【日本書記から】鞆の浦と神話/其の二 | 鞆の浦二千年の歴史を紐解く“鞆の浦研究室”/Discovery! 鞆の浦

【日本書記から】鞆の浦と神話/其の二

【第一段 神代七代章 天地開闢】

日本書紀

 一書(あるふみ)に曰(い)はく、天地初めて判(わか)るるときに、一物虚中(ひとつものそらのなか)に在り。状貌(かたち)言い難し。其の中に自(おの)づからに化生(なりい)づる神有(いま)す。国常立尊(くにのとこたちのみこと)と曰(まう)す。亦は国底立尊(くにのそこたちのみこと)を曰す。次に国狭槌尊(くにのさつちのみこと)。亦は国狭立尊(くにのさたちのみこと)と曰す。次に豊国主尊(とよくにぬしのみこと)。亦は豊組野尊(とよくむののみこと)と曰す。亦は豊香節野尊(とよかぶののみこと)と曰す。亦は浮経野豊買尊(うかぶののとよかふのみこと)と曰す。亦は豊国野尊(とよくにののみこと)。亦は豊野齧尊(とよかぶののみこと)と曰す。亦は葉木国野尊(はこくにののみこと)と曰す。亦は見野尊(みののみこと)と曰す。<第一>

一書に曰はく、古(いにしへ)に国稚(い)しく地(つち)稚しき時に、譬へば浮膏(うかべるあぶら)の猶(ごと)くして漂蕩(ただよ)へり。時に、国の中に物生(な)れり。状葦牙(かたちあしかび)の抽(ぬ)け出でたるが如し。此(これ)に因(よ)りて化生(なりい)づる神有(ま)す。可美葦牙彦舅尊(うましあしかびひこぢのみこと)と号(まう)す。次に国常立尊。次に国狭槌尊(くにさつちのみこと)。葉木国、此をば播挙矩爾(はこくに)と云ふ。可美、此をば于麻時(うまし)と云ふ。<第二>

一書に曰はく、天地(あめつち)混(まろか)れ成る時に、始めて神人(かみ)有す。可美葦牙彦舅尊と号す。次に国底立尊。彦舅、此をば比古尼(ひこぢ)と云ふ。<第三>

一書に曰はく、天地初めて判るるときに、始めて倶(とも)に生(なりい)づる神有す。国常立尊と号す。次に国狭槌尊。又曰はく、高天原(たかまのはら)に所生(あ)れます神の名(みな)を、天御中主尊(あまのみなかぬしのみこと)と曰す。次に高皇産霊尊(たかみむすひのみこと)。次に神皇産霊尊(かむみむすひのみこと)。皇産霊、此をば美武須(みむすひ)と云ふ。<第四>

一書に曰はく、天地未だ生(な)らざる時に、譬へば海上(うなはらのうへに)に浮べる雲の根係る所無きが猶し。其の中に一物生れり。葦牙の初めて(ひぢ)の中に生(おひい)でたるが如し。便(すなは)ち人(かみ)と化為(な)る。国常立尊と号す。<第五>

 一書に曰はく、天地初めて判るるときに、物有り。葦牙の若くして、空の中に生れり。此に因りて化(な)る神を、天常立尊(あまのとこたちのみこと)と号す。次に可美葦牙彦舅尊。又物有り。浮膏の若(ごと)くして、空の中に生れり。此に因りて化る神を、国常立尊と号す。<第六>



<訳>
 ある書ではこう伝えられている。
天地が初めて分れたときに、一つの物が空中にあり、その形は表し難い。
その中に自然と共に生まれた神がおり、名を国常立尊(くにのとこたちのみこと)別名・国底立尊(くにのそこたちのみこと)と言う。
その次に国狭槌尊(くにのさつちのみこと)別名・国狭立尊(くにのさたちのみこと)と言う。
次に豊国主尊(とよくにぬしのみこと)別名・豊組野尊(とよくむののみこと)、又の名は豊香節野尊(とよかぶののみこと)、又の名は浮経野豊買尊(うかぶののとよかふのみこと)、又の名は豊国野尊(とよくにののみこと)、又の名は豊野齧尊(とよかぶののみこと)、又の名は葉木国野尊(はこくにののみこと)、又の名は見野尊(みののみこと)と言う。<第一>

 ある書ではこう伝えられている。
古に国も地もまだ若く幼かった時、まだ例えるなら水の上に浮かんでいる油のように漂っていた。その時に、国の中にある物が生じた。その形は葦の芽が突き出るようだった。
これによって生じた神がいる。その名を可美葦牙彦舅尊(うましあしかびひこぢのみこと)と言う。
次に国常立尊。次に国狭槌尊(くにさつちのみこと)。
葉木国は、はこくにと読む。可美は、うましと読む。 <第二>

 ある書ではこう伝えられている、天地がまだその形がはっきりしていない時、初めて神が現れた。
その名を可美葦牙彦舅尊と言う。次に国底立尊。彦舅は、ひこぢと読む。<第三>

 ある書ではこう伝えられている、天地が初めて分れた時に、初めて共に生じた神がいる。
名を国常立尊と言う。次に国狭槌尊。また伝承によると、高天原(たかまのはら)に生じた神の名は、天御中主尊(あまのみなかぬしのみこと)と言う。次に高皇産霊尊(たかみむすひのみこと)。次に神皇産霊尊(かむみむすひのみこと)。皇産霊は、みむすひと読む。<第四>

 ある書ではこう伝えられている、天地がまだ生じていない時、例えるなら海上に浮かんでいて、雲のように留まる所がなかった。その中に一つの物が生じた。葦の芽が初めて泥の中から出て来たようだった。それが神となった。名を国常立尊と言う。<第五>

 ある書ではこう伝えられている、天地が初めて分れた時、ある物があった。葦の芽のようで、空中に生じた。これによって生じた神を、天常立尊(あまのとこたちのみこと)と言う。次に可美葦牙彦舅尊。またある物があった。浮かんだ油のようで、空中に生じた。これによって生じた神を、国常立尊と言う。<第六>



【日本書記から】鞆の浦と神話シリーズ

鞆の浦と神話/其の一
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鞆の浦と神話/其の二
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鞆の浦と神話/其の三
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鞆の浦と神話/其の四
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鞆の浦と神話/其の五
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鞆の浦と神話/其の六
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鞆の浦と神話/其の七
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鞆の浦と神話/其の八
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鞆の浦と神話/其の九
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鞆の浦と神話/其の十
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鞆の浦と神話/其の十一
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鞆の浦と神話/其の十二
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鞆の浦と神話/其の十三
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鞆の浦と神話/其の十四
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鞆の浦と神話/其の十五
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【国底立尊(くにのそこたちのみこと)】
混沌の中に大地が出現した事を表現した神。

【国狭立尊(くにのさたちのみこと)】
国狭槌尊の「槌」が「立」と変化した。

【豊国主尊(とよくにぬしのみこと)】
豊斟渟尊からの変化。

【豊組野尊(とよくむののみこと)】
豊斟渟尊からの変化。

【豊香節野尊(とよかぶののみこと)】
豊斟渟尊からの変化。渾沌浮遊していた大地の状態を雲に譬えそこから、浮かぶの意味。

【浮経野豊買尊(うかぶののとよかふのみこと)】
豊斟渟尊からの変化。渾沌浮遊していた大地の状態を雲に譬えそこから、浮かぶの意味。

【豊国野尊(とよくにののみこと)】
豊斟渟尊からの変化。

【豊野齧尊(とよかぶののみこと)】
豊斟渟尊からの変化。渾沌浮遊していた大地の状態を雲に譬えそこから、浮かぶの意味。

【葉木国野尊(はこくにののみこと)】
豊斟渟尊の別名だが、他の名前と関係が伺えない。名義未詳。

【見野尊(みののみこと)】
豊斟渟尊からの変化。

【可美葦牙彦舅尊(うましあしかびひこぢのみこと)】
「可美」は美称、「葦牙」は葦の芽、「彦舅」は彦児で男の意味か。しかし注で「比古尼」とありこれは夫の意味。この神は独神であるからこれはおかしいということで「古比遅(こひじ)」の誤りではないかという説がある。これは泥の意味である。つまり「あしかび」の神と「こひじ」の神がいたのでは無いかと推測される。「古事記」では別天神五柱の中の神。

【神人(かみ)】
人のような姿をした神のことか。

【天御中主尊(あまのみなかぬしのみこと)】
天の中央にいる神と言う意味。

【高皇産霊尊(たかみむすひのみこと)】
神皇産霊尊(かむみむすひのみこと)「ムス」とは生まれる、生じる、「ビ」は「ミ」「キ」と同様、神秘の力を現す。生成力を神格化したものか。「高」「神」は美称。

【天常立尊(あまのとこたちのみこと)】
「天」は「国」と対にしてつけられている。