者は、建物の物理的瑕疵によって居住目的が実現できない可能性があることを示唆する情報を認識している場合、買主に対し、積極的にその旨を告知すベき注意義務があるとされ、これを尽くさなかったことに不法行為責任が認められた事例)、

 

東京地判平成25年1月31日判時2200号86頁

中古住宅と敷地の売買において、倒壊のおそれのある擁壁の存在、ブロック塀の所有権の帰属の不明、隣地への越境の可能性が隠れた瑕疵に該当するとし、売主の瑕疵担保責任が肯定され、不動産仲介業者の越境に関する説明義務違反による債務不履行責任が肯定された事例

 

東京地判平成28年3月8日LLI/DB 判例秘書登載

被告所有不動産の売買契約を締結した原告らが、同契約を媒介契約に基づき仲介した被告会社が境界標の有無、隣地への越境の有無等につき虚偽の説明をし、必要な説明等を怠ったことにより物的損害等を被ったなどとして、被告らに対し、支払った手付金等相当額の支払を求めた事案。裁判所は、原告1名が売買契約の当事者であるとした上で、被告につき、事実に反して越境がないと説明したことは不法行為責任を負うとし、原告の財産的損害額は手付金相当額を相当とするが、原告には現地確認等に落ち度があり5割の過失相殺が相当として算出した額の限度で請求を一部認容し、被告会社につき不法行為等はないとして請求棄却した事例

 

東京地判平成28年3月10日LLI/DB 判例秘書登載

原告は、介護施設として利用する目的で被告Y3から建物を賃借したが、建物に検査済証がないため同施設を開設できなかったとして、Y3、Y3側の仲介業者である被告Y2、及び原告から委託を受けた仲介業者である被告Y1に対し、連帯して、原告が支出した費用等の損害を支払うよう求めた。裁判所は、(1)賃貸借契約上の義務として、Y3は、原告に、本件賃貸部分を現状有姿で引き渡せば足り、債務不履行責任はないとしたが、(2)Y2は、賃貸借契約締結時までに、原告に本件事情を告知説明すべき義務を怠り(不法行為)、(3)Y1は、事情を原告に告知説明しなかったことについて委任契約上の注意義務違反があった(債務不履行)として、請求を一部認容した。

そして、Aは、Eから本件賃貸部分について照会を受ける前から、複数の業者から、同部分を介護施設として利用したいとの照会を受けていたところ、それらの業者に本件建物には検査済証がない旨を告知すると、業者らは全て諦めていたという経験を有しており、平成25年6月頃に問い合わせてきたEに対しても、本件建物には検査済証がなく、介護施設として利用したいと照会してきた業者がいずれも諦めていたという事情を告知したこと、それにもかかわらず、Eは、そのことを原告代表者に伝えなかったことが認められる。

 

東京地判平成28年3月11日LLI/DB 判例秘書登載

建物の売買契約に付随する説明義務に違反したとして、原告(買主)が、被告(売主)に対し債務不履行に基づき、被告会社(契約の媒介者)に対し不法行為に基づき、損害賠償金の支払を求めた事案。裁判所は、被告らの説明義務違反の有無につき、電話線アウトレットにつながるはずの電話線の断線、配電盤の回路増設について説明しなくても違反とならないとする一方、建物の浴室が防水不良であり応急措置が行われていたにすぎず、漏水に関する事項の説明義務を怠ったものということができるとし、原告の各請求は、浴室の漏水工事に要した費用のうち、認定した額の限度で損害と認めるのが相当であるとして一部認容した事例