トレドミンとベンラファキシン⑦ | kyupinの日記 気が向けば更新

トレドミンとベンラファキシン⑦


Room At The Top(Tom Petty & the Heartbreakers)1999年発表のEchoに収録。このアルバムは癒しという視点で彼らの最高傑作だと思う。1枚だけ買うならこのアルバムである。

kyupinの日記 気が向けば更新 (精神科医のブログ)
Echoのジャケット。癒しと言う点ではShe's The Oneもかなり良いが、このEchoは15曲も収録されている上、佳曲が揃っている。

レスキューレメディーとデパケンR⑥の続き。

ブプロピオンをここまで使い続けたのは、この薬は長く様子をみているとなんとなくまとまる人がいるからである。それでもなお何らかの変更すべきと感じていた。こういうのを見ると、僕は基本的に積極的なタイプの精神科医なんだと思う。

他の薬でうまくいかないならまた戻ってくれば良い。また、このような中途半端で安定しているとは言い難い状態で、妥協はできなかったことがある。

前回から1ヵ月後
できないようなノルマを与えられている。やらなくてはいけないと思うけど、歩く速度も遅いし・・薬を飲んでいるためか、物忘れしてしまうので、この子はできない子と思われてしまったかもしれない。体調は悪いけど休めない。

最初、トレドミン50mgを追加したところ、大変な失敗で、呂律が回らなくなった上に、情緒不安定になり泣いてばかりになったという。情緒不安定はともかく、呂律が回らないという副作用は、トレドミンではあまり聞いたことがない。

トレドミンを中止し、しばらく様子を見ていた。当時、たまたま他の患者さんをベンラファキシン(エフェクサー)で治療しており、彼女にも使うことにした。トレドミンと同系統であるしいかにも失敗しそうであるが、ベンラファキシンはトレドミンに比べ有効性で優れており、少なくともトレドミンよりは出来が良い薬には見える。そこで思い切ってベンラファキシンを試みた。

SSRIにせよ、SNRIにせよ、同じような薬理作用のわりに構造式がかなり異なる。それだけではないのであろうが、例えばSSRIでもジェイゾロフトだけは服用できるとか、デプロメールのみ服用できる人が存在する。だから精神科医からするともちろん種類があったほうが良い。

このブログは創薬をする人たちも多少は見ていると思うので、参考にしてほしい。

このベンラファキンだが、大失敗に終わったのである(75㎎処方)。彼女によれば、初日に震えが出て2日目には生あくびの連発になり、胃が圧迫されたような極めて不快な気分になったという。2日目は、車の運転すら難しい状態だったらしい。2日連続で飲み、2日置いてまた服用してみたところ、少しは慣れてきたように思ったらしいが、もう服用しないでよいと伝えた(電話で)。当時のカルテには、赤で「将来的にはベンラファキシンの少量でも良いかもしれない」と記載している。

これでは仕方がないので、一応、デパケンR400㎎として様子をみる。当時、薬物治療は、完全に行詰っていた。これといった有効な方法が取れずにいたからである。

彼女は気性が激しいなどと本人は言っているが、「毀誉褒貶が激しい」などの所見がない。彼女の周囲の人間関係を聞いても、両価的だったり、そういう対人関係の不安定さの問題がほとんど見えなかった。その点で、彼女は境界型人格障害的ではない。彼女は「健康的な社交性」を持ち合わせている。

ある時、車の自損事故を起こしたという。これは薬の副作用ためと思うが、もちろん彼女もそう思っていたと思われる。

これだけ薬物治療がうまくいかないと、普通は主治医に失望すると思う。というより、あまりのうまくいかなさぶりに怒ってもおかしくはない。しかし、彼女はそんな風ではなかったのである。

彼女はなんとか薬で良くなろうとしていた。その点で、やはり患者は主治医に似てくるんだと思う。(参考

(続く)

参考
サインバルタ
じっと見つめると双極2型
患者さんは主治医以上には良くならない
どのようないきさつで医学を志したか

一連のエントリ
彼女は最初うつで初診している①
帰国後の大悪化②
病前性格とリーマス③
希死念慮とSSRI、ブプロピオンの試み④
ブプロピオン処方後の経過⑤
レスキューレメディーとデパケンR⑥
トレドミンとベンラファキシン⑦
ラミクタールの試みとリフレックス⑧
リフレックスの悪夢とトピナ⑨