出光美術館で「屏風の世界」展を観た! | とんとん・にっき

出光美術館で「屏風の世界」展を観た!


本展では、室町時代から江戸時代まで、出光コレクションの屏風の優品24件(重要文化財5件、重要美術品1件)を厳選して展示し、屏風絵の歴史と絵の楽しみ方を語りたいと思います。日本独自の美的手法が屏風絵でどのように発揮されてきたのかをじっくり鑑賞することで、日本人の美意識を再発見する展覧会です。


ということで、出光へ行く時はここ最近は「列品解説」がある時間にできるだけ行くようにしています。列品解説、つまりはギャラリー・トークですが、会期中、木曜日の午前10時30分、あるいは金曜日の午後6時から行われます。僕は金曜日の午後6時から行くようにしています。今回の列品解説は、「屏風の世界」展の企画にもかかわり、図録に「日本における屏風の受容と展開」という巻頭論文を書いている出光美術館学芸員の出光佐千子さんでした。分かり易い解説で、だいぶ勉強になりました。屏風は折り曲げて観るのが普通であり、ところが美術館では延ばした屏風を観るのが普通、今回は折り曲げた屏風の写真を図録に入れているという珍しい試み。もちろん展示された屏風は全部が出光の所蔵品だという。


彼女のプロフィールを以下に載せておきます。慶應義塾大学大学院(美学美術史)終了。博士(美術史)。主に江戸時代の絵画史が専門。池大雅から小杉放庵まで、近世から近代までの文人画(南画)を担当。とあります。7月12日(月)に「屏風絵体感―形と図様のトリックから絵師の意図を読み解く―」という特別講座の講師を彼女が担当する(この講座は有料ですが)、そのチラシにプロフィールが載っていました。


展覧会の構成

I “日本式”屏風の誕生
II 物語絵の名場面
III 風俗画の熱気と景観図の大空間
    風俗画 〈前期 6月12日~7月4日〉
    景観図 〈後期 7月6日~7月25日〉


構成は前期と後期に分かれていて、III 風俗画の熱気と景観図の大空間の部分は、前期が風俗画、後期が景観図となっています。ちなみに前期は重要文化財「祇園祭礼図屏風」が、後期は重要文化財「山水図屏風」与謝蕪村と、重要文化財「十二ヶ月離合山水図屏風」池大雅が展示されます。


今回の展示はまず、南北朝時代の「山水屏風残闕」二幅が軸装されて、展示されていました。日本で制作された中国的な題材を扱う唐絵として描かれた山水屏風では、平安時代後期作の東寺旧蔵本(京都国立博物館蔵)が最古。出光のものは醍醐寺本とほぼ同じ図様なので、南北朝時代に制作された醍醐寺系統本の内二扇分の残闕ではないかという。能阿弥の重要文化財「四季花鳥図屏風」四曲一双は、南宋の画僧・牧谿の影響が見られ、全体的に安定感のあるやわらかい表現です。それに比べて伝雪舟等揚の「四季花鳥図屏風」は、ダイナミックな松の構図や、硬質な筆致は、中国・明の宮廷画家に学んだもので、人を寄せ付けないゴツゴツした感じです。


「天神演技尊意参内図屏風」は、「北野天神縁起絵巻(承久本)」第5巻第5段をはじめ多くの天神縁起絵巻中に同じ図様の場面が見られるという。絵巻の一場面を拡大して屏風として描く傾向は、室町時代からあったそうです。いずれにせよ、より迫力のある表現がなされ、多くの人が同時に鑑賞できるという屏風のt区政が活かされています。

「業平東下り図屏風」は、伊勢物語第九段「東下り」の内、在原業平が5月下旬になっても雪をいただく富士山を見て、歌を詠む場面です。「時知らぬ山は富士の嶺いつとてか鹿の子まだらに雪の降るらむ」と詠み、東国に向かう業平の心細さが表されています。


伝岩佐又兵衛の屏風が2点、まったく趣の異なる屏風ですが見事なものです。「蟻通・貨狄造船図屏風」は、和漢の有名な故事を一双に描き分けた屏風で、人物表現はグロテスクです。一方、「三十六歌仙図屏風」は、六曲一双に左右に分かれて歌合わせをしている三十六歌仙の姿が並べられて、それぞれ和歌一首が色紙の上に書かれ、歌仙絵と扇面流しという伝統的な主題を上下に重層的に組み合わせています。次の「源氏物語図屏風」は、又兵衛の弟子の一人とされている岩佐勝友の作品です。


さて、前期だけに観られる「風俗画」ですが、それぞれ特徴があって、面白い。金雲を使って立体感を出した「南蛮図屏風」、京都・八坂神社の祭りである祇園祭を描いた「祇園祭礼図屏風」、対する江戸では「江戸名所図屏風」、これは八曲一双で、この形式は非常に珍しいそうです。江戸の名所が右隻の上野から左隻の品川辺りまで、蛇行する水路に沿って展開しています。金霞、金地の中を流れる深川の深い藍色が印象的です。描かれている吉原は、現在の血に移る前の吉原です。


「阿国歌舞伎素屏風」、出雲大社の巫女であった阿国、歌舞伎が能生から発生したことが分かります。「大阪夏の陣図屏風」、長谷川派の傑作です。風刺が効いています。漫画的に、頭を真っ二つに割られている姿も描かれています。「世界地図・バンコク人物図屏風」は、イエズス会のセミナリオで制作された世界地図です。アメリカは土人の国、日本人は大きく描かれています。「歌舞伎・花鳥図屏風」、これは小型の六曲一双の屏風ですが、表に歌舞伎、裏に花鳥が描かれています。狩野派の手になり、なかなかカラフルで楽しく、美しい。



















日本の美・発見Ⅳ「屏風の世界―その変遷と展開」

屏風は「風をさえぎる」という意味の漢字が示すように、もともと中国で風よけの家具として誕生し、7~8世紀頃に日本に伝わりました。中国の屏風は、扇(せん)と呼ばれるパネル状の一画面ずつが布で縁取られて革紐でつなげられていましたが、日本では室町時代に紙製の蝶番(ちょうつがい)を使って画面が連続する日本式の屏風が創案されました。大画面の絵画表現が可能となると、絵の主題も日本人の感性に従って変化し、密教儀礼用の山水画に代わって花鳥画が主流になります。さらに、金・銀・雲母(きら)などによる工芸的な装飾を施したり、扇面・団扇(うちわ)を貼り付けるという重層的な構成によって、四季のうつろいが表わされるようになりました。とりわけ、光を反射する金箔は画面に光沢感を与える装飾として、また大画面に多重的な空間をもたらす金雲として屏風に欠かせません。このようにして、桃山時代には金雲や総金箔地による豪華絢爛な屏風が城郭などの晴れの場を彩りました。大画面形式の創案と金による装飾性の成熟によって、屏風は日本絵画の重要な表現形式として完成したのです。さらに、今回の展示では、屏風を折って見たときの面白さをご紹介いたします。屏風は折り曲げる角度によって、目前にシーンが飛び出してくるように楽しめます。源氏物語や伊勢物語、合戦絵屏風などでは、男女の心の機微や、緊迫した一瞬が画面に凝縮されて、屏風の外までせり出すかのようです。本展では、出光コレクションより屏風の優品24件、またこれらに関連する書画・工芸25件を一堂に展示いたします。自由に折れる大画面という屏風ならではの鑑賞スタイルに、新たな日本の美をぜひ発見してみてください。


「出光美術館」ホームページ


とんとん・にっき-screen 日本の美・発見Ⅳ

「屏風の世界―その変遷と展開」
図録(画像は南蛮屏風)

平成22年6月12日発行

編集・発行:

公益財団法人 出光美術館









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