【日本書記から】鞆の浦と神話/其の八 | 鞆の浦二千年の歴史を紐解く“鞆の浦研究室”/Discovery! 鞆の浦

【日本書記から】鞆の浦と神話/其の八

【第五段 四神出生章】

 次に海(うなはら)を生む。次に川を生む。次に山を生む。次に木の祖(おや)句句廼馳(くくのち)を生む。次に草(かや)の祖草野姫(かやのひめ)を生む。亦は野槌(のつち)と名(なづ)く。既にして伊奘諾尊(いざなきのみこと)・伊奘冉尊(いざなみのみこと)、共に議(はか)りて曰(のたま)はく、「吾(われ)已に大八洲国(おほやしまのくに)及び山川草木(やまかはくさき)を生めり。何(いかに)ぞ天下(あめのした)の主者(きみたるもの)生まざらむ」とのたまふ。是に、共に日の神を生みまつります。大日貴(おほひるめのむち)と号(まう)す。大日貴、此(これ)をば、於保比屡能武智(おほひるめのむち)と云ふ。の音は力丁反(のかへし)。一書に云はく、天照大神(あまてらすおほみかみ)といふ。一書に云はく、天照大日尊(あまてらすおおひるめのみこと)といふ。此の子(みこ)、光華明彩(ひかりうるは)しくして、六合(くに)の内に照り徹(とほ)る。故(かれ)、二(ふたはしら)の神喜びて曰はく、「吾(わ)が息(こ)多(さは)ありと雖(いへど)も、未だ若此霊(かくくしび)に異(あや)しき児(こ)有らず。久しく此の国に留(と)めまつるべからず。自(おの)づから当(まさ)に早(すみやか)に天(あめ)に送(おくちまつ)りて、授(さづ)くるに天上(あめ)の事を以(も)てすべし」とのたまふ。是の時に、天地(あめつち)、相去ること未だ遠からず。故、天柱(あめのみはしら)を以て、天上に挙(おくりあ)ぐ。次に月の神を生みまつります。一書に云はく、月弓尊(つくゆみのみこと)、月夜見尊(つくよみのみこと)、月読尊(つくよみのみこと)といふ。其の光彩(ひかりうるは)しきこと、日に亜(つ)げり。以て日に配(なら)べて治(しら)すべし。故、亦天に送りまつる。次に蛭児を生む。已に三歳(みとせ)になるまで脚猶(あしなほ)立たず。故、天磐樟船(あまのいはくすぶね)に載せて、風の順(まにま)に放ち棄(す)つ。次に素戔鳴尊(すさのをのみこと)を生みまつります。一書に云はく、神素戔鳴尊(かむすさのをのみこと)、速素戔鳴尊(はやすさのをのみこと)といふ。此の神、勇悍(いさみたけ)くして安忍(いぶり)なること有り。且常(またつね)に哭き泣(いさ)つるを以て行(わざ)とす。故、国内(くにのうち)の人民(ひとくさ)をして、多(さは)に以て夭折(あからさまにし)なしむ。復使(また)、青山(あをやま)を枯(からやま)に変(な)す。故、其の父母(かぞいろは)の二の神、素戔鳴尊に勅(ことよさ)したまはく、「汝(いまし)、甚だ無道(あづきな)し。以て宇宙(あめのした)に君臨(きみ)たるべからず。固(まこと)に当に遠く根国(ねのくに)に適(い)ね」とのたまひて、遂に逐(やら)ひき。


<訳>
 次に海を生んだ。次に川を生んだ。次に山を生んだ。次に木の祖、句句廼馳(くくのち)を生んだ。次に草の祖草野姫(かやのひめ)を生んだ。別名野槌(のつち)と言う。そうして伊奘諾尊(いざなきのみこと)・伊奘冉尊(いざなみのみこと)は共に相談して「我々はすでに大八洲国(おほやしまのくに)と山川草木を生んだ。どうして天の下の君となるものを生まないでいようか」と言った。そして共に日の神を生んだ。大日貴(おほひるめのむち)と言う。大日貴、これをおほひるめのむちと読む。の音は力丁の反切で読む。ある書では、天照大神(あまてらすおほみかみ)と言われる。またある書では、天照大日尊(あまてらすおおひるめのみこと)と言われる。この御子は光麗しく、天地四方全てを照り輝かせた。それゆえに二柱の神は喜んで、「我々の子供は多くいるけれども、まだこのように激しい霊力を持った子供はいなかった。長くこの国に留めてはおけない。我々自らすみやかに天上に送り、天上を治めさせよう」と言った。この時に、天地はまだ遠く離れていなかった。そこで天柱(あめのみはしら)を使って、天上に送り上げた。

 次に月の神を生んだ。ある書では、月弓尊(つくゆみのみこと)、月夜見尊(つくよみのみこと)、月読尊(つくよみのみこと)と言われる。その光麗しいことは、日の神に次ぐものであった。そこで日の神と共に治めさせようとした。そしてまた天上に送った。

 次に蛭児を生んだ。三歳になるまで足腰がたった無かった。それゆえ天磐樟船(あまのいはくすぶね)に乗せて、風のまかせて流し棄てた。

 次に素戔鳴尊(すさのをのみこと)を生んだ。ある書では、神素戔鳴尊(かむすさのをのみこと)、速素戔鳴尊(はやすさのをのみこと)と言われる。この神は勇ましく強いが残忍であった。そしていつも激しく泣いてばかりいた。それが原因で国中の人民は大量に死んでしまった。また青々とした山を枯山にしてしまった。それゆえにその父母であるの二柱の神は素戔鳴尊に、「お前は、全く手が付けられない。この世界に君臨するべきではない。絶対にここから遠い根国(ねのくに)に去れ」と言って、遂に追い払った。



【日本書記から】鞆の浦と神話シリーズ

鞆の浦と神話/其の一
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鞆の浦と神話/其の二
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鞆の浦と神話/其の三
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鞆の浦と神話/其の四
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鞆の浦と神話/其の五
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鞆の浦と神話/其の六
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鞆の浦と神話/其の七
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鞆の浦と神話/其の八
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鞆の浦と神話/其の九
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鞆の浦と神話/其の十
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鞆の浦と神話/其の十一
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鞆の浦と神話/其の十二
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鞆の浦と神話/其の十三
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鞆の浦と神話/其の十四
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鞆の浦と神話/其の十五
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◎句句廼馳(くくのち)、木の精。
「くく」は「木木」の古語。

◎草野姫(かやのひめ)、草の野の姫。

◎野槌(のつち)、野の精。

◎日の神、太陽神。

◎大日貴(おほひるめのむち)、「おほ」は美称、「ひるめ」は「日女」、「むち」は高貴な人のこと。太陽に仕える巫女。

◎月弓尊(つくゆみのみこと)、月夜見尊(つくよみのみこと)、月読尊(つくよみのみこと)、「月読」とは月齢を見る事。それが転じ「月夜」と混同され、また「読」が「弓」と変化した。

◎天磐樟船(あまのいはくすぶね)、「天」は美称、「磐」は固いこと、「樟」はクスノキのことで、大木なので船の材に使われた。「古事記」では鳥之石楠船神とある。

◎素戔鳴尊(すさのをのみこと)、「素戔」は「すさぶ」で手のつけられないこと。

◎安忍(いぶり)、残忍なことをして平気なこと。

◎無道(あづきな)し、「足着き無し」で踏む所が無い。
 なんとも手のつけられないさま。

◎固(まこと)に当に、強い必然の意味を表す。

◎根国(ねのくに)、遠き国、地面の底の国、母の国、海中の国、黄泉の国などの説がある。