
全然大丈夫!
暑いし、蛙の声はめちゃめちゃうるさいし。
勉強なんて出来ないよ。
ほら! 聞こえる?
(俺は子機を網戸を開け、月明かりで光る田んぼの方へ向けた)
うわぁ~、すごい!
すごい聞こえるね。
うちのまわりは住宅街だから、逆。
すごい静か。
そっかぁ、、、、、
、、、うん、、、、、、、、。
、、、、せいちゃん、、、、。
、、、、、うん?
(ゆきのさんの気持ちが伝わってくるのがわかった。)
、、、、もう一回付き合ってほしい。
、、、、あっ、、、、、、。
、、、、
、、、、
、、、、
ごめん、、、ゆきのさん。
俺、、、好きな人いる。
だから、、、、付き合えない。
、、、、そっかぁ。わかった。
、、、、ごめんね。
、、、いや、、、ごめん。
ありがとう。せいちゃん。
、、、うん。
期末テスト前にごめんね。
電話切るね。じゃあね。
あっ、、、うん。
電話を切った。
ぼっーと
網戸ごしに月明かりの田んぼを見つめる。
さっきまでうるさかったはずの蛙の声が
いつの間にか耳から消えていく。
俺の耳は
俺の
ずるく
情けない
心に向いていく。
ゆきのさんのことは
好きだった。
けど、俺から
何も響かせることが出来なかった。
何も届けることが出来なかった。
男らしさや頼りがい
強いところや
物知りなとこや
運動神経がいいところ。
ときめかせることも。
ほんとはもっと背伸びして
カッコつけたかった。
いつも
ゆきのさんの優しさに包まれて愛されて。
支えられて。
それを好きになって。
苦しいくらい好きになって。
けど
思春期の俺は
惚れられるだけの自分になれてないように
勝手に思って、怯えて。
このまま進むと
俺がいつも劣っているというか
俺がいつも支えられるというか
そんな、、男として少し弱々しく感じて。
釣り合わない気がして。
いつかバレて
バカにされそうで。
恥ずかしくなり。
臆病になり。
無意識に、、ゆきのさんから離れた気がした。
まとまりない
自分勝手な
理由がつけれない感情が
入り混じり
思春期の俺を困惑させていく。
俺は
強く
賢く
頼りがいがある
劣ることのない
男になっていく。
無理やりにそんな仮面をかぶる
彎曲した心が
形作られた瞬間だったかもしれない。