出光美術館で「ユートピア 描かれし夢と楽園」展(前期)を観た! | とんとん・にっき

出光美術館で「ユートピア 描かれし夢と楽園」展(前期)を観た!

とんとん・にっき-utopia


出光美術館で開催されている「ユートピア 描かれし夢と楽園」展(前期)を観てきました。最初はタイトルが「ユートピア」だというから、ちょっと踏み外した、おちゃらけたものかと思って行くのを躊躇していましたが、それは僕の大いなる勘違い、行ってみたらどうしてどうして正統な、伝統的な日本画?の展覧会でした。出展作品は50数点、出光美術館はほとんど自前の作品だけでこれだけの展覧会が開けることで、さすがだと思い直しました。また、何度かここに書いていますが、僕は行くたびに出光美術館から多くを学んできましたし、行けば行っただけのことはあります。いや、お釣りがきました。


今回は最初「夢見」ということで、景徳鎮の「文枕」が出てきて、これはちょっと笑わせました。「布袋図」はなにを夢見ているのか、大きなお腹を出してぐっすりと眠りこけています。小杉放庵の「洞裡長春」、春爛漫、桃源郷で花の香りに酔いしれています。放庵は漁師の視点から洞窟の向こう側にユートピアを描いています。斎藤秋圃の「涅槃図」は仙厓を釈迦に見立てた涅槃図といわれています。仙厓は他所を向いて昼寝をしているようです。


富岡鉄斎の「口出蓬莱図」は、後ろ向き姿の男が空中に分身を吹き出す姿を描いたもので面白い。仙厓の「百寿老画賛」は、100歳の老人が100人も集まってお祭り騒ぎをしているところを描いたもので、寿老人を担ぎ上げています。数えてみると総勢120人もいます。一人一人を見ると、これが結構面白い。さすがは仙厓、頼まれた以上に興に乗り、描きすぎたようです。田能村竹田の「梅花書屋図」は、遠くまで見渡せる広大な平野にどこまでも続く梅林。蛇行する川の畔に閑静な書屋があります。屋内では絵画や文学について談笑している姿が描かれ、まさにユートピアです。


むかし、男ありけり。人のむすめを盗みて、武蔵野へ率てゆくほどに、盗人なりければ、国の守にからめらりにけり。女を草むらのなかに置きて逃げにけり。道くる人、「この野は盗人あり」と緋つけむとす。女わびて、「むさし野はけふはなやきそ若草の つまもこもれりわれもこもれり」とよみけるを聞きて、女をばとりて、ともに率ていにけり。それにしても「伊勢物語」はきわどい描写です。その情景の一部を描いたのが、俵屋宗達筆の伊勢物語図色紙「武蔵野」です。


二曲一双の「桜下弾弦図屏風」、縁先の桜の老木が満開の花を咲かせています。その下に遊女たちが集まり、三味線を弾いたり、煙管を楽しんだり、また恋文を見ながら思案中、禿に墨をすらせる遊女が描かれています。勝川春章の「美人鑑賞図」、開け放された御殿の一室に、華麗な着物を身にまとった女官たちが縁先で、思い思いに時を過ごし、くつろいでいます。透視図法的にちょっとおかしいが、それもご愛敬です。


今回の特徴として「六曲一双の屏風もの」に、素晴らしいものがたくさんありました。山本梅逸の「四季花鳥図屏風」は、画面両端から内側に向かって松・竹・梅の巨樹を配して、その周りに木蓮・藤・百合・牡丹・聞く等四季の花を描き、それぞれの四季に相応しい鳥たちがいます。なにしろビッシリと描かれていてやや雑然とした感じですが、楽園の姿として圧巻です。狩野探幽の「周茂叔林和靖図屏風」、中国の西湖に隠棲した詩人たちの理想的な田園生活を描いたものです。


今回の目玉でしょうか、「吉野龍田図屏風」、春秋草花の景勝地として著名な吉野と龍田を描いた屏風です。右隻の桜の吉野は白い絵の具・胡粉を盛り上げるようにして、花弁を一枚ずつ塗り込み埋め尽くしています。左隻は龍田の楓、色づく紅葉を満面に描いています。左隻の紅葉が、チラシにも図録の表紙にもなっています。桜と楓の紅白の対比は超現実的で、幻想的です。これと似た構図の作例として、根津美術館蔵、シカゴ美術館蔵があり、江戸期のもので、枝葉の間に短冊が散らして描かれているという。いつの日にか、並んだ作品を観ることができるのでしょうか?


また、伝俵屋宗達の「四季草花図屏風」は、四季のあらゆる草花が集まり、競い合うように咲き誇った様子が描かれていて、さながら草花のの百科事典です。季節の配列はほとんど無視され、現実では決して見ることのできない夢のような世界が描かれています。他に、池大雅の「寿老人」と、円山応挙の「福禄寿」の比較が、人柄が出るのか面白かった。「ユートピア」とか「楽園」いう西欧風の物言いをするから知らないものは勘違いをするのであって、単に「夢の世界」、あるいは「桃源郷」とでもしておけば、描くものの大部分が入ってくるのかもしれません。いや、「桃源郷」だと、また異論続出か?


展覧会の構成は、以下の通りです。

Ⅰ 夢ものがたり―夢見と夢想、そして幻想

Ⅱ 描かれし蓬莱仙境―福寿と富貴

Ⅲ 美人衆芳―恋と雅

Ⅳ 花楽園―永遠なる四季



Ⅰ 夢ものがたり―夢見と夢想、そして幻想







Ⅱ 描かれし蓬莱仙境―福寿と富貴









Ⅲ 美人衆芳―恋と雅







Ⅳ 花楽園―永遠なる四季





「ユートピア 描かれし夢と楽園」:出光美術館ホームページより

いつの世も、人々にとっての夢や理想とは、未知なる楽園へと誘ってくれるものでした。かつて王朝貴族たちが詩歌や物語といった虚構の世界に魅了されていたことも、彼らが夢や理想を身近なものとして愛していたからに他なりません。日本美術を見渡してみると、夢や楽園を主題とする作品が大いに広がっていることに気づかされます。本展では日本美術の絵画・工芸において、“ユートピア”観が古来どのように享受されてきたかを探るべく、4つのテーマから企画構成しました。そもそも夢とは、未来へ向けた空想的な願望をさしますが、これとは別に、安らかな眠りの中でのみ実現可能な、架空の情景をあらわす言葉でもあります。本展にて初公開となる「布袋図」は、七福神の一人として伝承された神様がぐっすりと眠る姿で描かれた、いわば夢見る絵画です。また太陽と月が天空に輝く金地屏風をはじめ、種々の花鳥が一堂に集う華やかな絵画などは、仮想の楽園を表したものといえましょう。このような作品を前にすると、幻想の世界を描いた作品であると理解しながらも、どこかそこに現実味を覚え、なぜか幸せな気分に駆られてしまうのは実に不思議なことです。本展では、古来人々が関心を寄せつづけてきた夢と楽園の世界にスポットをあて、絵画・工芸の優品約60件より辿ります。会場の作品とともに想像の翼を大いに広げていただき、芸術の秋をご堪能ください。


「出光美術館」ホームページ


とんとん・にっき-utopia2 「ユートピア―描かれし夢と楽園」

図録

平成21年10月31日発行

編集・発行:財団法人出光美術館











過去の関連記事:

出光美術館で「中国の陶俑―漢の加彩と唐三彩」展を観た!
出光美術館で「水墨画の輝き―雪舟・等泊から鉄齋まで」展を観た!
出光美術館で「小杉放菴と大観 響きあう技とこころ」展を観た!
出光美術館で「文字の力・書のチカラ―古典と現代の対話」展を観た!
出光美術館で「志野と織部」展を観る!
出光美術館で「国宝・風神雷神図屏風」展を観る!