病前性格とリーマス③ | kyupinの日記 気が向けば更新

病前性格とリーマス③


Southern Accents (Tom Petty And The Heartbreakers)同名タイトルSouthern Accentsのアルバムから。Tom Pettyはフロリダ州出身。このジャケットも良い味が出ている。

kyupinの日記 気が向けば更新 (精神科医のブログ)
Southern Accentsのアルバムジャケット。

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帰国後の大悪化②の続き。

その後、通院が不規則になった。2週間分持って帰るが、2ヶ月に一度しか来院しない。調子は良かったらしい。

ある冬の日再診。
薬は時々飲んでいたという。昨日、接客の時に妙な対応をしてしまった。時々過食して自己嫌悪する。

仕事負けしてしまう感じ?
ストレスがすごく溜まりますね。


このタイプの抗うつ剤は、飲んだり飲まなかったりするとかえって悪いと伝え、最低限、ジェイゾロフトとセパゾンだけは服用するように指導する。

このような性格の人には、できれば接客などサービス業に就くように勧めている。特に女性の場合、そういう人と接するような職種は免疫力を高め、自己治癒的に働く。

その次の受診時。
テンションが上がらない。いつも調子が悪い。気持ちは悪くはないです。感情がないなどと言うので、ジェイゾロフトも影響しているように思われる。補助的にリーマスを併用してみる。

その後、リーマスを600㎎程度まで漸増してみたが、どうもはっきりしない状態であった。職場の人から、どこか具合が悪いのではないかと言われるらしい。彼女の場合、リーマスは体重も増えないし食欲が出過ぎることもない。ただ、彼女は蕁麻疹が出やすい体質で、リーマスだと肌荒れしやすいようであった。

リーマス処方後、一時的に洗浄強迫が出現したため、いったんリーマスを中止し、ルーランを少量追加することにした。ルーランは軽い強迫には効果的であるし、後で中止しやすい点でメリットがある。(参考

ジェイゾロフト 50㎎
セパゾン   6㎎
ルーラン   2㎎


少し良くなってきた。仕事中、パニックぽくなることもあるが、なんとか保てている。気分は上がってきている感じ。いつも少しテンぱっている感じもある。時々かっとくることもあるが、第3者的な自分もいる。仕事は前よりできない。実践的なことでできない感じです。右手だけ震えた日があった。仕事は休まずに行っている。人間関係はまあまあかな。

今、一度、夜にリーマス200㎎併用するように勧めた。彼女は躁状態がないが、病前性格的には双極性障害タイプである。前回、はっきりしない経過で中止しているが、完全に不適切とまではいえないと思っていたこともある。

このような双極性障害タイプの人、あるいは境界例、コントロールが難しい広汎性発達障害の人たちの処方は混迷しやすい(参考)。器質性の色彩のある人たちは、抗うつ剤、抗精神病薬、抗てんかん薬のいずれも必要なこともある。この3つの試行錯誤の際に薬を残してしまうからである。

できるだけ、有効、無効を見極めて、シンプルになるように心がける。ただ、薬の移行期はまた別な話で一時的に薬が重なるのは仕方がない。急に変更する方がずっと変だし、奇妙な事件が起こりやすい。

少数の薬で治療を心がけると良いこともある。それは2剤か3剤で治療すると、個々の薬の特性やそれらの相互作用のクセみたいなものが頭に記憶されやすいからである。あまりにも多剤だと、どれがどうなっているのかワケがわからない。そういう訓練をしておくと、非常に難しい局面で正しい判断をしやすくなる。過去ログに以下のような記載をしている。

僕はメチャクチャな多剤併用でも、どの薬が効いていてどの薬がダメなのか、自分の患者さんならわりあいわかる。もちろん間違うこともあるけど。これは薬の特性と患者さんの普段の様子を見ているので有害作用は特にわかるのである。ある時、フルメジンとジプレキサが良いと確信した。糖尿病を恐れないといけない体型だったので、ジプレキサを使い始めたのが遅かったのである。

この患者さんは他のエントリでも出てきているが、現在はジプレキサザイディス5㎎だけ処方し非常に安定している。

自分の処方にはある種の美学があり、入院中で非常に悪い人ならともかく、外来患者さんで、しかも仕事をしているような人の処方は破綻させたくないのである。全ての薬は治療の1つのピースとなり、効果的でなければならない。

処方箋を見れば、担当医が混乱しているかどうかがわかる。

(続く)

参考
パキシルとアンプリット
メージ症候群(前半)
いったん混沌とさせる減量の方法
分類不能の発達障害
輝く明日
リーマスのテーマ
精神科治療と記憶

一連のエントリ
彼女は最初うつで初診している①
帰国後の大悪化②
病前性格とリーマス③
希死念慮とSSRI、ブプロピオンの試み④
ブプロピオン処方後の経過⑤
レスキューレメディーとデパケンR⑥
トレドミンとベンラファキシン⑦
ラミクタールの試みとリフレックス⑧
リフレックスの悪夢とトピナ⑨